声優・藤原夏海インタビュー#3 経験も、人のお芝居も、キャラの人生も。声優ならすべてが自分の武器になる。
アニメ インタビュー連載コラム
2026.10.30
TVアニメ『SPY×FAMILY』ダミアン・デズモンド役をはじめ、『MAJOR 2nd』 の茂野大吾役、『真・中華一番!』リュウ・マオシン役など、数々の作品で等身大の少年性や情熱的なキャラクターを演じ、そのまっすぐで芯のある声と真摯な熱量で観る者の心を惹きつける藤原夏海さん。この企画では全3回にわたって、その声優を志したきっかけから、役作り、理想の声優像にいたるまで、出演作品のお話とともにインタビュー。飾らない、その素顔の魅力に迫ります。
■「いちばん似てるな」って感じたのは、響迂

――藤原さんは少年役を演じることが多いですが、ふだん役作りではどんなことを意識されているのでしょうか?
「台本や設定資料をいただいたら、まずはビジュアルとセリフから、そのキャラがどんな少年なのかを探っていきます。キャラデザを見て、スラっと線の細い子なのかな、太めの子なのか。体格とか見た目って『どんな声を出すのか』においてはかなり重要なポイントで...!そこから、『きっとこんな感じの声なんだろうな』って想像しながら、原作や資料を読んでいくんです」
――見た目で声を想像しつつ、内面を探っていく?
「そうですね、その子がどんなことで喜んだり悲しんだりするのか、何を感じる子なのかをインプットしていく感じです。何を大事にしているのかがわかると、『この子ならきっと、このセリフをこんなふうに言うだろう』って、イメージを組み立てていけるようになるんです。性格をしっかり吸収したうえで表現していく、って感じで」
――何を大事にしているのか。信念にも近い感じでしょうか?
「そうですね。たとえばそのキャラが『何を目的に』動いているのかとかも、すごく大事で...!極端な話をすると、人が亡くなってしまったときに、子どもらしくわんわん大泣きするタイプなのか、それともぐっと押し殺して静かに泣くタイプなのか。そういう細かいニュアンスのピースをはめていく、みたいな感覚です。まぁ私自身は、大人なのにわんわん泣いちゃうタイプなんですけど(笑)」
――いままで演じられてきたなかで、いちばん「藤原さんと気持ちが似ている役」と言われたらどのキャラって答えますか?
「うーん...だれだろう?......あ、最近でいうと『薬屋のひとりごと』に出てくる響迂っていう男の子ですね。その子はすごく天真爛漫で、すごく子どもらしい子どもなんですよ。主人公の猫猫(マオマオ)のことを『そばかす!』とか言って呼びつけて、ワーって行っちゃうようなタイプの子なので、そういう無邪気なところがいちばん似てるかもしれません」
――たしかに、今日初めてお会いしましたけど、藤原さんって周りにいる人も明るくしてしまうくらい、明るいですよね!
「ほんとですか...!?嬉しいー!ありがとうございます!じつは、ほんとにありがたいことに、いただける役の少年キャラが、ちょっと賢かったり、かっこよかったりすることも多いんですけど、そういうタイプはどちらかというと憧れで...!(笑) もちろん、響迂も素直でまっすぐなところが魅力的だし、尊敬できる部分もあるんですけど、無邪気な感じのほうが強いので、似てるって感じるのかも。性格的にはいちばん近いと思ってますね!」
■キャラとして生きた経験も、自分の力になる

