声優・小西克幸インタビュー#2「『自分なりの100点』を持っていかなければ現場で100点以上を出すことはできない」

声優・小西克幸インタビュー#2「『自分なりの100点』を持っていかなければ現場で100点以上を出すことはできない」

『鬼滅の刃』宇髄天元、『天元突破グレンラガン』カミナ、『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』ディアボロなど、深い役作りと確かな演技力で多くのキャラクターに命を吹き込む声優・小西克幸さん。ボーイスカウトやサッカーに励みながらもアニメやマンガへの情熱を秘めていた少年は、高校時代に友人から「声優」という存在を教えてもらったことがきっかけで、声の世界へと走り出します。そして今は、声優の仕事が「楽しくてしょうがない」と話す小西克幸さん。このインタビューでは、全3回にわたって小西克幸さんの人となりと、その仕事への向き合い方に迫ります。

■生徒として通っていた勝田声優学院で事務員のバイト

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――先ほど撮影した一問一答の動画では「声優になっていなかったら、ゲーム系の仕事もやってみたかった」というお話がありました。実際、将来の選択肢としてゲーム業界へ進むことは考えなかったんでしょうか?

「ゲームが好きだったのでゲーム業界は考えたことがありますが、具体的にどうしたらいいとかは分からなかったので諦めました(笑)。ただ、上京してからゲームに携わる仕事ができないかなと、ゲーム雑誌の編集部に「バイトしたいのですが...」と直接連絡したことはありますね(笑)。その頃、テーブルトークRPGが好きでよく友達で遊んでいたこともあって、『ロードス島戦記』などを制作していたグループSNEさんにいきなり電話して、『バイト募集してないですか』と尋ねてみたりしたこともあります。『いまは募集してないです』と言われて、おしまいでしたけど(笑)」

――バイトではゲーム業界も考えたけど、本気で将来の道を考えるときには、声優以外の選択肢はなかった。なぜ、そんなにも声優という職業に惹かれたんでしょうか?

「そこまで熱い気持ちがあったわけじゃないんですが、いま思えば、"勢い"が近いんだと思います。声優という職業があることを知って『面白そうだからやってみたい!』くらいの(笑)。当時、生意気にも『人と同じ仕事をするのは嫌だな』と思っていた時期もあって、スーツを着て会社勤めをしている自分の未来は、あんまり想像できなかったんですよね。その延長線上で"声優"という仕事があることを知って、それが自分自身が好きな世界と近い気がして、とても魅力的に見えた。もちろん大人になるといろいろな仕事があって社会が回っていることがわかるので、必ずしも当時と同じような思いを持っているわけではないですが、その頃の自分には、この道(声優)しか見えていなかったんだと思います。結局上京してからのバイトも、自分が通っていた勝田声優学院の事務員をやっていましたしね」

――通っていた養成所でバイトしていたんですか......!

「そうなんです。ちょうど、僕が入学したときに事務員の募集があったので。それに、もし養成所でバイトできるなら、教室で自主練するのに使える可能性もあるかな、と思って応募しました。そしたら、前回お話した声優志望のクラスと同じように、事務員のほうも男性が全然足りなかったみたいで、採用してもらえることに。本当、なんでもやっていましたね。郵送物の宛名を書く、授業の準備をする、アニメ雑誌に掲載する原稿を書く、学内新聞のコメント取り、卒業生の出演情報をまとめる、などなど。それから、声優の仕事でスケジュール的に出勤できなくなるまで、ずっとお世話になっていたので、ありがたかったですね」

■スロットカー200台、マンガ1万6000冊以上

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――声優として活躍する一方で多趣味なイメージもある小西さん。先日は、「J:magazine!」でも趣味のスロットカーのロケに密着させていただき、記事にさせていただきました。

「元々、YouTubeを一緒にやっている小野坂さんがスロットカー好き、もっというと車好きで、僕よりも車への愛が強いんです。でも最初のきっかけはじつは僕の方で、僕は以前からチョロQが好きで集めていて、小野坂さんに『チョロQ、一緒にやりましょうよ』って持ちかけて、まずは二人でチョロQを始めたんです。『最近のチョロQは、すごいね!』とか二人で言って。そしたらそのうち、小野坂さんが『スロットカー、やらない?』って持ちかけてきた。僕もちょうど幼い頃にスロットカーが楽しかった思い出があるので、『いいですね!』とお答えして、やり出したら楽しくて......という感じです」

――YouTubeでは、小野坂さんとお二人でめちゃくちゃ楽しそうにスロットカーで遊んでいらっしゃいますよね。

「そうそう。最初はYouTubeもあるから、車好きの小野坂さんが持っていないような、しかも驚いてくれるような、珍しいやつを買おうと思って探して買っていました。だから機能よりも、デザインや話題性重視......と思って買い集めていたら、いつの間にか所持台数が200台を超えてた(笑)」

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――200台ともなると、もはや「小西コレクション」ですね......!

