声優・日笠陽子インタビュー#2「『あえての60点がハマることもある』"引き算"に見るお芝居の醍醐味」

声優・日笠陽子インタビュー#2「『あえての60点がハマることもある』"引き算"に見るお芝居の醍醐味」

「けいおん!」の秋山澪役をはじめ、「SHAMAN KING」の麻倉葉役、「戦姫絶唱シンフォギア」のマリア・カデンツァヴナ・イヴ役など、数々の人気作で多彩なキャラクターを演じ、その圧倒的な表現力と、お芝居の幅広さでファンを魅了し続ける声優・日笠陽子さん。クールな役柄から少年役まで幅広くこなす実力派でありながら、持ち前の明るさと飾らない人柄で、現場でもつねにムードメーカーとして愛されています。自身のことを「小6男子」とたとえ、いまでも真っ直ぐな心で仕事を楽しみながら走り続ける日笠さん。全3回にわたるインタビューで、そんな彼女の素顔に迫ります。

■二人の思いが詰まった、あやねるとの番組

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――佐倉綾音さんとやられているYouTube番組「日笠・佐倉は余談を許さない」では、お二人の掛け合いが絶妙ですが、佐倉さんとはプライベートでも親しい間柄ですよね。

「そうですね。ご飯を食べに行ったり、お家に遊びに行ったりもよくします。家の中は、完全に『安全地帯』なので、誰にも止められたりすることなく、平気で6〜7時間は話し込んじゃったり(笑)。とくにお芝居の話が始まると、もう止まらない。お互いに尽きることなく、ずっと喋ってます!」

――6~7時間...!?それはすごい...!番組のトークは事前に打ち合わせなどをされているんですか?

「それが、打ち合わせはまったくしてないんですよ...!台本も現場に入ってから初めて読むし、そもそも台本に書いてある通りに進行するわけでもないので。番組タイトルとは真逆ですが、基本、全部が『余談』です(笑)。『30分に収める!』とか言いつつ、結局収まらないことも多いし。収録が途中で止まることもあるけど、ずっとそのテンションなのでカメラが止まってる間もずーっとおしゃべりしてる......だから『どこが放送用で、どこからが言っちゃいけない話なのか』自分たちでも、よくわからなくなっています(笑)。でもそれも含めて、私たちらしさかな。スタッフさんには迷惑をかけますけども(笑)」

――お話を聞いていると、お二人の間の空気感がしっかりできあがってる感じがありますよね。

「綾音ちゃんがものすごくラジオが好きで、『毎週、新鮮な話題を話したい』『そのときの感情を届けたい』っていう気持ちが強いから、毎週ちゃんと収録しているんです。ほかの番組だと、スケジュール調整のために2本録り、とかっていって数週分をまとめて収録することが多いんですが、あの番組に関しては毎週、収録してますね」

――毎週収録!だから、お二人のトークがいつも新鮮なんですね...!

「そんなふうにお聴きいただけていたら、嬉しいなぁ。綾音ちゃんはラジオ好きでこだわりが強いけど、一方で、私は私で『あるがまま』というのが心地よくて。気合いが入りすぎていたり、いつも全力だと長く続かないじゃないですか、きっと。人間、そうじゃない日だってかならずやってきますから。毎週のことだから、テンションが高い日もあれば、ちょっと体調がすぐれないときだってある。それを受け入れることが大事なんだな、って思います」

――ご自身のバイオリズムも大切にする、ということですね。

「そう、バイオリズム。上振れも下振れも認めながら、そんな自分も愛しながらやっていけたらいいな。綾音ちゃんの『新鮮なものを届けたい』という情熱と、私の『あるがまま』という感覚。その両方を大事にしながら、これからも番組を続けていけたらなと思っています!」

■周りにいるキャラが、演じるキャラの写し鏡

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――普段、キャラクターを演じる際、どのようなルーティンで役作りをされているのでしょうか?

