声優・内山夕実インタビュー#1「声優への道のりはけっしてスムーズな一本道ではなかった」
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2026.03.13
「無職転生 ~異世界行ったら本気だす~」のルーデウス・グレイラット役をはじめ、「お気楽領主の楽しい領地防衛~生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に~」のヴァン・ネイ・フェルティオ役、「Re:ゼロから始める異世界生活」のパック役など数々の人気作品に出演する内山夕実さん。芯の強い女性から少年、かわいらしいマスコットまでを演じ分ける演技幅と、その人物像に真摯に向き合うことから生まれる圧倒的な表現力で、キャラクターに命を吹き込みます。そんな内山さんの声優の原点には、中学時代に情熱を注いだ朗読劇の部活、そして切磋琢磨し合った「良きライバル」の存在がありました。このインタビューでは、全3回にわたり内山さんの歩みと、お芝居への情熱を、出演作品にまつわるエピソードとともにひもときます。
■物事をなかなか決められない子だった

――動画では好きな食べ物が「お酒のアテ」と答えていましたが、お酒が好きなんでしょうか?
「そうなんですよ~!わりと好きなほうで、誰かと飲みに行くのも好きですし、家で晩酌をするのも好きです。ワインが好きで、とくに最近はペアリングをしてくれるお店が好きで、お料理と一緒にお酒を楽しみたいときは、外に飲みに行く機会も増えました」
――そういえば以前、このインタビューにも登場した本渡楓さんにインタビューをしたときには「内山夕実ちゃんと飲み友達!」とおっしゃっていたのを思い出しました!
「え、嬉しい!本渡ちゃんもそうですし、茅野愛衣ちゃんも、飲み友です(笑)。何も気にせず一緒に飲める友達ってすごく貴重なので本当にありがたいんです。いい時間だし、お酒の話してると飲みたくなってきますね......どうしよう、コンビニ行ってきましょうか?(笑)」
――それも惹かれますが、一旦インタビューしましょう!(笑)まずは幼い頃のお話から。幼少期はどのような性格のお子さんでしたか。
「性格的にはどちらかといえば、おっとり、のんびりタイプの子どもでした。2人姉妹の長女で、まさに『ザ・長女』『ザ・箱入り娘』みたいな育てられ方。とにかく家が厳しくて、中学生になっても休日の門限は夕方5時。大学生でも夜9時前には帰らなきゃいけなくて、少しでも帰りが遅くなると、家から電話がかかってくるんです」
――それはなかなか......!
「だから、私以上に周りの友達のほうが心配してくれて。『そろそろ帰ったほうがいいんじゃない?』とか『親御さんに連絡入れたほうがいいよ』って気を遣ってくれるくらい。それくらい、周囲から見ても分かりやすい"箱入り"だったんだなと、いま振り返ると思います」
――でも、それだけご両親がとても大事に育ててくれていたということでもありますよね。
「両親からすると、そういう気持ちだったんだとは思います。親や親族が、進むべき道をすべて整えてくれていて、小学校の頃から進学塾に通い、そのまま私立の中高一貫校に入って、なんなら大学までエスカレーターで......と、最初から道筋が用意されているような環境。ありがたい部分は大きいんですが、一方で、当時の私は自分で何かを判断したり、物事を決めたりするという経験が人よりちょっと少なかったんだろうなぁと思います」
■自分の人生を変えた朗読劇の部活

