声優・山下大輝インタビュー #2「『孤独に戦うヒーローを演じて、体重が落ちた』演じるキャラを全肯定する全力の役作り」
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2024.04.11
声優としてデビューしたての2013年に「弱虫ペダル」小野田坂道役で主役を演じ、以来、「僕のヒーローアカデミア」緑谷出久役、「あんさんぶるスターズ!!」朔間凛月役、「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」ナランチャ・ギルガ役など大人気作品で主要キャラクターを熱演してきた山下大輝さん。取材中、時折感じられたのは言葉のなかにほとばしる情熱と、まっすぐ物事を見る眼差し。過去の経験も、かけられた言葉も、すべてを大事に積み重ねていく山下さんのあり方は、戦いを通じて成長していく少年漫画の主人公のそれのようです。このインタビューでは、全3回にわたって、その人となりをひもときながら、声優・アーティストとしての山下大輝さんの信念に迫ります。
■声優の役割は、作品の最後のピースの1つ

――前回のインタビューでは、声優として活動し始めるまでのお話を中心にお伺いしましたが、実際に声優になってみて、思い描いていた「声優像」とのギャップを感じることはありましたか?
「なによりも思ったのは、それまでいち視聴者として見えていたものって、本当に最後の、完成した綺麗な部分だけなんだということですね。エンターテインメントの世界はどれもそうだと思いますが、『3年前からプロジェクトが始まっていて、話し合いを重ねてようやくアフレコまで辿り着いて......』という話がザラじゃないですか。しかも、想像以上に多くの人が関わって一話のアニメが出来上がる。僕ら声優がやることって、パズルの最後のピースの1つであり、欠けてはいけない重要な役目なんだ、というのはすごく実感しました」
――確かに、視聴者からするとそこにどれだけの労力と時間と予算がかかっているのかは全然わからないですよね。
「そうそう、『作画、神!』とか『音楽えぐっ!』とか自由に盛り上がって(笑)。でもお客さんは各々で楽しんでもらえればそれでいいんだと思うんです。
30分のアニメに対して単純に1〜2時間くらいで録れるものだと思っていたんですが、基本的に収録時間は5時間。思っていたよりずっと緻密に、丁寧に作るのでその5時間もフルに使うし、新人の頃は実力不足でそこから溢れて、居残りしたこともありました」
――ちなみに、居残りをしていたのはどんな作品だったんですか?
「『弱虫ペダル』です。主役の小野田坂道を演じさせてもらったんですけど、何もかもが初めてで、わからなかった。周りを見渡せば、小学生の頃から観ていたアニメで名キャラを演じてこられた先輩声優さんたちがたくさんいて、気分的にはそこにポツンと一人放り込まれた感じです。
まっさらな状態だったから、いろいろなことに気が散ってしまってパニックでしたね、あの頃は。もうアフレコの仕方、マイク前の立ち方、台本の持ち方......なにもかもわからなくて」
――それがだんだんと乗り越えて、できるようになっていく感覚っていうのはどのくらいで湧いてくるんですか?
「不思議なもので、窮地に立たされると人間、すごい速さで成長しようとするんですよね。それに周りをみれば吸収し成長できるヒントだらけの恵まれた環境!その刺激が怖いから拒否するんじゃなくて、理解しよう、考えよう、挑戦しようという気持ちになれる現場でした。全力でチャレンジして失敗しても『次から気をつけよう』『ここ、こうしよう』と毎回得るものだらけだったので、出来ていたかは分かりませんが、とにかくがむしゃらに頑張ってました!笑」
■「弱虫ペダル」を支えてくれた先輩声優たちが大好き

――「弱虫ペダル」のときに先輩からかけてもらった言葉で覚えているものはありますか?
「『弱虫ペダル』でいうと、僕が演じた小野田坂道と同級生の今泉を演じた鳥海浩輔さんは、同じ事務所の先輩ということもあって、すごく気にかけてくれて。
『弱虫ペダル』でドラマCDを録ったとき、僕にとっては当然ドラマCDも初めての経験でした。台本が製本されていない紙の束で、何もわからない僕はレコーディングのとき、自分の好きなタイミングでめくってしまう。しかも焦ってるから、紙の音が『バララッ!』って聞こえるくらい大きな音を立てながらめくる、みたいな(笑)。
そのときも鳥海さんが『みんなで一緒に、落ち着いてめくれば大丈夫だよ』と声をかけてくれて」

