声優・市ノ瀬加那インタビュー#1「『アニメの世界に入りたい』という気持ちがだんだんと声優への道に繋がっていった」
アニメ 見放題インタビュー
2025.05.16
幼い頃からアニメを観るのが大好きで「アニメの世界に入れると本気で信じていた」と語る市ノ瀬加那さん。幼少の頃に思い描いていた形とは少し違いますが、彼女はその夢を"声優"という形で叶え、『葬送のフリーレン』フェルン、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』スレッタ・マーキュリー、『Dr.STONE』小川杠、『ダーリン・イン・ザ・フランキス』イチゴなど多くの話題作で人気キャラを好演。自分の感情を場面ごとのキャラクターのセリフに重ね合わせ、立体的かつ鮮やかにその心情を描き出します。このインタビューでは、全3回にわたって市ノ瀬加那さんの人となりをひもとき、その作品への向き合い方と役づくりの秘密に迫ります。
■母いわく「嵐みたいな子だね」
――「たい焼きが好き」と聞きましたが、よく行かれるお店などはあるんですか?
「最近は、東京の駅前によくある『鳴門鯛焼本舗』っていう、たい焼き屋さんによく行きます。あのたい焼きが好きで、いつもクリーム味を注文してます!」
――確かに、よく見かけるけど食べたことなかったです......!今度食べてみます!ちなみに、ひと口目は頭派ですか?しっぽ派ですか?
「私は、しっぽ派ですね......!甘党なので最後に甘いので終わりたいから、中身がいっぱい詰まってる頭を最後に(笑)。『美味しい部分は後で......』って思っちゃうタイプです」
――いいですね。自分も、しっぽ派なので気持ちめっちゃわかります(笑)。さて、余談はここまでにして......。早速ですが、市ノ瀬さんは幼少期はどんなお子さんだったんでしょうか?
「こう見えて、小さな頃はとにかく元気でパワフル。小学校低学年の頃なんかは、もうずっと外で遊んでたくて友達と走り回ってる、という感じでした。怒ったり泣いたり、喜怒哀楽がはっきりしているタイプだったみたいで、お母さんからは『嵐みたいな子だね』ってよく言われていました(笑)」
――自分の感情をしっかり表現するお子さんだったんですね。
「それはもう......欲しいものがあれば買ってくれるまで諦めなかったらしいですし、私が泣くと隣のご家庭まで、その泣き叫ぶ声が聴こえちゃっていたそうで......(笑)」
――すごい泣きよう(笑)。どんなことで泣いていたか、覚えていますか?
「6歳上の兄がいるんですが、その兄とケンカしたときにはよく泣いていたのを覚えています。少し歳が離れているので、ケンカというより私が兄にちょっかいを出して一方的に怒られる、というほうが近いんですけどね(笑)。とくに兄はゲームが好きで、ゲームをやっていると全然かまってくれないんですよ。すねた私がゲーム機をいじると、兄が怒って追いかけ回す......みたいな揉めごとが、よく起きていた記憶があります(笑)」
――当時の市ノ瀬さんにとっては泣き叫ぶような出来事だと思いますが、今聞くと、むしろ仲良しな兄妹ですよね(笑)。ちなみにお兄さんとはいまだにケンカしたり......?
「いえ、さすがに今はもう全然ケンカはしないですね(笑)。どちらかといえば、ふつうに仲が良い兄妹だと思います」
■作品との向き合い方を学んだ養成所の授業
――明確に「声優になろう」と思ったきっかけはありますか?
「高校2年生になって『将来の進路』を考えたとき、動物系か、パティシエか、あるいはアニメ系に進むか、という3つの道で迷っていました。そんな中で、いくつかの学校のオープンキャンパスや説明会に参加してみたんです。そのほうがより具体的に職業のことがわかるし、自分に向いているかどうかも考えやすくなるじゃないですか。そしたら、ある学校のオープンキャンパスで『声優になったら作品のエンドロールに名前が載るんですよ』と説明を受けて、それが『すごくかっこいいな』って思って」
――それがきっかけになったんですか?
「いや、実際のきっかけはもう少し後で、オープンキャンパス後の体験入学のときです。声優コースで自己紹介の時間があったんですけど、私が名乗った瞬間に先生に『それ地声?』と訊かれて、『そうです』と。そしたら『あなた、声優にすごく向いているよ』って言ってくださって、声を褒めていただいて。それが参加者みんなにかけているような言葉ではなかったので、本気で『私って声優に向いているのかも』と思い始めたんです。そのことがきっかけで、だんだん『声優になりたい!』っていう強い気持ちに変わっていって、高校卒業後にその学校の声優コースに入学しようと決めまして」
――それが「札幌スクールオブミュージック&ダンス専門学校」だったんですね。実際に通い始めて、お芝居に触れてみていかがでしたか?
