声優・富田美憂さんロングインタビュー#3「『いま』を大切にしながら手の届く経験を重ねていきたい」
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2026.11.06
「アイカツスターズ!」の虹野ゆめ役をはじめ、「メイドインアビス」のリコ役、「かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜」の伊井野ミコ役など数々の人気キャラを、その豊かな表現力と透明感の中にも芯のある声で、見事に演じ分ける富田美憂さん。この企画では全3回にわたって、その人となりをインタビュー。出演作品のお話とともに彼女の表現の奥底に宿る思いをひもときます。
■声優にとって一番大事なのは"実体験"

――キャラと向き合ううえで大事にしていることは何ですか?
「やっぱり、どれだけいろんなことを経験するかだと思っていて。お芝居って、自分が経験した似たような出来事から、そのシーンに合わせて、そのときの感情を呼び起こしながら演じるのが大事だと思っているんです。そう考えると、日々、生きていて無駄な瞬間ってないなと思うようになりました」
――いろいろな感情を抱いた経験が、そのままお芝居の引き出しになっていくんですね。
「そうなんです。たとえば、作中にインタビューを受けるシーンがあったら、きっと今日の取材を思い出すかもしれませんし、友達と大笑いした経験や、家族とゆっくり過ごした経験もそう。でも、なかには『楽しい』ことだけじゃなくて、『つらい』感情をとっておかなければいけないこともあって...」
――なるほど...。
「私にとっては、それが家族を亡くした経験でした。何年か前に祖父が亡くなったんですけど、それまで身近な人を亡くした経験がなかったんです。そのときに、初めて『こんな気持ちになるんだ』ということを知って。正直、言葉で聞いて自分がどれだけ想像をしても、自分が経験しないと、それがどれだけ悲しいことなのか、わかるようでわからないと思うんです」
――とくに、大切な人を失うっていうのはほかの人には想像しきれないことだと思います。
「悲しいことも嬉しいことも......つらい出来事に対して『経験しておいて』という言い方はちょっと違うんですけど。それでも私たち声優って、そういう感情を声に乗せてみなさんにお届けするお仕事なんだな、っていうのは日々感じる瞬間は多いですね」
――そういう意味で、「生きていて無駄な瞬間はない」とおっしゃっていたのは本当にそうなんだなって感じました。
「そうなんです。だから『新しいことには挑戦したい』といつも思っていて。いろいろな経験をしたいなという気持ちは強いので...!」
――最近だとどんなことに?
「じつは今年、運転免許を取ったんですけど、その教習所の授業がすごく楽しかったんですよ!椅子に座って黒板を見ながら勉強するのも高校以来でしたし、運転しながら隣の人としゃべるときの距離感ってこんな感じなんだ、とか!」
――たしかに、大人になってから授業を受けるって新鮮な感覚になりそう...!
「懐かしさもありつつ、ほとんどのことが自分にとっては新しい経験で...!すごく楽しかったから、今後、勉強や習いごともしてみたいなって思いますし、いまさらながら、アルバイトもやってみたくて...(笑)。自分が経験していないことをやってみたい、って気持ちがいまはすごく強いと思います」
■未来でも過去でもなく、大事なのは"いま"を生きること

