山田涼介と浜辺美波が映画『サイレントラブ』でたどり着いた美し過ぎるキスシーン
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2026.02.27
数あるラブストーリーの中で、記憶に残る印象的なキスシーンが描かれる作品は多々あるが、その中でも近年、特にキスシーンが話題となった作品が映画『サイレントラブ』(2024年)だろう。同作のキスシーンはポスターにも使われており、「絵画のよう」「美しい」との声が多く上がり公開前から話題となった。
このシーンは、ビジュアルだけでも"美しい"のだが、作品を鑑賞してたどり着くと、より一層その"美しさ"に胸を打たれてしまう。というのもこのシーンは、山田涼介演じる主人公の蒼と浜辺美波演じるヒロインの美夏が、互いに思いを寄せながらも環境やすれ違いでなかなか結ばれず、紆余曲折を経てたどり着くクライマックスシーンだからだ。
クライマックスシーンをポスターカットにしているというのは、いわゆるネタバレになってしまうのだが、危ぶむなかれ。この作品はクライマックスに至るまでの経緯が醍醐味で「どんな物語を紡いでたどり着いたのか」を味わうものだからだ。映画『ミッドナイトスワン』(2020年)など、登場人物たちの心の機微を丁寧に描いて、見る者の心を激しく揺さぶる作品を世に送り出している内田英治監督が、原案・脚本・監督を手がけていることが、何よりの説得力となるだろう。そして、その醍醐味を山田涼介が圧巻の演技で味わい深いものに昇華している。

(C)2024「サイレントラブ」製作委員会
ある事件がきっかけで声を失い、音大の清掃員として働きながら、希望もなくただ生きているだけの蒼(山田)は、ある日、不慮の事故で視力を失い、校舎の屋上から飛び降りようとする美夏(浜辺)を助ける。後日、校内で美夏を見かけた蒼は、彼女が「ピアニストになる」という夢をかなえるために必死にもがいている姿に惹かれ、彼女の夢を応援するように。
声が出せない蒼と目が見えない美夏は、そっと触れる人差し指とガムランボールの音色だけをツールに心を通わせていく。だが、ピアニストを目指す美夏と清掃員の蒼とでは、住む世界が違い過ぎる上、不幸なアクシデントも重なりすれ違ってしまう。そんな中、彼らの運命を引き裂く大きな事件が起こる――というストーリー。
この蒼という主人公を山田が快演。まず見事なのは、彼の美しいビジュアルからにじみ出るオーラが全て消し去られているところだ。アイドルグループの中心メンバーとして活躍している普段のキラキラとした彼の残り香すらなく、もはや別人と言っても過言ではないレベルで、登場シーンから驚かされる。その役作りは微に入り細を穿っており、「目が死んでいる」「表情に変化がない」「気だるい歩き方」「常に猫背」など、頭のてっぺんから足の先に至るまで、全てが"ただ漠然と毎日をやり過ごしている人物"を作り上げるために練りに練って作り込まれている。

(C)2024「サイレントラブ」製作委員会
続いて、蒼にとって一番の特徴であり、表現する上での大きな障害でもある「声が出せない」という要素を、見ていて全く気にならないほどの高いクオリティーの感情表現で、乗り越えているところがすさまじい。蒼は決して感情の起伏の激しいタイプではないにも関わらず、話しているのと変わらないほどに彼の感情の動きが伝わってくる。人生を諦めていて、特にこだわりや強い思いがない役であるため、日常的には感情の変化もそうないのだが、声を出していないことを忘れてしまうほど。それだけでも、山田の役者として表現力の奥深さにただただ圧倒されてしまう。
さらに、"ただ漠然と毎日をやり過ごしている人物"が美夏と出会い、彼女の夢を諦めない姿勢に心動かされるさまや、彼女のためにそっと寄り添う"不器用過ぎる優しさ"の表現もすばらしい。いきなり何か大きなきっかけがあって変わるなどではなく、「命を救った女性を後日見かけ、気になっていたら、夢に向かってもがいていることを次第に知り、いつしか彼女を全てから護ろうしていく」という流れを、ゆっくりとだが確実にグラデーションで見せていき、荒んだ心が美夏によって洗われていく様子を見事に表している。
しかも、そのグラデーションに合わせて死んでいた目に光が宿っていき、いつしか"ただ毎日をやり過ごす"から"美夏のために生きる"に変わっているのだ。一定期間を約2時間に凝縮して描く作品において、この心の移り変わりを滑らかなグラデーションで表現できる演技力は、役者の中でも群を抜いているといえる。

(C)2024「サイレントラブ」製作委員会
一方で、不慮の事故で夢が遠のいてしまい、焦るあまり周りを敵視するような頑なな態度だったところから、そっと寄り添ってくれる蒼によって次第に心が解かれていく美夏を、山田と同じくグラデーションで表す浜辺の演技力も負けず劣らず卓越している。この2人の繊細な芝居によって紡がれる心の機微があればこそ、最後のキスシーンが燦然と輝くのだ。
アイドルの匂いを一切断って、いち役者としてその実力を存分に発揮している山田の奥深い演技と圧倒的な表現力を感じながら、浜辺との演技のマリアージュから成る醍醐味をぜひ楽しんでいただきたい。
文/原田健




