西島秀俊✕内野聖陽の距離感と愛情たっぷりの料理から目が離せない！
2024.09.17
「きのう何食べた？ 正月スペシャル２０２０」
よしながふみ原作の人気コミックを映像化したドラマ「きのう何食べた？」。西島秀俊と内野聖陽が演じる男2人暮らしの日常生活を描き、タイトルにある通り料理シーンが印象的に使われている。弁護士の筧史朗（西島秀俊）は、美容師の矢吹賢二（内野聖陽）と同居しているが、カップルゆえの悩みもあれば、ちょっとした行き違いからケンカになることも。2人の生活は、ほろ苦くも温かさにあふれている。
史朗は職場の同僚にはゲイであることを打ち明けていないが、両親には理解されている。スーパーで買い物をする際にも、最安の商品を選ぶことに徹底的にこだわるなど、きちょうめんな性格の史朗に対し、おおらか過ぎる賢二は史朗に苦言を呈されることもしばしば。2人でいる時に街で偶然出会った常連客にも、賢二は史朗が自分の「恋人」であることを気安く話してしまい、史朗を怒らせてしまう場面など、同性愛を扱ったドラマらしい描写もある。ただし、本作の魅力はそんな微妙なテーマを扱いながらも、基本的には男2人暮らしのさりげない日常を、極めてハートフルに正面から描いている潔さにある。
特に素晴らしいのは、いちずに史朗を愛している賢二の乙女チックないじらしさだ。史朗がかつて交際したことのある女性に嫉妬したり、女性の知人との仲を疑ったりする場面がユーモラスで、思わず笑顔にさせられる。しかし、内野の役作りと表現力が完璧なせいか、史朗への思いがあふれるシーンに泣かされることも多い。史朗に対するまなざしの優しさなど、愛情表現が豊かで細やかな演技力には思わずうなってしまう。
西島も少しクセのある史朗を大げさになることなく、繊細な演技で表現している。毎回登場する料理のシーンは圧巻で、淡々とレシピを説明しながら見事な包丁さばきを見せてくれる。あまりにもおいしそうなので、実際に史朗のマネをして調理に挑戦する視聴者も少なくないとか。時折、史朗の不在時などに賢二が料理をする場面もあるのだが、プロ級の腕前と思われる史朗に対して、武骨な感はありつつも彼の作る料理も食べたくなる。むしろ、「自分にもできそう」と思わせてくれるメニューが多いので、料理上手ではない視聴者にも参考になるはず。「サッポロ一番 みそラーメン」を作る場面は、一人暮らし男性には必見だ。
また、この物語に欠かせない要素としては、老境に達した史朗の両親との関わりだ。一人息子である史朗がゲイであることを理解し、彼を支えているものの孫を持てない寂しさなど、時に複雑な心情をのぞかせる。他にも、小日向大策（山本耕史）と「ジルベール」こと井上航（磯村勇斗）のカップルも面白い。小悪魔的なジルベールに振り回され、深夜にアイスを買いに行かされるなど、翻弄（ほんろう）される小日向の姿に哀愁を感じるが、少しほほ笑ましい。さらに、近所に住む主婦・富永佳代子（田中美佐子）たちと史朗との家族ぐるみの交流にもほっこりする。
基本的には穏やかな日々を送りながら、おいしい食事を心から楽しんでいる史朗と賢二の2人の姿を描く、決して刺激的でもドラマチックでもないが、不思議と引き付けられるドラマだ。そんな人気もあり、2021年には劇場版が公開、2023年にはseason2も放送された。互いの価値観の違いや男2人暮らしゆえの葛藤と向き合いながらも、お互いを必要として一緒に生活することの意味を確かめ合う「きのう何食べた？」は、まさに「食」を通して紡ぐ愛の物語であり、新しい形のラブストーリーとして心を打つ。
文／渡辺敏樹
