若き日の織田裕二と石黒賢が共演した三谷幸喜脚本ドラマ「振り返れば奴がいる」はなぜ名作なのか
2026.10.29
約14年ぶりとなるシリーズの新作、映画『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』が話題の織田裕二。数々の代表作を持つ彼だが、ドラマ「振り返れば奴がいる」(1993年、フジテレビ系)もその一つだ。
同ドラマは、織田と石黒賢のダブル主演で描く医療ドラマで、三谷幸喜の本格的なテレビドラマデビュー作としても有名。医療技術は天才的だが、冷徹で傲慢な外科医・司馬江太郎(織田)と、アメリカ帰りの正義感にあふれる情熱的な外科医・石川玄(石黒)という、信念の全く異なる2人の医師が、激しく対立し、ぶつかり合う姿を描いたヒューマンドラマだ。
アメリカのカンザス大学から総合病院「天真楼病院」へやってきた医師・石川は、衝撃を隠せなかった。そこには、苦しむ患者を無視するかのような振る舞いを平然ととる天才医師・司馬がいた。しかし、外科部長の中川淳一(鹿賀丈史)は、司馬の冷血な行動を知っていながらそれを受け入れていた。そして、2人の医師は天真楼病院を舞台に、同じ医療クルーとして深く関わり始める、というストーリー。
■ダークヒーロー役で魅せる役者としての新境地
このドラマは、織田にとって転機となった作品といえる。というのも、それまでのイメージにはなかった、寡黙で、クールで、天才という"冷酷非道なダークヒーロー"を見事に演じ切っているからだ。「助かる見込みのない患者は時間の無駄」「死なせてやれ」と言い放ってオペを拒否したり、製薬会社から平然と多額の賄賂を受け取り、自らの目的のために院内の権力闘争や人間関係をしたたかに利用するなど、医師としての倫理観や共感力は皆無な"ダークヒーロー"を、全11話という長い物語の中で"冷徹"に振り切って演じあげている。役者としての新境地を見せつけ、世間に演技の幅の広さを披露した作品となったのだ。
しかも、歪んでしまった背景には、かつて自分が尊敬していた外科部長の中川に裏切られたという深い人間不信と過去のトラウマがある。しかしその一方で、かつての恩師を切り捨てきれない義理堅さなどを内包している。単なる悪党ではなく"哀しいダークヒーロー"としての一面も描き、徹底した個人主義・合理主義を貫きながらも、かすかににじみ出る人間味を繊細に表現する圧巻の演技を見せた。

■三谷幸喜脚本と思えない重厚な人間ドラマ
初回の視聴率は12.7%と比較的静かなスタートだったが、司馬と石川の緊迫した対立やスリリングな展開から回を追うごとに注目度が増し、視聴率は徐々に上昇。衝撃的な結末を迎えた最終回では、最高視聴率の22.7%を叩き出して大きな話題を呼んだ。
三谷脚本といえば、力の抜けた独特のコミカルさが特徴だが、同ドラマではそれらは全く排除されている。男同士の信念のぶつかり合いや、プライド、嫉妬、保身、恐怖といった人間の醜いエゴと「それでも命に向き合わざるを得ない」という本質、理想主義と合理主義のはざまで浮き彫りになる「医師としての正しさとは何か」「命の選別は許されるのか」という答えのない倫理的な問い。さらにタイトルにも通ずる、性格も信念も正反対の対極にいる二人だが、実力だけは誰よりも認め合っているという「光と影」の絆など、見どころが満載の重厚な人間ドラマが展開される。"コミカルさ"という代名詞のような武器を一切排除しても、ここまでのクオリティーを発揮する三谷の実力の底知れなさに震える。しかも、「光と影」がたどり着く衝撃のラストは"伝説のラストシーン"としてドラマ史に刻まれており、最後の最後まで"面白さ"を維持し続けているところも唯一無二の名作になっている要因だろう。

■20代半ばとは思えない主演2人の芝居対決
そして何より特筆すべきは主演の2人の演技だ。織田の演技は前述のとおりだが、アメリカ仕込みのヒューマニズムを持ち、「すべての患者の命を平等に救うべきだ」と主張する理想主義の熱血漢の石川を演じた石黒の芝居もすばらしい。同じ医者でありながら全く異なるキャラクターを、相手に引っ張られることなくブレずに演じ切った両俳優の表現力によって同ドラマが成立していると言っても過言ではなく、2人のバチバチの演技対決がしびれる。
いわば司馬が"青い炎"、石川が"赤い炎"で、どちらも"熱く燃えたぎって"おり、見ていて相容れる予感は皆無。だが、2人が回を追うごとに、互いを内心認め合っていく様子や、相手の実力に一目置いていくさまを細やかに表現することによって、見えない絆が構築されていくところもポイントで、"対立"と"調和"を両立させていくところは見事。しかも、当時は両者共に20代半ばなのだから、今もなお第一線で活躍し続けているのもうなずけるだろう。
見どころ満載のストーリーと日本を代表する俳優の若かりし頃からキラリと光る演技力をぜひご堪能いただきたい。
文/原田健



