声優・佐藤拓也インタビュー#1「『できるできないじゃなくて、これしかない』幼い頃から一途に声優を目指し続け、突き進んだ一本道」

声優・佐藤拓也インタビュー#1「『できるできないじゃなくて、これしかない』幼い頃から一途に声優を目指し続け、突き進んだ一本道」

「キャプテン翼」の日向小次郎や「ジョジョの奇妙な冒険 戦闘潮流」のシーザー・A・ツェペリなどの往年の名キャラクターの熱演をはじめ、「憂国のモリアーティ」のアルバート・ジェームズ・モリアーティ、「アイドリッシュセブン」の十龍之介、「刀剣乱舞」シリーズでは燭台切光忠と江雪左文字の二役など、アニメ・ゲーム・吹き替えなど数々の人気作品に縦横無尽に出演する声優・佐藤拓也さん。「この世界以外に興味が湧かなかった」と一途に声優の道を志し続けてきましたが、人気声優となった今でもその熱は変わらず。「素敵な人たちに囲まれて、マイク前に立てることが幸せ」だと話します。このインタビューでは全3回にわたって、その軌跡と出演作品に対する思いをひもときながら、声優・佐藤拓也の原点と信念に迫ります。

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■1ミリも思ってない将来の夢を卒業文集に書いた

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――小さい頃はどんな性格のお子さんでしたか?

「小さい頃は性格もおとなしくて、両親と4歳下の弟がいたんですが、家族にも存在が気づかれないくらい、おとなしくて無口な性格でしたね。自分で言うのもなんですけど、親からするとあまり手はかからなかったんじゃないかな。

今でも基本的な性格は変わっていないと思います。お盆や正月に親戚が集まったりすると親戚からも『喋らないね~』って言われたりしてね。友達と遊んでいるときには、みんなと楽しく盛り上がったりもするんですが、根っから明るいタイプというわけでもなく、目立つようなことがあまり得意ではなくて」

――すごく意外な感じがします......!わりと小さな頃から「声優という職業がある」のはご存知だったんですよね。

「そうですね。小学校低学年の段階で、テレビで『人気の声優ランキング』なんかも観ていたので、声優という職業があって、アニメのキャラクターの声ってこんな人たちがやっているんだな、という認識はしていたと思います。

とくに好きだったのは小学3~4年生の頃に観ていた、『機動武闘伝Gガンダム』で主役・ドモンを演じていた関智一さん。それを観て、『あ、僕はこういうことがやりたいんだ』と思ってそこから30年、気持ちが全然変わっていないんですよね」

――ずっとですか!?

「そう、ずっと(笑)。中学、高校のときも同級生がスポーツや音楽とか、いろいろな趣味を持っていくなかで、自分はそういうところにはあまり興味が持てなくて、ずっとこの世界のことばっかり。

ただ、当時は今ほどアニメ好きが受け入れられるような空気じゃない気がしてて、『声優になりたい』『アニメが好き』とかを周囲に話したりもしていませんでしたね。卒業文集にも、全然違う1ミリもなりたいと思っていない職業を、ウソで書いてました(笑)」

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――1ミリも思ってないのに(笑)。声優という仕事の、どんなところにそこまで惹かれたんでしょうか。

「それよりも小さな頃からいわゆる特撮系も好きだったので、『自分じゃない何かになる』という変身願望みたいなものは人一倍、強かったと思うんです。

そこからだんだん成長していく中でどうやら自分が想定しているよりも『身長、伸びないな』とか『運動神経、よくならないな』とか、思い描く自分の理想とは違う感じに育っていく。それに対して『できるように頑張ろう!』という気持ちにならないあたりが、とても自分らしいなと思うんですが(笑)。

『自分自身が映るものだとヒーローにはなれないけど、声だけだったら何にでもなれるんじゃないか』。そんな単純な気持ちから始まったような気がします」

――関智一さんのような声優になりたいという気持ちがスタートだったんですか?

