江戸川乱歩作品はなぜ人を惹きつけるのか――ドラマ「黒蜥蜴」「怪人二十面相」で船越英一郎が見せた新たな明智小五郎像

江戸川乱歩作品はなぜ人を惹きつけるのか――ドラマ「黒蜥蜴」「怪人二十面相」で船越英一郎が見せた新たな明智小五郎像

妖しく美しい世界観、人間の欲望や執着をえぐる心理描写、そして犯罪者すら一面的な悪として描かない奥深さ――。江戸川乱歩作品が時代を超えて愛され続ける理由は、単なる謎解きにとどまらない豊かな物語世界にある。怪奇小説から冒険活劇まで幅広い作品を生み出した乱歩の世界は、映像作品としても数多くの名作を生み出してきた。

名優たちが演じた「明智小五郎」と新たな挑戦

数ある乱歩の映像化作品の中でも、「名探偵・明智小五郎」シリーズはその代表格だ。1970年代には天知茂の当たり役となり、その後も北大路欣也、西郷輝彦、郷ひろみ、陣内孝則、稲垣吾郎らが明智小五郎を演じてきた。近年では藤原竜也や渡部篤郎、西島秀俊らも挑戦し、それぞれ独自の明智小五郎像を築いている。

そんな中、2024年と2025年に放送された「名探偵・明智小五郎」シリーズでは、船越英一郎が主人公を熱演。「黒蜥蜴」と「怪人二十面相」の2作品が映像化された。江戸川乱歩生誕130年を機に制作された本シリーズは、昭和の空気感と現代的な感覚を融合させた独自の世界観も魅力だ。長年にわたり数々のサスペンス作品を支えてきた"2時間ドラマの帝王"船越英一郎が、新たな明智小五郎像を生み出している。

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美への執着と妖しい魅力が交錯する「黒蜥蜴」

「黒蜥蜴」は、名探偵と女怪盗による危険な心理戦を描いた乱歩屈指の人気作だ。宝石商・岩瀬庄兵衛(大河内浩)のもとに「命の次に大事なものを盗む」という脅迫状が届く。大宝玉「エジプトの星」の強奪が警戒される中、明智小五郎(船越英一郎)は助手の小林(樋口幸平)や文代(唯月ふうか)、浪越警部(池田鉄洋)らと厳戒態勢を敷くが、真の標的は岩瀬の娘・早苗(白本彩奈)だった。事件を企てたのは、美しいものを収集する伝説の女怪盗・黒蜥蜴(黒木瞳)。明智との攻防は、やがて立場を超えた妖しく危険な心理戦へと発展していく。

本作の魅力は、ただの犯罪劇にとどまらず、「美への執着」をテーマにした人間ドラマとしても楽しめることだ。黒蜥蜴は宝石だけでなく、美しい人間すら収集品として愛でる特異な価値観を持つ。善悪では割り切れない彼女の生きざまは、乱歩作品ならではの妖艶さを象徴している。船越と黒木という実力派同士が繰り広げる演技の応酬も見どころだ。明智と黒蜥蜴は互いを敵として認識しながらも、その才能や美意識を認め合っている。そこには恋愛感情にも似た複雑な感情が漂い、物語に独特の色気を与えている。

船越が演じる明智小五郎は、知性と人間味を兼ね備えたキャラクターだ。歴代の明智には超人的な名探偵というイメージも強かったが、本作では豊富な経験に裏打ちされた落ち着きが印象的。黒蜥蜴に対しても一方的に罪を裁くのではなく、「なぜ彼女は犯罪に惹かれるのか」という一人の人間として向き合うような視線を向ける。その姿勢が作品に深みを与えている。一方の黒木も、妖艶さと気品、そして危うさを見事に表現。映画版の京マチ子や舞台版の美輪明宏が演じた歴代の黒蜥蜴とは異なる、現代的でリアルな魅力を放っている。

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冒険活劇の面白さも楽しめる「怪人二十面相」

「怪人二十面相」は、「黒蜥蜴」とは対照的に、冒険活劇と本格ミステリーの魅力を存分に味わえる作品だ。神出鬼没の怪人二十面相が再び世間を騒がせ、実業家たちの財宝を次々と狙う。明智は助手の小林やマユミ(石川古都)、中村警部(徳井優)らと共に捜査に乗り出すが、巧妙な変装術によって翻弄(ほんろう)される。やがて事件の裏に隠された過去の秘密が明らかになり、明智は真相へと迫っていく。

怪人二十面相が長年愛されてきた理由は、決して単純な悪役ではない点にある。変装の名人として人々を驚かせ、時に観客をも魅了する圧倒的なカリスマ性を備えたキャラクターだ。犯罪者でありながら、決して人は殺めないという独自の美学を持っており、どこか憎みきれない。この善悪を単純化しない重層的な人物造形もまた、乱歩作品の大きな魅力である。

本作で船越が演じる明智は、奇抜な天才探偵というより、豊富な経験と鋭い観察眼で真実を見抜くベテラン捜査官のような風格を漂わせている。天知茂や北大路欣也が演じた明智にはどこか超人的なヒーロー像があったが、船越版はより人間的で現実味がある。派手なアクションや演出に頼らず、静かな佇まいで事件の核心へ迫る姿が印象的だ。長年にわたり刑事や検事、ジャーナリストなど数多くの"真実を追う人物"を演じてきた船越だからこそ生み出せる説得力がある。長年事件の真相を追い続けてきた人物のようなリアリティーが、この明智小五郎には宿っている。

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時代を超えて愛される「乱歩ワールド」の神髄

「黒蜥蜴」に漂う妖艶な美意識、「怪人二十面相」に息づく冒険活劇の面白さ。そして犯罪者の心の奥にまで踏み込む人間ドラマ。江戸川乱歩作品が長く愛される理由は、謎解きの枠を超えた、色あせない人間模様が息づいているからだ。船越英一郎が演じる新たな明智小五郎は、その奥深い乱歩ワールドを現代の視聴者へ届ける案内人として、確かな説得力を放っている。乱歩作品に初めて触れる人はもちろん、長年のファンにとっても新鮮な魅力を発見できるシリーズといえるだろう。

文/渡辺敏樹

放送日時:2026年7月29日 21:00~

チャンネル:映画・チャンネルNECO-HD

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