DCコミックスの傑作、アニメ映画「ウォッチメン」はヒーローの闇と悲哀が大人に刺さる!

DCコミックスの傑作、アニメ映画「ウォッチメン」はヒーローの闇と悲哀が大人に刺さる!

スーパーヒーローが実在する1985年のアメリカ。ニューヨークの超高層マンションで、ある男が転落死する事件が発生する。犠牲者の名はエドワード・ブレイク――政府の工作員として暗躍していた、かつてのスーパーヒーロー、コメディアンだった。彼と共に「クライムバスターズ」として市民を守ってきたロールシャッハは、政府公認ヒーロー以外の活動を禁じる「キーン条例」が制定された今も、非合法に調査を続けていた。そして、今回の事件の真相を追い始める......。

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「スーパーマン」「バットマン」など数々のヒーローを生み出してきたDCコミックスから誕生した「ウォッチメン」は、1986年から1987年に刊行された伝説的アメリカン・コミックス。2009年にはザック・スナイダー監督が実写映画化、2019年にはTVドラマシリーズとして新たに展開された。そして2024年、原作コミックに忠実なアニメシリーズ「ウォッチメン チャプターⅠ&Ⅱ」が完成した。

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待望のアニメは原作コミックスへのリスペクトが満載!

キャラクターデザインはもちろん、カラーリングやカット割りに至るまで、原作への深いリスペクトが感じられる本シリーズ。コミックスが刊行された1980年代アメリカの社会情勢を織り込みながら描かれている点も大きな魅力だ。冒頭でコメディアンが殺害されるシーンでは、彼の部屋にフォード米副大統領の写真がさりげなく置かれている。

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また、二代目ナイトオウルことダニエルが初代の元を訪ねた帰りに通りかかる街角には、「ソ連(現在のロシア連邦)がアメリカのアフガニスタン侵攻に抗議した」という当時の実在ニュースが一面を飾る新聞が掲示されている。原作には明記されていなかった新聞社名が、1744年に廃刊したニューヨーク・ガゼット紙として描かれている点も興味深い。こうした細やかな演出や史実の混ぜ込みが、アニメ版ならではのブラッシュアップとして随所にちりばめられている。

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冷戦、終末時計...画面から漂う1980年代アメリカの空気

1980年代は、第二次世界大戦後に世界を二分した資本主義国を代表するアメリカと、共産主義国を代表するソ連とが対立する「冷戦」真っただ中の時代。両国が核兵器を保有し、世界が"いつミサイル発射のボタンが押されてもおかしくない"という緊張感に包まれていた。その恐怖を象徴するのが、1947年に雑誌『原子力科学者会報』が発表した、核戦争による人類滅亡までの残り時間を象徴的に示す「世界終末時計」だ。

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本作では、当時の実際の状況に倣い、時計の針が「残り5分」を指していた様子が描かれている。ちなみに、2025年1月に発表された最新版では「残り89秒」と、史上最も危機的な値にまで迫っている。また、全身が水色の超人・Dr.マンハッタンが額に刻む、水素原子を象徴したマークも、核の時代を反映した象徴的なデザインだ。作品全体にちりばめられたこうしたモチーフが、1980年代アメリカの空気を濃密によみがえらせている。

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Dr.マンハッタンの悲哀は大人だからこそ身に染みる

本作に登場するヒーローたちは、ロールシャッハ、コメディアン、二代目ナイトオウル、そして「世界で最も賢い男」と称されるオジマンディアスなど、それぞれが己の正義を追求する中でヒーローとなった存在だ。しかし、その行動にはしばしば冷酷さや極端さが伴う。ロールシャッハは、目的のためなら無関係な人物の指を平然と折り、最初に命を落とすコメディアンは、ベトナム戦争中に現地の女性との間に子どもをもうけながら、終戦直後には彼女を射殺するという非道な行為を見せる。そんな中で唯一、常人を超えた力を持つ存在でありながら、人間離れした冷徹さとは一線を画すのがDr.マンハッタンだ。

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彼が人知を超えた力を手に入れたのは、原子物理学の博士として勤務していた研究所での事故がきっかけだった。体の組織が原子レベルで分解されながらも、全身水色の超人として復活した彼は、あらゆる原子を自在に操作する能力と、時空を超越する力を得る。やがて政府の管理下に置かれ、ベトナム戦争では土地を焼き払う兵器として行動し、現在は国を守る切り札となっていた。しかし、彼の全身から放たれる放射線により、友人や元恋人がガンに侵され、余命いくばくもないという事実をジャーナリストから知らされる。自分の存在が周囲に害を与えていることを悟った彼は、地球を離れ、一人で火星へ降り立つ。生命体のいない孤独な世界で過去を振り返る彼の姿は、美しくも悲しく、年齢を重ねた大人にこそ胸を打つエピソードだ。

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オジマンディアスの暗殺未遂事件など、ヒーローを狙った一連の襲撃が続く中、真相を追究するために奔走するロールシャッハ。しかし、敵の罠(わな)にかかった彼は警察に捕まり、象徴でもある刻々と模様が変化するマスクも剥ぎ取られてしまう。そしてチャプターⅡでは、Dr.マンハッタンと、彼の恋人でヒーローでもある二代目シルクスペクターことローリーを中心に、人間関係を丹念に描きながら、ヒーロー狩り事件の真相も徐々に明らかになっていく。タイトルの由来となった古代ローマの詩人ユウェナリスの風刺詩集の一節「Who will watch the watchmen?(誰が見張りを見張るのか?)」に込められた奥深いテーマを読み解くのも、年齢を重ねた大人ならではの楽しみ方と言えるだろう。

文/中村実香

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