ブルージェイズ・岡本和真選手インタビューで見えた、選手として、人としての魅力【カーロン・マイア】
スポーツ 連載コラム
2026.08.20
カーロン・マイアの知ればハマるMLB
第二回:岡本和真選手が見せてくれた、一流のかたち
一流の野球選手とは、どんな選手でしょうか。
ホームランの数や打率、タイトルの数を思い浮かべる方が多いかもしれません。もちろん、それらは選手を評価する大切な指標です。でも、数字だけでは見えてこないものがあります。
これまで数多くのメジャーリーガーを取材してきましたが、私がいつも知りたくなるのは、その選手がどんな人なのか、ということです。トロント・ブルージェイズの岡本和真選手にインタビューできると決まったときも、一番知りたかったのは、プレーのことだけではありませんでした。
「岡本選手は、どんな人なんだろう」
今回は、岡本選手へのインタビューを通して感じたことを、皆さんにもお伝えできればと思います。

写真:Toronto Blue Jays
■メジャーリーグという新しい環境で
インタビュー前日の試合(現地時間7月10日)で、岡本選手は22号本塁打を放ち、大谷翔平選手が持っていた日本出身選手のメジャー1年目最多本塁打記録に並びました。
※その後、7月24日に23号本塁打を記録し、同記録を更新
その節目ともいえるタイミングでのインタビューだったため、まずはメジャーで打つホームランについて聞きました。
――ここメジャーリーグで打つホームランは、日本で打つホームランとは違った感覚がありますか?
「やっぱり場所が変わって、また一からスタートする中で、一本目を打てたときはうれしかったです。日本でも毎年そうなんですけど、一本出るまでは結構不安になるんですよ。大丈夫かな?って。だから一本出たときは、ちょっとほっとしました」
「一本出るまでは結構不安になるんですよ」という言葉が、少し意外でした。
新しいシーズンが始まれば、前年にどれだけ結果を残していても、また最初の一本から。その一言から、シーズン最初の一本が持つ重みを感じました。
続いて聞いたのは、メジャーリーグの環境への慣れについてでした。これまで取材した選手の中には、メジャー1年目は長距離移動や時差、日々違う投手との対戦など、新しい環境に慣れるまで2〜3カ月かかったと話す選手もいました。
――実際にこちらで生活してみて、環境には慣れてきたと感じますか?
「そうですね。昔と比べると、今は情報も多いですし、来たときよりもいろいろ分かってきました。いい環境の中でやらせてもらっています」
近年は日本からメジャーへ渡る選手も増え、現地での生活やプレー環境を知る機会も多くなりました。それでも、新しい環境で自分なりのリズムをつかむには、時間がかかります。その中で欠かせないのが、睡眠です。時差や深夜の移動が続くメジャーリーグでは、どんな環境でもしっかり眠れることが、日々のコンディションを整える上で大切になります。そこで、岡本選手が睡眠で意識していることを聞きました。
――睡眠時間を確保するために、何か工夫していることはありますか?
「こっちは朝がゆっくりめなので、比較的しっかり寝られます」
――きっちり睡眠は取れているんですね。
「寝るのは得意なので」
あまりにもあっさりとした答えに、思わず笑ってしまいました。
――結構すんなり、スッと寝られるんですか?
「そうです。寝るのが好きなので(笑)」
時差や長距離移動を乗り切るための独自のルーティンがあるのかと思っていましたが、返ってきたのは「寝るのが得意」「寝るのが好き」という、とてもシンプルな答えでした。その自然体な一面も、岡本選手らしい魅力の一つだなと感じました。

写真:Toronto Blue Jays
では、実際にメジャーリーグでプレーする中で、野球についてはどんなことを感じているのでしょうか。
――WBCでメジャーリーガーとの対戦も経験されていましたが、実際にメジャーリーグでプレーするようになって、思っていたのと違うと感じたことはありますか?
「想像以上にピッチャーのコントロールがいいなと思いました。勝手なイメージですけど、もっとアバウトなのかなと思っていました。でも来てみたら、みんなすごくコントロールがいい。スピードもありますし、変化球のキレもすごい。その中でコントロールもある。全員が全員ではないですけど、やっぱり勝っているピッチャーは特にそう感じます」
速いボールや鋭い変化球だけでなく、それを狙ったところへ投げ切る制球力。岡本選手の言葉から、メジャーリーグで結果を残す投手たちのレベルの高さが伝わってきました。
近年のメジャーリーグでは、データ分析がプレーに深く取り入れられています。相手投手を分析するだけでなく、自分の状態を振り返る際にも、さまざまな数値が活用されています。そんな環境の中で、岡本選手はデータとどのように向き合っているのでしょうか。
――メジャーリーグでは、相手投手の攻略や、自分のバッティングを振り返る際にも、さまざまなデータが活用されています。岡本選手が「これは役立つ」と感じるデータはありますか?
「たくさんあります。(対戦する)ピッチャーもみんな初めてなので、大体のイメージの中で打席に入るわけです。でも、数値がそうだったからといって現実的にそうなるわけではない。その辺は一長一短というか、良いところと悪いところがあるんですけど、ないよりはある分、できることは増えます」
――データは参考にしつつも、最後は感覚で判断する部分もあるのでしょうか。
「相手のその日のコンディションも違うと思いますし。でも今日はこうだったとか、前回よりこれが良くなったとかはデータで分かるんで、そういう見られる部分もあるんですけど、何も知らずに行くよりは、知っていた方がいいです」

