声優・藤原夏海インタビュー#2 まだ強みを知らなかった自分に『少年役』のイメージを与えてくれた転機
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2026.10.16
TVアニメ『SPY×FAMILY』ダミアン・デズモンド役をはじめ、「MAJOR 2nd」 の茂野大吾役、「真・中華一番!」リュウ・マオシン役など、数々の作品で等身大の少年性や情熱的なキャラクターを演じ、そのまっすぐで芯のある声と真摯な熱量で観る者の心を惹きつける藤原夏海さん。この企画では全3回にわたって、その声優を志したきっかけから、役作り、理想の声優像にいたるまで、出演作品のお話とともにインタビュー。飾らない、その素顔の魅力に迫ります。
■憧れの先輩声優に囲まれてド緊張の初現場

――声優として、初めて現場に入られたときのことって覚えていらっしゃいますか?
「それはもう鮮明に覚えていて、最初は『アルスラーン戦記』の現場でした。クレジットにも載らないくらいの端役だったんですけど、私、元々そんなに緊張するタイプじゃないのに、その日ばかりは緊張感が本当にすごくて...!」
――え、どんな状態だったんですか?
「現場に向かう前にその日出演される役者さんの香盤表をいただいたんですけど、そこに自分が子どものときに憧れていた声優さんたちのお名前がズラっと並んでたんです!『いまからこの人たちと一緒に私がお芝居をするんだ!ひー!!』とか思っていたら、ちゃんとできるかなっていう、不安とか緊張感とかで一気に押しつぶされそうになってしまいまして...!」
――憧れの方々に会うだけで緊張するのに、その中でお芝居するとなったら...!
「いや、もう本当に!大げさじゃなくて、スタジオのすぐ近くまで来たときは、もう緊張でのどの奥までグググっと込み上げてきてる感じがあって、軽く吐く寸前、みたいな(笑)」
――そんなに(笑)。
「私にとっては子どものときから憧れてた仕事だったんで、やっぱりそれだけ緊張した現場ではあったんですね。でも、声優として初めてのアニメのアフレコ収録ってことで、姉にも報告してたんですよ」
――前回のインタビューでお話されてた、藤原さんにアニメや声優のことを教えてくれたお姉さんですね。
「そうそう!そしたら『あの声優さんが、今日の現場にいるんだ!すごいじゃん!』って姉も一緒になって喜んでくれて...!昔から一緒にアニメとかを見ていた仲なので、それは感慨深かったですねぇ。夢だった場所に自分が立っているんだっていう実感が、それでジワジワっと湧いてきたのを覚えてます」
■少年役のイメージを決定づけた作品

――ご自身にとって駆け出しの頃の、大きな転機となった作品を挙げるとしたら、どの作品になりますか?
「転機でいえば、やっぱり初めて主役を務めさせていただいた『少年メイド』という作品ですかね。この作品を通して"藤原夏海"という名前だったり、『こういう表現をする人間なんだ!』ていうことを、多くの方に知っていただけるきっかけになった作品なのかな、って感じます」
――あいさつ代わりというか、名刺になるような?
「そうですそうです!自分としても、まだ"少年役"という強みを自分自身で見つけられてない時期だったので『こんな形で主役ができるんだ』っていう喜びもありました」
――実際、それから少年役が増えたんですか?
「それは、間違いなくありますね。なんとなくスタッフさんのあいだでも、声優業界のなかで『藤原さんって少年役の声できるよね』って知ってもらうきっかけになった作品というか。結構、期待をかけていただいたりしたんですよね。自分でいうのもなんですけど『藤原は、伸びしろあるよ!』って声かけてくれるスタッフさんもいましたし、そうやって自分で自分の強みがわかってきた、というか」
――たしかに、周りから言ってもらわないとなかなか自分では強みってわからないですよね。
「それ以外でも、作品を通して、いろいろな宣伝活動とか、キャラソンのお仕事とか、声優を中心に、バーっていろいろなお仕事をやらせていただいた機会でもありましたし...!声優としての自分の立ち位置がわかったり、声優の周りにあるたくさんのお仕事を知るきっかけにもなったり、とにかく自分の可能性を広げていただいた。本当にありがたい作品だったと思います」
――そういう意味では、その後の藤原さんの道を作っていく、入り口みたいな場所だったんですね。
「まさしく!その現場があったからこそいまがあると思いますし、当時、現場でご一緒した先輩方と、また別の現場で再会したときにも『あ、あのときの!』って覚えていてくださることがかなり増えまして...!いろいろな方々に、私の名前と表現を覚えてもらうきっかけになったので、そういう意味でも、私にとってかけがえのないスタートになったのが『少年メイド』という作品でした」
■掲げる理想や人との接し方の中で、前世の人柄が現れてくる|『転生貴族、鑑定スキルで成り上がる』アルス

