『トップガン』が今なお色あせない理由――トム・クルーズが体現する「王道は照れない」映画の美学【小堺一機】
映画 見放題連載コラム
2026.07.29
こんにちは、小堺一機です。今回、僕が未来へ伝えたい名作は、公開から40周年を迎えたトム・クルーズの出世作『トップガン』です。2022年には36年ぶりの続編『トップガン マーヴェリック』が公開され、世界的大ヒットを記録。本作は再び大きな注目を集めました。40年前の僕は、結婚してちょうど1年目。仕事でも『ライオンのいただきます』の視聴率が少しずつ上がってきた頃で、自分にとっても思い出深い時期でした。

(C) 2026 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
大味だから魅力的、80年代ハリウッド映画の熱量
主人公は、トム・クルーズ演じるアメリカ海軍の若き天才パイロット、マーヴェリックことピート・ミッチェル。エリート養成学校「トップガン」で、教官チャーリーとの恋やライバル・アイスマンとの競い合い、そして相棒グースとの別れを経験しながら、一流のパイロットへと成長していきます。オレンジ色の夕日を背にした空母、轟くジェットエンジン、そしてケニー・ロギンスの「デンジャー・ゾーン」。このオープニングは40年経った今でも胸が高鳴ります。
僕はこの映画を「大味」だと思っています。でも、それは最大級の褒め言葉なんです。豪快で勢いがあって、「ああ、80年代のアメリカ映画だな」と感じさせるパワーがある。この前向きなエネルギーは、当時のアメリカだからこそ生まれたものなんでしょうね。日本なら『零戦燃ゆ』のような、また少し違う美学になっていたと思います。

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若き日のトムとヴァル・キルマーが放つスターの輝き
物語そのものは、父への葛藤を抱えた若者が仲間との別れを乗り越え、ライバルと認め合って成長するという王道の青春ドラマです。でも、それを「一番新しい映画」に見せたのが、この作品のすごさでした。特に戦闘機のコックピットから見える景色です。普通なら一生見ることのできない世界を、まるで自分が操縦席に座っているかのように体感させてくれた。あの没入感は当時、本当に衝撃でした。
そして何より、若き日のトム・クルーズです。『卒業白書』では初々しい青年だった彼が、この作品で一気にスターダムへ駆け上がりました。その後はキューブリックやスピルバーグら名匠とも仕事を重ね、自ら映画をプロデュースする存在へと成長していく。その唯一無二の歩みこそが、トム・クルーズというスターのすごさなんです。この作品には、その若々しさや愛らしさがぎゅっと詰まっています。

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一方、絶対に忘れてはいけないのが、ライバル・アイスマンを演じたヴァル・キルマーです。トムが親しみやすく感情で突き進むタイプなら、ヴァルは冷静で知的、完璧なエリート。その対照的な魅力があるからこそ、二人がぶつかるシーンには独特の緊張感が生まれるんです。『トップガン マーヴェリック』で久しぶりにアイスマンが登場した場面には、多くの人が胸を打たれました。そこには役者と役柄が一体になった、ヴァル・キルマーだからこその存在感がありました。

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映像、音楽、演出──すべてが王道の「様式美」
役者だけではありません。トニー・スコット監督が描く夕日に包まれた映像は、今見てもまったく古びません。そこへジョルジオ・モロダーやハロルド・フォルターメイヤーが生み出した抜群にキャッチーな音楽が重なる。オープニングで「デンジャー・ゾーン」が流れた瞬間、理屈抜きに気持ちが高まります。「テイク・マイ・ブレス・アウェイ」が何度も流れるラブシーンも、今見ると少し照れくさい。でも、それこそが『トップガン』という映画らしさなんです。
続編でも前作の音楽が大切に受け継がれていましたが、それは『シティーハンター』で「Get Wild」を使い続けるのと同じ。絶対に変えてはいけない「様式美」なんですよね。最近の映画は、「ひねり」や「考察」が重視される作品も増えました。でも映画って、本来は「見たことのない世界を見せてくれるもの」であり、「王道だからこそ安心して楽しめるもの」でもあると思うんです。

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『トップガン』は、その両方を見事に実現しています。「絶対に楽しませる」「お金を払ってくれた人を後悔させない」というサービス精神が、作品全体から伝わってくるんです。食べ物に例えるなら、この映画は大きなステーキにポテトと目玉焼きがドーンと乗った一皿。「ほら、おいしいだろ!」と豪快に出される料理なんです。でも実は、そのステーキには最高級の松阪牛が使われている。豪快に見えて、実は細部には職人技がぎっしり詰まっているんですよ。

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『トップガン』を未来へ伝えたい理由
僕がこの映画を未来へ伝えたい理由は、「王道のエンターテインメント」がどれほど強いかを証明しているからです。映像、音楽、俳優の3つが一本の束となり、40年経った今もまったく揺らがない。そして何より、この映画は照れないんです。命令違反で飛び立つマーヴェリックを見て、「誰が飛んでるんだ?」「あいつだ!」となる、あの名場面。普通なら気恥ずかしくなりそうな展開も、映像、音楽、役者の力ですべて納得させてしまう。これこそが『トップガン』のすごさであり、「王道は照れない」という精神なんです。
1980年代は、世界中が、そしてテレビも映画も「未来は明るい」と信じていた時代でした。土曜の夜に『ひょうきん族』や『ドリフ』を見て笑っていた、あの頃のエネルギーが、この映画には詰まっています。今の10代、20代の皆さんも、もし『ミッション:インポッシブル』シリーズのトム・クルーズしか知らないなら、ぜひ『トップガン』を見てください。若き日のトム・クルーズとヴァル・キルマーのまぶしい輝きに触れれば、「スターとはこういう存在なんだ」「王道とはこういうものなんだ」と、きっと実感できるはずです。




