"キラキラした王子様"感を封印した中島健人と"悪者に見えない罪人"を演じた堤真一の演技力は必見!
2025.03.04
映画『おまえの罪を自白しろ』(2023年)が3月9日(日)に日本映画専門チャンネルで放送される。
同作品は、人気作家・真保裕一のベストセラー小説を中島健人、堤真一の共演で映画化したもので、警察、マスコミ、国家が絡む巨大な闇に切り込むタイムリミットサスペンスだ。
政治家一族、宇田家の次男・宇田晄司(中島)は建築会社を設立するも倒産し、やむなく政治スキャンダルの渦中にいる国会議員の父・宇田清治郎(堤)の秘書を務めながら、たたけば埃の出るやり方に煮え切らない日々を送っていた。そんなある日、一家の長女・麻由美(池田エライザ)の幼い娘が誘拐される。犯人からの要求は身代金ではなく、「明日午後5時までに記者会見を開き、おまえの罪を自白しろ」という清治郎への脅迫だった。決して明かすことが許されない国家を揺るがす罪のため、権力に固執する清治郎は口を閉ざす。晄司はタイムリミットが迫る中、罪に隠された真相を暴き、家族の命を救うために奔走する、というストーリー。
圧倒的なスピード感で展開される見る者の問題意識をえぐる社会派サスペンス
この作品の魅力といえば、やはり真保の描いたストーリーが最初に挙げられるだろう。時間が区切られた犯人の要求で自動的にタイムリミットが設定され、その間にさまざまな事象を検討しながら奔走する登場人物たちを見ているだけで、手に汗握る興奮とドキドキ感が止まらない。さらに、リミットが近づくにつれて次々と明かされる真実など、サスペンス軸だけでも十二分に楽しめる。
加えて、大物政治家の家族が誘拐されるという題材の場合、犯人を追う刑事や誘拐犯などが主人公である場合が多いが、たたけば埃が出る政治家一族側の人間が主人公であるところが特徴的で、誘拐事件と向き合う中で「家族の命は救いたい。だが立場上、自由に動けない」という葛藤や足枷が付随し、物語をより入り組んだものにしている。大物政治家である父に意見はできるが、聞き入れてもらえるかは分からないという微妙な立ち位置の晄司のわだかまりや、さまざまなバイアスがかかって身動きが取れない清治郎の苦悩など、時間制限付きのサスペンス軸が走りながら、同時に主人公たちの心の葛藤が描かれていくため、見入ってしまいあっという間に時間が過ぎてしまう。
さらに、犯人が要求している"罪"は政治のさまざまな利権が絡み、永田町の住人たちそれぞれの思惑がもつれたパンドラの箱だ。これは、現実でも起こっているような社会問題を想起させ、それらを揶揄するようなテーマに、作家からの"見る者の問題意識への問いかけ"が感じられ、つい考えさせられてしまう面もある。
"社会派"色を色濃くしている中島健人、堤真一らキャスト陣の熱演
このノンストップムービーを監督やキャスト陣は、"脚本が良いだけの映画"にせず、"実写映画化の意義"をしっかりと果たしてみせている。時間が迫ってくるドキドキ感を、スピード感と小気味よい展開で見せていく水田伸生監督の手腕は言うまでもないが、池田エライザ、山崎育三郎、浅利陽介、尾美としのり、平泉成、尾野真千子、金田明夫、角野卓造など、実力派俳優たちがずらりと並び、それぞれの演技で政界の重々しさや問題の闇深さなどを表している。
中でも中島と堤の演技は息をするのも忘れるほど。中島は普段の"キラキラした王子様"感を見事に封印し、父親のサポートに勤しむ役どころを熱演。晄司は「納得いかない部分がある」という政治活動における不満を胸に抱えながらも、自身の役目を全うしていくのだが、作品中盤の角野演じる政党の幹事長・木美塚壮助とのシーンでは、それまで隠していた晄司の本性をチラリと覗かせ、ゾクリとさせてくれる。「真っ直ぐでヒーロー的な人柄ではなく、晄司もひと癖ある」という中島が仕組んだ"演技の罠"にはまってしまう人は少なくないだろう。
一方、堤は大物政治家役を、トーンの低い声、周りに有無を言わさぬ口調、まとうオーラなどで、見事に演じている。そして、清治郎は周りの人々にとって絶対的存在であるため、どこか近寄り難い面もあるのだが、実は慕われているという、世間には公表できない罪を犯していながらも悪者に見えないキャラクターを表現。このキャラクター作りが大いに見る者の印象に影響を与えており、衝撃的なラストに帰結するというある種の爽快感を味わわせてくれる。これらのすばらしい演技における人物像の形成こそが、"実写映画化の意義"と言えるだろう。
ドキドキわくわくが止まらないストーリー、作家が訴えるメッセージ、制作・キャスト陣の仕事ぶりなど多くの魅力が高次元で絡み合っている、他にはないエンタメ作品に浸ってみてはいかがだろうか。
文/原田健