辻村深月の世界観を當真あみ、北村匠海ら声優陣の好演が彩った名作に涙が止まらない

辻村深月の世界観を當真あみ、北村匠海ら声優陣の好演が彩った名作に涙が止まらない

劇場アニメ『かがみの孤城』(2022年)がJ:COM STREAMで配信中だ。

同作は、2018年本屋大賞をはじめ、数々の賞を受賞した辻村深月によるベストセラー小説を原作とした劇場アニメで、第46回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞した話題作。願いが叶う鏡の世界を舞台に、選ばれた7人の子供たちが奮闘し、成長する姿を描いたファンタジーミステリー。

中学1年生のこころ(声・當真あみ)は、学校で居場所をなくし、部屋に閉じこもる日々を送っていた。そんなある日、突然部屋の鏡が光りだし、吸い込まれるように中に入ると、そこにはおとぎ話に出てくるような城と見ず知らずの中学生6人がいた。こころを加えた7人の中学生の前に、「オオカミさま」と呼ばれるオオカミのお面を被った女の子が現れ、「城に隠された鍵を見つければ、どんな願いでもかなえてやろう」と告げる。期限は約1年間で、城には日本時間の朝9時から夕方5時までは自由に行き来できるが、夕方5時までに帰らないとオオカミに食われて命を落としてしまう上、その日一緒にいたメンバーも連帯責任でオオカミに食われてしまうという。戸惑いつつも鍵を探しながら共に過ごすうち、7人には1つの共通点があることがわかる、というストーリー。

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辻村深月が社会問題をテーマに描くファンタジー作品

本屋大賞受賞作ということでストーリーの面白さは折り紙付きなのだが、「引きこもり」や「不登校」といった社会問題をテーマにしているところが作者のにくいところ。登場人物たちの背景や心情などを通して、世の"引きこもり"たちへのエールと周りの人への理解を促しているメッセージが込められており、それらが同作をただのエンタメ作品とは一線を画したものにしている。タイトルも「かがみの城」ではなく「かがみの孤城」としているのも、暗に"引きこもり"を示唆しているのではないだろうか。加えて、だんだんと明らかになっていく登場人物たちの素性と秘密、クライマックスで明かされる"全てのつながり"、作者が施した伏線が回収される瞬間の気持ち良さなど、本格ミステリーとしての要素も十分に備えており、社会的にもエンタメ的にも意義のあるものになっている。

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"あの花""ここさけ"を手掛けたA-1 Picturesが繊細に紡ぐリアル感

そんなファンタジー作品でありながら現実感も兼ね備えた世界観を、制作を手掛けたA-1 Picturesがしっかりと描写。"鏡の向こう側"というファンタジーの世界でありながら、それ以外はリアルで、登場人物たちも"異世界"感がないため現実の延長のようにすぐに慣れていくのだが、そういった視聴者にすんなり受け入れてもらえない可能性があるところは、調度品の重厚さや城の本物っぽさなど、"リアルな"説得力を画に持たせることで不安要素を払拭している。中でも、床の映り込みに注目してほしい。大理石のようなつるつるの床にうっすら反射して見える姿が繊細に丁寧にしっかりと描かれており、「登場人物たちはちゃんと現実を生きている存在」というのを表して、絶妙なリアル感を創出している。

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當真あみ、北村匠海ら役者の声の熱演と遊び心あふれる演出に注目

そして何より、ボイスキャストの熱演が作品の素晴らしさに貢献している。當真や北村、吉柳咲良、板垣李光人、横溝菜帆という若手の役者たちが、高山みなみ、梶裕貴といった実力派の声優に混じって、引けを取らない熱演を見せている。城のシーンはほとんど7人しか登場しないため、本職である声優の2人と演技力に差が出てしまうと見る者に違和感を与えてしまうのだが、なかなかどうして見事な演技で、スタッフロールが流れてくるまで若手の役者が声を担当していたなど気付かないほどなのだ。それぞれが悩みや問題を抱えていながら、それらをさらけ出すのではなく、じわりと漏れ出てしまうような人物描写が、"引きこもり"感をうまく表して、キャラクターたちに息を吹き込んでいる。余談だが、高山演じるマサムネの"高山ならでは"の遊び心あふれる演出にも注目してほしい。詳細は避けるが、しっかり見ていると思わず興奮してしまうので、ぜひお見逃しなく。

メッセージ性のあるテーマをファンタジーな世界観で描いた辻村深月、ファンタジーでありながら作品の屋台骨ともいうべき"リアル感"を描出したA-1 Pictures、ファンタジーミステリーを紡ぐ登場人物たちを人間味あふれるキャラクターとして命を吹き込んだ声の出演者たち。この3本の"柱"によって誘われる"見終わった後の涙"をぜひ体験していただきたい。

文/原田健

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