笑って泣ける!三谷幸喜作品の魅力を探る
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2024.09.02
脚本・監督最新作『スオミの話をしよう』が9月13日(金)に公開される三谷幸喜。舞台やドラマなど、さまざまな創作の場で演出家・脚本家として活躍している。これまで8本の映画作品で脚本・監督を務めてきたが、いずれもヒットを飛ばし、高評価を獲得している。そんな三谷が手がけた映画の魅力を、過去作をたどりながら検証する。
三谷は初め演劇の分野で頭角を現わし、彼の主宰する劇団「東京サンシャインボーイズ」の舞台劇を映画化したのが初映画監督作『ラヂオの時間』だ。ラジオドラマの脚本が、スタッフや声優の思惑により現場で変化していく、そんなドタバタ劇が繰り広げられる。展開こそドタバタだがハチャメチャではなく、ユーモアとウィットに富んだセリフのやりとりは三谷作品の洗練ともいえるだろう。本作は、人間同士の思いのぶつかり合いが騒動を呼ぶ物語だが、これはマイホーム建築のトラブルを描いた2作目『みんなのいえ』にも共通している。
『ラヂオの時間』の舞台はほぼラジオ局だが、三谷作品にはこのような限定空間を舞台にした作品が多くそれ故に人間ドラマの密度も濃くなる。3作目『THE有頂天ホテル』では、大みそかのとあるホテルに舞台を限定。こちらもホテルスタッフや客たちのドタバタが描かれており、笑いを誘う。1930~50年代の黄金期ハリウッドの、いわゆる"グランド・ホテル"形式で作られた作品だが、この時期のハリウッドをこよなく愛する、三谷監督らしい軽妙洒脱な語り口が光る。
続く4作目『ザ・マジックアワー』は、これまでの現代劇から一転、昭和の匂いを感じさせる無国籍風の町を舞台に、ギャングの世界で殺し屋の代役を務めることになった売れない俳優の悪戦苦闘が描かれる。さらに、5作目『ステキな金縛り』ではファンタジーにも挑戦。殺人のぬれぎぬを着せられた男の冤罪(えんざい)を証明できる、唯一の証人である落ち武者の幽霊を法廷に立たせようとする弁護士の奮闘劇が展開される。荒唐無稽なストーリーでも三谷の手にかかれば、その世界観がしっかり成立し、笑いと人間味にあふれたエンタテインメントへと昇華する。
6作目の『清須会議』は三谷初の時代劇で、戦国時代の織田信長亡き後に開かれた、世継ぎをめぐる実際の会議に題材を得ている。柴田勝家や羽柴秀吉、お市の方などの歴史に名高い人物が駆け引きを繰り広げるが、ここでも三谷の軽妙なタッチがさえ渡る。また、7作目『ギャラクシー街道』を挟んで作られた8作目の『記憶にござません!』では、支持率最低の内閣総理大臣が記憶喪失に陥ったまま、国政の舞台に担ぎ出される姿を描く。社会風刺を含みながらも、それを強調することなくユーモラスな人間ドラマに仕立てるのは、さすがとしか言いようがない。
常に豪華なキャストが結集する華やかさや、明るいヒューマニズム、セットのゴージャスさなど、三谷の映画には魅力があふれている。5年ぶりの新作『スオミの話をしよう』も、もちろんそんな魅力にあふれた注目作。三谷監督の過去作をたっぷりと味わって、この新作に備えてほしい。
文/相馬学