"うだつの上がらない中年公務員"内野聖陽&"イケメン天才詐欺師"岡田将生が紡ぐ痛快クライムエンターテインメント『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』
2025.05.28
映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』が6月1日(日)に日本映画専門チャンネルにて放送される。
同作品は、2016年の韓国ドラマ「元カレは天才詐欺師~38師機動隊~」を原作に、映画『カメラを止めるな!』(2017年)の上田慎一郎監督が描く痛快クライムエンターテインメント。
税務署に勤める真面目な公務員・熊沢二郎(内野聖陽)は、天才詐欺師・氷室マコト(岡田将生)が企てた巧妙な詐欺に引っかかり、大金をだまし取られてしまう。親友の刑事の助けで氷室を突き止めた熊沢だったが、観念した氷室から「おじさんが追ってる権力者を詐欺にかけ、脱税した10億円を徴収してあげる。だから見逃して」と持ちかけられる。熊沢は自らが抱える"ある復讐"のためにも氷室と手を組むことを決意する。
展開、ストーリー、映像表現など魅力が満載
同作の魅力といえば、やはり約2時間があっという間に過ぎてしまう軽妙なテンポ感だ。詐欺にあった熊沢が氷室と手を組み、素人ながら詐欺組織の一員として努力を重ね、仲間たちと絆を深めた後、大一番として巨悪に挑むという、なかなかのボリュームあるストーリーを約2時間にギュッと詰め込んでいるため、スタートから怒涛の展開で作品の世界観に引きずり込まれ、そのままラストまで押し込まれていく。乗ったらゴールまで一瞬で連れて行ってくれる、正に"ジェットコースター映画"といえる。
だが、展開だけでなく、その中に真面目な公務員である熊沢が犯罪に手を染めることへの葛藤や、"ある復讐"に燃える過去の因縁、氷室の本心など、登場人物の心の機微をしっかりと描くことで、視聴者を置いてきぼりにしない"安全バー"がちゃんと装備されているところがポイント。登場人物たちが、ただただドタバタしている姿を第三者的に眺めるのではなく、「感情移入させてくれる」という"安全バー"のおかげで、作品という"ジェットコースター"にしっかりと乗せてくれ、最後まで乗客として楽しませてくれる。
もちろん、ストーリー自体も魅力。練りに練られており、ラストに向けて明かされていく伏線回収の数が半端ないため、見終わるとパズルゲームの100連コンボが決まった時のような爽快感がなんともいえず気持ち良い。さらに、見終わった後すぐに、結末を知った上でもう一度見て確認したくなる魔力も有している。
これらの魅力を、上田監督は軽妙な映像表現でまとめ上げている。多めのカット数でスピード感を、寄りのカットを多用することで臨場感を、そして、印象的なマッチカットで四コマ漫画のようなコミカルさを演出するなど、映像表現に注目するのもお薦めの楽しみ方の一つだ。
演技派の役者陣が紡ぐ癖のあるキャラクター
そして、何より豪華過ぎる役者陣の演技が作品の魅力を引き上げている。内野聖陽、岡田将生を筆頭に、川栄李奈、森川葵、真矢ミキ、皆川猿時、吹越満、小澤征悦といった演技力に定評のある役者陣が、ひと癖もふた癖もある登場人物たちを熱演。彼らの微に入り細を穿つ芝居も、作品が持つ"もう一度見て確認したくなる魔力"の発生装置の一つとなっている。
中でも、日和見主義のうだつが上がらない中年男性という、自身のパブリックイメージとは正反対のキャラクターを見事に演じ切っている内野の演技は圧巻。詐欺の訓練を通して生きがいを得て人生観が変わり、精神的に成長していく熊沢を繊細に描きだしている。
一方、岡田はイケメン天才詐欺師という役柄を、「当て書きなのでは?」と思ってしまうほどにナチュラルに好演。いつでも余裕があり、クールで冷静沈着という、内野演じる熊沢と真逆のキャラクターをしっかり演じることで、物語の柱を形成している。特に、中盤で明かされる氷室の過去や本当の目的が明らかになってもブレないというキャラクター作りは、クライマックスで明かされる大いなる"裏切り"にも通じており、見ているこちらも「騙された!」と思わず膝を打ってしまうほど。
展開、ストーリー、映像表現、"クセ強"のキャラクターを演じる役者陣の演技など、多彩な魅力で紡がれる"一瞬の"約2時間のジェットコースターを存分に楽しんでいただきたい。
文/原田健