一ノ瀬ワタルが映画『四月の余白』で向き合った「孤独」と「人を変えること」
映画 見放題インタビュー
2026.06.24
映画『空白』『ヒメアノ~ル』など、見る者の心に強烈な爪痕を残す作品を世に送り出し続けてきた吉田恵輔監督。その最新作となる映画『四月の余白』が、2026年6月26日より公開される。
物語の舞台は、元半グレが運営する更生施設『みらいの里』。行き場を失った少年少女たちと、壮絶な過去を背負いながら彼らに寄り添う指導者・西健吾が織りなす物語だ。本作の核となる西を演じたのは、独特の存在感で観客を魅了する俳優・一ノ瀬ワタル。
これまで数々の作品で強烈なキャラクターを演じてきた一ノ瀬が、今作では『受け』の芝居という新たな表現の境地に挑んだ。現場で徹底した孤独を貫き、蒲郡の地で泥臭く役と向き合った彼が見いだした、本作の深淵と『人を変えること』の難しさ。撮影を終えた今、彼が胸に刻む思いを聞いた。

■題材への興味と、子どもたちへの愛。受け止める芝居への挑戦
――今回の脚本を読んだ際や、西健吾という役を演じる上で、作品にどのような印象を持ちましたか?
「まず、題材がすごいなと思いました。体罰が許されない現代でも、『言葉だけではどうしても分からない子どもたち』は間違いなく存在します。そんな子どもたちを受け入れる、元半グレが運営する施設という設定が興味深かったです。また、現場スタッフの中に元小学校の教師の方がいたのですが、『教えるべき社会経験が足りないから、一度辞めて社会に出てから戻ろうと思っている』と話していて。さまざまな経験を持つ人が教育に携わるのと同じように、特殊な人生を歩んできた西健吾だからこそ教えられることがあるのではないか、と感じました」

(C) 2026 N.R.E.
――西健吾という人物は、笑顔の裏に暗い過去がある対照的な役柄です。どう解釈して演じましたか?
「過去の自分を意識的に見せるシーンは、実はワンシーンだけなんです。記者との雨のシーンですね。それ以外は、とにかく『みらいの里』の子どもたちをどれだけ愛せるか、という一点に尽きました。調子に乗るような一面もありますが、子どもたちのことだけを考えるという軸は決してぶれないように意識していました」
――役を演じる上で、難しかった点や苦労した点はありますか?
「吉田監督がしっかりと寄り添って話し合ってくれたので、演じること自体に迷いはありませんでした。ただ、監督からは『これまで演じてこられたようにキャラを強く出すのではなく、みんなを受け止める芝居をしてほしい』とディレクションをいただきました。自分の中に濃い味を出すのではなく、受け止めるお芝居。これは自分にとって新しい挑戦でしたね」
■徹底した『孤独』と向き合った現場。人を育てることへの答え

――撮影が行われた愛知県蒲郡市の現場の雰囲気はいかがでしたか?
「西健吾として、現場では『孤独』を大切にしていました。ホテルから一歩も出ず、プライベートでも誰とも話さないように徹底していました。蒲郡での撮影期間は、本当に苦しかったですね。クランクアップの際、車の中で理由も分からず涙が止まらなくなって、蒲郡の街に一礼して帰ったほど、思い出深い作品になりました」

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――この作品を通して、人を育てることへの価値観に変化はありましたか?
「見る人が何を正解だと思うか、それに尽きると思います。自分自身は子どもたちのことだけを考えて演じましたが、見る人の立場によって捉え方は変わるはずです。映画では描かれないのですが、もし西健吾が荒れていたころの前日譚(たん)を知った上で見れば、また違った見え方をするかもしれません。『人は本当に変われるのか』『人を本当に変えることができるのか』。答えが出ないからこそ、見る人に判断を委ねたいですね」
■ぶれない行動指針と、役者・一ノ瀬ワタルとしてのステップアップ

――日頃から、価値観や行動でぶれないように意識していることはありますか?
「選択肢があるとき、『楽な道』と『苦労する道』なら、苦労する道を選ぶように心がけています。幼いころに祖母から『若いうちは、苦労は買ってでもしろ』と言われたことがずっと心に残っていて。それが今の自分の行動指針になっています。キックボクサー時代は結果が出ないこともありましたが、占い師の方に『その苦労が今の役者としての深みに結びついている』と言っていただき、無駄ではなかったんだと確信しました」
――一ノ瀬さんにとって、本作はどのような作品になりましたか?
「役者・一ノ瀬ワタルとして、初めて『受け』に回るお芝居を経験し、ステップアップできた作品です。面白くしてやろうという気負いではなく、相手をただ受け止めるという新しい側面を引き出してもらいました」

――最後に、人生の転機となった『忘れられない人』はいますか?
「多くの恩人に恵まれてきましたが、強いて挙げるなら、16歳で上京してキックボクシングを始め、その後沖縄のジムでお世話になった、安里昌明さんです。上京時は仕事との両立ができず練習に行かなくなるなど未熟だったので、環境を変えるために沖縄に行きましたが、そこでの厳しい環境で私を支えてくれた安里さんの存在は、今の自分につながる大きな転機だったと思います」

PROFILE
1985年7月30日生まれ、佐賀県出身。2009年『クローズZEROⅡ』で俳優デビュー。『サンクチュアリ -聖域-』(23/Netflix)で主演を務め、力強い存在感で注目を集める。近年の主な出演作に、ドラマ「対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜」(25/TBS)、「イクサガミ」(25/Netflix)、映画『炎上』(26)など。待機作品には、映画『キングダム 魂の決戦』(7月17日公開予定)がある。
※吉田恵輔監督の「吉」は、正しくは「つちよし」。
取材・文/永田正雄 撮影/皆藤健治
ヘアメーク/星野加奈子 スタイリスト/伊賀大介
シャツ/スタイリスト私物 パンツ/WAROBE 靴/スタイリスト私物
WAROBE問い合わせ先/03-3868-0925




