声優・佐藤拓也インタビュー#3「声優としてマイク前に立てることが幸せ。だからこそ自分のできることで返したい」

声優・佐藤拓也インタビュー#3「声優としてマイク前に立てることが幸せ。だからこそ自分のできることで返したい」

「キャプテン翼」の日向小次郎や「ジョジョの奇妙な冒険 戦闘潮流」のシーザー・A・ツェペリなどの往年の名キャラクターの熱演をはじめ、「憂国のモリアーティ」のアルバート・ジェームズ・モリアーティ、「アイドリッシュセブン」の十龍之介、「刀剣乱舞」シリーズでは燭台切光忠と江雪左文字の二役など、アニメ・ゲーム・吹き替えなど数々の人気作品に縦横無尽に出演する声優・佐藤拓也さん。「この世界以外に興味が湧かなかった」と一途に声優の道を志し続けてきましたが、人気声優となった今でもその熱は変わらず。「素敵な人たちに囲まれて、マイク前に立てることが幸せ」だと話します。このインタビューでは全3回にわたって、その軌跡と出演作品に対する思いをひもときながら、声優・佐藤拓也の原点と信念に迫ります。

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■コロナ禍で目覚めた、仕事以外の趣味

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――お休みの日はどんな過ごし方をされているんですか?

「ここ数年は、自分のおやつとしてグルテンフリーや低糖質の体にいいお菓子作りをしています。市販のものは美味しいですが、コロナ禍で時間ができたこともあって『自分で作ってしまえばいいのでは?』という気持ちで、作り始めました。

お菓子作りを始めて、やっとお芝居のこととは関係のない趣味ができたっていう感じです」

――それまでは、結構お休みの日でも仕事のことを考えてしまったりされていた?

「録りためた映画を観たり、ゲームをすることが多かったんですが、結局、内容よりお芝居を聴いてしまうので仕事脳になってしまうんですよね『あ、この言い方いいな!』『これ、僕ならこう言うかも』みたいな(笑)。

といっても、好きで無意識にそんなことを考えてしまうから『自然と仕事脳になっちゃう』という感覚です。でもあるとき、『仕事とまったく関係のない趣味ってないな』と思ったんです」

――元々、お菓子が好き?

「甘党なんですよね。なので、家にいてただ買ってきたお菓子を食べていると『そりゃそうなるわ』っていう体になってきちゃう(笑)。

でも、ヘルシーなお菓子作りをするために本やYouTubeをみるようになって、世の中にはいろいろな食材や作り方があるんだということを知りました。『どうせ食べるのは自分だしな』と思って、いろいろな食材やレシピにチャレンジできるのは楽しいですね」

――最近だと、どんなものを作られているんですか?

「最近作ったのは、オートミールやおからパウダーでつくる蒸しパンとか。オートミールはおにぎりにもできるし、現場で休憩の合間につまめるので重宝しますよ」

――作ったお菓子を現場で配ったりは?

「絶対しないです!お腹でも痛くなられたりしたら困るので(笑)。『お腹痛いな、なんか変わったもの食べたっけ?あ、佐藤が作ってきたお菓子だ!』ってなったらあまりにも申し訳ない」

■「アイドリッシュセブン」1stライブで感じた、十龍之介への思い

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――ゲーム、ライブ、劇場ライブ映画と数々のメディアで大ヒットとなっている「アイドリッシュセブン」では、TRIGGERの十龍之介役を演じられています。これまでを振り返ってみて、どんなことが思い出としてありますか?

「幼い頃から『声優になったら歌を歌ってみたい』という願望は持っていたんですよ。でも、まさかメットライフドーム(現ベルーナドーム)という大きな会場で歌わせてもらえるなんて想像もしていませんでした。
もうね......みなさんの歓声で地響きがするぐらいなんですよ。そんな規模感なので、1stライブの前夜は、眠れないぐらい緊張してました」

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――想像するだけでも震えますね......。

「いや、本当に震えましたよ。実際、ヘッドライナーでIDOLiSH7のメンバーが歌っているときも、裏で『本当に、今からここに行って歌うの!?』みたいな気持ちで圧倒されていましたし、ステージに出たら出たで、マネージャー(=ファン)のみなさんの期待とか応援の気持ちが、数万人分の声になってステージまで飛んでくるので、それを体で受け止めてまた身震いして」

――それだけの緊張やプレッシャーって、どうやって乗り越えるんですか?