――でも、いまこうして声優をなさっていて、この場所にいたるには相当強い意志がないとたどりつけないじゃないですか。それはいつ頃から芽生え出したんでしょうか?
「考えてみると、中学生の頃に朗読劇の部活に入ったことがきっかけだったような気がします。最初は『人が足りないから』と言われ、なかば強引に誘われて、裏方として音響や照明をやる人として入ったつもりでした」
――「お手伝い」という感覚だったんですね。
「でも、そこがかなり本格的なことをやる部活で。文化祭や老人ホームなどで上演をするんですが、本番は、舞台上にいくつかのマイクを立てて、そこにスポットライトを当てるんです。その後ろには演者が全員控えていて、出番になるとマイク前に出てきて、喋る。喋ったら後ろに引っ込む......みたいなスタイルで...」
――すでに声優さんのアフレコみたいな...!
「まさにそうなんです...!それと役のオーディションもちゃんとあって、その選び方は、まず部員全員が机につっぷして顔が見えない状態で、声のお芝居を聞いていくんです。そこで、いいと思った番号の人に手を上げていって多数決で決めていく。もちろん、同級生なんて声聞けば誰、というのはある程度はわかっちゃうんですが、それでも『なるべく公平に選ぼう』という、中学生なりのストイックさをもってやっているような部活でした」
――中学生のうちからそこまで本格的にやっているとは驚きです。
「で、その部活に私は裏方として楽しく参加していたんですが、あるとき、部長から『そろそろ役のオーディションも受けてみない?』と言われて。女子校だったので『お芝居なら男の子の役ができる』ということに、すごく魅力を感じたんです。というのも、そのとき、同じ学年でとても素敵で中性的な声を持つ子がいまして...」
――その子も男の子の声をやる子だったんですね。
「そう、私が部活に入る前、文化祭で彼女の声を聴いたときからずっと『素敵な声だな』と惹かれてたんです。声の心地良さに寝てしまう観客も多いなか、私はずっと彼女の声を聞いていたくて。私がお芝居を初めてからは、その子とは一つの役をめぐってオーディションで競い合う、良きライバルという関係になっていきました」
――中学生の部活とは思えないくらいのレベルの高さにも驚きますが、本当に、いまの内山さんのルーツのようなお話ばかりですね...!
「本当に、自分でもそう思います(笑)。きっとそこで朗読劇の部活に入っていなければ、いまここでこうして声優としてお仕事できてはいないだろうし、その子がいなければ男の子の役をやりたい、という気持ちになっていたかどうかもわからない。そのときに出会った人や、受けた刺激があったからこそ、いまの自分があるのだろうなと思います」
■ジュニアクラスを経て事務所に合格、のはずが......!

――それだけ本格的に朗読劇に打ち込むなかで「声優になりたい」と感じた決め手はなんだったんでしょうか?
「それはもう、ただただ『お芝居が楽しかった』の一言に尽きます。舞台で公演を終えて拍手をいただく瞬間、周りから『上手だね』と褒めてもらった経験......それを積み重ねたことで、初めて『自分にも向いているものがあるのかもしれない』という実感が湧いた。中学生の部活とはいえ、オーディションで役を掴み取っていたことも、自信に繋がっていたんだと思います。それに、部活内でも声優に興味のある子が多くて。そんな環境に囲まれて、自分も『この道でやっていきたい』という気持ちが芽生えたので、そこで初めて両親にも自分の気持ちを言いました」
――内山さんのためにいろいろな環境を整えてきたご両親からすると相当、驚かれたんじゃないでしょうか?
「案の定、めちゃくちゃ反対されまして(笑)。親族も含めて、もちろん芸能関係の仕事をしている人はいませんし、両親にとっては未知の世界すぎて、なかなか理解が追いつかなかったんだと思うんですよね。ただ、そのときの私の熱量がそれまでにはないくらいだったのか『本当にやりたいんだ』ということだけは伝わっていたと思うんですが...」
――内山さんはそのとき、どんなふうにご両親にお話を?
「その段階で声優になることを許してもらったわけではないんですが、たまたまそのタイミングで日ナレ(日本ナレーション演技研究所)さんが、小4から中3までが通えるジュニアクラスを開設されて。週1回2時間、費用もリーズナブルだったので『習い事としてなら』ということで通わせてもらえることになりました。それも苦労したんですよ...!私だけだとダメって言われるだろうから、『〇〇ちゃんも一緒に通うから大丈夫でしょ!』とかいって、親を安心させるために部活で切磋琢磨していた優秀な友達を無理やり誘ったりしていました(笑)」
――小学生のときに誰もが言う「クラスのみんなが持ってるから!」理論みたいな...(笑)。
「そうそう(笑)。ところが...!中3の春から通い始めて、その年度が終わる頃の事務所審査で、私はアーツビジョンの最終、友達はアーツビジョンとアイムエンタープライズの2社、最終まで行ってしまい!両親としては、"あくまで習い事の一環"だと思っていたのに、『一年で事務所に受かるなんて!』と。そこからですね、両親が『これは本気で止めなきゃいけない』とより一層厳しくなったのは...!」
――二人とも、ってすごいことですが、逆に審査がいい結果だったことでご両親の危機感に火をつけてしまったんですね...!
「しかも、当時通っていた中高一貫校が芸能活動を一切禁止していたことも大きな壁でした。当時、ジュニアクラスができたのも業界的にはめずらしかったので、『声優グランプリ』の取材とかもあったんですよ。あるときは、たまたま私が選ばれてインタビューの機会もあったんですけど、それも一大事。学校の了解を取らなきゃ受けられない、けどこんな機会ないしどうしても受けたい。最終的に校長まで談判して『学校名を出さなければOK』ということを漕ぎつけたり(笑)」
――状況的にはすんなり声優業界に行けそうでも、環境的に一つ一つ乗り越えなきゃいけないハードルがたくさん......。
「そんな感じだったので、事務所には『休日の日だけ働くことはできませんか』という打診もいただいていたんですが、当時の環境、両親の反対もある中で、高校時代から声優として活動をするのは、どうしても難しい、という結論にいたり...。最終的に事務所側が、高校卒業まで『預かり』という形で温めてくださることになりました」
■逆境に陥っても腐らないのが、ヴァンのすごさ|「お気楽領主の楽しい領地防衛~生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に~」ヴァン・ネイ・フェルティオ