――これまで演じてきたキャラの中で、自分に似てるなって感じたキャラはいますか?
「ありがたいことに、これまでオーディションで合格をいただいてきた役だと、『自分とは相容れないな...』とか『どうしても考え方が理解できない!』っていうキャラは、全然いなかったんですよ。みんな、どこかしら"っぽさ"があるなって思っていて(笑)。それは自分が担当する役もそうですし、じつはほかの方が演じている役を見ていても、『この人、このキャラっぽい側面が確かにあるな』と感じることがあって。声優さんの人柄に合わせて、『そういう配役を当てている説』はあるんじゃないかと思っています(笑)」
――キャラによって少しずつ、どこに"っぽさ"があるのかが違う?
「そうですね。たとえば、『メイドインアビス』のリコの場合は、やっぱり好奇心かな。私、あまり顔には出ないんですけど、こう見えて意外といろんなことに興味があるタイプなんですよ?(笑)」
――やっぱり、そういう側面を見つけるとぐっと役に入り込めるものですか?
「そういう部分はあると思いますね。『自分に似てるな』って部分を見つけられたら、逆に『ここは違うな』っていう部分もわかりやすくなってくるので、そうやってだんだんとそのキャラの性格だったり、人柄っていうのが掴めてくるんじゃないかと思っています」
――富田さん自身は、声優として今後どんな目標がありますか?
「うーん...目標かぁ...!じつは、明確に『将来こうなりたい』とか、大きな野望みたいなものがなくて...!そういう野望がないことに一時期、悩んだこともあるんですよね。『私、将来の夢みたいなものがないなぁ...』って...!」
――先ほど、動画撮影のときに『物欲がない』ともおっしゃっていましたよね?(笑)
「そうなんですよ!それこそ、インタビューでよく聞かれる『未来にタイムスリップできるとしたら?』みたいな質問をされると、結構困るタイプで。良くも悪くも、未来の自分にあまり期待してないというか...。こんなふうに言うと、やたらドライに聞こえちゃうけど(笑)」
――ちなみにタイムマシンがあったとしたら、過去か未来はどっちに行きたいですか?
「......どうしよう、どっちにもあんまり興味ないかも(笑)。どちらかといえば、"いま"を生きてますね...!強いて言うなら、声優の仕事をしなかった世界線で、ふつうの学校生活は経験してみたかったかもしれないです」
――高校時代から声優のお仕事をされていましたもんね。
「そうなんですよ。芸能科とかじゃなくて、埼玉の普通科の高校だったんですけど、土日にイベントがあると仕事に出ていたので、体育祭や文化祭に参加した記憶があまりなくて。だから一度、ふつうに学生として文化祭や体育祭をやってみたかったな、って思います」
――声優の道に進まなかった自分を想像することもありますか?
「想像することもあります。でも、想像はあくまで想像で...!声優の仕事自体がやっぱりすごく好きですし、人生の半分をこの職業と一緒に過ごしてきたので、声優以外の生き方も知らないんですよ。だからなのか、逆に『私自身がこの仕事を嫌いにならなければ、この先もやっていけるかも』とも思っていたりしますし」
――「声優の仕事が好き」って気持ちが、いちばんの原動力なんですね。
「そうですね。最近は20代も後半になってきて、年齢とともに演じる役の幅も少しずつ変わってきているので『来年はこういう役に出会えるかもな』とか。大きな野望すぎず、距離感の近い楽しみとかを、日々見つけながらこのままずっと続けていけたらいいな、って思います。そういう手の届く経験を地道に重ねていって、50歳、60歳になったときに『うわ、こんなにいっぱい役を演じてたんだ、すごいじゃん!』ってなれたら最高ですね(笑)」
■"業界の父"との出会い ― ボロ泣きしながら帰った1話目のアフレコ|「メイドインアビス」リコ

――数あるダークファンタジー作品のなかでも名作と名高い『メイドインアビス』。同作では、アビスの深層を目指して冒険する主人公のリコを演じられています。作品に初めて触れたときはどんな印象でしたか?
「『メイドインアビス』に関しては、もう本当に、絵がこんなにかわいいのに、まさかこんなに痛々しいシーンがあったり、精神的に訴えかけてきたりする作品だとは思っていなくて。原作マンガや、キャラの絵を見たときは『ほんわかした冒険ものかな』くらいに思っていたら、完っ全にその逆を行く作品でしたね」
――ほんとに、激しく同意です。
「だからこそ、リコの役が決まったときは『自分のキャリアにとってもかなり大事な作品になるんじゃないか』『いままでの私のイメージを、いい意味で変えられるんじゃないか』という気持ちもありました」
――実際に現場に入ってみてどうでしたか?
「それが、じつは初回のアフレコで、音響監督の山田陽さんに私の未熟な部分をご指摘いただいて、ボロボロに泣いて帰ったんです...。そこから、『メイドインアビス』のアフレコで、何回泣いたかわからないくらいでした...!(笑)」
――山田さんからは、どんなことを?
「開口一番、山田さんに『そのアイドルっぼいしゃべり方、やめられる?』って言われて。というのも、当時『アイカツスターズ!』を数年演じてきて、自分でも気づかないうちに、セリフのしゃべり方がすっかりアイドルになっちゃっていたんです。『アイカツスターズ!』では、それがすごく武器になるんですけど、そのままの感じで『メイドインアビス』に行ってしまって...!」
――別の現場で武器だったものが、逆に壁になってしまったんですね...!
「そうなんです。当時は伊瀬茉莉也さんや坂本真綾さん、井澤詩織さんと、私以外は全員先輩。一人だけアフレコのやり直しも多くて、申し訳ない気持ちと、『なんで自分だけこんなにできないんだろう、どうしよう』って焦りで、もう全然できなくなっちゃって...!」
――相当なプレッシャーだと思います。
「それで、Aパート本番が終わったあと、監督や音響監督さんたちがいるミキサーブースに山田さんから呼び出されて、『キャラクターはここをこうやって作るんだよ』『リコはこういう子だから、もっとこういう研究をするといいよ』って丁寧に教えてくださって。あくまで私を良くするためのアドバイスだっていうのはわかっていたんですけど...できない自分が悔しすぎて、その日は泣きながら帰りました...」
――でも、その悔しさがあるからいまがある。
「そうなんです!私自身が変わる大きな転機になったと思っています。当時、ありがたいことに主演をいただける機会が立て続けにあって、本当に恥ずかしながら『あれ、私ってちょっと才能あるんじゃない!?』なんて思い始めていた時期だったんです。そう思うと、あそこで山田さんにいい感じに鼻を折ってもらえなかったら、その先でもっと自分のレベルに絶望してたかもしれない。さっきお話しした『アイカツスターズ!』の音響監督の菊田さんが"業界の母"なら、『メイドインアビス』の山田さんは"業界の父"。私の中では、お2人ともお師匠さんのような存在で、いまでもすごく信頼してる方々です」

