塩野瑛久がドラマ「無能の鷹」で見せた美しすぎるカメレオン俳優の真骨頂
2026.06.05
2012年に芸能界デビューを果たして以降、さまざまな映画やドラマに出演し、NHK大河ドラマ「光る君へ」の出演でその名を全国区に広めた俳優・塩野瑛久。「若手屈指のカメレオン俳優」として名高い彼の豊かな表現力に触れられる作品が、2024年にテレビ朝日系で放送された連続ドラマ「無能の鷹」だ。本作で見せた驚異的な役の振り幅と、視聴者の心を軽くする作品の魅力を深掘りしていく。
■見た目は有能、中身は無能?「無能の鷹」が描く異色のお仕事ドラマ
本作は、はんざき朝未による同名漫画を原作に、菜々緒演じる見た目は有能、中身は無能な新入社員・鷹野ツメ子を主人公とする異色のお仕事ドラマだ。ITコンサルティング会社「TALON」の面接会場に、風を吹かせながら颯爽(さっそう)と現れた鷹野。スマートな身のこなしと自信に満ちあふれるたたずまいで面接官を圧倒し、見事内定を勝ち取った彼女は同社の営業部に配属される。
どう見ても中堅エース級の"できるオーラ"に期待が集まるが、蓋(ふた)を開けてみると、鷹野はパソコン業務はおろか、資料のコピーやホチキス留めさえも危ういほどの無能な社員だった。燃費を「もえぴ」と読み間違えたり、拡大コピーで怪文書を量産したりと、鷹野のすがすがしいほどのポンコツっぷりと、彼女が起こす珍騒動に涙が出てくるほど笑える本作。だが、このドラマはただのコメディーではない。世代間ギャップによる分断やリモートワーク移行に伴うコミュニケーションの希薄化など、現代社会の課題を脚本・根本ノンジがさりげなくストーリーに落とし込んでいる。
どれだけミスをしても「私がこの会社を必要としているから、会社に必要とされているかは考えない」と言い切る鷹野の姿は、自分を偽って生きる人々の肩の力を抜き、心を軽くしてくれるはずだ。

■「光る君へ」一条天皇から「無能の鷹」鶸田道人へ。塩野瑛久が魅せる驚異の演技幅
本作が私たちに教えてくれるのは、自分に自信を持つことの大切さだ。そしてそのメッセージを最も体現しているのが、塩野演じる鶸田道人だろう。「TALON」の面接会場で出会った鷹野と同じ営業部に配属された鶸田は、大事な場面では必ずお腹が痛くなってしまうひ弱でヘタレなサラリーマンだ。
このドラマが放送されていた当時、塩野は大河ドラマ「光る君へ」にも出演していた。塩野が演じたのは66代天皇・一条天皇だ。御簾(みす)越しに装束姿で現れる初登場シーンでは、貴公子という言葉がぴったりな見目麗しい姿に視聴者が釘付けになった。神々しいまでの端正な顔立ちと気品あふれるたたずまいで、定子(高畑充希)へ依存していく危うさを繊細に表現した一条天皇。
そんな中で鶸田を演じている塩野を見て、あまりのギャップに驚いた人が多いのではないか。一条天皇を演じているときはキリッとしていたが、鶸田を演じているときは目に力がなく、どこか眠そうにも見える。また少し猫背気味な姿勢や、所在なさげな手の動きなど、塩野は特殊メイクなどなしに、その表情や身体表現のみで頼りなさそうなキャラクターを見事に作り出していた。
■周囲の個性を引き立てる塩野瑛久の「受け」の美学と、凸凹コンビの絆

加えて注目したいのが、塩野の"受け"の芝居だ。本作には、鷹野の指導係である鳩山樹(井浦新)や、部長の朱雀又一郎(高橋克実)、要領の良い中堅社員の雉谷耕太(工藤阿須加)など、一癖も二癖もあるキャラクターが勢揃いしている。
その中で、私たち視聴者の目線に一番近いのが鶸田といっても過言ではない。個性のぶつかり合いでカオスになり、ともすれば置いてけぼりにされそうな視聴者の心を、塩野が自然かつ可笑(おか)しみにあふれるリアクションで作品の世界に繋ぎ止めてくれるのだ。
特に鷹野と鶸田の相性は抜群だ。見た目は有能だが無能な鷹野と、見た目は無能だが実は努力家で有能な鶸田。真逆の2人はタッグを組み、鷹野の"できるオーラ"でクライアントを惹きつけ、鶸田の緻密な資料で説得するという形で奇跡を起こしていく。他者と力を合わせることで驚くべき成果を生むこと、そして信頼する人がいれば真価を発揮できることを、自信を深めていく鶸田の表情が体現している。
思いっきり爆笑できて心が温まる「無能の鷹」をぜひチェックしてほしい。塩野瑛久という俳優が持つ、助演でもきらりと光る確かな演技力と「美しすぎるカメレオン俳優」としての真骨頂を堪能できるはずだ。
文/苫とり子