練習中の岡本選手とブラディミール・ゲレーロ・ジュニア選手
写真:Toronto Blue Jays
■チームメートとの距離
ここからはチームメートとのやり取りや、普段の岡本選手が見えてくるような質問もしてみました。
取材の日、練習後に岡本選手とチームメートのブラディミール・ゲレーロ・ジュニア選手が、日本式のお辞儀を交わす場面を見ることができました。そのやりとりを見て、二人が仲良くなったきっかけについて聞きました。
――ゲレーロ・ジュニア選手とは、どうやって仲良くなったんですか?
「仲が良いか分かんないですけど(笑)、キャンプの時からいろいろ教えてくれたり、結構心配してくれたり、こうしたらいいよとか、そういうところを見つけて言ってくれる。僕がユニフォームを間違えて着ているときとか」
――そういうことまで教えてくれるんですね。
「間違えていると言ってくれたりするので。(プレーのことに限らず)いろいろ教えてくれています」
グラウンドでのプレーだけでなく、ユニフォームの着方まで気にかけてくれる。その何気ないエピソードからも、岡本選手がチームの輪の中に自然と溶け込んでいることがよく分かりました。

キャッチボールをする岡本選手とブラディミール・ゲレーロ・ジュニア選手
――ゲレーロ・ジュニア選手の人としての魅力は、どんなところだと思いますか?
「すごいポジティブで。すごいポジティブ(笑)」
迷うことなく同じ言葉を繰り返した答えからも、岡本選手が感じているゲレーロ・ジュニア選手の人柄が伝わってきました。
メジャー初ホームラン後のヒーローインタビューでは、そのゲレーロ・ジュニア選手たちから大量の氷水を浴びせられていた岡本選手。
――あのメジャースタイルの祝福は、かなり冷たかったですか?
「あれはちょっとびっくりしました。マジで想像の倍以上冷たかったです」
――もしゲレーロ・ジュニア選手に、チームからあのときのお返しとして何でもかけていいよと言われたら、何をかけますか?
「生クリーム」
少し考えるのかと思いましたが、返事は一瞬でした。
――生クリームですか(笑)。
「冗談ですけど(笑)」

MLBを代表するスーパースター ブラディミール・ゲレーロ・ジュニア選手
写真:Toronto Blue Jays
岡本選手らしい、思わず笑ってしまうやり取りでした。こうした豪快な祝福だけでなく、チーム内では岡本選手を巻き込んだ、さまざまなやり取りも生まれています。
休養日となった試合前には、マイルズ・ストロー選手が「今日はベンチから動かさない」とばかりに、岡本選手の体をダグアウトのベンチにテープでぐるぐる巻きにする場面が多くのメディアで取り上げられました。岡本選手も戸惑いながら笑顔を見せ、最後には口にまでテープを貼られてしまいます。
メジャー初ホームラン後には大量の氷水を浴びせられ、休養日にはベンチにテープで固定される。どちらもチームメートだからこそできる、親しみのこもったいたずらです。
言葉や文化の違いを超えて、こうしたやり取りが自然に生まれていること自体が、岡本選手がチームの一員として受け入れられている証なのだと感じました。人を引きつける人柄に、国境は関係ありません。
■言葉の向こうに見えた人柄
インタビューが決まった時から、聞いてみたかったことがありました。岡本選手が巨人時代、ファンの子どもから「どうしたらたくさん食べられますか?」と聞かれ、「三角食べ」と答えていたことです。
――今も三角食べをしているんですか?
「基本的にはします。スープがなかったとしても、ご飯、おかず、野菜みたいな感じで食べるんですよ。僕らが小学校の頃は、三角食べが教科書に載っていたんです。それが一番バランスのいい食べ方みたいに書いてありました。今はもうないみたいですね。今だったらベジファーストとかになっているかもしれないですけど。僕はあれ、結構ガチで答えていたんです」
冗談で答えていたわけではなく、本当に今も続けているのだそうです。
――もう癖になっているんですね。
「染みついています」
そこで、カナダやアメリカの食事で三角食べをするなら、どんな組み合わせになるのか聞いてみました。
「何でしょうね。でも絶対に、炭水化物とたんぱく質と野菜はあるので、それを食べます。例えば、ハンバーガーを食べて、ポテトを食べて、コーラを飲むみたいな。三角食べ(笑)」
確かに三角にはなっていますが...。ただ、栄養のバランスについては、少し別の話かもしれません(笑)。
ホームランの話では、毎シーズン最初の一本が出るまでは不安になると話し、睡眠の話では寝るのが得意と即答する。そして三角食べの話では、北米版の組み合わせまで真剣に考える、一つひとつの答えは決して長くありません。それでも、一つひとつの答えから、人柄が自然と伝わってきましたし、時折、思わず笑ってしまうようなユーモアものぞきます。