(C)2017 つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス製作委員会
■数十テイクの先に見つけた、お芝居の感覚|「メイドインアビス』リコ

――そこから、だんだん「こうやるんだ」と掴めてきた感覚はありましたか?
「ええ、回を追うごとに少しずつではありますけど...!でも、明確に変化を感じたのは、10話です。リコが毒に侵されて、腕を折らなきゃいけないシーンがあって...」
――ああ...かなり痛々しいシーンとして印象深いです。
「そう、あのシーン。その収録は、冒頭『テストから録っておきます』と言われ、ちょっとふだんとは違う録り方をしていたんです。テイクも、何十回も重ねて、それで、内容がああいうシーンなので、リコを演じていたら私自身の体調まで悪くなってきてしまって...。精神的にもかなり追い詰められながらのアフレコで、役者として成長ができた経験をさせていただきました」
――それは大変ですね...!
「でも、そのときに『役を演じるって、こういうことなんだ!』っていうのが少しだけわかった気がしたんです」
――というのは?
「私たちは声優ですけど、決して声だけでお芝居をしてるわけじゃなくて。感情を表に出したり、ときにはそれを全身で表現することで、キャラに少しずつ心を重ねていけるんだなって。『声だけのお芝居』じゃなくて、『体を使ってお芝居するんだな』っていう気づきが大きかったですね」
――全身でお芝居するからこそ、声だけでも感情が伝わってくる...?
「そうなんです。事務所に入って最初の頃、俳優さんと一緒のレッスンを受けていて、当時は正直、『声優になりたいのに、なんで俳優さんのレッスンをしなきゃいけないの?』って思っていたんですけど、それってしっかり意味があることだったんだなっていうのもわかって。自分がやってきたことも、そこで繋がった感じがしました」
――まさしく、"掴んだ瞬間"。
「それまでほぼ毎週、レグ役の伊瀬茉莉也さんにアフレコ終わりにご飯に連れて行っていただいて、『お芝居が"こう"ってわかってくると、アフレコがもっと楽しくなるよ!』と教えていただきました。その『わかってきたかも』が実感できた回だったので、すごく印象に残っていますね」
■「上手くなるなよ」に込められた意味|「メイドインアビス」リコ

――リコは"明るさ"と"危うさ"の両面を持ち合わせたキャラですが、役作りの面ではどう捉えていましたか?
「お芝居をするときには、『意図的に危うさを出そう』とは考えちゃいけないなと思っていて。ただ単に、リコが大好きなアビスへの探求心や興味、『行ってみたい』っていう気持ち一心で演じて、それがハタから見ると『おいおい、ちょっと危ないぞ』って見える、くらいがいいかなと思って演じていました」
――あの危うさは、狙って出してるわけではなかったんですね。そんなリコの魅力を、富田さんはどう感じてますか?
「物語の中での"成長"っぷりですよね。じつはリコって、すごく成長しているキャラクターだなと思っていて。1期の最初の方なんて、私から見ても『この子、こんな調子じゃすぐ死んじゃうじゃん!?』っていう危なっかしさがあったんですけど(笑)」
――めっちゃわかります!
「でも、アビスに潜って、ナナチをはじめ、いろんな人たちと出会ったことで、リコ自身がすごく頼もしくなっていって。最初はレグに守られてばかりでしたけど、いまとなっては二人三脚で一緒に冒険しているようすが、原作を読んでいてもすごく伝わってくるんです。どんどん頼もしくなって成長していくところは、彼女の魅力の一つだと思います」

