ファン・ジョンミンVSユ・アイン、チョン・ヘイン!映画『ベテラン』シリーズが映し出す韓国社会の闇
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2026.07.26
『新しき世界』や『ソウルの春』のファン・ジョンミンが主演、『生き残るための3つの取引』『ベルリンファイル』『密輸 1970』のリュ・スンワンが監督を務める『ベテラン』シリーズ。第1作の『ベテラン』が2015年に、第2作の『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』は9年ぶりとなる2024年に韓国で制作され、日本では2025年に公開となった。ファン・ジョンミンやリュ・スンワンの代表作を冒頭でいくつか挙げたが、『ベテラン』シリーズこそ2人にとっての代表作ではないかと思えるほどの快作である。

ファン・ジョンミン
『ベテラン』(C) 2015 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
『ベテラン』シリーズでファン・ジョンミンが演じる主人公のソ・ドチョルは、広域捜査隊のベテラン刑事だ。犯人逮捕のためなら手荒なことも辞さないところはあるが、その根底には熱い正義感がある。無法者なのに正義感があるというのは矛盾しているように思えるかもしれないが、混沌とした世の中では、お行儀の良さだけが正義とは限らない。手荒な彼なりのぶれない倫理観やまっとうな怒りも、魅力の一つだ。
■ユ・アイン演じる最狂のヴィラン!社会現象を巻き起こした第1作『ベテラン』

ユ・アイン
『ベテラン』(C) 2015 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
本シリーズは、悪役、つまりヴィランが非常に重要である。第1作の『ベテラン』でヴィランのチョ・テオを演じたのは、ユ・アインだ。チョ・テオは、財閥グループの3代目の跡取りで、映画会社の大株主でもあった。ある日、ジンシン財閥の企業でトラック運転手をしていたペ(チョン・ウンイン)が未払い金の支払いを求めてデモをしていたところ、チョ・テオが目を付け彼に暴行を加え、そのままペはジンシン財閥の階段から飛び降りてしまう。
ペと交流のあったドチョルは捜査を開始し、チョ・テオと一対一の戦いをソウルの市街地で繰り広げることとなる。
このチョ・テオが、反論の余地もなく憎たらしい。トラック運転手は正当に抗議をしているだけなのに、運転手の息子の目の前で、部下を使って格闘の体を装って一方的に殴りつけるのである。それは、互角にけんかをしているように見せかけるためだ。

『ベテラン』(C) 2015 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
本作が興味深いのは、公開の数年前から財閥問題について脚本を書き、撮影をしていたわけだが、本作の公開時に、ちょうどあの「ナッツ・リターン」事件が起こったことだ。実話をベースに作っていたわけではなかったのに、公開時には社会的な現象となり、韓国で1400万人の動員を記録した。今見返すと、チョ・テオのように、「貧乏なのは努力が足りないからだ」とでも言いたげなキャラクターがいることで、新自由主義批判のようなものも見えてくる気がする。
■チョン・ヘインが新たな狂気を怪演。テーマが深まる第2作『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』

チョン・ヘイン
『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』(C) 2024 CJ ENM Co., Ltd., Filmmakers R&K ALL RIGHTS RESERVED
続いて『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』は、法では裁かれない悪人を標的とした連続殺人事件の犯人と思しき「ヘチ」と言われる人物をソ・ドチョル刑事は追うことになる。彼の所属する凶悪犯罪捜査班には、パク・ソヌ(チョン・ヘイン)という新人警官も加わった。彼は「ヘチ」の逮捕に心血を注ぎ、追い詰めるのだが、そのやり方は残忍で常軌を逸しているように見え......。
悪人なのは自明のことなのに、法の下では裁けず、理不尽に感じるという出来事は日本でもときおり見受けられる。司法制度への不信感も募ることもある。しかし、だからといって私人がそれを裁くことは、一見正義にも見えるが、許されることではない。
『ベテラン』のときは、勧善懲悪の物語であったが、第2作で描かれるものはより複雑になっている。しかもドチョルは、冒頭でも書いたように、手荒なことも辞さない無法者である。普段の会話では怒りに任せて、「いっそ半殺しにすればよかったのに」とか「現れたら八つ裂きにしてやる」などと過激な発言もしてしまっている。それは、その場にいるものからしたら何気ない会話なのだが、頭脳犯である今回のヴィランからすると、ドチョルの弱みを握ったことにもなってしまうのだ。

『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』(C) 2024 CJ ENM Co., Ltd., Filmmakers R&K ALL RIGHTS RESERVED
第1作でもヴィランにはイライラさせられたが、第2作のイライラは、それを超えるものがあるし、脚本も凝っている。リュ・スンワン監督は、普段からこうした言葉のあやの揚げ足を取られてしまうことに、よほど疑問を持っていたのではないかとも思えてしまうほどだ。
そして、今回のヴィランに明確な動機があったり、これまで生きてきた道のりの中で虐げられた経験があるとか、そういう背景がないのも不気味だ。しかし、それがこの映画が制作された2024年の社会問題でもあるように思える。ネットを通じて大衆を扇動し、真実をねじ曲げ、金もうけをする者がいたり、理由のない犯罪に手を染める者がいる姿を見ていると、ポスト・トゥルースの時代を思わずにはいられない。

『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』(C) 2024 CJ ENM Co., Ltd., Filmmakers R&K ALL RIGHTS RESERVED
■次なるヴィランのイ・ジュノと社会問題を描く第3作への期待
すでに第3作の制作も発表されている。次のヴィランは、2PMのメンバーで、俳優としても評価の高いイ・ジュノがキャスティングされている。当初予定されていた今年4月のクランクインは延期されてしまったが、今度のヴィランにも激しい憤りを感じさせられると同時に、何かしらの今の社会問題に気づかされる映画になるのではないだろうか。まだ判断力のない若者たちが、闇バイトを通じて犯罪に加担させられるケースが韓国でも問題となっていると聞くが、リュ・スンワンはどんなテーマを今、選ぶのだろうか。第3作の公開が待ち遠しい。
文/西森路代