「ただ、欲しいものはあらかた買ってしまったので、最近はなかなか欲しいもの自体が、見つけられなくなってきてしまって」

――それはそれで悩みなんですね......!スロットカーは、どんなところが魅力ですか?

「僕自身、小学生の頃からホビー好きで、もちろん本体や収集にも魅力はあると思います。だけどやっぱり大事なのは、それを人と一緒に楽しむことだと思うんですよね。それはチョロQでも、ラジコン、ミニ四駆でもきっと同じ。好きなもの同士が集まって、コースで自分のマシンを走らせたり、あれが速い、これが速いとか言って、ワチャワチャと盛り上がっている時間が楽しい。そんな時間が過ごせるのがいいところだな、と思います」

――素敵ですね。一方で、小西さんは「マンガソムリエ」という異名で呼ばれるほど、マンガも収集していらっしゃいます。今、家にはどのくらいマンガがあるんですか?

「もう家にはどうしても置けなくなってきてしまったので電子書籍で買っているんですが、たぶん1万6,000冊以上はあると思います」

――1万6,000冊以上...!? 全然、想像していたのと桁が違いました......。

「とはいえ、それも全部読めているわけではなくて、仕事も忙しいので、今は時間ができたときやお仕事に関する作品をまとめて読む、みたいな読み方がほとんどですね。本当はもっと読みたいんですが......!ただマンガって本当に無限に作品があるので、物理的に全部を読むっていうのは不可能だとは思っています(笑)」

――今、おすすめしたいマンガはありますか?

「おすすめのマンガは「全部」です(笑)」

――全部、ですか......?

「マンガって、読む人の趣味嗜好で面白いものが変わってくると思うんですよね。僕の場合、全部違って全部良い!なので、全ての作品がおすすめだし、なんなら全て買ってほしい。というのも、マンガってどれだけ連載が面白かったとしても、コミックスが売れなければ連載が終わってしまうんですよ。もしそうなってしまったら、マンガ原作の面白いアニメが出てくる機会だってどんどん減ってしまうし、なんなら僕ら声優が必要とされる場面も減っていく。自分が面白いと思う作品や『もっと続いてほしい!』と思う作品ほど、回し読みとかしないで、どんどん買ってほしいなと思います」


■手元にある情報から考えて「自分なりの100点」を

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――収録時のルーティンなどはありますか?

「原作がある作品に限ってではありますが、『原作を読みながら自分が演じるキャラクターのセリフの部分を声に出しながら読む』というのは、やるようにしています。アニメのアフレコって、昔は、シリーズが長く続く作品が多かったのである意味ゆっくり役と向き合いキャラクターを作っていけたんです。ですが、今は1クール(12話)ものが多いのでゆっくり作ってる時間がないんですよね。ようやく役が完成したときにはすでに最終回という事態になりかねない。だから1話目から100%以上の答えを出そうと思ったら、やっぱり事前準備がすごく大切になるんじゃないかと思うんです」

――それが「原作を声に出して読む」という事前準備につながる?

「そうすることによって、自分の中に担当させて頂くキャラクターの根幹的なものが出来上がる気がするんです。ですので、それをするのとしないのでは1話目でのキャラクターが全然違う。最初から自分なりの100%のキャラクターで収録に臨むことができます。そこから、監督たちに判断してもらって1人のキャラクターを作り上げていく。原作がある作品だと、そこにたくさんのヒントがありますので、原作がある作品については、なるべく事前に全部声に出して読んでおくようにしているんです」

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――面白い......!めちゃくちゃ納得感あります。現場のディレクションで右往左往しないためにも、事前準備は大切なんですね。

「それもそうですし、僕の場合キャラクターがわからないと、どう言葉を発していいのかわからないんですよ。なので、原作があれば原作を読むし、台本しかなければ、それを読むことでしかキャラクターを読み解けない。キャラクターを理解するための資料があるなら、それを読んで、とにかく考えるしかないんですよね。原作の場合はそのヒントが多くて、オリジナル作品の場合は先々の情報が少ないから現場で監督や音響監督にわからないことを聞く。要は『今ある情報でどう自分なりの答えを提案するか』なんです。そういう意味では『プレゼン』と同じ。その提案がOKならそのまま通るし、違ったら『修正して』と言われる」