「それが、もちろん関さんに対する憧れがきっかけではあるんですが、不思議なものでどこか自分とは切り離して考えていて。多分、『プロになるからには、ファンのままじゃダメだ』みたいな気持ちがどこかであったのか、僕は僕なりのやり方で声優になりたいと思っていたんですよね。

実際、養成所や専門学校をリアルに考え始めたときも『関さんを追いかけるのは何か違うな』という気がして、当時関さんが所属していた俳協さんの養成所は選ばず、別の学校を選んだんです」

■上京し、突き進んだ声優への一本道

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――関さんに憧れてはいたけどプロになるからには同じ土俵で、という気持ちがあったんですね。そして東京メディアアカデミーの声優ボーカル科に入学。専門学校時代はどんなふうに過ごしていましたか?

「何よりも嬉しかったのが『こんなにも大っぴらに好きなものを好きって言っていい環境がある』ということ。

そもそも卒業文集でなりたい職業にウソをついたり、好きなものを周りに言えない10代を過ごしてきてしまったので、同じことに興味を持つ人たちが通う専門学校という環境に入れたことは、僕の人生にとっては一番大きな変化でした。

そこで知らないアニメ作品に出会ったり、"好き"にも色々なベクトルがあることを目の当たり。『こんなに面白い業界に進む道を、選んでよかったな』と感じていました」

――授業のほうはいかがでしたか?

「そうですね。演技の勉強どころか、発声練習すらしたことがない状態。本当にゼロからだったので、最初は『厳しかったら嫌だな』『気持ちが折れない程度に教えてもらいたい』という、甘ったれた気持ちがあったと思います(笑)。

でも、即興演劇をやったり、台本を読んだり、クラスメイトと掛け合いをしてみたりすると、何もかもが初めての経験だったので、難しさや厳しさよりも、自分がやりたいことをやれてる喜びや楽しさのほうが、大きかったかな」

――じゃあ、あんまりうまく行かなくてヘコむことはなかったですか。

「そうですね。だって初めてだし(笑)。できないものは仕方ないですよね。『やったことないし、できなかったらやるしかないな』くらいな気持ちでした」

――めちゃくちゃ、ポジティブ思考ですね!

「僕自身、本当の根っこの気質はネガティブなタイプなんです。放っておいたら、『僕なんて......』というほうに考えがいってしまう。

だけどせっかく上京して、自分が目指したいものに向かってやれているのに、『あぁ、できなかった。自分はダメだ』ってネガティブに考えるって、もったいないじゃないですか。

おそらく当時、そんなふうな考えに至るまでには両親の影響もあったと思います。突然息子が、海のものとも山のものとも知れない声優という夢を語り出したときに、『やりたいならやってみな』と言って東京に送り出してくれた。今でもものすごく感謝してますし、そんな親の気質が、僕の中にも根付いていたのかなと思います」

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――すごく素敵ですね。そこで2年間通われて、その後、賢プロダクションさんの養成所・スクールデュオに入られます。

「専門学校に比べると、養成所のほうがより仕事に近いというか、もう少し気持ちがシビアになってくるんです。手取り足取り教えてもらえるわけではなくて、『お前は何ができるの?』と言われているような感じ。

同期とはいえライバルだし、養成所の段階から同期に仕事が入ってきたりするのを横目に見ていると、『あれ、自分は大丈夫かな』という気持ちも出てくる。同期の中で、埋もれずやっていくためには、どうしたらいいんだろうという気持ちが正直、めちゃくちゃありました」

――自分を、積極的にアピールしていくような感じですか?

「そうなんですけど、当時、僕はアピールできるような武器がなくて、アピールできている同期が羨ましかったんですよね。ちゃんと自分にできることを把握してて、得意なこともわかってる。

自信があるなんて『声が大きくてやる気がある』ことくらい......というかそれも、ここ数年でようやく胸を張って言えるようになりました(笑)。『やる気があるので、なんでもやらせてください!』という自分のセールスポイントが、やっと固まった感じです」

――でも、同期に仕事のオファーが来て、という状況を目の当たりにして、気持ちが腐ったりはしなかったですか?

