役所広司、菅田将暉ら名優たちが圧巻の演技で紡ぐ"凡人"目線の"天才"の生涯
映画 見放題
2025.03.03
映画『銀河鉄道の父』(2023年)がJ:COM STREAMで見放題配信中だ。同作品は、門井慶喜の第158回直木三十五賞受賞作で、宮沢賢治の父・政次郎の視点で描く家族の物語。
岩手・花巻で質屋を営む宮沢政次郎(役所広司)の長男として生まれた賢治(菅田将暉)は、跡取りとして大事に育てられるが、家業を「弱い者いじめ」だと断固として拒み、農業や人造宝石に夢中になって両親を振り回す。さらに、宗教に身を捧げると東京へ家出してしまう。そんな中、賢治の一番の理解者である妹・トシ(森七菜)が結核に倒れる。賢治は岩手に戻り、幼少時からトシに頼まれていたオリジナルの物語を書き続け、それらを読み聞かせて励ます。だが、願いは叶わずトシは旅立ち、賢治は「トシがいなければ何も書けない」と慟哭する。そんな賢治に、政次郎は「私が宮沢賢治の一番の読者になる!」と背中を押し、再び筆を執らせる。ようやく道を見つけた賢治だったが、程なくトシと同じ運命が降りかかってしまう、というストーリー。
(C)2022映画「銀河鉄道の父」製作委員会
宮沢賢治という"天才"ではなく、"凡人"の父親視点で描かれた万人に刺さる感動巨編
「銀河鉄道の夜」「注文の多い料理店」「セロ弾きのゴーシュ」「よだかの星」「風の又三郎」「雨ニモマケズ」など、数多くの名作を遺している宮沢賢治の生涯を父親の視点から描くことで、家族の尊さや親の愛情の深さなどを伝える感動物語となっており、宮沢賢治という"天才"の生涯を題材にしながらも、"凡人"の父親を主人公にすることで万人が共感できるものになっている。"天才"賢治の苦悩と葛藤、人格形成の裏側、名作が生まれるまでの背景をしっかりと伝えつつも、彼を支え続けた家族の絶対的な愛なくしては生まれなかったことにもスポットを当てており、その無償の愛が涙を誘う。一方で、裕福な家庭の息子ということで、甘やかされて育ち、わがままな生き方や考え方を持った賢治の一面も避けずにしっかりと描くことで、"名作を生んだ聖人"ではなく、一人の人間として描き出しているところが物語に説得力とリアルさを与えている。
(C)2022映画「銀河鉄道の父」製作委員会
役所広司、菅田将暉ら名優たちの熱演に心が震える
そんな実話をもとにした物語を、名優たちが熱演で感動エンターテインメント大作に仕上げている。賢治の母・イチ役の坂井真紀やトシ役の森ももちろんなのだが、やはり役所と菅田の演技の素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。菅田は、賢治の純粋さ、一本気なところ、素直さ、繊細さなどを大切に演じながら、それらが鋭すぎる感性によって浸食されてしまう様子を迫真の演技で表現。進むべき道を探して葛藤し、苦悩し続けた青年の生き様を"天才"性と共に感情豊かに描いている。
一方、役所は政次郎の親バカな面を全編にわたって散りばめており、親の愛情の深さをこれでもかと伝えている。進路について賢治と衝突する場面でも、つい折れてしまい少々甘さが際立つが、そんなところも"凡人"らしく、微笑ましくて共感させられてしまう。特に、どんな場面でも「結局は息子のかわいさに負けてしまう」という土台があるため、どのシーンにおいても愛があふれているのだ。「何歳になっても子供は子供。いつまでもかわいい存在」とよく言うが、まさにその究極の子供への愛をストレートに表現し、なおかつ見る者の心をつかみ続ける演技は、さすが"世界の役所広司"だ。さらに、ラストシーンの賢治とトシに向けて放つ「ありがとがんした」というせりふにはさまざまな思いが込められており、それをひと言に凝縮して表す表現力は圧巻。ぜひご覧いただき、込められた思いを受け取ってほしい。
"天才"の生涯を"凡人"目線で描いた万人が共感できる愛を享受していただきつつ、役所や菅田をはじめとする名優たちの圧巻の表現力にも注目していただきたい。
(C)2022映画「銀河鉄道の父」製作委員会
文/原田健