――2026年秋に第3期が始まる『転生貴族、鑑定スキルで成り上がる』シリーズでは、主人公のアルス・ローベントを藤原さんが演じられています。まずは、アルスの第一印象から教えてください。

(C)未来人A・講談社/鑑定スキルで成り上がる製作委員会
「まっすぐで素直な、心やさしい男の子だな、というのが第一印象でしたね。それに加えて、転生前は現代日本の30代男性で、社会経験もちゃんとあって、お仕事でもいろいろと苦労されていたんだろうな、とお見受けしたので、頼まれたら断れないような人柄だったり、心根にあるやさしさだったりを、最初からすごく感じていました」
――たしかに、前世のシーン自体はそこまで多く描かれていないですけど、ちょこちょことアルスの性格から感じるものがありますよね。
「そう、前世の描写が多くないから、演じてる私でもたまに"転生もの"だと忘れてしまうくらい(笑)。でも、アルスのあのやさしさって、やっぱり転生してるからくるものだとは思っていて」
――というのは?
「現代の日本で育っていれば、そりゃ戦争の経験だってふつうはないじゃないですか。それに、日常過ごしていてひどい人種差別に直面する機会だって少ない。だから、ってわけでもないかもしれないけど、人のことを忌み嫌ったり、人種で人を判断したりするタイプじゃないんですよね、アルスは。それが、ある意味あの世界の人たちにとっては、珍しい目線の人になるのかなって。『現代日本で育ってれば、そりゃそうなるか』って思いながら演じてる部分もありました」
――見た目は少年ですけど、「心の中は30代男性」っていうのは意識していたんですか?
「いや、"30代男性っぽさ"みたいなことはあんまり意識していなくて、ただ、彼の性質とか、考え方みたいなものは活かしたい、と思ってはいました。アルスは、第1期の初めから『貧富の差をなくして、みんなを幸せにしたい』という強い志を持っていましたよね。そういう理想や、人に対する接し方の中に、"前世での人柄の良さ"が出ているんだろうなと感じていたので、そこはしっかり表現したいなって思ってたんです」
■アルスの心の中に芽生えはじめた「戦士」|『転生貴族、鑑定スキルで成り上がる』アルス

――物語が進むにつれて、アルスの中での変化ってどんなふうにとらえていたんでしょうか?

(C)未来人A・講談社/鑑定スキルで成り上がる製作委員会
「やっぱり、アルスの中での大きな変化というと、少しずつ『戦士になっていく』ということだと思うんです。第1期の最初の頃って『自国の領地を大きくするため』とか、そういう野心的なことはなく、家臣の仲間を集めていく物語だったので、『みんなで一緒に頑張っていきましょう!』という立ち位置というか、スタンスでしたよね。『アルス自身が力強く引っ張る』のではなく、周りのみんなが支えてくれて一緒に歩んでいくような雰囲気というか。領主として、ある意味、その"ちょっと頼り切れない部分"も含めて彼の等身大を表現している感覚でした」
――たしかに、その時点では"戦士"という言葉はまだ遠くにありますね。
「そんななかで、第1期の途中、父のレイヴンから『まだ戦士の顔になっていない』と言われた場面がありましたよね。やっぱり彼のなかでは、それって変わる大きなきっかけになったと思うんです」
――というのは?
「それこそ、現代日本からやってきて、戦争から遠いところにいたアルスが、異世界で初めて戦場に出なければいけないわけじゃないですか。そのとき父が罪人を処刑する姿を見て、どこかで"ゲームのような世界"だと思って見てたものが、『現実的に人の生き死にに関わることなんだ』って、彼の中で初めてわかった瞬間だったと思うんです」
――たしかに。
「あのとき、アルス自身『ハッ』とはしつつも、まだ自分の未熟さをすぐには受け止めきれなかったんですよ。家臣のみんなは父親と一緒に戦場へ行けるのに、自分はまだ行けない、みたいなもどかしさもあって、その葛藤とも戦ってた。あの壁を、アルスなりに必死に踏ん張って乗り越えたっていうのは、アルスの中で『戦士』が芽生え始めた瞬間でもあったんだと思うんです」
――それを乗り越えたことで、領主としての自覚が、より強くなっていった?
「そうですそうです!それから第2期に入って、より大きな領土を抱えたり、戦も経験するようになって、やっぱりアルス自身も『いまのままじゃダメだ!』っていう気持ちが芽生えてくる。彼の中にある『戦士』の心が、そういう思いにさせるんだと思います。仲間に助けてもらうばっかりじゃなくて、いつも自分のために命がけで頑張ってくれている仲間のために、『自分がもっと大きくならなきゃ』って。芯の強さ、意志の強さ。そういうものが育っていくことが、やっぱり彼の中での大きな変化なのかな、って思いますね」
■戦闘以外で見せる本当の"強さ"|『転生貴族、鑑定スキルで成り上がる』アルス