「まずは台本を読んで、ほかのキャラクターとの会話の中から『関係性』や『立ち位置』を探っていきます。この作品の中で、このキャラはどんな役割を担っているのか。そこが大まかに理解できたら、『じゃあ、この人はどういう人なんだろう?』と細かくディティールを考えていく感じですね。好きな人は誰、嫌いなものは何。そういった要素を拾いながら、『なぜこのセリフを言うんだろう?』と感情を深掘りしていきます。ただ、最初から『このキャラはこうだ!』と1から10まで決めつけることは、あまりしません。現場で迷宮入りしてしまうことがあるので(笑)」

――演じながら、徐々にキャラクターの輪郭がはっきりしてくるイメージ、ですか?

「そうですね。そもそもキャラクターって、誰かと関わることで初めて見えてくるものだと思うんです。人間もそうじゃないですか。ただ座って黙っているだけでは、その人がどんな人かわからない。でも、こうして人と喋っていると、その人柄が見えてくる。だから私は、ほかのキャラクターと対峙して、彼らを『鏡』にすることで、自分の演じる役が見えてくるんだと思っています」

――演じるキャラ自身ではなく、周りのキャラがそのキャラの鏡になっているんですね...!役作りとして、ルーティンでやってることはありますか?

「台本をもらったら、まず『この人はこういう人だろうな』というファーストインプレッションを、メモでぶわーっと書き込みます。ただ、一話分の台本から見えてくることってそこまで多くはないし、細かく作りすぎると現場での対応ができなくなってしまうので、あくまで『大きい感情の枠』を書き出すようにしています。だけど、家で考えてきたものは『私という鏡』に映ったキャラクターでしかないので、原作者の先生や監督が描きたいものが加わることで、また変わっていくことがほとんどですね」

――自分だけでは完結させない、ということですね。

「そうです。現場で『ここのお芝居はこうしてください』と言われて、修正。でも、一度修正したからといって『そのキャラを掴んだ』とはまったく思わなくて。むしろ、『こういう方向に修正したということはつまり?』と、また翌週に向けて考え続けていく。だから正直、1話めの時点で役が完成していることは『ない』と言い切ってもいいくらい。そこから数話でバチっとハマる時もあれば、ワンクールかけてようやく、そのキャラと意思疎通が取れるときもある。こればかりはふたを開けてみないとわかりません」

――作品やキャラクター、制作スタッフによってもまったくアプローチは変わっていくんですね。

「全然、違いますね。監督たちが『こういうことを求めているんだろうな』と推察したり、そこに近づけていく力は、場数を踏めば踏むほど鍛えられていくので、20代の頃よりもいまのほうが早くなっているとは思います」

■「あえての60点」がおもしろくなることもある

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――日笠さんの思う"プロ"について、お聞きしてもいいですか?

「声優の仕事って、作品作りの旗を振っている人の指示に従う『歯車』の一部だと思っているんですよ。役者はあくまで、『こういう作品を作りたい』というオーダーに応えるための一部分。だから、プロとして指示に従うのは当たり前で、向こうが欲しいものを出すのは"最低ライン"。そこから、どうやってその期待を超えていくかが、プロの本領ですよね。ただし、それを役者一人だけで作るのは、ほとんど無理だと思います。監督や原作の先生方と、現場で一緒になって作り上げていく。そのやり方は、その人ごとに違いますけど、私は言葉を尽くしてディレクションしてくださる方だと、一緒に『作品作り』をしている感覚になれて、よりおもしろく感じますね」

――オーダーに100点で返して、自分でOKを出してはいけない...。

「私は、全然『そこで満足しちゃいけない』って思っちゃいますね。せっかくその幅が許されている職業なんだから。『もっとできるはずだ』って毎回、思ってます。だけど、いつだって全力で『120点を狙うぞ!』が正解というわけでもないんですよね。昔は、そうやって意気込んでいることもあったんですが、逆にそれが"重たく"なってしまって、周りが辛くなってしまうこともあるんですよね」

