変化し続ける表現者・阿部寛「今まで演じたことのないニュースキャスターという役が自分を新たな領域へといざなってくれました」 新作映画『ショウタイムセブン』

新作映画『ショウタイムセブン』で初めてニュースキャスター役に挑んだ阿部寛さん。役者として常に今まで経験したことのない難しい役に挑み続ける、その理由を聞いた。

――ニュースキャスター・折本眞之輔は「繊細で難しい役」だったそうですが、なぜこの役に挑戦しようと思われたのでしょうか？

「脚本を読んだ瞬間に、この作品は自分を新たなステージへ導いてくれると感じました。若い頃なら、おそらくキャスター役には尻込みしていたかもしれません。難しそうだと感じて。ただ、これまで多くの役柄に挑戦してきた中で、そろそろ自分自身に新たな挑戦を課すべきだと思ったんです。30年以上にわたって常に新しいことに挑んできましたから、今残されている役というのは、どうしてもハードルの高いものばかりになってしまう。それでも挑戦し続けることが、俳優としての自分を支えてきたのだと感じています」

――キャスター役は、なぜ難しいと感じたのでしょう？

「キャスターというのは、放送中ずっと視聴者に見られていることを意識しつつも、常に冷静さを保たなければならない存在です。ただ、例えば大きな事件が起きた時、その内側では「ここが自分の見せ場だ」と高揚感やアドレナリンが湧き上がっているのではないか。そうした二重の精神状態が、自分にはなかなか想像しづらかったんです。実際に演じてみて、仕事としては役者ととても近い部分があるのに、これまで演じたどの役とも違う、一番遠い存在に感じましたね」

――「近いのに遠い」とは？

「例えば大阪弁って、たくさんの人が知っているから、使い方を間違えるとすぐに指摘されるじゃないですか。それと同じ感覚ですね。ニュースキャスターというのは、誰もがよく知っている存在だからこそ、それを演技で自然に表現するのはとても難しかったです」

――折本は、腹黒さと正義感が表裏一体になった複雑なキャラクターですね。

「そうなんです。彼は単に野心に駆られたキャラクターではなく、事件を利用して国民的ニュース番組にもう一度返り咲こうとする一方で、その内面には複雑な人間味があるんです。演じていて、その二面性は非常に興味深かったですね。ただ彼の根底には確かな正義感があって、最後には自分なりのポリシーを貫いて生きる姿を見せてくれます。その点はぜひ注目していただきたいです」

――折本に共感できる部分はありましたか？

「野望に向かって必死になる姿には共感しますね。私自身、20代の頃はモデルの仕事で忙しくしていましたが、役者の世界に入ると仕事が思うように得られず、世の中の厳しさを痛感した時期がありました。その時に抱いた『必ずもう一度活躍してみせる』という強いエネルギーは、今振り返っても人生の中で最も純粋で力強い原動力だったと思います」

――今後、さらに挑戦したい役はありますか？

「今回は抑制の効いた演技が求められたので、次は大きく動き、思い切り弾けるような役に挑戦したいですね。例えば、少し振り切れた悪役のようなキャラクターも面白いかもしれません。それくらい思い切ったハードルに挑戦することで、自分自身の幅をさらに広げられる気がしています」

――まだハードルを越えたいというモチベーションをお持ちなんですか？

「そうですね。動けるうちに挑戦しておきたい気持ちは強いです。海外の俳優、例えばアンソニー・ホプキンスやアル・パチーノのように、年齢を重ねても大胆で弾けた役に挑戦する姿は非常に魅力的です。ただ、日本では素晴らしい俳優が多くいる一方で、年齢を重ねるとアグレッシブな役を演じる機会が少なくなる傾向があります。だからこそ、将来的にはそういった壁を壊し、70歳を超えても挑戦し続ける役者でありたいですね。『この人、まだこんなことをやっているのか！』と驚かれるような役に挑んでいきたいと思います」

――阿部寛さんから読者の皆さまへメッセージをお願いします。

「これまで本当にさまざまな役を演じてきましたが、作品ごとにその役が何を伝え、どう生きているのかを感じていただければうれしいです。自分自身、過去の作品を振り返ることは少ないのですが、それぞれの物語やキャラクターが、皆さんの心に何かを残せたらと思っています。最新作『ショウタイムセブン』はもちろん、これまでの作品にも触れていただければ幸いです」