――藤原さんにとっての理想の声優像って、どんな姿ですか?
「そうですね、理想の声優像か......。私自身も、現場でいろんな方のお芝居を聞いてあらためて感じてきたことでもあるんですけど、やっぱり声を聞いた瞬間に『めちゃくちゃ"うわっ!"って心が動く声優』というのが、私の中では理想なんです。いまの事務所に入ったときからずっと『そうなりたい』って言ってきたし、いまでももっといろんな人の心をバンバン、わしゃわしゃわしゃー!って掴んでいっちゃう声優でいられたらいいな、っていうのは、つねに思ってますね!」
――わしゃわしゃわしゃー!(笑) そんな声優になるためにはどんなことが必要だと思いますか?
「やっぱり、いろんな経験を積むのは大事ですよね...!お芝居って、演じている人の"人生"が、すごく活きる職業じゃないですか。お芝居で表現したものを、強いパワーでリアルに人の心に届けるためには、そこに『リアリティ』や『生々しさ』が絶対必要なんです。でも、自分が同じような経験をしていないとそれって表現できないと思うんですよね」
――実際に味わった感情だからこそ、観てる人にリアルに届けられる?
「そうなんです。前々回のインタビューで『真・中華一番!』の料理のお話をしたときもそうなんですけど、たとえば当時の私がもっと料理が好きだったりしたら、マオのお芝居の表現は、またちょっと違うものになってたって思うんです。同じように、なるべくいろんな経験をして素材を集めておいたほうが、何か特別な表現をしなきゃいけないとき、より人の心に届くんじゃないかな、って」
――経験すべてが、自分の"引き出し"になっていくんですね。
「そうそう!しかも!しかもですよ!声優って『アニメを通してキャラが経験したこと』まで、自分の武器にできるんですよ!それって、めちゃくちゃおもしろいことじゃないですか!自分の人生だけじゃなくて、違う人物の人生も経験できるって、ほかの職業じゃないことですよね...!」
――たしかに!声のお芝居だからこそ、ですよね。
「そうなんです!だから、先輩声優の方々を見ていて、『本当にいろいろな経験をしてきたんだなぁ』っていうのが、声からすぐわかるんですよ...!異世界に転生したり、モンスターと戦ったり、みたいに現実ではできないことでも、作品の中では経験できる。そしたら、次のお芝居はもっと良くできるし、もっとキャラに寄り添える」
――すごいことですね...!
「もっと言うと、ほかの人のお芝居を見たり、自分のお芝居がどうだったかを復習したりすることも、自分の幅を広げてくれる。すべての経験が武器になるから、やっぱり人生経験を積むのがいちばん自分を成長させてくれるはずです」
■イケオジの魂を持つ少年|「最強の王様、二度目の人生は何をする?」アーサー・レイウィン

――「最強の王様、二度目の人生は何をする?」では主人公の少年・アーサーを演じられています。まずは彼の第一印象について教えてください。
「序盤の物語は、アーサーが赤ちゃんの時代から始まりますよね。前世のグレイさんはすごくかっこいい王様だった人なんですけど、その『イケオジの魂が入った赤ちゃん』の姿が結構ギャップがあって、かわいらしいんですよ〜!そんな眼差しを持ちつつ、育ってきたら育ってきたで『めちゃ達観してる子だな!』と思って見てました(笑)」

(C)「最強の王様」製作委員会
――見た目は赤ちゃんでも、中身はおじさんですもんね(笑)。
「そうそう(笑)。最初はちょっと冷徹で、逆に人間らしくないような感じもあったんですけれど、アーサーとして人生を進めていくなかで、じつはグレイさん自身が、家族の愛だったり、テシアをはじめとする周りの人たちの思いっていうのを知って、人としてどんどん成長していってるんですよね」
――たしかに、前世では抱かなかった感情を知っていくような感じですよね。
「周りの愛に触れるうちに、冷え切っていた心がどんどん柔らかくほぐれていくような感じがあって。だんだんと人間味が芽生えて朗らかになっていく。そんな変化を感じていたので、そこは演じるときにも意識して表現していました」
――グレイ役、アーサーの心の声は古川慎さんが演じられていますが、心の声をほかの声優さんがやるっていうのはどんな感覚なんですか?
「それが、古川さんの声が乗ることでアーサーの人間性がより色濃くなりますし、自分のお芝居にとってもひとつの大きな指針や軸になってくれるので、心強いんですよ...!でもそのぶん、難しさもあります。とくに、戦うシーンや家族の愛に触れるシーンとかは、『ここはグレイさんに合わせたほうがいいのかな? それともいま生きているアーサーに寄せたほうがいいんだろうか?』って、考えることも結構ありましたし...!」