(C)赤池宗・オーバーラップ/お気楽製作委員会
――2026年冬クールの「お気楽領主の楽しい領地防衛~生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に~」(以下、「お気楽領主」)では、主人公のヴァンを演じられています。内山さんが感じている、ヴァンの魅力を教えてください!
「ヴァンは、その世界で"役立たず"とされる生産系魔術の持ち主で、それを理由に父親から辺境の村に追いやられてしまうところから物語が始まっています。ただ、そんな逆境に陥ってもまったく腐らず、むしろその状況を気楽に、前向きに乗り越えていく強さがあるのがヴァンという子なんです。どんな人にも分け隔てなく接し、領主でありながら、いざというときには自分が前線に立ってでも領民を守ろうとする姿勢。そんな姿は、演じていてもすごく魅力的だなと感じますね」
――ことあるごとに「こっちの方が、村人にも"お気楽"だよな」と口にしていますよね。自分だけじゃなく、周りにも"お気楽"であってほしいというのが彼らしいですよね。
「セリフを言っていても、その言葉は彼の性格の特徴を表しているなとすごく思います。それって『相手の立場になって物事を考えられる』ということじゃないですか。そのやさしさ、思いやりが起点になって、周囲の人たちにもポジティブな影響が広がっていくのかなって」
――ヴァンの生産系魔術による「街づくり」はすごいですが、内山さん自身がとくに驚いたものはありますか。

(C)赤池宗・オーバーラップ/お気楽製作委員会
「それでいうと、全部すごいです(笑)。家は豪華なお屋敷から民家まで、木で作った武器なのにめちゃくちゃ頑丈で硬いとか。でもそれって、ただ生産系の能力を持っているだけでは不可能だと思うんです。仕組みを理解した上でのシステム的な構築や、豊かな想像力があってこその技。何気なくやっているようでいて、じつはとんでもないことを成し遂げているのが、ヴァンのすごさだと思います」
■振り返れば、背中が預けられる仲間がいた|「お気楽領主の楽しい領地防衛~生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に~」ヴァン・ネイ・フェルティオ