取材前、私が知りたかったのは「どんな選手なのか」だけではありませんでした。
「どんな人なんだろう」。
その答えが、このインタビューの一つひとつのやり取りの中にあったような気がしました。
■変わらない人柄
取材当日、巨人時代のユニフォームを着た現地のファンが岡本選手に背中へのサインをお願いしていました。岡本選手は笑顔で応じ、その後も写真撮影を希望するファン一人ひとりに丁寧に対応していました。その姿勢は、日本時代から変わらないものなのでしょうか。
そこで、元プロ野球選手で、現在はロサンゼルスでドジャースを中心にメジャーリーグの取材をしているレポーター・記者の鈴木優さんにも話を聞きました。鈴木さんはオリックス、巨人で投手としてプレーし、現役時代には岡本選手との対戦経験もあります。
「岡本選手というバッターは、とにかく打撃が上手いんです。ただ飛ばすだけじゃなくて、いいポイントで強い打球を打てる確率がすごく高い。だから投げる側からすると、本当に嫌なバッターでした」
しかし、鈴木さんが繰り返し話していたのは、岡本選手の人柄でした。
「(岡本選手は)本当に昔から変わらないんです。今はメディアと選手という立場になりましたけど、対応が全然変わらない。超一流になっても、いい人であり続けられる。それが彼の一番いいところだと思います」
今年WBCで再会した時には、こんな出来事もあったそうです。
「一度チームバスに乗ってしまうと、そのまま行ってしまう選手も多いんです。でも岡本選手は、わざわざ降りてきてくれた。選手だった自分だから分かるんですけど、バスから降りるのって、実は結構面倒なんですよ。でも、それを自然にできる優しさがある」
続けて、メジャー移籍後のチームへのなじみ方については、
「チームにどんなふうに溶け込んでいるのかなというところも見ていたんですけど、いろんな選手が岡本選手のところへ自然に話しに来ていました。大谷選手や山本投手もそうですが、チームになじむのが早い選手は、やっぱりプレーへの影響も少ない。自分がやりやすい環境を自然に作れる選手なんです。そういう人間性も、一流選手の共通点なんじゃないでしょうか」
その言葉を聞いて、試合前に私が見た岡本選手の姿が、一つにつながったような気がしました。

写真:Toronto Blue Jays
岡本選手には最後に、日本で応援しているファンへ向けて、メッセージをお願いしました。
「夜中や、朝から試合を見て応援してくれている方がいると思うんですけど、そういう方が、元気になるようなプレーができればいいなと思います」
派手な言葉ではありません。でも、その一言に岡本選手らしさが表れているように感じました。
ホームランや打率は、記録として残ります。一方で、ファンへの気遣いやチームメートとの何気ないやり取り、人への接し方は、数字には残りません。それでも、そういう姿は、人の記憶に残ります。
超一流になっても、変わらない。
それが、岡本和真選手という「一流」なのだと思いました。
カーロン・マイア (ライター)
アメリカを拠点に、MLBやNBAなどスポーツ取材16年。TV、ラジオリポーター、スポーツコラムの執筆、ニュース取材、番組コーディネーターとして、NHKをはじめとする国内主要メディアなどで活躍
カーロン・マイア (ライター)
アメリカを拠点に、MLBやNBAなどスポーツ取材16年。TV、ラジオリポーター、スポーツコラムの執筆、ニュース取材、番組コーディネーターとして、NHKをはじめとする国内主要メディアなどで活躍



