声優・上坂すみれインタビュー#2「そんな激しい環境下で人々が生き抜く世界が女子高生の私にとっては異世界に見えた」
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2025.12.12
「うる星やつら」のラム役をはじめ、「スター☆トゥインクルプリキュア」のキュアコスモ役、「時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん」のアリサ・ミハイロヴナ・九条(アーリャ)役など、数々の人気作品に出演。清楚なお嬢様から色気のあるお姉さん、おてんば娘まで幅広く演じ分けるその表現力で、キャラクターの魅力をググッと引き上げています。このインタビューでは全3回にわたって、上坂さんのこれまでの歩みや声優として大切にしていることを、出演作品のエピソードとともにお届けします。
■外出先でつい探してしまう「マルフクの看板」

――休日はどんなことをしてリフレッシュされることが多いんですか?
「いつも決まったことをしているわけではないんですが、一日の中で一度は『外出する』ということは決めています。マッサージや整体に行ったり、どこに行くのか決めずにぶらりと外に出たり......とくに誰かを誘って、というわけではないんですが、なんとなく電車にのってぷらっと鎌倉や、水族館に一人で行くこともあります。
一日で行って、帰って来れるくらいの距離感の場所に出かけているときが、いちばん楽しくてリフレッシュになっているかもしれません」
――お出かけ先では、どんなことをするんですか?
「じつは、観光地というよりは住宅街みたいな場所を散策して、民家や看板とかを見つけるのが好きなんですよ。
私は横浜出身なんですが、幼い頃から住宅街で『マルフク』という会社の看板を探すのが、好きだったんですよね。大量に民家に看板が付いていたりするんですけど、成長するにつれて、あれが消費者金融だということがわかってきた(笑)。いまは会社名も変わっていて、看板としては滅びてしまったものなんですけど、いまでも出かけると心のどこかで『マルフクの看板ないかな』っていう気持ちがあるような気がしています」
――(スマホで検索して)あ、マルフクってこれですね...!なんか見覚えがある気がする!
「そうそう、その赤と白の看板です!
同じように、ホーロー看板や、ひと昔前の番地が書かれた標識とか。ときどきすごく古いのがあったりすると、「〇〇区」の「区」の字が旧字「區」になっていたりするのもあったりして......あれは相当レアだと思うんですけど、そんなふうに古い看板探しをするのが、結構好きですね」
――もしかして、廃墟とかもお好きだったりしますか?
「興味はあるんですけど、動画で見るくらいなんです。というのも、基本的に一人で出かけるので、危ないなと思って。"廃墟のプロ"みたいな人が一緒じゃないと難しいのかなと思って、そこはお出かけのときにはノータッチにしています。
でも、"熱海に結構、廃墟があるらしい"っていうのは、知っています。豪邸とか、旅館とか。だから、熱海に行くときはちょっと『廃屋ないかな』と思いながら歩いているフシはあります(笑)」
■中野サンプラザとともに歩んだアーティスト活動

――2024年は、アーティスト活動開始10周年でした。振り返ってみて、印象的だった出来事はありますか?
「すごく印象的だったのは、アーティスト活動を通して、初めて中野サンプラザのステージに立たせていただいたときです。中野サンプラザは、ハロプロの聖地だというイメージがすごく強かったので、まさか自分がそこに立てるなんて不思議だなと思いながら。積み重なって、これまでかなりの回数を立たせていただいたんですが、最初はすごく広く感じられた中野サンプラザが、ステージに立つ回数を重ねるごとに、だんだんと"ホーム"みたいな感じがしてくるのが、嬉しかったです。閉館に際した『中野サンプラザ音楽祭』というお祭りでも、最後にもう一度ワンマンライブでステージに立ったり、本当に中野サンプラザとともにアーティスト活動をしてきたよう気がします」
――中野サンプラザに特別な思い入れがあったんですね。
「あの"ザ・昭和"のような古い建物の佇まいが素敵で、楽屋もまた、時代を感じさせるいい雰囲気があるんですよ。私自身、客席側に何度も足を運んだことがあるので、お客さんがロビーの赤い階段を上って会場に行く感じがありありと想像できて。客席側、ステージ側とお互いに顔が見やすくて、ステージに立って見ると本当に2階席の奥の方まで、よく見えるんですよ。
お客さんと演者が近い中野サンプラザならではのワクワク感というのが、すごく魅力があるんだなって。私にとっては、"原点であり、王道"というべき場所かな」
――中野サンプラザのステージに立った経験というのは、その後の活動にも還元されてくるものはありましたか?
「そうですね、じつはアーティスト活動も、最初の頃は本当にいっぱいいっぱいで、ライブをやるたびに体調を崩したり、疲れ果ててしまったりしていたんです。でも、中野サンプラザでのステージを重ねるごとに、最初は、客席の前方しか見れていなかったのが、だんだんと全体が見えるようになっていって。その経験で、自分自身の成長も感じたし、ライブもどんどん楽しく感じるようになりました。『ライブが楽しい』って思えるようになってからは、ライブのセットリストを考えたり、テーマや企画を自分で提案したり、どんどん前のめりでステージを楽しめるようになっていったので、そういった気持ちの原点には中野サンプラザがあるのかな、って思います」
■女子高時代に芽生えたロシアへの興味