「最初はアニメが大好きで『もうアニメの中に入れるなら、なんでもやります!』みたいな気持ちで入学したんですが、お芝居に触れて純粋にその楽しさにだんだんハマっていきました。実際に、映像に合わせて台本を読む授業もあって、お芝居に向き合うと、その瞬間、心が無になる感覚があるんですよね。それも楽しくて、夢中で時間も忘れてしまうような......。授業を通じてそんな経験を重ねるうちに、いつからか『もう、この道しかない!』と思うようになって」
――自然とお芝居の世界にものめり込んでいったんですね。お話を聴いていて、幼少期に感情表現が豊かだったことも、何か同じ道で繋がっているような気がしました。
「そうかもしれないです。とくに泣きとか怒りとか、感情を爆発させるようなお芝居というのは、今でも小さな頃の自分自身の感情表現が活きている気がします」
――養成所に通っているあいだ、逆に壁にぶつかってしまったような経験もありましたか?
「授業だと、実際の声優の現場と違って『同じ作品の、同じシーン』を長い期間をかけて練習していくことがあるんですよね。当然、生徒は同じセリフを何ヶ月も言い続けることになるんですが、自分としては毎回、最大限のお芝居を見せるつもりでやるけど、なかなかOKがもらえない。あの手この手でお芝居を変えてみたり、よりオーバーに演じてみても、『まだ足りない』というフィードバックが戻ってくる。終盤になってくるといろいろやり尽くして『何やればいいのかわからん!』みたいな状態になってしまって(笑)」
――数ヶ月間、一度もOKが出ないのは大変だ......。
「やっている側としては、結構つらかった記憶が残っています(笑)。ただ一方で、今思うとあの経験があったからこそ、『作品と向き合うとは、どういうことか』が少しわかったような気もします。かけられる時間の多い少ないにかかわらず、どんな作品であれ、大切に演じたいという気持ちは同じ。プロになると、逆にあれだけの時間、一つの作品に向き合う機会はほとんどないので、そのときに一つの作品と深く向き合った経験というのは、大きな武器になると思っています」
■『真・侍伝 YAIBA』での初共演で憧れが強くなった大先輩
©青山剛昌/小学館/真・侍伝YAIBA製作委員会
――「憧れの声優」はいらっしゃいますか?
「最近、『真・侍伝 YAIBA』(以下、『YAIBA』)という作品に出演して、その現場で初めて主人公・鉄 刃(くろがね やいば)役の大先輩、高山みなみさんと共演させていただいたんです。みなみさん、お芝居の素晴らしさはもちろんなんですが、現場での立ち居振る舞いも本当に素敵で、だれも置いてけぼりにしない気遣いといいますか、初めて現場に来た人も暖かく迎え入れてくださってお芝居をしやすい環境を作ってくれるんです。それが、たとえ1話だけの出演でも関係なく、一体感が出るように声をかけてくださるんです。
私も初めは大先輩がたくさんいる現場だしすごく緊張していたのですが、みなみさんや周りの先輩たちが本当に暖かい方たちばかりなのでこの現場が大好きになりました」
――そのひと言で、安心感が出ますよね。自分の収録も抱えている中で、なかなかできることじゃない。
「本当に、そう思います。あと、たまにお料理の話をみなみさんと一緒にしていて、ちょうど収録していたのが年末年始ということもあっておせち料理の黒豆の話になったんです。みなみさんが黒豆も手作りされてるとおっしゃったので、峰さやか役の石見舞菜香ちゃんと一緒に『食べてみたいです』とポロっと出た言葉を覚えてくださってて、そしたら、次の現場では本当に自家製の黒豆を持ってきてくださって......。しかもそれが、ふっくらとしてほんのり甘くて絶妙に美味しいお味......もう舞菜香ちゃんと一緒に『なんて優しい方なんだ』と感動しっぱなしでした(笑)」
――現場では全体を引っ張りながら、個別に黒豆まで持ってきてくれる......。
「『YAIBA』の現場ってみんな楽しそうにしているし、関わっている人たちの作品への愛情もすごいんですよ。『それってなんでだろう』と思ったときに、やっぱり高山みなみさんの、気遣いとか空気の作り方、座長としての立ち居振る舞いがあるからこそなんだなって、私は現場に入ってて改めて思いました。自分にとっては、すごくすごくすごく高い目標かもしれないんですけど、いずれは少しでもみなみさんに近づけたらと思います」
取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