(C)渡辺航(週刊少年チャンピオン)/弱虫ペダル製作委員会
――やさしい世界だ......。
「それと、3年の巻島を演じた森久保祥太郎さんもやさしかったです。坂道で、キャラソンも初めて歌わせてもらったんですが、それが森久保さんとのデュエットでした。
そのときに、『うまく歌おうとしなくていい。キャラとして楽しく歌えればいいし、お前はもう坂道なんだから、そのまま歌えばいいんだよ』って言ってくれて、心が軽くなったのはいまでも覚えています。その後、森久保さんとは、二人のパーソナリティでラジオもやらせていただいたんですが、僕の名前をばんばか間違えてくるんですよ」
――それは、わかってて?
「そう、わかってて(笑)。『ね、山本くん?』『ね、山田くん?』とかいろいろなバリエーションで、そのたびに僕が『山下です!』ってツッコむ。
でも、それって後々考えて、僕の名前をみなさんに覚えていただくために、あえて印象付けするためにやっていたんですよ。いやらしくなく、自然と面白く僕のことを認知してもらえるように、誘導してくれていたんだなと気づいて。
初めてのラジオで何を話したらいいかもわからないときに、森久保さんがそうやって場を和ませるように振る舞ってくれていたので、緊張はしたけど肩肘を張らずにすごく話しやすい空気を作ってくれていたんだなと思いましたね」
――鳥海さん、森久保さんお二人ともすごく懐が深いエピソードですね。昔から先輩方とは仲良かったんですか?
「そうですね。ペダルのときに一緒だった先輩方、皆大好きです!大人気声優さんだらけでグルメな人が多かったので、僕の知らないいろいろな美味しいお店にも連れていってもらいました。
当時、僕はバイトしながらでお金もなかったけど、ずっと運動をやって育ってきたおかげで大食いではあったので、意気揚々と先輩に付いていって、いろいろ食べさせてもらいました。でも、そしたら一気に太ってしまって......。マネージャーから『食べ過ぎるなよ』と注意が入るくらい」
――そんなに......!?
「アニメは運動の話なのに、どんどん太っていくし、あごの肉付きがみるみるポチャポチャしてくる......(笑)。後から聞いた話では、他の方のもそうやって先輩方に食べさせてもらって、みんな1回は太る事が良くあるらしいんです(笑)。
ある時は、『唐揚げ定食』を頼んだのに、さらにトッピングで唐揚げを注文させられて......『この人たち、ヤバいな......でもうまいの大好き!』とは思いつつ、でも新人でお金もない時代関係なくそうやってかわいがってもらえるのはすごくありがたかったですね」
■10年以上演じ続けている小野田坂道に対する思い

――転機になった作品のお話も聞こうと思っていたんですが、今までの話を聞くとやっぱり「弱虫ペダル」がまさしく、という感じですよね?
「そうですね。もう『弱虫ペダル』での出来事が、すべての転機だったと思います。それは最初にオーディションに受かった段階から。『週刊少年チャンピオン』の看板で、あれだけの人気作品に、1年目で受かるなんて思わないじゃないですか。
『オーディション、受かったよ』という報告をいただいたときに『絶対ウソだ』『そんなことありえない』と思って......(笑)」
――ドッキリみたいな。
「絶対そうだと思いました。だからこそ、本当に受かったとわかったときはすごく嬉しくて。それと同時に、一気にプレッシャーも感じました。
ドが付くほどの新人なのに主人公で、期待されている作品に泥を塗るようなことがあってはいけない。『全力でやらなきゃ!』という気持ちでのぞんで、空回りも多かったと思いますが、先輩方をはじめ周りの人に支えていただきながらなんとかすがり付いていけたかな、という感覚でした」
――2013年から演じてきて、主人公・小野田坂道に対してはいまどんな想いを抱いていますか?
「いま振り返ると、坂道はすごく自分とリンクする部分が多かったんだなと感じるんです。坂道は元々アニメやゲーム、漫画オタクで自分だけの世界を持っている男の子です。だけど、そこからは真逆の自転車という新しい世界に目覚めていく物語で、そこに新しい出会いや友情があって、坂道自身がどんどん成長していく。
僕も坂道を演じ始めたときは、声優としてほぼ初めての状態だったので、いままで見たことない世界に触れて、新しい出会いと新しいチャレンジがあった。いろいろな人に支えられながら、少しずつ何かを掴んでどんどん前に進んで行けた」

(C)渡辺航(週刊少年チャンピオン)/弱虫ペダル製作委員会
――坂道にとっては自転車の世界、山下さんにとっては声優の世界。新しい世界に飛び込んだ二人が、どんどん成長していく。
「そうなんです。"成長"というのも大事なキーワードで。声優の間では、昔の演技を聞くと『下手で恥ずかしい』というようなことがよくあるんですけど、僕は、昔の坂道の演技を聴いても『すごくいい』と思ってしまうんですよ。
もちろん、新人で実力は全然足りてない。だけど、当時の僕だからこそ出せた全力がそこにあって、それが良かったんじゃないかなって。あの映像と音声が残っているというだけで、いつでも当時の気持ちに立ち返ることができるので、僕にとってはとてつもない財産ですね。僕の生きてきた声優人生の軌跡がそこにはあります。
一緒にいろんなものを見て、いろんな気持ちを共有してきた。今も演じるたびに嬉しい気持ちになりますし、自分をいつでも原点に戻してくれる心強く優しい大切なパートナーだと感じています」
■そのキャラを全肯定しなければ言葉に思いがのらない