(C)赤池宗・オーバーラップ/お気楽製作委員会
――演じる上では、どんなことを意識していましたか。
「それが、じつはヴァンを演じる上では、一度考えすぎてパンクしてしまったことがあるんです。というのも、ヴァンは、前世の記憶を持ったまま転生していて、今回は前世のモノローグも私が担当だった。お芝居をするうえで"転生後と転生前の差異"を明確にしたかったので、『前世はどんな環境で、どんな仕事をしていたのか』という背景を、自分の中で徹底的に固めてから臨もうとしました。そしたら、考えすぎて迷子になってしまって...」
――たしかに、前世のキャラまでヴァンの人間性の中に再現しようとすると、やることが複雑になってきそうですね...!
「私、よくも悪くも、まじめで背負い込み過ぎてしまうクセがあるんです。ちょうど、座長という立場で、『キャストのみなさんが不安にならずに、自分のお芝居に集中できるように』っていうのを考えていた時期だったこともあって、一人で残って、監督と打ち合わせをしたりも多かったんです。でも、そんな一人で抱え込んでしまった状況を見て、キャストのみなさんが声をかけてくれたり、手を差し伸べてくれて......」
――やさしい世界...。
「現場でも、『作中でのキャラクターたちの絆が、そのまま現実の関係性とシンクロしてるなぁ』って気がしてました。そのとき、後ろを振り返れば背中を預けられる信頼できる仲間がたくさんいたのに、私がその"背中の預け方"をわかっていなかったんだなってわかった。キャストのみんなが、私が思っている以上に私のこと、よく見てくれていたんだって。それがわかってから、だいぶ肩の荷が下りて、楽しくアフレコにのぞめるようになりました」
――ヴァンのお芝居に対する迷いも、そこで消えた?
「そうですね。難しく考えていた頃よりも、その一件があってからのほうがずっと鮮明にヴァンの輪郭が見えるようになった気がします。最終的には、理屈をこねるのではなく、異世界で出会うキャラクターたちとの会話を大切にするということ。『前世が~、異世界では~』といろいろ考えていたけど、『彼自身もこの世界で成長していく存在』だし、目の前で起こっていることに必死なこともある。あまり難しく考えすぎずにのぞめるようになってからのほうが、等身大のヴァンでいられているんじゃないかという気がしています」
■日笠陽子さんとの知られざるご縁|「お気楽領主の楽しい領地防衛~生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に~」ヴァン・ネイ・フェルティオ

――多彩なキャラクターが登場しますが、アフレコ現場の雰囲気やエピソードなども教えてください!
「多彩なキャラクターたちと同じで、役者陣の顔ぶれも幅広くて本当にバラエティ豊かでした。とくにディー役の小林親弘さんやエスパーダ役の堀内賢雄さんなどの先輩方も、すごく気さくに接してくださるので、和気あいあいとしつつも、本番ではピシッとメリハリのある現場でしたね。私が一人で抱え込んでしまったときも、みんなが手を差し伸べてくれて、『みんなでいいものにしていこう』という熱量が伝わってくる、本当にありがたい環境でした」
――話によると、アフレコのあとは女子会が毎回のように催されていたそうですが...(笑)。
「そうそう、毎回は言い過ぎかもですけど、日笠ちゃんや伊瀬茉莉也さんが『ご飯に行こう!』と声をかけてくれて、アフレコの後に女性声優陣の女子会もよく開かれていました。みなさんコミュニケーションを大切にしてくださる方々なので、私もその会では思ったこと、感じたことを、わりと素直に吐き出せていました」
――ABEMA TVの特番では、日笠陽子さんが内山さんのことを「天才」と評するコメントもありましたよね(笑)。
「日笠ちゃんはそうやって盛り上げるのが、本当に上手(笑)。むしろ、現場を本当に冷静に見て細やかな気配りをしてるのは日笠ちゃんのほう。私の不安な様子をいち早く察して、すぐに声をかけてくれたり。そう、日笠ちゃんといえば、じつは養成所時代に同じクラスだった事があるんです。だから、こうやって時を経て、近しいキャラとしてご一緒させてもらえるのは、感慨深いものがありました」
――そんなご縁があったとは!そのときの対談も、ぜひJ:COMでお願いします(笑)。最後に、内山さんが感じている、本作の魅力を教えていただけますか?

(C)赤池宗・オーバーラップ/お気楽製作委員会
「本作の大きな魅力として、シリアスな展開とコミカルな描写バランスが、私は大好きで。どれだけシリアスな展開を迎えても、みんなで前向きに乗り越えていける強さがあると感じています。どことなく穏やかな気持ちで見守れる、この作品ならではの空気感というか。今後もヴァンたちには、さまざまな試練が与えられることになるはずですが、これまでに培った仲間との絆があればきっと大丈夫。観ている方もそれを信じて、お気楽に楽しんでほしいですね」
――たしかに、観ている方も「お気楽に観られる」というのがすごく納得感あります。
「あとはオープニングの中毒性の高さもぜひ堪能していただきたいです。監督が映像の細部まで遊び心を詰め込んでくださっていて、どこか懐かさを感じるような仕上がりになっているので、本編とあわせて余すところなく『お気楽領主』を楽しんでもらえたら嬉しいですね!」

取材・文/郡司 しう 撮影/梶 礼哉




