中島健人が映画『知らないカノジョ』でキラキラ王子様キャラを封印して挑んだ新境地
2026.04.04
もしも、今ここにいる世界とは別に、もう一つの世界が存在するとしたら、そこで自分はどんな人生を送っているのだろうか。パラレルワールドを題材にした『知らないカノジョ』(2025年)は、観る人に自らの人生を振り返るきっかけを与えてくれるファンタジックなラブストーリーだ。オリジナルとなるフランス映画『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』(2019年)を、恋愛映画に定評のある三木孝浩監督がリメイクした。
■中島健人がアイドルグループ卒業後、初めて挑む「人間味あふれる」主人公の魅力
SF設定のラブストーリーをリアルな物語に落とし込めるかどうかは、観客が主人公にどれだけ共感できるかにかかっている。本作の主人公・リクを演じるのは中島健人だ。彼にとって、アイドルグループSexy Zone(現・timelesz)を卒業した後、初めての映画出演となる。時間的にも精神的にも、これまで以上に役にじっくりと向き合えるタイミングだったことも幸運だったといえるだろう。
容姿端麗で自信に満ちたカリスマ性のある役柄が似合う中島だが、本作では「キラキラした王子様キャラ」を封印している。情けなくて、だめなところもいっぱいあるが、なぜか憎めない人間味あふれる主人公を繊細に演じきり、役者として新境地を開いた。

左から中島健人、milet
(C)2025「知らないカノジョ」製作委員会
■立場が逆転した「もう一つの世界」。リクとミナミが奏でる、切なくも滑稽な再会
大学時代に出会った小説家志望の神林リク(中島健人)と、シンガーソングライター志望の前園ミナミ(milet)。互いに一目ぼれをした2人は、幸せな交際期間を経て結婚する。8年後、リクは夢をかなえてベストセラー作家となるが、一方のミナミは夢をあきらめ、仕事一辺倒のリクとの生活に孤独を感じていた。
そんなある日、リクの心ない一言がきっかけで2人はケンカをしてしまう。翌朝、リクが目を覚ますと、ミナミの姿はなく、周囲の話も全くかみ合わない。そこは、人気作家だったリクが文芸誌のいち編集者でしかなく、専業主婦だったミナミが天才シンガーソングライターとして活躍する、立場が逆転した「もう一つの世界」だった。
■miletの楽曲「Nobody Knows」が彩る、美しくも残酷な時の流れ
大学キャンパスでの運命的な出会いの後、リクとミナミが恋人になり、結婚し、やがてすれ違いが生じるまでの歳月を、セリフのない点描シーンとミナミを演じるmiletの書き下ろし曲「Nobody Knows」の音楽だけで描く鮮やかなオープニングは秀逸だ。交際中の楽しそうな姿が輝いている分、結婚後に成功したリクが、自分を支えてくれた妻を顧みず、自己中心的な男になっている姿に憤りを感じる視聴者は多いはずだ。嫌なやつではあるが、本人に悪気はなく、どこにでもいそうな等身大感が絶妙に表現されている。
別の世界になっていることに気づかず、編集者なのに売れっ子作家として傲慢(ごうまん)な態度をとるリクの勘違いぶりもおかしみがある。彼が現実を悟るのは、妻だったはずのミナミがトップアーティストになっており、さらに自分の存在を全く知らないと判明してからだ。もう一度ミナミと結婚できれば元の世界に戻れると考えたリクは、警戒されながらも接触を試みる。なりふりかまわず突っ走っては失敗を繰り返すリクの姿は必死かつ健気(けなげ)で、見ている側も応援せずにはいられなくなる。

(C)2025「知らないカノジョ」製作委員会
■美しさを捨てた「泥臭い涙」。中島健人の繊細な眼差しが物語に説得力を与える
ミナミとの交流を通し、かつての自分に対する反省や後悔、ミナミの献身に対する感謝など、言葉にせずともリクの眼差しからはさまざまな感情がにじみ出る。中島の繊細な演技は、「別の世界では君と僕は結婚していた」という荒唐無稽な話であっても、ミナミが直感的にリクを信用してしまうほどの説得力を支えている。
本作は、リクが本当の意味でミナミの幸せを願う男へと成長する物語でもある。俳優としての中島も、自分をかっこよく見せることより、愛すべき不器用な男・リクを誠実に生きることに徹している。その象徴が「泣き」のシーンだ。ラブストーリーの主人公が流す「きれいな涙」ではなく、顔をぐしゃぐしゃにしながら大粒の涙を流す姿は、真っすぐで泥臭い。その愛おしい泣き顔には、思わずもらい泣きしてしまうだろう。
■桐谷健太とのアドリブ、そして『蒼龍戦記』の本格SFアクションも見どころ
リクと、彼を支える先輩・梶原(桐谷健太)との関係性も大きな魅力だ。実際にプライベートでも仲が良い2人の親密感が、親友としてのニュアンスを自然に醸し出している。リクが喜びのあまり梶原に抱きつき、頬にキスをするシーンは中島のアドリブとのことだ。
また、劇中に登場するリクのベストセラー小説『蒼龍戦記』を映像化したシーンも見逃せない。ヒーローのガロアス役にリク、ヒロインのシャドウ役にミナミが扮(ふん)する設定で、本格的なSFアクション映画のような仕上がりになっている。本編とは全く違うキャラクターをノリノリで演じる中島とmiletの姿も大きな見どころといえるだろう。
三木監督が本作に用意したのは、オリジナルとは異なるエンディングだ。リクの奮闘がたどり着いたラストをかみしめつつ、自分の今の人生と大切な人に思いを馳(は)せてみてほしい。
文/石塚圭子




