「シグナル」から「競争の番人」まで!坂口健太郎の静かな熱量とギャップに沼る必見ドラマ3選
2026.10.04
10月期の連続ドラマ「kiDnap GAME」(フジテレビ系)で主演を務める坂口健太郎。同作は、アジア7都市で同時多発的に誘拐事件が発生し、被害者の家族たちが大切な人の命を懸けたゲームに巻き込まれていくサスペンスだ。坂口は、誘拐された妻を救うため、危険なゲームに身を投じる刑事・新出敏郎を演じる。
柔らかな笑顔と穏やかなたたずまいで親しまれる一方、胸の内に強い信念を秘めた役でも見る者を引き付けてきた坂口。感情を抑えたクールな表情から、怒りや悲しみ、執念がにじみ出る瞬間にこそ、その演技の真骨頂がある。今回は、そんな坂口の静かでありながら熱量に満ちた演技を堪能できるドラマ3作品を紹介する。
■抑えた表情からあふれ出す刑事の執念「シグナル 長期未解決事件捜査班」
2018年に放送された「シグナル 長期未解決事件捜査班」は、坂口にとって初めての連続ドラマ主演作。過去と現在をつなぐ謎の無線機を通して、2人の刑事が長期未解決事件に挑むヒューマンサスペンスだ。

「シグナル 長期未解決事件捜査班」(C)StudioDragon&ASTORY/キム・ウニ/カンテレ
坂口が演じる三枝健人は、独学でプロファイリングを学び、警視庁の長期未解決事件捜査班に所属する刑事。ある日、廃棄されるはずだった無線機から自分の名前を呼ぶ声を聞く。声の主は、健人とは異なる時代を生きる刑事・大山剛志(北村一輝)。半信半疑のまま交信を始めた2人は、過去と現在のそれぞれから未解決事件を追い、時には事件そのものの結末を変えていく。
プロファイラーとして冷静に人の行動や心理を読み解く健人だが、決して感情の乏しい人間ではない。幼いころ、友人の少女が誘拐されるところを目撃しながら、警察に証言を取り合ってもらえなかった経験を持ち、兄をめぐるつらい出来事によって警察組織への不信感を募らせてきた。健人が事件の真相にこだわるのは、過去に取り残された被害者やその家族のためであると同時に、自分自身の人生を取り戻すためでもある。
そんな健人に少しずつ変化をもたらすのが、長期未解決事件捜査班の班長・桜井美咲(吉瀬美智子)だ。警察官でありながら組織の論理に流されず、被害者のために動こうとする桜井と捜査を重ねるうちに、周囲と距離を置いていた健人も次第に仲間を信頼するようになる。

左から坂口健太郎、吉瀬美智子
「シグナル 長期未解決事件捜査班」(C)StudioDragon&ASTORY/キム・ウニ/カンテレ
坂口は、鋭いまなざしや硬い表情によって、健人が長年抱えてきた孤独と痛みを表現する。感情をあらわにする場面が限られているからこそ、大山に向かって無線越しに思いをぶつける姿や、大切な人を救おうと必死になる姿が胸に迫るのだ。とりわけ、大山との間に少しずつ信頼が生まれていく過程や、桜井たちに心を開いていく変化を、声の調子や表情のわずかな違いによって伝える繊細な演技にも注目したい。
過去を変えれば、現在も思わぬ形に塗り替えられかねない。それでも大切な人を救うため、わずかな可能性に懸ける健人。冷静なプロファイラーの顔と、悲しみや怒りを抱えた一人の青年の顔を行き来する坂口の演技が、時空を超えた物語に確かな熱を与えている。
■頼りなさと頼もしさのギャップが際立つ「イノセンス 冤罪弁護士」
「イノセンス 冤罪弁護士」(C)NTV
2019年に放送された「イノセンス 冤罪弁護士」で坂口が演じたのは、冤罪事件に立ち向かう若手弁護士・黒川拓。新米弁護士の和倉楓(川口春奈)、物理学者の秋保恭一郎(藤木直人)、報道ディレクターの有馬聡子(市川実日子)ら、それぞれ異なる立場の人々の力を借りながら、科学的な実証実験によって事件の矛盾を解き明かしていくヒューマン・リーガル・エンターテインメントだ。
黒川は、3年間で5件もの逆転無罪を勝ち取っているすご腕の弁護士。しかし、普段は動きやすいラフな服装で、さまざまな物を詰め込んだ布袋を背負い、法律事務所の物置に住み着いている。整理整頓や金銭管理が苦手で、自分の興味や依頼人との約束を優先するあまり、周囲への連絡を怠ることも。弁護士としては優秀なのに、日常生活ではどこか頼りないというアンバランスさが、黒川の人間味を醸し出す。

