志田未来の自然体な食べっぷりに共感!「登山&グルメ」という新機軸で成功したグルメドラマ「下山メシ」の魅力を探る
2026.08.04
「孤独のグルメ」や「晩酌の流儀」をはじめ、「食」を主軸にした一人称ドラマというジャンルを開拓したテレビ東京。その流れの中で誕生した「下山メシ」という作品がある。本作は、2024年11月にスタートした、志田未来主演による「登山&ひとり飯」という新感覚のグルメドラマだ。テレビ東京お得意の「食ドラマ」の系譜を受け継ぎつつ、「山登りの楽しさ」というエッセンスを加味。さらに本題として「下山後に食べる最高の一食」という新しい切り口を用意して話題を呼んだ。
原案はフリーライターの西野淑子による著書「関東周辺 美味し愛しの下山メシ」。同書は「歩かず・待たず」。つまりは登山口に近くてすぐに食べられるという主旨のグルメガイドである。ドラマでは、そのコンセプトを原案として完全オリジナルのストーリーが構成されている。「山に登って飯を食う」というシンプルなドラマだが、フジテレビ系で放送中のドラマ「ブラックトリック〜裁きを操る弁護人〜」でも話題を呼ぶ志田の演技力が再評価された作品でもある。

(C)「下山メシ」製作委員会
■登山後だから美味しさが増すパワフル系メニューが登場
本作の主人公は、イラストレーターの"いただきみねこ"(志田未来)。人見知りで、コミュニケーションは得意ではないが、山歩きを趣味として仕事の合間を見つけては関東近郊の山々へ出かけている。山頂で景色を楽しんだりもするが、何よりも「下山後の一杯と絶品ご飯」こそが彼女の支え。毎回の流れは、みねこが山に登って、人との出会いや自然との触れ合いを経て、下山メシを堪能するというもの。そんなシンプルな構成が本作の魅力であるとも言える。みねこにとって、山登りは、あくまでも"ごちそうへの助走"だ。疲れた体だからこそ、料理の美味しさが増すというのが彼女の哲学である。そのためか、作中に登場する料理は、アジフライ定食や炒飯、ラーメン、カツ丼、カレーといったラインナップ。「登山の後だからこそ、より旨い」パワフル系のメニューが中心になっている。主人公が女性なのに、イタリアンやフレンチ、高級グルメなどが登場しない点も面白い。みねこが店を探しながら、「スペインバルは、ちょっとおしゃれ過ぎるなぁ...」と言って敬遠する場面があるのも象徴的だ。
ただ、みねこが登る山は、いわゆる本格登山ではなく、関東近辺の「低山登山」ばかり。高尾山や大山など、標高1000m未満の山が中心で、初心者でも挑戦しやすい山が多く登場。登山になじみのない視聴者が見ても「登ってみようかな」と思わせるところも魅力かもしれない。
志田の演技については、感情が派手に動く表現が皆無だが、味わい深い細かな芝居が作品の核になっている。登山中の場面では、呼吸の変化や歩き方で体力の消耗を表すなどのリアルな表現に説得力があり、山でクセの強い人物に出会った時の戸惑う様子も巧い。特に感心させられるのは、景色を見る瞬間の晴れやかな表情。視聴者はその表情を見て、「来てよかった」という感情を共有できる。本作のキモである食事の場面では、最初の一口を食べるまでの「間」の使い方が丁寧だ。匂いや湯気を感じて、箸を持つ動き。一口目を口にする際に小さく目を閉じたり、肩の力を抜いたりすることで、疲れが一気に癒える感覚を自然に表現している。志田の非常に丁寧な芝居によって、視聴者は彼女の「至福の瞬間」をリアルに感じることができるのだ。「孤独のグルメ」などと同様に、主人公の独白や心の声が多用されるが、ナイーブな主人公の内面を丁寧に表現しつつ、過剰にならない自然なテンションで演じる。芝居臭さをまったく感じさせず、だからこそ視聴者の好感度も高い。「同じ料理を食べたくてたまらなくなる」という"飯テロ"的な要素だけでなく、「山に登りたくなる」とか、「ドラマと同じ風景を見て、自分も味わってみたい」という追体験を望む声が目立った。

(C)「下山メシ」製作委員会
■本編の好評ぶりで制作された特別企画「高崎篇」も見どころ満点
2024年の連続ドラマが好評だったため、2025年には一夜限りの特別編「下山メシ 高崎篇」が放送された。本作は群馬県高崎市とのコラボレーション企画で、主人公・みねこが高崎周辺の低山とご当地グルメを巡る内容。作品人気と地域振興を兼ねたドラマ制作という企画として実現した。みねこが、高崎のシンボルである榛名山を登った後、榛名湖畔の食事処で、地元の食材や名物を生かした料理を味わう内容だ。榛名湖名物のわかさぎを、軽い衣でサクッと揚げた「わかさぎフリッター」、メンチカツとコロッケを組み合わせたボリューム満点の揚げ物「メンコロ」などが登場。ともに登山の後だからこそ罪悪感なく食べられる番組のコンセプトにぴったりのメニューである。シメには、高崎産小麦を使ったうどん。麺のコシの強さと小麦の香り、喉ごしの良さが、志田の「食べる演技」とともに印象的に描かれている。
「下山メシ」は、「食べること」に終始せず、山を歩いて自然を味わい、その先にある一食の幸福感を丁寧に描いた作品だ。派手な事件や大きなドラマこそないが、志田未来の繊細で自然体な演技が、主人公・みねこの静かな喜びや心の動きを豊かに表現して魅力的である。店員や店のオーナー、居合わせた客といった登場人物たちも、それぞれ味わいがある。第2話で焼肉店の元気な店員を演じた、芸人の加賀翔(かが屋)、第3話に登場したナポリタンが旨い喫茶店のママ・かたせ梨乃、最終話の弘法山で出会う芸に悩む落語家・前原滉など、不思議な魅力を醸している。

(C)「下山メシ」製作委員会
テレビ東京のグルメドラマの系譜の中でも、「登山」を絡めて料理を見せるという独自性を打ち出した点でも秀逸だが、山好きな人はもちろん、日常に癒しを求める視聴者にも刺さったと言える。グルメを軸にした新たな方向性を次々と追求していく制作側のバイタリティにも感心してしまうが、常にハードルが高くなる一方で、視聴者を飽きさせないのは見事である。「下山メシ」を見れば、改めて制作側の覚悟が伝わってくる。志田未来の丁寧でナチュラルな演技を核として、作り手の巧さが加味された秀作だ。次はどんな手で視聴者の期待に応えてくれるのか。ハードルは低くないが、テレビ東京なら、まだまだやってくれそうだ。
文/渡辺敏樹