(C)つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会
――その成長に合わせて、1期と2期では役作りの意識も少し変わったんでしょうか?
「そこも、自分から狙って『成長したリコを...!』って感じでは意識していなくて、あくまで自分のキャリアとともに、それが自然と出るのかなと思っていて。それでいうと、ほかの現場で音響監督の山田さんに会うと、『上手くなるなよ、上手くなったらリコじゃなくなるから』って、常々言われてるんですよ(笑)」
――「上手くなるな」(笑)。
「でも、『メイドインアビス』は1期があって、少し間が空いて劇場版があって...と、毎回何年かブランクがあるんですよ...!私からしたら、『いやでも、ほかの現場に出ていたら滑舌だって良くなるしさ!』って思ったりもするんですけど(笑)」
――間違いないですね。
「けど、たしかに成長しすぎると、きっとリコは違うキャラになっちゃうっていうのもわかる。あえて成長させようとか、頼もしく演じようと考えちゃうと、逆にリコが大人になりすぎちゃうんですよね。だから、ほかの現場で少なからず得てきた経験は、あまり意識しなくても自然に乗るだろうな、くらいに捉えていました」
――自分の状態まで客観視して、役作りをされてるんですか...!
「そういう視点は少なからず、あるかもしれないです...!第一弾でのインタビューで、『美術部だった』ってお話をしたと思うんですけど、そのときの絵の話にも通じる部分があるんですよ。つまり、心が追い詰められていたり、いい評価をもらおうと不純な気持ちで出したものと、自分が純粋に表現したいと思って出したものって、絶対違うものになるじゃないですか。お芝居や歌にも、無意識にそういう意識が乗っちゃうんだろうなと思います」
――でも、その不純な気持ちって消そうと思って消せるものでもないですよね?富田さんは、どう向き合ってるんですか?
「いや、向き合いきれてはないですよ。でも消せないからこそ、自分にそういう気持ちがあることも認めることが大事なのかなって。逆に、リコみたいにすごく精神的につらいときに『自分がこういう精神状態じゃなかったら、ここまで生々しくはできなかった』と思える瞬間もあるので」
――自分の状態をちゃんと捉えて、それ込みで役作りを考えていくんですね。
「そうだと思います。だからこそ、『このときの気持ち、覚えておかなきゃ』っていう感情のストックっていうのがすごく大事だし、やっぱり経験が大事なんだなって思いますね」
■シリアスな大泣きのシーンのはずが...|「メイドインアビス」リコ

――富田さんが思う『一番観てもらいたいシーン』を教えてください!
「さっきお話しした1期の10話。やっぱりこれは外せないですね。実際、放送されてからすごく反響をいただいた回で。それまでは、富田美憂っていうと"現役女子高生声優"という肩書きばかりが、一人歩きしていた気がするんですが、あの回で、一気に『こういうお芝居もできるんだ』って知ってもらえた。同じ業界の方からも見てくださった方からも褒めていただいた回だったので、すごく思い出深いです」
――富田さんにとっても、大きな節目になった回だったんですね。
「あとは、劇場版の『深き魂の黎明』ですね。そうそう、ひとつ、映画のアフレコ中の思い出があって...!終盤に、リコが鼻水も涙もダラダラにして泣きわめくシーンがあるじゃないですか。そのシーンを録るときに、私も泣きわめいてボロボロになりながら収録していたんです。で、スタジオからガラス越しに見えるスタッフさんのブースが見えるんですけど、そこに原作のつくし先生がいらっしゃって!」

(C)つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「深き魂の黎明」製作委員会
――先生もいらっしゃったんですか...!
「そうなんです!で、そのシーンを録り終えた後に、つくし先生に聞いたら『お芝居が素晴らしくて、思わず笑ってしまいました』って。私がわーって泣いているのを見て、手を叩いて笑っていたらしいんです(笑)」
――どういう感情の回路なんですかね(笑)。
「でも、そういうつくし先生だからこそ、あの作品が生まれているんだなってあらためて思って(笑)。そのエピソードも込みで、映画のクライマックスは思い出深いシーンになっていますね。」
――そして2026年10月には、劇場版の新作『目覚める神秘』の公開も控えていますよね。ぜひ、見どころもお聞きしたいです!
「ちょうどこの記事が出る頃に上映されていると思うんですが、『メイドインアビス』といえばの映像美と、音楽の素晴らしさ。どのシリーズも劇場で観たいくらいの音響クオリティになっているんですけど、それでも劇場版はやっぱり圧巻です。ぜひ劇場まで足を運んでいただいて、観てほしいですね!」
――おさらいしておいたほうがいいお話はありますか?
「それはもう、全部で(笑)。やっぱり伏線が多い作品なので、過去のシリーズを全部観てから劇場版を観ていただいたほうが、より楽しめるのは間違いないです...!今回の劇場版でも、おそらくいろんな伏線が散りばめられていると思いますので、劇場版を観たあとに『さて』って考察していただけたら楽しいと思います!」

