『いびってこない義母と義姉』美冶を包み込む家族の優しさと「大切にされていい」という思い【松井玲奈】
アニメ 見放題連載コラム
2026.10.11
『いびってこない義母と義姉』は、タイトル通り主人公・美冶(みや)の覚悟をことごとく裏切る。義母てると義姉まりか、ありさは彼女をいびるどころか、新しい家族として迎え入れるために全力を尽くすのだ。
母と二人で暮らす美冶に訪れた転機
とある名家の庶子である中村美冶は、母と二人貧しく幸せに暮らしていた。ある日、最愛の母が他界し、鴻蔵家の本家に引き取られることになる。そこで美冶を待ち受けるのは義母と義姉との生活。物語は美冶の視点を通して語られるので、「お義母様もお義姉様も、妾(めかけ)の子が憎いはず。どんな仕打ちも受け入れる」と覚悟を決める美冶。
てるたちの厳しい顔つきと美冶の境遇から、見る側もシンデレラのような継子いじめを予想する。しかしタイトル通り、彼女たちは美冶をまったくいびらない。それどころか、てる、まりか、ありさの三人は、美冶がかわいくて仕方がないとばかりに、最大限の愛情で包み込んでくれるのだ。この豪快な肩透かしこそ、本作のおかしさである。

(C)おつじ・一迅社/「いびってこない義母と義姉」製作委員会
「いびられる覚悟」を裏切る新しい家族の愛
美冶が手をケガしたまりかに実母の形見のハンカチを差し出すと、義姉たちは「そんな大切なものを簡単に人に貸すものじゃない」と美冶を叱る。てるは大切な形見を丈夫にするために、きれいな刺繍(ししゅう)まで施してくれる。言葉は強く不器用だけれど、彼女たちの行動からは新しい家族の絆を紡いでいこうとするのがよく分かる。何より義母てるの懐の深さが、美冶の大きな救いになっている気がした。
義姉たちを「姉」と呼ぶことに決めた後、意を決し、てるを「お母様」と呼ぶと、彼女は美冶を一喝する。調子に乗ったまねをしてしまったと反省をする美冶だったが、てるの本心は全く違うものだった。一人で美冶を立派に育てた実母に対する尊敬と、美冶が抱く愛情を理解した上で、「本当のお母さんがいるのだから無理をしなくていい」と諭すのである。「心から呼びたくなるまではマミーとお呼び」とそっと肩を抱く、てるの言葉からは、相手の痛みをくみ取る懐の深さを感じられる。
自分が母親になるのではなく、心の中にいる本当の母親の居場所を守ってくれた。そこに、てるの相手を思いやり、大切なものを尊重する優しさが表れている。鴻蔵家の人々は、暮らしのさまざまな場面で美冶の居場所を作ろうとしてくれる。「こんなステキなお家に来ることができて良かったね」と思わずにはいられない。

(C)おつじ・一迅社/「いびってこない義母と義姉」製作委員会
「マミー」に込められたてるの優しさ
義姉たちが優しく美冶を迎え入れる背景には、母てるの存在も大きいのだろう。子どもの頃から、使用人や周りの人間に優しく手を差し伸べてきた彼女のもとで育ったからだ。しかし、誰かに優しさを持って接することは誰にでもできることではない。心に余裕を持つこと、そして人の痛みを知っている人でないとできないことだと思う。
まりかは使用人の三ツ矢の失敗をとがめることはしても、「あなたが居なくなればこのおいしい紅茶が飲めなくなる」と相手のいいところを褒める。妹のありさは従姉妹の弥栄子が美冶の存在に嫉妬した時に、そっと「あなたは特別な存在よ」と言葉ではなく行動で教えてあげることができる。姉妹が母から受けてきた優しさを人に渡すことができる人であることを表す、とても大切なエピソードだ。

(C)おつじ・一迅社/「いびってこない義母と義姉」製作委員会
美冶が知る「大切にされていい」ということ
最初は自分を肯定できず、「私なんか」とうつむきがちだった美冶は周りに大切にされることで、だんだんと自分の存在を認められるようになっていく。「ここに居ていいんだ」「ここが自分の居場所だ」と安心して過ごせることは、これからを生きる彼女の大切なお守りになる。家族の惜しみない愛情に触れ、自然な笑顔を見せるようになる彼女の姿にこちらまで胸を打たれる。美冶が新しい家で学んでいくのは、人に優しくする方法ではない。差し出された優しさを受け取り、「自分も大切にされていいのだ」と信じる方法だ。そして受け取った優しさは、やがて友人たちへと広がりを見せていく。
「お母様」と呼ばせるのではなく、心からそう呼べる日まで「マミー」で待つ。人を家族にするのは血のつながりでも呼び名でもなく、その人の過去ごと大切にする時間なのかもしれない。作品に触れた今、私は誰かに優しくしたいと思うと同時に、差し出された優しさを疑わず受け取ってみたくなった。




