アニメ『メダリスト』山本靖貴監督が明かす、「見なよ...オレの司を...」セリフ変更の真相
アニメ 見放題インタビュー
2026.02.14
フィギュアスケート競技に憧れる小学生・結束いのり(ゆいつかいのり)と、彼女のひたむきな情熱に心を動かされた元アイスダンス選手のコーチ・明浦路司(あけうらじつかさ)。オリンピック金メダリストという大きな夢に向かって歩み始めた二人の絆を、ドラマチックに描いたTVアニメ『メダリスト』の第2期が放送中だ。今回、第1期に続き監督を務める山本靖貴氏にインタビューを実施。作品に込めた表現へのこだわりや、視聴者の間で大きな話題を呼んだ第1期の名シーンがどのように生まれたのか、その舞台裏を語ってもらった。

(C)つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会
――『メダリスト』に関わる以前に抱いていた作品への第一印象と、監督のオファーを受けた際の感想をお聞かせください。
「作品を知ったのは、監督のオファーをいただいたのがきっかけでした。自分自身は普段あまりマンガを読まないので詳しくなかったのですが、娘が『結構、力を入れているマンガだよ』と教えてくれて。それで興味を持って読んでみたんですが、今どき珍しいくらい、すごくストレートなスポーツマンガだなと感じました。ただし、いわゆる"根性と努力"を前面に押し出す昔ながらのスポ根作品ではなく、現代的な視点で、選手の心の機微や精神的なケア、人と人との関係性がとてもリアルに描かれている。その点に強く惹かれて、非常に好印象を持ちました」

(C)つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会
――『メダリスト』という作品のどのような点に魅力を感じ、どんな表現を目指そうと考えられましたか?
「まず考えたのは、フィギュアスケートという題材を、どこまで本格的に描くべきかという点でした。フィギュアを題材にした作品自体はこれまでもありましたが、『メダリスト』は、その中でもかなりリアル寄りの作品です。ただし、子どもたちがスケートに打ち込む姿を忠実に再現するだけでは、必ずしもエンターテインメントにはならないと感じました。そこで、音楽や映像、振り付けをしっかりと作り込み、アニメーションだからこそ可能な表現に挑戦したいと思ったんです」
――本作では「才能」や「スタートの遅さ」が重要なテーマとして描かれていますが、アニメ化にあたって、それらをどのようなメッセージとして届けたいと考えましたか?
「そのテーマこそが、この作品の核になるメッセージだと思っています。だからこそ、いのりと司が交わす何気ない日常のやりとりや、練習に向き合う時間といった部分は、できる限り省略せず、丁寧に描こうと考えました。そこがこの物語にとって一番大切な"肝"だという意識は常にあって、演出的にも、映像面でも、『ここが見せ場だ』と見る側にしっかり伝わるよう、意図的に強調して作っています」

(C)つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会
――フィギュアスケートの演技シーンを描く上で、「リアルさを優先した部分」と「アニメならではの表現として踏み込んだ部分」は、それぞれどのような点でしたか?
「効果音に関しては、音響のプロであるスタッフが実際にスケートリンクへ足を運び、生の音を収録しているので、かなりリアルなものになっています。ただ、監督として感じていたのは、すべてを現実に忠実に描いてしまうと、アニメにした時に地味になってしまい、印象に残らないこともあるという点でした。そのため、音響作業の段階で、『ここはリアルなだけではなく、この表現を強調したい』『もう少し誇張してほしい』といったオーダーを出すこともありました。
また、アニメの中で描かれるスケートの演技について言うと、実際の小学生スケーターは、もう少しつたなさがあるんです。ただ本作では、鈴木明子さんという超一流のスケーターにモーションをつけていただいていますし、見ている方に『フィギュアスケートってすごい!』と感じてもらいたいという思いがありました。そのため、映像表現としてはかなり盛っていますし、音の演出もそれに合わせて作り込んでいます」

(C)つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会
――第1期第12話の「見なよ...オレの司を...」から始まる司先生の代演滑走シーンは、大きな話題を呼びました。原作からセリフを変更した経緯について教えてください。
「当初シナリオ上では、『理凰くん...こんなありがたいことはないから、ちゃんと見た方がいいよ』というセリフを用意しており、演出としても『見なよ...オレの司を...』という言葉は、背景に書き文字として入れるだけで、原作にかなり忠実な形にしようと考えていました。ところが、原作者のつるまいかだ先生が、『"オレの司を......"は、いのりが言った方がいいかな』と、少し悩みながらも提案してくださったんです。
アニメ制作の現場で、原作者の方から『原作を変えてください』と言われることは、めったにありません。だからこそ、先生ご自身がそれをやってもいいと思ってくださるなら、こちらとしても『その方が絶対に面白くなる』と感じました。なので、『やらせてもらえるなら、思い切ってそっちに振り切りましょう!』とセリフを変更することになったんです」

