ザック・クレッガー監督作『バーバリアン』...ホラーの枠を超えた「裏切りの快感」と作り手の真価【尾崎世界観】
映画 見放題連載コラム
2026.03.31
昨年公開された『WEAPONS/ウェポンズ』という映画が気になっているタイミングで、「『WEAPONS/ウェポンズ』の監督の前の作品が面白いらしい」というのを聞いて。それで観てみたのが、今回選んだ『バーバリアン』です。いわゆるホラー映画だと思って観始めたんですが、想像していたものとは、いい意味でまったく違っていましたね。

(C) 2022 Regency Entertainment (USA), Inc. All rights reserved.
■『バーバリアン』が提示する、王道ホラーを逆手に取った「裏切りの快感」
物語の前半はわかりやすく進んで行きます。でも、途中で観る側を裏切るような展開があり、そこからどんどん思いもよらぬ方向に引き込まれていく。作品を作るときは、いきなり尖ったことはせず、なるべく受け手が安心しやすいものを提示する。普段、そういったことを自分は心がけていて。この『バーバリアン』も、導入が特に分かりやすいんです。例えば、主人公が偶然泊まった家に地下室があれば、「この地下室、絶対に何かいる」と思いますよね(笑)。案の定、そこには何かがいるし、人が死にそうな場面では、予想通りに人が死ぬ。そういう意味では、素直で思い切りがいい映画です。だから、観始めた段階では「典型的なホラー映画だな」と思わされるんですけど、この作品はそうした観る側の心理を逆手に取って、じわじわ展開をひっくり返していく。安心を感じるものや、退屈するくらい慣れ親しんだものと、まだ自分が見たこともない未知なるもの。それらは、意外と隣り合わせなんだと思います。「新しい発明のような作品を作りたい」という気持ちを、作り手は常に持っているものですが、『バーバリアン』はもう既に「名作」と呼ばれる作品がたくさん存在する2020年代だからこそ、あえてそんな状況を利用して、とことんやりたいことをやっている映画だと思います。「こんなやり方があるんだな」と、作品を作る側としても勉強になりました。

(C) 2022 Regency Entertainment (USA), Inc. All rights reserved.
■「化け物」側に宿る切なさとやるせなさ。尾崎世界観が感じるホラーの本質
舞台となるデトロイトの街の風景も印象的ですね。『8マイル』など、デトロイトはこれまでいろいろな映画の舞台になっていますが、深く掘り下げていけば、その街の時代背景なども作品に深い影響を与えているのがわかる。あと、この映画の面白いところは、観る側が「普通の人間」ではなく「化け物」側に感情移入してしまうところです。最後の場面では、つい「化け物が可哀想だ」と思ってしまいました。人を殺しまくっているキャラクターが愛されるというのは、ホラー映画ならではの現象ですよね。この間、『悪魔のいけにえ』という名作ホラー映画を観たんですが、そのときにも感じました。ホラー映画と言えば、ジェイソン、フレディ、日本でも貞子と皆に愛されているキャラクターがたくさんいますが、もれなくどこか可哀想で、切ない雰囲気がありますよね。独特の「やるせなさ」みたいなものを感じる。そういうところも愛される理由なのかなと思います。
■余裕がない日々に届く刺激。「1個前の作品」が持つ重要性
ホラー映画の作風って、伝統的に受け継がれているんですよね。人を怖がらせるパターンもだいたい決まっていて、怖がらせる方も、怖がる方も、ちゃんとそれをわかっている。そんな「お約束」が受け継がれる中で、なおかつ、この『バーバリアン』のように進化もしている。改めて、ジャンルとしてすごく強いものだなと思います。あと、ホラー映画は、余裕のないときにこそ観たくなるのかもしれません。自分から掴みに行かなければいけないような映画は、忙しくて疲れているときに観たいとは思わない。でもホラー映画なら、デリバリーみたいに刺激をこちらに届けてくれる。たとえ余裕がない日々でも「なにかに触れていたい」と思う。そんなときに、ホラー映画は打ってつけです。

(C) 2022 Regency Entertainment (USA), Inc. All rights reserved.
今回、『WEAPONS/ウェポンズ』が話題になっていたのをきっかけに『バーバリアン』を観ましたが、思えばクリープハイプにもそんな時期がありました。メジャーデビューするタイミングで大々的に宣伝をしてもらって、感度の高い人が「どんなバンドなんだろう?」といち早く興味を持ってくれる時期が。そして、そこで聴かれるのって、1個前の作品だったりするんです。その作品がいいかどうかで、作り手の今後も大きく変わる。だからこの『バーバリアン』を観て、まんまと「ザック・クレッガーって良い監督だな」と思いました。
取材・文/天野史彬
尾崎世界観 (クリープハイプのボーカル・ギター)
ロックバンド「クリープハイプ」のボーカル・ギター。 小説『転の声』が第171回芥川賞候補作に選出。小説家としても活躍する尾崎世界観が、好きな映画を語りつくす。
尾崎世界観 (クリープハイプのボーカル・ギター)
ロックバンド「クリープハイプ」のボーカル・ギター。 小説『転の声』が第171回芥川賞候補作に選出。小説家としても活躍する尾崎世界観が、好きな映画を語りつくす。