――2026年には第2期の放送が決定している「時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん」ではヒロインであるアーリャさんを演じていますが、そもそも上坂さん自身もロシア語を勉強されていたとか。
「ロシア語、というよりもロシアそのものに高校時代から並々ならぬ興味を抱いておりまして。小中高一貫校の女子校に通っていたのですが、学生時代はけっこう暇な時間を持て余していたんですよね。その時間の使い道が、もっぱら当時の2ちゃんねる、高校時代はニコニコ動画でした。ミリタリー好きなので、初期のニコニコ動画でもそういう動画を視聴していたんですが、あるとき、その派生でソビエト連邦の国歌の動画が流れてきたんです。その国歌が、厳かで壮大なんですけど、信じられないくらいハイテンションなんですよ。『こんな国歌を聴き続けたら、どんな人になるんだろう』『こんな国歌を作る国ってすごいんだろうな』と思ったことがきっかけで、ロシア文化に興味をもつきっかけになったんです」
――国歌が興味の入り口だったんですか...!
「最初は国歌でしたね。次に戦車。戦車も好きだったので『どんな戦車なんだろう』って見てみたら、共産主義っぽい装飾性の少ないデザインだったんです。戦車のデザインって、結構お国柄が出る部分で、たとえばドイツならデザイン性重視でかっこよかったり、アメリカなら効率重視で量産的だったり、イギリスはかなりユニークな形をしていたり。その中で、ソ連の戦車はどれとも違う......あれは、いうなれば初めてザクを見たときの感動に近かったと思います」
――ザクに...!(笑)
「戦闘機もそうなんですけど、そのミリタリーメカがめちゃくちゃかっこよかった。あとは、ちょうど私が生まれた1991年にソビエト連邦が国家として消滅したんですけど、そもそもの話、『国が消滅するって、どういうこと?』っていうのもすごく気になるポイントだったんです。それで結構さかのぼって調べてみると、その前にもロシア帝国が消滅していたり......その、歴史がつねにエクストリームな道をたどっているのがわかったんですよね。」
――なるほど。
「もちろん地形や気候もけっして住みやすい場所じゃないし、過酷で激しい環境がずっと続いてる国なんです。それでいて、美男美女が多い。そんなに美しい人たちが、ウォッカというお酒まで生み出して、そんな過酷な環境を生き抜かなければいけない国って一体なんなんだ!?という感じで、時間を持て余していた女子高生にとっては、それこそ"異世界"みたいな感覚で眺められる世界だったんです」
――言われてみると、たしかに異世界チック......!
「しかも調べれば調べるほど、常識を超えてくることが見つかるんですよね。そのたびに、『すごいな、ロシア......!』と夢中になりましたし、女子高生にとっては自分だったら生きていけるかどうかもわからない、すさまじい世界を見ているような感覚でした」
■大前提として、ロシア人はデレない|「時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん」アーリャ(アリサ・ミハイロヴナ・九条)