――坂道に限らず、お芝居をする上では、どんなことを大事になさっているんでしょうか?
「技術というよりもスタンスに近いんですが、僕はわりと、自分が演じているキャラのことを全肯定するんです。例えば、立場として敵側であったり、ヘイトを集めるタイプのキャラだったりしても、その一番の理解者でありたいというか。
どんな行動や言葉であれ、そのキャラの意志と正義があって、それを貫いた結果アクションを起こしているんだと思うんです。だとすれば、その役を演じる僕がそれを理解して、肯定しなければ、そのキャラの思いから出る言葉にはならない。そう思って演じています」
――いわゆる「憑依する」ような感覚が近いんでしょうか?
「なのかもしれないです。だから、結構周りの捉え方とギャップが生まれることも多くて。例えば、『僕のヒーローアカデミア』のアニメ6期で、デク(緑谷出久)がいわゆる"闇堕ち"と言われる期間があるんですが、僕はそれを全然"闇堕ち"だとは思わないんです。
確かに、暗いシーンも多いし、見た目も敵<ヴィラン>のようかもしれない。でも演じるときには、そんなつもりは一切ない。僕にとっては、デクが『一人で戦う』という覚悟を決めた、むしろ前に進んでいく重く強い決意だと感じていたんです」
――言われてみると確かに......!
「"闇堕ち"と言われるのは、デクの中での気持ちが強くなっていって、みんなの気持ちと歩調が合っていなかったからだと思うんです。演じている時期は、デクに合わせて僕もすごく孤独な戦いをしている気持ちになっていました。あんまり周りが見えなくなっていたんじゃないかっていうぐらい。
実際、アフレコの時期には体重が落ちていって、周りからも心配されました。会うたびに『痩せた』『疲れてるね』って言われて」
――演じるキャラによって、かなり気分も変わったりするんですね?
「そうですね。落ち込んだキャラを演じたあとはすごく疲れた感じがしたり、明るいキャラを演じたあとは自然と元気になったり。結構、キャラに左右されがちなので、メンタルコントロールは大変な部分もあります」
■2024年4月クール「怪異と乙女と神隠し」の見どころ

(C)ぬじま・小学館/「怪異と乙女と神隠し」製作委員会
――「怪異と乙女と神隠し」では、化野蓮役を演じられる山下さん。このアニメの見どころと、演じるキャラクターの魅力を教えてください!
「『怪異と乙女と神隠し』は、いわゆる都市伝説や民話、伝承などに残っている妖怪、あるいは解き明かされていない不思議な出来事を描いた作品です。
扱う怪異の幅も広くて、海外のものから日本のもの、古い伝承からネットスラングに至るまで、まるで古今東西の怪異の図鑑を見ているような感覚になれます。でも、ただ不気味なわけではなくて、ファイルーズあいさん演じる菫子や、僕が演じる蓮をはじめ、キャラクター同士の会話はテンポ含め独特で、不気味さとコメディが絶妙な感じに混じり合っている、だんだんと癖になっていく面白さが詰まった作品になっています。
あ、癖といえば同じ漢字で、癖(へき)の話を......結構女性キャラの描き方に癖(へき)を感じるので、その癖(へき)に合うものをお持ちの方ならば、ブッ刺さるんじゃないかな(笑)」

(C)ぬじま・小学館/「怪異と乙女と神隠し」製作委員会
「僕が演じる化野蓮は、『なんでそんなに詳しいの?』というくらい怪異に詳しくて、作中の怪異の解説はおそらくほぼ僕がやっています(笑)。謎が多いキャラなので、彼が何者なのかは、ぜひ本編をご覧になって確かめてみてください!」
■2024年4月クール「龍族 -The Blazing Dawn-」の見どころ

(C)2023 Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited
――「龍族 -The Blazing Dawn-」では、ルー・ミンフェイ役を演じられる山下さん。このアニメの見どころと、演じるキャラクターの魅力を教えてください!
「『龍族 -The Blazing Dawn-』は、元々中国で大人気の作品で、最近増えてきた中国アニメの吹替版です。もう、なんといっても映像の美しさがハンパない。すごいです。中国恐るべし、です。そんな綺麗なアニメーションの中に、日本のアニメからインスパイアされたであろう色々な要素が見られるところもあって、それが日本のアニメファンにとっても面白いんじゃないかと思いますね」

(C)2023 Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited
「作品や物語の展開は、中国らしさというか少し日本とは違う部分もありますが、それが日本だとめずらしいテンポ感にもつながっていて。
それをどうやって面白くできるかが、声優として難しくもあり、楽しくやりがいを感じる部分でもあります。『全然、自由に演じてもらってかまわない』というお話はいただいているので、原音ともまったく違ったり、あえて原音の良さをそのまま残したり。とにかく『こっちのほうが面白い!』を積み重ねてつくっていってるので、ぜひ楽しみにしてみてください。
もし中国語版が観られる環境の方は、字幕版と吹き替え版で向こうのルー・ミンフェイと日本のルー・ミンフェイを聴き比べもしてもらえたら、嬉しいです!」

取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃




