声優・鬼頭明里インタビュー#2「幸せになるためには必要なつらさもある。『平坦よりも凸凹でいいよ』に込めた思い」
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2025.04.04
『鬼滅の刃』の竈門禰豆子役、『虚構推理』の岩永琴子役、『地縛少年花子くん』の八尋寧々役など、数々の人気作品で印象的なキャラクターを演じている声優・鬼頭明里さん。天真爛漫な少女のハイトーンから冷静で理知的な大人の女性のロウトーンまで、幅広い声域と繊細な表現力で、さまざまなキャラクターに命を吹き込みます。さらにアーティストとしても活躍し、出演作品の主題歌からキャラソン、オリジナルソングまでその高い歌唱力で歌い上げ、2024年にはアーティスト活動5周年の記念ライブも敢行。最近では作詞も手がけるなど、その多彩な才能を発揮しています。このインタビューでは、声優、そしてアーティストとして活躍する鬼頭さんの、進化する表現の軌跡を全3回にわたってお届けします。
■自分が楽しく歌えなければ楽しさは届けられない
――2019年からはアーティストとしても活動されています。幼少期から振り返ってみて、鬼頭さんにとって歌ってどんなふうに関わってきたものなんでしょうか?
「そうですね、もう小学生の頃から友達としょっちゅうカラオケに行って、フリータイムでずっと歌い続けるみたいなことをやっていました。家でもずっと歌っていましたし、歌は本当に身近なものでした。学校では高校生のときに軽音楽部に入っていました。そんなに本格的な部活という感じではなかったんですけど、文化祭でも歌いましたね」
――軽音部だったんですね...!鬼頭さんが出て歌ったら、盛り上がりそう! 当時はどんな曲を歌っていたんですか?
「『いきものがかり』や『SCANDAL』の曲が多かったです。盛り上がるし、みんな知っているし、演奏がそこまで難しくもなかったのでよくその二つのバンドは演奏していました。文化祭での演奏は緊張していてあまり覚えていないですけど(笑)」
――でも、本当に歌うのがずっと好きだったんですね。現在のアーティスト活動ではどんなことを大事にしているんですか?
「そうですね、大切にしていることは自分が楽しんでやれることがまず第一かなって思っています。アーティスト活動を始めた頃は、どうすればいいのか全然わからないままやっていて、私自身、迷いながらやっていたような気がします。でも最近になって、『それだと聴いてくれてる人や周りの人が楽しめないんじゃないか』と思ったんです。だから『まずは私が楽しそうにして楽しく歌うこと』がいちばんで、その結果、みなさんに楽しんでもらえたらいいなと思うようになりました」
――自分が楽しむことが大事。アーティスト活動の中で「楽しい瞬間」はどんなときに感じますか?
「ライブ中に『みんなが楽しんでくれている』っていうのがわかるときですね。『あぁ、アーティスト活動をやってよかったな』と思います」
――やっぱり最終的には、楽しませたり、喜ばせるというのがご自身の楽しさに繋がるんですね。歌や音楽にはどんな力があると思いますか?
「とくにライブだと、ふだん言葉にできないことや、感じている思い......みんなが抱えているものが共鳴して、お客さんと一体感が生まれるような瞬間は、歌ならではの特別な魅力だと思います。あとは、気持ちが落ちているときに音楽ってすごく助けになってくれると思うので、そういった意味では音楽ってすごい力があるかなと思います。私自身も、テンションを上げたいときとか、上げたいけど自分で振って上げられないみたいな時に、音楽を聞いたりします」
――たしかに、鬼頭さんの曲も元気になれる曲が多いですよね。ミュージックビデオも、曲の世界観が伝わってきて素敵ですが、とくに「これ見てほしい!」というのはありますか?
「そうですね......『Magie×Magie』という曲があるんですけど、そのMVはもう本当にめちゃくちゃ「かわいい」に振り切った内容になっているんですね(笑)。自分だけで作ろうと思ったら、なかなかこういう路線にはできない気がするんですが、これは『お嬢と番犬くん』という少女漫画が原作のアニメのタイアップで、そのエンディング曲だったんですけど、そうした経緯もあって、かなりかわいらしい感じに作ってもらいました。自分から出てくるアイデアではないので、『こうしてアーティスト活動をしているからこそ、制作する機会があったMVだな』と自分でも思うくらい。ほかの曲ではなかなか見せられない自分を表現したつもりなので、レア度高いというか、その辺も含めて楽しんでいただけたらなと思います(笑)」
■「幸せってなんだろう?」から生まれた歌詞
――2024年には、ご自身で作詞を手がけた「キャンバス」も発売しました。ご自身での作詞は「みちくさ」を経て二曲目でしたよね?
「そうです。『みちくさ』は初めての作詞だったんですが、全部を自分で書いたわけではなくて。初めに曲と歌詞をいただいたときに聴いてみて『自分が歌うならこうしたいかも』と思ったんですよね。自分としては曲調のイメージから『疲れたときは休んで、自分のペースで行こうよ』という感じの、落ち着いたやさしい曲にしたい思いが浮かびました。そこで、ふっと湧いてきた歌詞のイメージをお返しした、『じゃあ、それでいきましょうか』という流れで、歌詞が採用されたという感じだったんです。なので、実質、作詞したのは半分くらいかな。一曲まるまる作詞したのは、『キャンバス』が初めての経験でした。『キャンバス』はアーティスト活動5周年記念でリリースするミニアルバムの表題にもなる曲だったので、自分のことや感じている思い、これからのことについて想像して書いた曲なんです」
――もう少し詳しくお聞きできますか?
「そうですね。結構、普段から『幸せってなんだろう?』と考えることが多いんです。例えば、幸せって自分が好きなことばかりを選んで摂取し続けていればいい、というものじゃないじゃないですか。そればっかりやってたら、飽きちゃうかもしれないし、楽しいと思えなくなってくるかもしれない。それに、ときには『こっちのほうがつらいかも』というほうを選択したほうが、後々になって幸せを実感することもあると思うんです。『楽しい』が自分の逃げ道になってしまうというか。途中、『平坦よりも凸凹でいいよ』という歌詞があるんですけど、たぶん、幸せになるために必要なつらさがあるし、幸せを感じるためには、凸凹なのもまたいいのかなって」
――深い......!「幸せってなんだろう?」という問いの答えが、歌詞に投影されているんですね。そして、そのミニアルバム「キャンバス」を携えて2024年には5周年のライブも開催。その思い出もお聞きしたいです。
「そうですね、5周年のライブでは2日かけて今までの楽曲全部をやりましたね。MCを入れるとすべての曲が入らないので、ほとんどMCなしでバッとやりました。一日それぞれも大変だったんですけど、通しリハをしたときが一番大変でした。一日で2日分の通しをやっていたので、さすがに疲れましたね。毎回のことではあるんですけど、普段の声優の仕事をしながらなので、リハーサルの回数があまり取れなくて『本当に本番できるのかな』という感じです」
――ステージ上の立ち位置とか衣装を変えるタイミングとか、それを確認する時間が少なかったということですよね?それは大変そう......!
「そう、だから初日はめちゃくちゃ緊張するんですよ。でも、緊張しながらもステージに立って、みなさんが楽しんでくれているのが見えると、だんだんと緊張が安心に変わっていって。元々、今回のライブは『みんなで一緒に楽しみたい』と思ってやったライブだったんです。だから、新しいアルバムには、みんなに声を出してもらったり手拍子してもらったりという曲をたくさん入れていたので、それをライブ会場で聞けるのも楽しみにしていました。声を出してほしいと思って作った曲では、イヤモニを外して皆さんの声を聞いたりしていたんです。それはすごく嬉しかったですし、皆さんが予習してきてくれているのが伝わってきて、『ようやく曲が完成したな』という風に思いましたね」
■宮野さんの手ほどきで長ゼリフを鍛えられた|『虚構推理』岩永琴子
(C)城平京・片瀬茶柴・講談社/虚構推理製作委員会
――「虚構推理」では"怪異"たちの知恵の神である主人公・岩永琴子を演じられています。あの作品は、物語も複雑でセリフのなかにも虚構と真実が入り混じっていて、観ていても大変そうだな、という気がしていました。
「『虚構推理』は第1期が放映されたのが結構前で、しばらく期間が空いて第2期を収録した作品だったのですが、ちょうど『鬼滅の刃』が始まったのと同時期にオーディションを受けた記憶があります。先に九郎役の宮野真守さんという大先輩の役が決まっていたので、『相手役も同じレベルの人だろうな。そしたら、私、絶対受かんないじゃん』と勝手に思い込んでいたんですよね。そしたら予想に反して、オーディションに受かってびっくり、みたいな。でも、始まってみたらおっしゃるとおり、まあ難しくて(笑)」
――とくにどんなポイントに難しさを感じていましたか?
「推理ものなので、とにかくしゃべるセリフが多くて長いんです。それを意味が伝わるようにしなければいけないし、物語の中で重要な部分は聞かせるように言わなければいけない。最初は、しゃべり切るだけでも精一杯という感じでした。でも、ありがたいことに宮野さんが毎回、『このセリフ、この文節は何が一番伝えたいかというと、この"〇〇"だよね』とか、『ってことはこのセリフにかかってくるのは、このセリフのこの言葉だから、ここは立てて言ったほうがいいよね』とか、ていねいに教えてくださったんです。もう、本当国語の授業を教えてくれる家庭教師みたいな感じ(笑)。そのおかげで、少しずつどんなふうに考えてセリフをしゃべればいいのかがわかるようになってきて、回を追うごとに、自分から意識的にセリフの読み方が工夫できるようになっていったと思います」
――前回の「地縛少年花子くん」で、緒方さんのおかげで成長できたというお話もありましたが、こちらでも結構学びが大きかったんですね。
「そうだと思います。それに私、『自分があまり台本に書き込みをしないほうがいいタイプなんだ』って気づけたのが『虚構推理』がきっかけだったんですよね。とくに第1期は難しい漢字もたくさん出てくるし、『長ゼリフを読めるようにしなきゃ』という思いもあって、台本にめちゃくちゃ書き込みをしていたんです。読み仮名をふったり、息継ぎの箇所に細かく線入れたり。でもその結果、目が滑るようになってしまいました。逆に台本が読みにくくなってしまって、噛んだり、つっかえたりすることが多くなってしまった。逆に、第2期ではあまり書き込まず、強調すべき大事な言葉だけ目印をつけておくくらいになりました。琴子のセリフが難しかった、そして宮野さんがいろいろと教えてくれたおかげで、『虚構推理』では長ゼリフに関してだいぶ鍛えられた気がします(笑)」
――鬼頭さんが感じる「虚構推理」の魅力を教えていただけますか?
(C)城平京・片瀬茶柴・講談社/虚構推理2製作委員会
「私が感じるこの作品のいちばんの魅力は、『真実とは違った、虚構の推理をする』という新しい観点の推理ものであることだと思います。しかも妖怪や怪異がいて、言ってしまえば『なんでもアリな世界』じゃないですか(笑)。そんなファンタジーの世界での出来事を、あくまで現実的に推理していくのがすごく面白いし、それがまた真実だったり、誰かを思ってのウソだったりして、それが魅力だなって思います。推理ものって、すこしイメージがカタくなりすぎてしまうこともあると思うんですが、『虚構推理』は適度にコミカルな要素もあったり、ひと息つけるような要素もあるので、総じて楽しく見られる作品なのも、いいなって思いますね。すごくかわいらしい女の子の主人公だけど、結構過激な下ネタを言うとか(笑)。コメディーと推理要素のいいバランス、そして独特な世界観とキャラクターが織りなす摩訶不思議な出来事を、現場の近くで目の当たりにしているような気持ちで楽しんでいただいていたら嬉しいですね」
■イヤだった自分の地声に自信が持てるようになった|『ようこそ実力至上主義の教室へ』堀北鈴音
――「ようこそ実力至上主義の教室へ」(以下『よう実』)では、堀北鈴音役を演じていらっしゃいます。
「私にとっては、深夜アニメのヒロインとして初めてオーディションに受かった作品が『よう実』の堀北鈴音だったので、すごく思い入れがある作品です。こうやって第2期、第3期と長くアニメで演じ続けられている作品になったこともすごくありがたいなと思います。現場でも、第1期の頃からキャスト同士が仲良くて、登場キャラクターも多い作品なので、まるで学校のクラスみたいに『楽しい』と思える作品ですね。
そのなかでも、鈴音はわりと語気が強くてハキハキしゃべる役で、最初の頃は『どうしても早口になってしまう』というクセから抜け出せず、いつもボールド(セリフに割り当てられた尺)が余ってしまい、けっこう苦労しました。でも、長く携わらせていただいている作品だからこそ、自分の成長を感じられる機会もあって、第3期に入ってからは自分のセリフをしゃべりながら、『こういうセリフ、昔はしっかり言えなかったな』とか思い出しては、懐かしい気持ちにひたってみたり。そんなふうに、声優としての喜びを噛み締めたりもできる作品だった気がします(笑)」
(C)衣笠彰梧・KADOKAWA刊/ようこそ実力至上主義の教室へ製作委員会
――作中での鈴音も、クラスでの出来事や綾小路のやり方を見ながらどんどん成長していっていますよね。鬼頭さん自身、鈴音を演じて自分にはどんな変化がありましたか?
「私、地声が低いんですけど、駆け出しの頃はこの低い地声でお芝居をすることにすごく苦手意識があったんです。というのも、じつは声優になった理由の一つが、地声の低さがイヤで高い声を出せるようになりたかったから。鈴音のような低い声で演じることに、最初は大きな抵抗感がありました。ただ、『よう実』を通して鈴音を演じているときに、意外にも周りに『鬼頭さん、地声いいよ』と言ってくれる共演者さんやスタッフさんの方が多くて、この作品をきっかけに割と低い声の役を任せていただく機会も増えたんです。任せていただいたからには真剣に向き合わなければいけないと思ったし、自分でもいろいろ試行錯誤しました。現場でのディレクションから学ぶこともあって、結果的に低い声の役もどんどん苦手意識がなくなっていって、自分の自信にも繋がりました。だから、鈴音を演じられたことは、私の声優人生にとっては、とても大きかったなと思っているんです」
取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