(C)Sunsunsun,Momoco/KADOKAWA/Alya-san Partners
――そのとき興味をもったことがきっかけで、大学でロシア語を専攻したんですか?
「一応、専攻はしていました。だけど、勉強はしたものの『これは使いこなすには5~6年は学校に通わないと習得できないな』とは感じていて、しかも在学中に声優業のほうが忙しくなってしまったので、私としてはもう少し腰を据えて勉強したかったな、という思いではあるんです。
しかもロシア語ってとても難しい言語で、キリル文字の読み方、格変化と覚えることがたくさん。よく使う慣用句を覚えれば、簡単な会話くらいはできるものの、ちゃんと習得したと言えるようになるには、まだまだ勉強しなきゃっていうくらいでした」
――でも、ロシア語を勉強したことで「時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん」でも活きてくることもあったんじゃないですか?
「そうなんですけど、まず大前提としてロシア人はデレないっていうのがあるんですよね」
――えっ!(笑)
「言葉の発音も、ちょっと強めで。私がロシアに行ったときも、言葉を発するときはとにかく"強くっ!鋭くっ!"っていう印象でした。ロシア語の発音の特徴として、巻き舌や濁音がかなりしっかりとしているので、やわらかな喋り方というのがほぼ存在しないんです。
テレビやラジオで、どんなにきれいなかわいい女の子が喋っていても、日本人にはかなり語気が強く聴こえると思います」
――そうなると、アーリャさんのデレというのはどんなふうにして...?
「なので、むしろロシア語の発音のクセを一度、全部抜く必要がありました。ある程度、ロシア語としては正しく発音しなければいけないけど、『この音を強くすると、かわいく聴こえないよなぁ』というときには、発音を大事にしつつ、かわいさを残すのがすごく難しくて......。
その中で、いちばん最初に出てくるロシア語で『ミラーシュカ』という"かわいい"という意味の言葉があるんですけど、この言葉の響きは、ロシア語の中でも発音自体が相当かわいいほうだったんですよね。『どうしよう』と思いながらも、この1話目のロシア語には、『助かったぁ』という気がしていました(笑)」
――ちなみに、どんなふうに発音していくんですか?
「『ミラーシュカ』(実際の発音で)ですね。まず、『ミ』のiをちゃんと発声しなければだめで、『ラ』は巻き舌にしない、そして『シュ』はいちばんかわいさを出せるポイントなので、ここを強調して『カ』で破裂しすぎないように、やわらかくおさめる。そうすると、だいぶかわいい感じで発音できるので、本当に助かりました(笑)」
――でも、ほんの1秒足らずの言葉でもそれだけのことが考えられているんだと、やっぱり声優さんのすごさを感じました。あらためて、次回の放送に向けて楽しみにしている方へメッセージをお願いします!

(C)Sunsunsun,Momoco/KADOKAWA/Alya-san Partners
「原作から、多くの、そして幅広い世代の方々に愛されているラブコメ作品で、Season1では、動画工房さんによる素敵なアニメと、それから作品愛が伝わってくるような構成で、すごく素敵なSeason1になったと思っています。
いま予告されている内容では、Season2は夏休み編。これはもう『絶対に面白かろう』という確信と、Season1で距離が縮まったアーリャと政近の関係がより深掘りされるという予感めいたものがあります。
そんな間違いないSeason2も、ぜひ放送を首を長くして待っていていただけたら嬉しいですね。そして、私はこれからもなるべくかわいいロシア語をお届けできるように、頑張りたいと思います。いや本当、そこが一番の頑張りどころだなぁと(笑)」
■ナチュラルの逆をめざす|「オーバーロード」シャルティア・ブラッドフォールン

――2015年から続く人気アニメ「オーバーロード」では、シリーズを通じてナザリック陣営の階層守護者の一人、シャルティアを上坂さんが演じられています。
「アニメ自体は2015年からなんですが、じつは最初のドラマCDの収録があったのは2012年頃で、シャルティアは私の声優人生でも最初期に出会ったキャラクターの一人なんです。
当時は、まだその独特な廓(くるわ)言葉という言葉遣いもわからず、いわゆるケレン味の強い濃い感情表現というのも出し慣れていない部分がありました。とくに、アニメの1期でいうと、いわゆる"当番会"もたくさんあって結構シャルティアにはのどを鍛えられたなという思い出があります」
――シャルティアの役作りでは、どんなことを意識されているんでしょうか?

(C)丸山くがね・KADOKAWA刊/オーバーロード4製作委員会
「とにかく、シャルティアはナザリックのNPCの中でも、属性モリモリに設定されている子。ナチュラルな演技の"逆を目指す"というか、コッテリした喋り方をするとハマる子だとは思っています。
それと、シャルティアは変身したりすると、声の出し方がだいぶ変わるので本当、第1期の頃はどこから声を出せばいいのかわからなくて、声帯結節によくなっていたんです。ただ、『オーバーロード』自体がゲームの収録が多く、年に数回、シャルティアの声を出させていただく機会がありまして。それをやるたびに『ここから声を出せばヤツメウナギのときの声が出せるんだ』っていうのを掴んでました(笑)。
ここ数年、ほかの作品でもシャウトするキャラの役をいただくことがあるんですが、シャルティアがいなかったら、ここまで毎日のように継続してあの声は出せなかっただろうなぁ(笑)」
――上坂さん自身、シャルティアでの印象的な場面というと?