左から坂口健太郎、川口春奈
「イノセンス 冤罪弁護士」(C)NTV
マイペースな黒川に振り回され、たびたび声を荒らげる和倉とのやり取りには、シリアスな物語の緊張を和らげるコミカルな面白さがある。坂口の柔らかな話し方やひょうひょうとしたたたずまいも相まって、黒川はどこか少年っぽく、つい世話を焼きたくなるような人物に映る。普通なら欠点になりかねない無頓着さまで、母性本能をくすぐる愛嬌に変えてしまうのが、坂口ならではの魅力だ。
ところが、依頼人が無実を訴えれば、その印象は一変する。先入観や思い込みによって組み立てられた捜査を疑い、何度も現場へ足を運び、わずかな違和感も見逃さない。火災現場を原寸大のセットで再現したり、プールで事故当時の状況を検証したりと、大掛かりな実証実験にも挑みながら、真実にたどり着くまで粘り強く証拠を積み重ねる。普段の柔らかな表情が消え、まなざしと声に強い意志が宿る瞬間、黒川の内側に秘められた熱が浮かび上がる。
「イノセンス 冤罪弁護士」(C)NTV
もちろん、黒川一人の力だけで冤罪を晴らせるわけではない。行動を共にする和倉、科学的な知見から実験を支える秋保、取材を通して情報を集める有馬らの協力があってこそ、黒川の着眼点は法廷で通用する証拠へとつながっていく。最初はその突飛な行動に戸惑っていた和倉が、損得を顧みず真実を追い求める黒川の姿を間近で見て、次第に理解を深めていく過程も見逃せない。
なぜ黒川がそこまで冤罪事件にこだわるのか。その理由は物語が進むにつれて少しずつ明らかになる。坂口は、身の回りのことには無頓着でどこか頼りない一方、依頼人を救うためなら一歩も引かない黒川のギャップを鮮やかに表現した。その両面を違和感なく共存させる演技に、坂口の持ち味が存分に発揮されている。

「イノセンス 冤罪弁護士」(C)NTV
■杏との凸凹バディが楽しい!毒舌エリートを軽やかに体現する「競争の番人」
2022年に放送された「競争の番人」は、連続ドラマとして初めて公正取引委員会を舞台にしたエンターテインメントミステリー。捜査中に犯人を取り逃がした刑事・白熊楓(杏)が、公正取引委員会の第六審査、通称"ダイロク"への異動を命じられ、坂口演じる審査官・小勝負勉とバディを組むところから物語は始まる。
公取委は誰もが一度は耳にしたことのある行政機関だが、具体的な仕事内容を知る人は多くないだろう。本作では、公取委について何も知らない白熊と一緒に、視聴者も立ち入り検査や事情聴取といった仕事を学んでいく。聞き慣れない専門用語も会話の中でかみ砕いて説明されるため、企業間の複雑な問題にも無理なく入っていける仕組みだ。
警察のような逮捕権や強制捜査の権限を持たない公取委は、ときに"弱小官庁"とやゆされることも。それでも、ダイロクの面々は、地道な聞き込みや膨大な資料の確認を重ね、談合やカルテル、下請けいじめなどの証拠を探していく。白熊を迎えるメンバーはいずれも個性的だが、その中でもひときわ異彩を放っているのが、彼女の教育係を任された小勝負だ。

「競争の番人」(C)新川帆立/講談社/フジテレビジョン
小勝負は、20歳で司法試験に合格し、東大法学部を首席で卒業したエリート審査官。驚異的な記憶力と鋭い観察眼を持つ一方、理屈っぽくひねくれた性格で、相手が誰であろうと遠慮なく物を言う。周囲に詳しい説明をしないまま独自の考えで動く小勝負と、頭で考えるより先に感情と身体でぶつかっていく白熊。性格も調査方法も正反対の2人が、衝突を重ねながら互いの長所を生かしていく姿が楽しい。
坂口は、毒のあるせりふを落ち着いた口調でさらりと発し、小勝負のひねくれぶりをユーモラスに見せている。表情をほとんど変えない小勝負に、杏演じる白熊が全身で反応するテンポのいい掛け合いも、本作ならではの面白さだ。坂口の柔らかなたたずまいがあることで、容赦のない物言いも不思議と憎めず、くせの強いキャラクターが親しみやすく映る。
とはいえ、小勝負は単なる変わり者ではない。「弱くても、戦わなきゃいけない」という信念を持ち、強大な企業を前にしても決してひるまず、不正によって苦しむ人々のために行動する。坂口は、普段の淡々とした態度を大きく変えることなく、鋭くなるまなざしや言葉の強さによって、小勝負の仕事に懸ける覚悟を印象づけた。
型破りな小勝負と、実直な白熊。異なる方法で同じ正義を追い求める2人が、どのように"競争の番人"となっていくのか。その軽快なバディぶりと、坂口が見せる一癖ある芝居から目が離せない。
刑事、弁護士、公正取引委員会の審査官と、異なる立場から理不尽に立ち向かう人物を演じてきた坂口。3人に共通するのは、普段は容易に見せない胸の内に、決して譲れない信念を秘めていることだ。
「kiDnap GAME」では再び刑事役に挑み、妻を救うために"静かな怒り"を燃やす。これまでの作品で磨いてきた静と動の表現が、極限の状況を描く新作でどのように進化するのか注目したい。
文/苫とり子