「TRIGGERとして、一緒にパフォーマンスをしてくれる(八乙女)楽と(九条)天、その二人を演じる羽多野渉さんと斉藤壮馬くんの存在はやっぱり心強いですよね。
でも、それ以上に僕が心の拠り所にしていたのは、僕が演じてきた十龍之介なんですよ。当時は『僕、正直緊張しちゃってるんですけど、十さん、いつもどうやって舞台に立ってるんですか?』って」

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――ふだん、十龍之介がやっていることを、佐藤さんが初めて経験する瞬間だったんですもんね。演じるアイドルから逆に教わる感じというか。

「そうなんです。物語の中ではトップアイドルの3人のうちの一人なので、彼はいつもそんな大舞台で最高のパフォーマンスができているんですよね。

龍之介に手伝ってもらって、ようやくステージに立てる、という感覚でした。

その時に心の支えになったのが、龍之介が第1部で言っていた『俺は......、俺が愛されたいわけじゃない。俺の歌が、俺のダンスが、TRIGGERの一部となって愛されたいんだ』というような台詞なんです。『僕もそうあるべきだしそうありたいな』って思って。

ステージ上では、あくまで十龍之介として振る舞えばおうと。ライブを観てくださる人も、TRIGGERとして、十龍之介として少なからず観てくれているステージだと思うので、そこに佐藤拓也という存在はいらない。そう考えたら、少しだけ緊張もほぐれて、パフォーマンスに集中できたような気がします」

――十龍之介から教わったものは、すごく大きかったんですね。

「本当にそうです。さっきの龍之介の言葉って、彼自身のアイドルとしての矜持も言い表しながら、僕の声優としての指針にもなっているんですよ。僕だって、佐藤拓也が愛されるよりも、自分が演じるキャラが愛されて、引いては作品全体を楽しんでもらうことが声優としての一番の喜びなので」

■周りを引き込む先輩の姿に憧れた

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――佐藤さんにとって、尊敬する先輩というと、どんな方が思い浮かびますか?

「声優になる前からの憧れ、声優になって現場でお会いして尊敬する方、本当にたくさんいらっしゃいます。その中で、『少しでもこういう人に近づけたらいいな』と思っているのは、事務所の会長である、内海賢二さん。

内海さんとは生前、片手で数えられるほどしかご一緒できなかったんですが、その姿や立ち居振る舞いを見られたのは、ものすごく幸運だったなと......。

内海さんはすごく優しくて、僕みたいな同じ事務所の若手に対しても、別の事務所の新人声優に対しても、分け隔てなく声をかけて、周りが最大限パフォーマンスできるような空気をどんどん作っていくような人で」

――いるだけで現場の士気が上がる、みたいな存在なんですね。

「きっと、内海さんはそれが何気なくできてしまう人だったんだと思います。かけてくださる言葉にものすごく力があるんですよ。僕も言われた身として実感があって。そんな場を作れる人間に、少しでもなれたらいいなと思います。

お芝居にしても、内海さんにしかできないようなアプローチがあるんですよ。他のだれかがやったら違和感が出るような演技も、内海さんが演じるとそこに有無を言わせない説得力がある。『ふつう、そんなことにならないでしょ』というものでも、内海さんが演じれば『そうなるのかも』と思わせてしまう。

それも、内海さんのお芝居、表現だからこそできるものなんですよね」

――それって、何が違うんだと思いますか?

「あくまで僕の視点ですが、『こうしなきゃいけない』ではなく、『このほうが、俺も楽しいしみんなも楽しいんじゃないか』という感覚で表現しているような気がするんです。自分以外の誰かの喜びとか、楽しさのためというか。

だから、こうして取材をしていただいて多くの方に興味を持っていただくのは本当にありがたいことですが、やっぱり先ほど『僕個人の存在は極力見えないように』と話したように、作品を良くする演技が、声優としてはまず一番に有って、視聴者の方が『こんなに素敵なお芝居をする人は......』という興味を持ってくださることはいちばん後回しで良い。裏方の職人的な声優という存在が、やっぱり僕は好きなんでしょうね」

■素敵な人に囲まれ、マイク前に立つ幸せ

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――佐藤さんにとって、座右の銘ってありますか?