(C)丸山くがね・KADOKAWA刊/オーバーロード製作委員会
「そうですね......シャルティアは、一言だけでもかなりインパクトが強いキャラなんですよね。けっこう、クレイジーな振る舞いをしているように見えるんですけど、知能指数は低くてまっすぐ。『パワーが有り余ってて、アインズ様が大好きで、そんなに細かいことや難しいことは考えられない』というのがかわいさでもあると思っていて、すごく強い幼児みたいなんですよね。
最近のシーズンだと、一生懸命にメモを取っていて『アインズ様のいうことをメモしてるでありんす』みたいなセリフを言うんですけど、それがすごくふつうの女の子の感情なんですよ。それだけだとまっすぐなんですが、戦いになると本能剥き出しで大暴れする。二極化しているキャラではありますが、どちらもまっすぐでさっぱりとした気持ちになれるシーンが多いなと思いますね」
■アフレコではみんなで日野さんを応援|「オーバーロード」シャルティア・ブラッドフォールン

――「オーバーロード」をはじめ「この素晴らしい世界に祝福を!」「Re:ゼロから始める異世界生活」「幼女戦記」の4作品がクロスオーバーした「異世界かるてっと」(以下「いせかる」)についても、作品の魅力からお伺いできますか?
「最初に話をお聞きしたときには、『いや、本当にすごいな!』って思いましたよね。いわゆる、『スパロボ』シリーズのような、『このキャラとあのキャラが出会ったらどんな会話をするんだろう!?』という空想・妄想が現実のものになりますからね。
とくにクセのある4作品のキャラたちが一つの学園に集まって、どのキャラもあぶれないように掛け合いをして......っていう、とにかく脚本がすごすぎますよね」
――本当そうですよね。「いせかる」の中でのシャルティアのことはどんなふうに眺めていますか?

(C)異世界かるてっと2/KADOKAWA
「彼女自身というよりも、意外と『いせかる』の世界だと、シャルティアは『Re:ゼロ』のレムと話しているシーンが結構多いのが面白いですよね。一見、意外な組み合わせに見えるんですけど、『一途な女の子同士で気が合うのかな』とか、『どっちもすごい強いよなぁ』とか、二人の共通点が見えてきたりする部分もあります。そんなふうにして、二人が通じ合っているシーンを見ていると嬉しくなっちゃうかなぁ」
――ナザリック陣営のほかの面々との、アフレコでのやりとりやエピソードなどはありますか?
「このナザリック陣営のやり取りは、現場でもすごく楽しいですね。とくにアインズの日野聡さんは、モノローグを含めるととにかくセリフ量が多いのと、ずっと威厳を保った話し方をしなければいけないので、階層守護者の面々はみんなで『日野さん、がんばれ!」って思いながら収録しています(笑)。
あとは、守護者の方々がゆるふわな雰囲気の人が集まっているので、日野さんをはじめ雑談の内容も本当にびっくりするぐらい穏やかで......。『この間、新しい枕を買ったら気持ちよくて......』みたいな話をしているのに、アフレコになった瞬間に国を滅ぼしてたりするので、なんかそのギャップが『ナザリックらしいな』とも感じられるポイントです(笑)」

(C)異世界かるてっと/KADOKAWA
――ありがとうございます...!最後に、上坂さんにとってのシャルティアはどんな存在でしょうか?
「そうですね......私にシャウト系の声の出し方を物理的に教えてくれたキャラでありつつ、本質的にはかなりシンパシーを感じているんです。ゴテっとしたロリータ服を着て、アインズ様を誘惑してみたり......っていう服装や言動こそエキセントリックな部分はあるんですけど、心の内は純粋にアインズ様大好き、ナザリック大好き。まっすぐで素直。周りの人からはあまりそう見えないかもしれないけど、長く付き合うほどシャルティアのかわいさがわかってくるし、色々なことに気づきながらどんどん彼女の魅力がわかってくるのが、演じていて楽しく嬉しいところです」

取材・文/郡司 しう 撮影/梶 礼哉













