一番好きな映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の魅力を語る【小堺一機】
映画 見放題連載コラム
2026.01.26
こんにちは、小堺一機です。今回、僕が未来へ伝えたい名作は、1985年にアメリカで製作された、ロバート・ゼメキス監督によるSFアドベンチャーの金字塔『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。公開当時に劇場へ足を運び、その後もビデオ、レーザーディスク、ブルーレイと買い直し、今でも数えきれないほど見返している一本で、「一番好きな映画は?」と聞かれたら真っ先に名前を挙げるほど、僕にとって特別な作品です。

(C) 1985 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.
少年と天才科学者が巻き起こす時空を越えた冒険物語
物語の舞台は1985年のアメリカ。30年前の落雷で壊れたままの時計台が象徴的に残る、架空の街ヒル・バレーで暮らす高校生マーティ(マイケル・J・フォックス)は、周囲から変わり者扱いされている天才科学者、ドクことブラウン博士(クリストファー・ロイド)と、年齢差を超えた友情を育んでいました。ある日、ドクは愛車デロリアンを改造し、時速88マイル(約140キロ)を超えると時空を超えるタイムマシンを完成させます。しかし、その動力源となるプルトニウムをテロリストグループからだまし取ったドクは彼らに銃撃され、その場にいたマーティも命を狙われます。
デロリアンに乗って必死に逃げるマーティはアクセルを踏み続けた結果、1955年11月にタイムトラベルしてしまいます。そこで偶然にも、高校生だった父ジョージ(クリスピン・グローヴァー)と出会い、交通事故から救いますが、この出来事こそが父と母ロレイン(リー・トンプソン)が恋に落ちるきっかけだったことから運命が狂い始め、自分自身の存在さえ危うくなる。未来へ帰るため、そして"本来あるべき未来"を取り戻すため、マーティは奔走します。

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マイケル・J・フォックスでなければ生まれなかった名作
「SFやタイムトラベルものはヒットしないB級映画」というジンクスが当時のハリウッドには根強くありました。その常識を、『スター・ウォーズ』初期3部作とともに、見事に打ち破った作品の一つが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』です。本作は、主演のマイケル・J・フォックスを一躍世界的スターへと押し上げたことでも知られていますが、最初からマーティ役に決まっていたわけではありません。彼は一度、出演オファーを断っており、その後、青春映画で確かな存在感を放っていた俳優エリック・ストルツがマーティ役に起用されていたことは、ご存じの方も多いでしょう。
当初、プロデューサーのスティーヴン・スピルバーグをはじめとする制作陣は、マーティ役にはマイケルを強く望んでいました。しかし当時の彼は、1982年から放送されていた大ヒットTVドラマシリーズ「ファミリータイズ」にレギュラー出演中で、スケジュールの都合からオファーを辞退。その結果、エリックに白羽の矢が立つことになったのです。正統派ハンサムで確かな演技力に定評のあるエリックでしたが、ドク役のクリストファー・ロイドとのバランスなどを総合的に判断した結果、スタッフ陣は苦渋の決断として彼の降板を決めます。そして当初からの第一候補だったマイケルが、ついにマーティ役を演じることになりました。

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当時24歳とは思えない高校生にしか見えない若々しいビジュアルに、表情豊かでコミカルな演技。さらに、身長185センチのロイドと、163センチのマイケルが並んだ時の絶妙なバランス感も含め、制作陣のどうしても彼でなければならなかった理由には、思わず納得してしまいます。しかし、出演には「ファミリータイズ」の収録を最優先する条件付きだったため、マイケルが撮影に参加できたのは、ドラマの収録が終わる夕方以降のみでした。
そんなドタバタがあったとは全く感じさせない、役者陣の完成度の高い演技もまた、本作の大きな魅力です。その完成度の高さゆえに、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、公開当時まだ生まれていなかった今の若い世代も魅了しています。その理由は、やはりストーリーにあると僕は思います。「自分がこの世に生まれるためには、両親が恋に落ちている必要がある」という斬新な発想に、「元いた場所に帰るための冒険」という普遍的な物語が重なったことで、本作は世代を越えて愛される作品となったのではないでしょうか。

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映画の魅力が詰まってる!まるで何度見ても面白い古典落語
聞くだけで胸が躍るヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの主題歌「パワー・オブ・ラブ」や、アラン・シルヴェストリによる高揚感あふれる音楽も、本作の大きな魅力です。さらに、CGがまだ存在しなかった時代ならではの工夫を凝らした特殊効果、テンポの良い演出とカメラワークなど、見どころが多い。その中でも僕が特にお気に入りなのが、1955年のドクが未来からやって来たマーティのために用意したであろう洋服のセンス。どこか時代を先取りしているようで、とにかくカッコイイ。そして、高校時代のビフたちから逃げるため、即席のスケートボードに乗るシーンで見せる、ロールアップしたジーンズにコンバースのハイカットスニーカーという装いも、今見ても本当におしゃれですよね。
数えきれないほど見ているにもかかわらず、見るたびに「やっぱり面白い」と感じる。僕にとって本作は、例えるなら古典落語のような存在です。物語の展開もセリフもすべて知っているのに、いつ、誰が見ても楽しい。アクション、SF、コメディー、ラブロマンスの要素もあり、映画の魅力が余すところなく詰め込まれ、さらに誰もが心をくすぐられるタイムスリップという題材を、現実と地続きの感覚で分かりやすく描いている。そのバランスの良さこそが、本作が長く愛され続けている理由なのだと思います。公開から40年近く経った今でも、若い人たちが「最高!」「めちゃめちゃ面白かった!」と言ってくれるのは、本当にうれしいですね。

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2015年を舞台にした「Ⅱ」、そして1885年に取り残されたドクをマーティが救いに行く「Ⅲ」。全三部作で描かれた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズの中で、僕が一番好きなのは、やはり一作目の本作です。その理由は、マーティとドクの友情を軸に、ガールフレンドのジェニファー、そしてパパとママ、さらには家族への愛情まで、温かな感情がぎゅっと詰まっているから。タイムトラベルという壮大な仕掛けの中に、誰もが共感できる「人と人とのつながり」が、丁寧に描かれているんですよね。

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『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を未来へ伝えたい理由
物語の完成度はもちろん、カメラワークや音楽の使い方に至るまで、細部まで計算し尽くされた完璧な仕事がなされているにもかかわらず、最初から最後まで、何も考えずにただ楽しめる最高の娯楽作に仕上がっている点にあります。例えるなら、誰でも気軽に立ち寄れる町中華。でも、もやしのヒゲは一本一本丁寧に取り、エビの背わたも竹串で抜く。仕込みは徹底的なのに、出てくる料理は、コーラでもオレンジジュースでも、お茶でもビールでも合う、間違いなくおいしい一皿ばかり。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、そんな懐の深い映画だと思います。
うちの大将こと萩本欽一が、以前「うまいからって、テレビや舞台に出そうとは思わない。あいつが"いい奴"だから、一緒に仕事がしたいんだ」と言っていました。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、まさにそんな「いい奴」な映画だと思います。もし『ゴッドファーザー』三部作が、「あいつ、カッコイイよな」と憧れられる存在だとしたら、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、「クラスの誰からも好かれるいい奴」という感じですね。そんな立ち位置の作品です。見る人すべてを自然とハッピーにしてくれる、人類史に残る大傑作エンターテインメント。日本公開から40周年を迎えたこの機会に、ぜひ改めてご覧になってください。