「じつは、誰かに言われてする努力がすごく苦手なんですよ。『ああしなさい』『こうしなさい』とか。そんな自分をよく表してると思うのは、『好きこそものの上手なれ』ですね。

例えば、『素振り100回』ってそれ自体が目的ではなくて、『ホームランやヒットを打ちたい!』という気持ちがあるからやるものだと思うんです。その先にある目的に対して『自分がそうなりたいからする!』という自発的な努力。

ただ『しなさい』と言われたことだけをこなすだけなら、それは『ただの宿題』だと思うんですよね。
自発的な努力って好きで、自然にしちゃうものですよね」

――そういう意味では、今回、3回にわたるインタビューをしてきて、佐藤さんは本当に声優という職業が好きなんだなというのは強く感じました。

「好きですねぇ(笑)。この業界は同じ声優さんでもスタッフさんでも、素敵で面白い人がたくさんいますから。そんな人たちに囲まれて、幼い頃から自分がやりたかった声優としてマイク前に立たせてもらって。そんな現実があるってめちゃくちゃ幸せですし、だからこそ『自分ができる仕事で返さなくちゃな』と思えるんですよね。

年々、若い声優さんも出てきますし、先輩は先輩で元気でいてくれるし。これから先、自分がどんな声優になっているかはわかりませんが、いくつになっても、いろいろな世代の人たちと一緒に素敵なパフォーマンスを披露できる存在でありたいですね」

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――声優業界に足を踏み入れた、あるいは踏み入れようとしている後輩たちに、何かメッセージやアドバイスはありますか?

「僕が声優を志した時代からさらに技術は進歩していて、今はAI音声も登場しています。おそらく『綺麗に話すだけなら機械まかせで大丈夫』という現実が、もうすでにある。

でも逆に人間には、より人間らしいことが求められると思うんです。それでいうと声優業界は、まだまだ『これは人間じゃないとできないよな』ということも多いと思います。

そんな世界で生きていこうと思うならば、より自分の人間的なウエットなもの、個性というか、システムには落とし込めない心の動き、形、反応という不便でアナログなものを時代に逆行するかのごとく日々感じ取って生きてほしいなと思うんです」

――そうした自分の感情に敏感になるためには、何を大切にすればいいと思いますか?

「いちばんは、何事もやってみることだと思います。一歩、踏み出してみる。『これはダメだろう』『どうせできないし』じゃなくて、『できないかもしれないけど、やってみよう』と。
情報は調べればいくらでも得られる。だけど、その情報が本当なのかどうかは、自分が体験しなければわからない。『この食べ物、まずいって聞いてたけど食べてみたらおいしかった』とか、そんなことでもいいんですよ。

自分の身をもって体験したこと、経験したことが演じる上で一番大事な材料になるはずです。選り好みせずになんでも一度やってみて、その時の自分の心の動きを感じてもらえたら、それが後々自分だけの武器になってくるんだと思います」

■「TRUMPシリーズTVアニメ『デリコズ・ナーサリー』」の見どころとキャラの魅力

――TVアニメ「デリコズ・ナーサリー」では、ディーノ役を演じられる佐藤さん。アニメの見どころを教えてください!

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「これは原作が、『TRUMPシリーズ』と言われる10年以上続く大人気の舞台作品で、その最新作をアニメでやるという、ものすごく斬新な試みをしているんです。

舞台で『TRUMPシリーズ』を長らく楽しんでこられたファンの方にとっては、新しくその歴史に厚みを加えるものになるでしょうし、逆にこれから『TRUMPシリーズ』を知る方にも新しい世界の扉を開くきっかけになれたら嬉しいです。

アニメーション、音楽、声とどの方面からも力を入れて作っているのが伝わる作品だと思うので、ぜひたくさんの方に観ていただきたいですね」

――演じられる役、ディーノ・クラシコというキャラの魅力はいかがですか?

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「いつもは大きな声がセールスポイントの佐藤拓也ですが、ディーノさんは真逆のタイプで、いつも目の下にクマを作ってしまうようなキャラなんですよ(笑)。これは、僕にとっても挑戦だと思って演じていておりますので、ぜひ、そのあたりも楽しんでいただきたいですね」

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取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃

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