(C)つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会
――いのり役の春瀬なつみさん、司役の大塚剛央さんをはじめ、キャスト陣の演技についての感想をお聞かせください。
「春瀬さんについては、単行本第1巻の発売時からCMでナレーションを担当されていたので、『いのりはもう春瀬さんで問題ないでしょう』という感覚が最初からありました。一方で司役は、かなり多くの方にオーディションを受けていただき、その中から大塚さんに決めました。実は大塚さん、最初は夜鷹純(よだかじゅん)役でオーディションを受けられていて、ご本人も『どちらかというと自分は夜鷹タイプだと思います』とおっしゃっていた通り、本当に素晴らしかったんです。
正直、司も夜鷹も両方大塚さんにお願いしたいくらいだったんですけど、『さすがにそれは変だよね』という話になって、司役に専念していただくことになりました。司というキャラクターは、常にいろいろなことを考えていて、少し情緒が不安定というか、テンションの振り幅が激しい人物じゃないですか。そういった難しさのある役を、大塚さんが本当に見事な演技で表現してくださったので、司役はすぐに決まりましたね」

(C)つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会
――司は「成功者ではない指導者」として描かれる点が印象的ですが、演出する上で意識されたことはありますか?
「司という人物は、フィギュアスケート選手として生きていくという夢に一度挫折しているので、どこかで常に『自分でいいのか』と自問していたり、自分に自信が持てない部分を抱えているんです。そこが、いのりとすごく重なっているところでもあって、その共鳴からこの物語は始まっていると思っています。だからこそ、いのりも司のことを、どこか複雑な感情を抱きながら見ている部分があると思うんです。
もちろん二人は別の人間なので、常にうまくいくわけではないですし、子どもを指導する難しさも描かれています。ただ、司は根本的に、常に相手のことを考えて行動する人間なんですよね。その姿勢が描かれているところは、個人的にもとても好きな部分です。一方で『メダリスト』は、いのりと司、二人が主人公の物語でもあります。なので、演出としては、どちらか一方に感情や視点が偏りすぎないよう、そのバランスは常に意識しています」

(C)つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会
――第2期では登場人物や演技シーンが一気に増えますが、アニメーションとして表現する上で、どのような点を意識されましたか?
「新しいキャラクターが次々と登場する中で、それぞれのドラマや背景を、すべて丁寧に描き切ることは難しかったと思います。ただ、その分、アニメでは、演技中のしぐさや表情、間の取り方など、ささいな描写の中に、そのキャラクターがどんな環境で育ち、どんな関係性を築いてきたのかが感じ取れるよう意識しました。特にコーチとの関係性については、『きっとこんなやりとりを重ねてきたんだろうな』と想像できるように描いています」
――第2期から新たに登場するキャラクターの中で、特に注目してほしい人物を教えてください。
「前半の大会だと、申川りんな(さるかわりんな)、炉場愛花(ろばまなか)、八木夕凪(やぎゆうな)の3人ですね。いずれもキャラクターとしての魅力が強く、フィギュアスケートの演技シーンもしっかり描いています。後半では、岡崎いるかや、さらにその先に登場するキャラクターも印象に残る存在になると思います」

(C)つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会
――第2期で、ファンの方々にぜひ注目してほしいポイントを教えてください。
「3Dによるフィギュアスケートのシーンで使用しているモデルを一新しました。その結果、今まで以上に作画との違和感が少なくなり自然になりました。それに3Dアニメーターたちの技術力も上がり表情の表現が格段に豊かになっています。これまで3D表現が苦手とされがちだった表情の部分が大きく改善され、キャラクターの魅力がより伝わるようになっているので、ぜひ注目してほしいです」
――劇場版の制作も発表されました。
「TVアニメの中で、皆さんが特に期待しているシーンを急ぎ足で描いてしまうよりも、劇場版という最良の環境でじっくりとお届けした方が、より大きな感動につながると考えています。ぜひ楽しみにしていてください」

(C)つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会
――最後に、TVアニメ第2期を楽しみにしている皆さんへメッセージをお願いします。
「第1期では、フィギュアスケートの演技シーンを中心に、多くの方に楽しんでいただけたと思っていますが、第2期では、そこからさらにパワーアップしています。いのりと司、二人の関係性やドラマもより深く描いていますし、司、夜鷹、鴗鳥慎一郎(そにどりしんいちろう)による三つ巴のシーンなど、物語としても見どころが満載なので、最後までご覧いただけたらうれしいです」
取材・文/中村実香
【プロフィール】
山本靖貴
アニメーション監督・演出家。監督として「侵略⁉︎イカ娘」「サーバント×サービス」「阿波連さんははかれない」(総監督)など、数々のTVアニメを手掛けてきた。『メダリスト』では第1期・第2期の監督を務める。