――藤原さんご自身は、アルスの魅力ってどんなところだと思いますか?
「異世界ものでよくある『主人公がめちゃくちゃ強くて、みんなをグイグイ引っ張っていく』タイプとはちょっと違うので、彼は多くの家臣を仲間に引き入れて、一緒に戦ってもらわないといけないんですよね。そこで『みんながついていきたくなる人って、どういう人なんだろう』と考えてみると、やっぱり彼が元来、持っている人の良さだったり、誰に対してもまっすぐ向き合う誠実さが、"強さ"になってくるんだろうなって思うんです。いちばんの魅力はそこですよね。でも、単に戦闘的な強さで表現できないぶん、そこを表現するのは難しさがありまして...!」
――単なるフィジカルの強さじゃなくて、もっと本質的な"人としての強さ"ですもんね...。
「そうなんですよ。戦闘中に『ウォーッ!』って強そうな声を出す、とかではなく、もっと人として深い部分にあるもの。たとえ、圧倒的な力がなかったとしても、『この人にはついていきたいな』とか、『この人を支えたいな』と思ってもらえる人として、アルスを表現したい、という気持ちはあったので、それってどんな存在なんだろうっていうのはずっと考えてましたし、たくさん試行錯誤したと思います」
――その役作りをするうえで、具体的なイメージとかはありましたか?
「自分の中に、なにか理想があったというわけじゃないんですけど、とにかく原作をしっかり読んで、『アルスのこういうところが素敵だな』という部分を少しずつ自分の中に落とし込んでいきましたね。周りのみんながついていきたくなる理由は、原作のアルス自身から教えてもらったところが大きかったです」
――たとえば、どんな場面から?
「すごくわかりやすいところでいうと、第1期で最初にリーツを仲間にする場面。鑑定スキルを使う前で、利害関係とかは一切抜きで、ごく自然にすっと手を差し伸べているんですよね」
――そういうところにアルスらしさが詰まってる...?
「そうなんですよ...!鑑定スキルがあることで、どうしても打算的になる場面もありますけど、根底にはそういう計算のない温かさがある。だからこそ、周りのみんなが自然と集まってきて、命をかけて戦ってくれるんじゃないかなって。その温かさこそが彼の"強さ"なんだって、演じながらすごく実感していました。もちろん、たとえリーツに対して鑑定スキルを使っていたとしても、アルスだったら絶対に同じように手を差し伸べていると思いますけどね!」
■現実でもリーツそのままな坂泰斗さん|『転生貴族、鑑定スキルで成り上がる』アルス

――アフレコ現場の思い出や裏話などあれば、お聞きしたいです!
「キャストのみなさんとは、本当に現場で楽しく仲良くやらせていただいた現場でしたね...!メインキャストの数人でちょくちょくご飯にも行ってましたし、すごく雰囲気が温かくていい現場でした。それに、みなさん本当に作品への熱量が高くて、それぞれが演じるキャラそのままに見えてくるくらいピッタリハマっていたんですよ...!とくに、リーツ役の坂泰斗さんが、現実でも本当にリーツそのままの人柄で(笑)」
取材・文/郡司 しう 撮影/梶 礼哉