(C)つくしあきひと・竹書房/劇場シリーズ「メイドインアビス」製作委員会
■ほかのキャラでは出さない音ばかり出した|「ドロヘドロ」恵比寿

――続いては『ドロヘドロ』です。富田さんは、恵比寿役で出演されていましたが、役が決まったときは、どんな印象でしたか?
「恵比寿と初めて出会ったのは、たぶん7、8年前になると思うんですけど、セリフが全部カタカナのカタコトで。基本的にガイコツだし、表情もわからないし......『どう演じるのが正解なんだろう』っていうのが正直な気持ちでした。正解がわからないまま、オーディションに行った記憶があります(笑)」
――現場に入るまでには、「こう演じよう」というイメージはできていたんですか?
「いや、現場に入ってからもその感じは変わらなかったです。恵比寿に関しては、音響監督の藤田さんも毎回『向こうのブースで大人たちが笑ったからOKです』って言っていて(笑)。それこそ、ほかの収録ならNGを食らうような、すごく汚い音が口から出たときも、『恵比寿だからOKだよね』ってOKをいただくこともありましたし。だから、ほかのキャラとは全然違って、すごく遊べる役ではありました」

(C)2020 林田球・小学館/ドロヘドロ製作委員会
――でも、ほかのキャラでは出さない音、って言われてもそんな引き出しも中々ないですよね(笑)。
「それは本当にそう!何か参考にできるものがあったわけでもないのですが、恵比寿でしか使わない引き出しは結構できました(笑)」
――たとえば、どんな?
「恵比寿はお調子者なので、作中で一人で歌うシーンもあったりするんですけど、それもわざとすっごく音痴にやってみたら、おもしろかったからOKになった、とか。あと、1期の頃に、頭をペッと叩かれたときに『AD(アドリブ)』と台本に書いてある回があって、最初は『いた』とか『う』とかやっていたんですけど、『プピ』って言ったらすごくウケて、『それでいきましょう』ってなったり(笑)」
――クリエイティビティが求められる(笑)。
「ほかでは出さない音や発想を、すごく求められる役どころだったので、その現場で生まれる音が、すごくたくさんあった気がします(笑)」
――いちばん思い出に残ってるエピソードというと?
「2期のエピソードで、恵比寿のドッペルゲンガーが出てくる回がありまして。それが、本物の恵比寿も私、ドッペルゲンガーの恵比寿も私、ナレーションも私......と、全部私しか喋っていないような回なんですよ(笑)。本番はもちろん分けて録ってるんですけど、テストのときは一旦、全部を通しでやらなきゃいけなくて。単純に、息が持たなくて大変だった記憶があります(笑)」
――それはしんどい(笑)。『ドロヘドロ』ってカオスで独特な世界観ですが、その世界観になじむまでは大変じゃなかったですか?
「大変どころか、本当に楽しい一心でしたよ...!収録期間が始まるにあたって、音響監督の藤田さんから『人もいっぱい死ぬし、息をするように首が飛ぶグロテスクな作品ではあるけれど、作品のテンション感はハッピーな感じにしたい。人が死ぬことも重く捉えないでほしいし、ポップにグロをやってほしい』っていうお話もあって」
(C)2026 林田球・小学館/『ドロヘドロ Season2』 製作委員会
――たしかに、それが『ドロヘドロ』のイメージかも...。
「ダークな世界観ですけど、コメディ要素もありますし、テンポもいいので。だから、藤田さんが本番が始まる前に毎回、『じゃあ、楽しんでいきましょう!』って言って始まるんですよ。恵比寿の場合、とくに人が死んでもしゅんとなったりすることもないし、つねにハッピーな気持ちでいるのも大事だったと思います」

取材・文/郡司 しう 撮影/梶 礼哉



