イ・ビョンホン×パク・チャヌク監督が映画「しあわせな選択」で描く社会風刺と家族の絆
映画 見放題インタビュー
2026.03.06
韓国映画界の巨匠パク・チャヌク監督がメガホンを取った、現代社会を痛烈に風刺した就活サバイバルコメディー「しあわせな選択」が、いよいよ2026年3月6日(金)より全国で公開される。監督とは長編映画としては「JSA」以来、約25年ぶりにタッグを組んだ元祖韓流スターのイ・ビョンホンに、本作で演じた主人公マンスへの思い、俳優としての視点からみる本作の魅力について聞いた。

■イ・ビョンホンが語る、映画「しあわせな選択」の役作りとパク・チャヌク監督との再会
──普段は、とてもハンサムなイ・ビョンホンさんですが、本作の中では顔つきが全く違います。主人公マンスらしくするために意識して表情を変えたのか、マンスという人物を演じているうちに表情が変わってしまったのでしょうか。
「どんな演技をするときもそうなのですが、表情を考えながら演技をすることはありません。表情を考えながら演技をすると、その瞬間から感情が冷めてしまうように思うんですね。作品に入る直前や作品を撮影している最中は、そのキャラクター自体、あるいはそのキャラクターが置かれた周辺の状況や感情の状態などに執拗(しつよう)に深く入り込み、その中にずっと留まるようにしています。そうすると、実際に出来上がった映画を観て、『あぁ、自分にあんな表情があったんだ』と驚く瞬間が、かなりたくさんあるんですよ」

──ということは、マンスは普段のイ・ビョンホンさんのようにかっこいい人ではないということでしょうか?(笑)
「今は、私はヘアメイクをして、こうしたオフィシャルの場に立っているので、かっこよく見えるのであって、日ごろの僕の姿はマンスに近いかもしれないですね(笑)」
──工場勤務の中間管理職として平凡に暮らしてきたマンスはリストラされて、再就職のために常人では考えられない極端な行動に出ます。その主人公の心情の変化を、イ・ビョンホンさんはどう理解して演じたのでしょうか?
「マンスは本当に平凡なので、感情移入しやすい人物だと思います。ところが、映画を観進めていくと、『なぜそんな結論に達したのだろう?』と、次第に感情移入ができなくなってしまう。『しあわせな選択』は、直感的に観ても楽しめますが、深く観ていくと多くの隠喩が含まれています。それが、この映画の特徴でもあります。ストーリー全体を通して、どの国においても大きな社会問題の一つである雇用問題について語っている映画でもあるんですね。その雇用問題によって切迫している人々を代弁しているのが、マンスなのです。そう考えると、理解できるところがかなり多い映画ではないのかなと僕自身は思いました」

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■俳優人生35年と重ねる主人公への共感。雇用問題に直面する「代弁者」として
──大きな挫折を経験する主人公マンスに共感する部分はありましたか?
「再就職のためにある計画を立て、実行に移す部分以外は、ほとんど共感できました。実際に行動に移す過程でも、どこかぎこちなかったり、あるいは戸惑いを感じていたりする。そういった部分についても共感することができました。追い詰められた状況から再起できるだろうかという悩みは誰にでも起こりうる話だと思いますし、極限まで追い詰められて変な気を起こしてしまうというのも、皆さん共感できるのではないかと思います。
マンスは、25年間ずっと製紙業界に携わってきました。ところが、そこから追い出され、その後、何をすべきか分からず途方に暮れます。そういった感覚に陥ってしまうところも、すごく共感できました。というのも、僕自身も、成人になったころぐらいから演技を始め、この俳優という仕事だけを35年間続けてきました。なので、もしも演技をすることができない状況になったら、僕もものすごく途方に暮れてしまうと思います」