「むしろ、『知らない誰かだけじゃなく、いつも顔を合わせている身近な人とも、役を取り合う世界なんだな』という現実を早い段階で実感できたのは、『よし!次!』というメンタルを養うにはよかったのかなと思います。

それに、腐ってなんかいられないですよ。こちとら、親から『30歳になっても食べられてなかったら諦めろ』とボーダー切られてますし。なにより声優が好きだし、この世界が好きだし、これしかやりたいことないし。できる、できないじゃなくて『自分には好きなものがこれしかないんです』というのが正直なところで、自分としては退路なんてないと思ってましたね」

■「みんな、思い通りにならない中で生きてる」

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――下積み時代には、どんなアルバイトをなさっていたんですか?

「結構、いろいろなバイトを経験しましたよ。ファストフードやテーマパークのスタッフ、派遣社員などなど......

なかでも一番長く続けていたのがコールセンターのアルバイトでした。シフトの融通がきくアルバイトだったので、当時一緒に働いているのも、声優や芸人志望の人が多くて。

20代後半のギリギリまで、アニメのレギュラーが決まってからもしばらくは続けさせてもらっていました」

――アルバイト時代の経験として何か学びになったようなことはありますか?

「コールセンターのアルバイトでいうと、すごく色々な人がいるんだなっていうのは実感しましたね。それは電話をかけてくるお客様もそうですし、職場で同じように夢を追いかけている同僚や主婦の方々などもそうです。声優をやっている今でも、そこで色々な人に出会えた経験はよかったなと思います」

――「色々な人がいると知ることができてよかった」とおっしゃっていましたが、それも詳しくお聞きできますか?

「僕自身、専門学校に入る前から声優という職業を志していて、声優になったらアニメの主役をやって、歌を歌ってと、現実を知らないまま青写真を描いていたわけです。

それでいざ東京に来てみたら、全然そんなに甘くなくて。できない事ばかりだし、自分がどうやったら喰らいついていけるのかと暗中模索の日々。そしてアルバイト先に目を向けると、道は違っても同じように夢を追いかけている同僚もいるし、色々な事情の中で自分の思うようにいかない人もいる。そんな現実を見るにつけ、みんなままならないことの中で一生懸命に生きてるんだなって思うようになったんですよね。

けっして達観するわけではないけど、色々な人の人生の一端に触れる中で、学ばせてもらったことかなと思います」

――思い通りにならないことが、ベースにあると。

「そうそう、思い通りになることなんて、せいぜい『朝ごはんに何食べよう』くらいのことだなっていうマインドになりました(笑)」

■「Re:Monster」の見どころと佐藤さん演じるゴブ朗の魅力

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――春クールの「Re:Monster」では、主人公のゴブ朗(のち、オガ朗)役を演じられていました。この作品の見どころを教えてください。

「『Re:Monster』は、ゴブリンの赤ん坊に転生してしまう主人公のお話なんですが、いわゆる『俺さまは最強だぜ!』という感じではなくて、生まれ変わった世界でもう一度、勉強しなおして身を立てていく泥くささが、僕は魅力の一つだと思っているんですね。

主人公のゴブ朗は、食べたものが持っているスキルを、すべて取得できるというスキルを持っていて、狩りや戦闘を通じて色々なものを食べて成長するんですよ。そこで食べるものは、僕らの現実世界の倫理観では語れないものであったりもするし、ある意味で『食育』的な側面もある。でも、現実世界の倫理観という型にはめないからこそ、物語が面白くなるんだろうなとも思います。

あの世界の正義は、あくまであの世界の正義で、こちらの正義とは違う。そのルールの中でみんな苦労して生きている。『非現実の中にあるリアリティ』が面白い作品だと思います」

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――佐藤さん演じるゴブ朗というキャラの魅力は?

「ゴブ朗の中には『自分なりの正義』というものが確実にあるんですよ。それは第三者からは共感されないかもしれない。だけど、自分が身を立てていくために、『こういうものだ』『こうしていく』という強く確かな意志をもって生きている。

正義の形は違うかもしれないけど、自分の正義に従って行動をしているゴブ朗の生き方は、僕はある種、憧れをもって眺めています」

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取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃

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