――アフレコ現場は、声優にとって「プレゼンの場」でもある。

「しかも、1回の収録ではテスト、ラステス、本番、と3回のチャンスしかないんです。たったそれだけの打席しかないのに、『自分なりの100点』を持って行かなかったら、何もわからないまま終わるかもしれない。でも、間違っていてもいいから答えを持っていけば『それは違うよ』 と言ってもらえる。少なくとも、『自分なりの100点』を持っていかなければ現場で100点以上を出すことはできないんじゃないかと、僕は思います」

――演じ方や表現の無数の選択肢から、そうやって答えを見つけていくんですね。

「でも、答えは一度見つけたら終わり、というものでもないんです。現場で『そうだよ』『そうじゃないよ』と出してもらった答えを持ち帰って、また自分で考えなければいけない。それを膨らませて、次の提案して、また答えをもらって......その繰り返しだと思います。ざっくり例えるなら、樹がいろいろな方向にどんどん枝葉を伸ばしていく。その中で間違った方向に生えた枝を切ってもらいながら、少しずついい形の樹に育てていく。そんなイメージに近いかもしれません」

■時を超えて、同じ美しい空を見た者たちの物語|『チ。 ―地球の運動について―』 オクジー

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――原作もそうですが、アニメでも多くの反響を呼んだ「チ。 ―地球の運動について―」(以下、「チ。」)では超ネガティブな代闘士・オクジーを演じられていました。まずは、作品の魅力からお伺いできますか?

「地動説、天動説に対して、登場人物たちがあそこまで情熱をかけられるのが、まずすごい。しかもあの作品は、地動説の成功や失敗を描くのではなくて、あくまでその情熱をかけた人たちの生き死にを描いていて、どの登場人物にも凄みがあるんです。命をかけてでも後世に残したいものがある。その信念や情熱が時代を超えて受け継がれていくという"物語の美しさ"。同時に、完成フィルムを観たときは『空の美しさ』も感じました」

――アニメになったことで空の映像の綺麗さが、より際立っていたような気がします。

「当たり前ですけど、マンガはふつう白黒での表現になってしまうので、そこに色が付くことで『こんなにも見え方が変わるんだ』と思いました。それがすごく素敵でしたよね。別の時代を生きる登場人物たちが「みんな同じ空を見ている」ということが印象的になっていましたし、それが、すごく意味のあることだという気がしました」

――オクジーの役が決まったときは、率直にどう思いましたか。

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「原作のときから大好きな作品だったので、アニメ化して『チ。』に参加できることになったときは、すごく嬉しかったですね。とくにふだん、僕が演じるキャラクターってどちらかといえば自分を強く持っていたりするタイプが多くて、オクジーはそれと対照的で、内気でメンタルが弱くて、めちゃくちゃネガティブ(笑)。オーディションでも『難しいかな』と思っていたんですが、演じさせていただけることになったので、それも含めて嬉しさがありました」

――オクジーを演じるにあたって、意識していたことなどはありますか?

「オクジーに関しては、『ああしなきゃ。こうしなきゃ』とあえて何かを意識する、ということはあまりなかったんですよね。むしろ、そもそも原作の物語が素敵で、自分の中にそのイメージが強く刷り込まれていたので、物語とキャラクターが自然とその作品の中に引っ張り込んでくれました。今思えば、おそらく原作を読んで自分の中で、すでに一つの答えがあったんだと思います。それでいざ現場に入ってみると、共演する方々の素晴らしいお芝居との掛け合いも加わって、自分が思っていた以上に感情が作品の中に引き込まれていった記憶があります」

――作品の中に感情が引き込まれていく。それは声優の方にしか味わえない感覚ですね......!

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「とくに『チ。』は、登場人物が少ない分、1対1の会話量が多いですし、『別の場面に切り替えて会話を省略する』みたいなシーンが少ない。だからこそ濃密だし、キャラクターを掘り下げられるようなヒントもたくさんある。いろいろな言葉を投げかけられるから、その中でキャラクターが考えること、感じることは必然的に多くなるんです。現場では、キャスト同士が掛け合いの中で受け取った言葉に感じたことを返していく......そんなやりとりが多かった気がします」

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取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃

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