──本作は、ブラックコメディーでありスリラーでもあるという、とても難しいジャンルの映画ですが、俳優としてこだわった点があれば教えてください。
「ジャンルというのは、脚本家や監督が決めるものです。ジャンルと映画のカラーは、脚本を執筆する時点で設定されているものなので、俳優があえてジャンルを意識したり、考えたりする必要はないと考えています。ですので、そのキャラクターにあわせて、そのキャラクターが置かれている状況を考え、感情移入して演技をすることができれば、自ずとそのジャンルになっていくと思います。
今回、脚本を読んだときにすごく面白くて笑えて、ユーモアがある作品だと思いました。でも、自分がそれを実際に演じるときは『観客を笑わせなければいけない』と思いながら演じてはいけない。そう意識した瞬間に、観客の皆さんに拒絶感を与えることになり、逆効果になると思ったからです。ただ淡々と、その感情にあわせた演技をする。そうすると、笑いを得たいと思っていたポイントで、自然と観客の笑いを呼び起こすことができると考えました。そう信じて、演じました」
■天才パク・チャヌク監督が仕掛けた隠喩。イ・ビョンホンが8回観て驚いた真実

左からソン・イェジン、イ・ビョンホン
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──本作への出演で、何か新たな発見はありましたか?
「自分自身については、映画が公開されてから数年後、かなり長い時間が経過してから分かるのではないかと思いますが、パク・チャヌク監督については新たな発見がありました。監督とはもう25年来の付き合いで、親しい兄弟のような間柄です。自分では、『もうパク・チャヌク監督のすべてを知っている!』と思っていたのに、この作品を共にして、また、完成した映画を観て、こんなにも天才だったのかと思い知りました」
──なぜ、天才だと思ったのでしょうか?
「僕は、撮影中に監督とたくさんの会話を交わすことで有名なんです。僕は、監督の意図していることをすべて理解し、それを観客に伝える伝達者だと思っていますから。そのためには多くのことを知っているべきだと思っています。
当然、今回もパク・チャヌク監督とたくさんの会話をして、『この作品のことはすべて知っている』と思うくらいの状態で撮影に挑みました。それなのに、映画の完成後、この作品を8回観たのですが、毎回初めて観たかのように新しい事実を知るんです。そのたびに、『これってこういう意味だったのですか?』と監督に聞くと、『そうだよ』と。それはもう感嘆しましたね」

──本作は、時代に翻弄(ほんろう)された男の物語であると同時に家族の物語でもあると思います。
「そうですね。マンスというキャラクターに感情移入しやすかった理由は、家族に対する気持ちが似ていたからです。マンスのように家族を守りたいという気持ちは、誰もが持っているものではないでしょうか」
──最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。
「3月末に、約3年ぶりに日本でファンミーティングを行います。毎年皆さんにお会いする機会を作るように努力すると約束したのに、さまざまな理由で3年ぶりになってしまいました。今回いらっしゃる方々とは、積もり積もった話をできればと思います。また、私の映画に関心を持って観てくださっている方もいらっしゃると思います。この場を借りて、そうしたすべての方々に感謝の気持ちを伝えたいです」

PROFILE
1970年7月12日生まれ、韓国・ソウル出身。空前のヒットを記録した「イカゲーム」シリーズ(21・24・25)をはじめ、『インサイダーズ/内部者たち』(15)、『MASTER/マスター』(16)、『白頭山大噴火』(19)、『KCIA 南山の部長たち』(20)などで評論家と観客を魅了し、名実共に韓国を代表する俳優となる。最近公開された『スンブ:二人の棋士』(25)で天才棋士チョ・フンヒョンを演じ、「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」(25)では声の演技を完璧にこなすなど、挑戦を重ね続けている。その他の主な出演作は、『JSA』(00)、『甘い人生』(05)、『HERO』(07)、ハリウッド超大作『G.I.ジョー』シリーズ(09・13)、『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』(09)、『アイリス -THE LAST-』(10)、『悪魔を見た』(10)、『王になった男』(12)、『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(15)、『それだけが、僕の世界』(18)、『非常宣言』(22)、『コンクリート・ユートピア』(23)など。
取材・文/高山和佳 撮影/中川容邦