――その辺、考え始めるとドツボにはまってしまいそうですね...!
「あんまりグレイさんに寄せると、少年らしさが薄れてしまうのかなと自分でも思ったりして...!それで監督にも相談してみたら、『あくまでアーサーとして生きているので、グレイに合わせすぎないように』というディレクションが返ってきまして。そこからは、ベースにグレイさんは感じつつも『ちゃんとアーサーとしてあの世界に立っているんだ!』っていう意識は強くなりました」
――なるほど...!
「じつはテシアと一緒に過ごすシーンでも、最初はちょっと中のグレイさんを意識して大人っぽい感じでやったほうがいいのかなと思っていたんですけど、監督からは『アーサーの中にいるグレイさんが、子どもの立ち振る舞いを学んでいるような感じで』というディレクションをいただいて...!思えば、そうやってグレイさんなりにアーサーとして、自分の立ち位置や振る舞い方を学んできているんですよね。だからこそ、アーサーの態度ってやっぱり少年らしくなっていくのかなって」

(C)「最強の王様」製作委員会
――そんなディレクションがあったんですね...!
「そうなんです! 無邪気な部分だったり『甘いものが食べたい!』みたいなかわいらしい発言も、周りの子どもたちと一緒に過ごすなかで『子どもってこういう発言や行動をするんだな』ってアーサーとして学びながら表現していったんです。私も『なるほどなぁ』と思いながら、演じていた覚えがあります」

――アーサーの魅力はどんなところにあると感じていらっしゃいますか?
「やっぱり、グレイさんの魂を受け継いでるっていうところはありますけど、エネルギーを向ける先がどんどん変わっていくのが、すごく素敵に見えます。最初は『気に入らない人や許せない人を成敗したい』という気持ちだったのが、周りの愛に触れるなかで、そのエネルギーが『大切な人たちを守りたい』というベクトルに変わっていくんですよね。そのことに自分で気づいて意識を変えられる『心の柔軟性』みたいなものを持っているのが、すごいですよね...!」
――その柔軟性は、どこから生まれてくるんですかね?
「元々グレイさんが持っていた気質ではあるんだろうけど、ある意味、前世の王様という境遇では、それは出てこなかったわけですよね。アーサーとして、家族や友達に出会ったからこそ、生まれてきたものなんじゃないかと思います」
――ある意味、普通じゃない人が、普通を知っていく、みたいな...。
「確かに、そうですね...!心の中には、大人のグレイさんがいるけど、アーサーとしていろいろな人に接する。きっと、なかには生意気な子やイヤな大人もいるわけじゃないですか。でも、そんななかでも人として成長しながら、自分に素直に生きている。そんな姿を、ときどきかわいらしいなって思うこともあるんですよね。『あ、グレイさん、こんなこともできるようになったんだね!』っていう、親心みたいな感覚で...(笑)」
――親心(笑)。
「たぶん、前世のグレイさんって根っから悪い人だったわけではないんだろうなと思うんですよ!王様の立場だったからこそ、やらなきゃいけないことはあるし、ときには人を殺めなきゃいけないこともあったんだろうなと。ただ冷徹で孤高の人っていうわけじゃなくて、その根底にはグレイさんなりのやさしさや誠実な部分が、少なからずあったはず...!その元々持っていた誠実な部分が、アーサーとして新しい人生を歩むなかで、だんだんと大きく、育まれていってるんじゃないでしょうか」
■自然体の奥にある、生々しい人間らしさ|『淡島百景』岡部絵美

――歌劇学校の人間模様を描いたアニメ「淡島百景」では岡部絵美を演じられています。まずは藤原さんが感じた絵美の魅力を教えてください。
「絵美は、周りからすごく目を引かれる存在でありながら、本人自身は自分をそういう存在だとまったく認識していない女性なんです。自分の魅力や特別さみたいなものに対して、無頓着というか...!」

(C)志村貴子・太田出版/淡島百景製作委員会
――そのナチュラルで、飾らない自然体な感じが素敵ですよね。
「そう、めっちゃ素敵なんですよ!歌劇学校に通っているからには舞台で表現する機会があるにしても、彼女は強い憧れとか、そういう感情に左右されず、サッパリとした自然体で生きている姿がほんとにかっこよくて...!かといって、ただクールに割り切っているってだけでもないんですよね」
――というのは?
「たとえば、桂子さんから目をつけられたりしたときにも、パッとイメージする絵美の性格だと『私は私だし、別に気にしない』って流すような対応をしそう、って思いません!?」
――そんなイメージですけど...。
「でも、実際はちゃんと『桂子のことは許せない』っていう引っかかりを抱えるんです。その生々しい人間らしさが、すごく魅力的だなって私は感じていて」

――たしかに、そのほうが人間味が感じられますね...!絵美を演じるうえで、藤原さんはどんなことを意識したんでしょうか?
「結構、表現のチューニングを合わせるのには苦労したんですよ...!ほら、あの作品って、感情のすべてを説明するようなタイプの作品じゃないじゃないですか。空気感とか、情景とかから読み取っていくものも多いし。でも、私がこれまでほかの作品で演じてきたキャラって、自分の気持ちをまっすぐ素直に届ける活発なキャラが多くて...(笑)」
――そのイメージ、すごくあります(笑)。
「だからなのか、無意識のうちに『感情は大きく表現した方が伝わりやすい』っていうお芝居の感覚が染み付いちゃってたんですよね。『淡島百景』の現場で、それを痛感しました...!」
――「淡島百景」では、感情を剥き出しにしない場面も多かったということですよね。そういうシーンで、とくに印象に残っているものはありますか?
「さっきお話したセリフと同じにはなってしまうんですけど、同じクラスの小野田さんに『桂子のことが許せない』と思いを漏らすシーン......ですね。絵美としては、桂子を許せない気持ちは強いんですよ。だから最初は『本当に許せないんだ!』っていう感情を強めに出して演じたんですけど、ディレクションでは『そこまで強く出さなくて大丈夫です』というフィードバックをいただきまして...!」
――あえて抑えた表現にするんですか...!
「『淡島百景』って、登場人物一人ひとりの熱量とか温度感を、すごく繊細に表現することで、世界観が伝わる感じの作品だと思うんです。"言葉の強さに頼らずに表現する"ことに向き合う機会がいままであまりなかったので、その感情の表現方法はすごく勉強になりました。いわゆるお当番回であっても、そんなにセリフ数も多くなかったですしね...!」
――でもそれって、セリフが少ないぶん、一つひとつのセリフで表現することの重みは増すわけですよね?
「そうなんですよ...!『いっぱい説明して世界観を知ってもらう』っていうよりは、セリフをしゃべらない時間の呼吸だったり、間を大事にする。そこで、『このキャラクターたちはいま、なにを思ってどう感じているんだろう?』という部分を、観ている方に一緒に考えてもらうような作品なんだなっていうのは、お芝居をしていても感じていました。そういう感情表現に慣れてなくて、チューニングを合わせるのに最初は苦労してましたね」

――少年役のイメージがある藤原さんにとって、絵美を演じることで発見も多かったですか?
「多かったですね...!そもそも、オーディションでいただいた役だったんですけど、まさか女性役でご縁をいただけるとは思っていなくて!私自身が、いちばんびっくりしてたくらい(笑)。一人の人物の学生時代から生涯を演じ切る、というのもこれまでにない経験でしたし」
――そうだったんですね...!実際、一人の人物を年齢で演じ分けるのは難しかったですか?
「それはもう!年齢を重ねていくなかで、声や気持ちのグラデーションをどう表現するかは、すごく難しくて...!どう演じれば、絵美の生き様が観ている方に届けられるのか、自分の中では本当にたくさんのことを考えました。でもその分、自分の中で『新しい表現にチャレンジしていくんだ』という想いも強くなって、新しい自分を発見する機会にもなったので、緊張したと同時に楽しくもある、貴重な経験になった現場でした」

取材・文/郡司 しう 撮影/梶 礼哉