――なるほど、振りかぶりすぎているような...。

「そうそう。『そこまでは求めてないんだけど...』『そんな作品じゃないのにな...』とかっていうこともあるじゃないですか。最近になってようやく、『足せばいいってわけじゃない』と気づきました。ゆるく伝えたいものや、観ている人に気負わないでほしいシーンに対して、計算し尽くした演技を当てはめても、おもしろくなかったりする。だから、あえて引いていく。『引き算』が大事なんだなと。完璧な100点よりも、逆に60点くらいのほうがおもしろかったり、その作品にはまっていたりすることもあるんじゃないかなって」

――あえての60点...!めちゃくちゃおもしろいですね。今後、演じてみたいジャンルやキャラクターなどはありますか?

「これはもう一生言い続けているんですけど、私、なぜか『叫べる』認定されているらしいんですよ(笑)。スタッフさんいわく『戦える人間は、戦いに駆り出される』らしく......おかげで、大体異世界とか、争いの世界とか、生死をかけた重たい場所にいがちなんです(笑)」

――たしかに。あとでお聞きする『キングダム』も、まさに死戦続きですし...(笑)。

「死線をくぐっていくキャラって、つねに生死を分けた場所にいるから、どうしても覚悟が決まっていくんです。そうすると、演じている私もずっと緊張の糸が張り詰めていて、心も体も『ぎゅーっ』となってしまう作品が多くて。どんなに余裕そうに見えるキャラでも、油断したら死ぬし、過去に何度も死にかけてきているし。そういう意味では、『生死がない世界』に行きたいかなぁ(笑)。でも、そう考え始めた矢先に、なぜか先々で本当に生死をかけそうになる役が来たりする(笑)。だから、『けいおん!』のような日常系の作品は、私にとってはすごく珍しかったんです。20年を経て、また日常の世界に帰ってく時代がきたらいいな、とは思いますね」

――戦いの世界から、日常へ(笑)。

「最近は、異世界ものでも"スローライフ系"というような、ちょっとゆったり観られる作品も増えてきましたよね。きっと、戦いの世界に身を置いてきたからこそ、そのゆったりしたテンポの良さがすごくわかるし、でも逆にそのゆったりした世界にばっかりいたら、いままでのような死戦をくぐりぬけることはできなかったんだろうなって(笑)。日常系の作品......とくに恋愛ものは、マジでおもしろいくらい縁がなかったんですけど、最近はそんな作品の話がちらほらあったり、そのムーブを感じ始めているので、ここから先はその日常感のお芝居を、どれだけ学べるかがカギですね」

――緊張と緩和、どちらもあるからこそ、お互いに活きてくるのかもしれませんね。演じてみたいキャラクターはいますか?

「キャラクターとしてずっとやってみたいのは『ちっちゃき生き物』(笑)。勇者の相棒とか、そういうパートナー役のかわいくてちっちゃい生き物をやりたいって、ずーっと思っているんですよ。でも、そのうちやりたいなと思い続けて、いままでなんとなくそれが叶ってきたから、おそらくいつかやるんだと思ってます!(笑)」

■自分の中で許せる範囲が増えていった|「キングダム」羌瘣

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――2025年末に第6シリーズが放送された「キングダム」。日笠さんは羌瘣を演じられていますが、あらためて日笠さんから見た羌瘣の魅力について教えていただけますか。

「羌瘣に関しては、物語がスタートしたときと今では、全然違う魅力を持ったキャラだと思っているんです。登場した当初の彼女は、とにかく『復讐』に燃えていた。みずからの命すら顧みず、ただ目的のためだけに生きる、研ぎ澄まされた刃のような存在でしたよね」

――当初のイメージは人を寄せ付けない、強固な信念を持ったキャラでした。

「けれど信をはじめ、飛信隊という仲間に出会ったことで、人を慈しむことや、愛することを知った。戦場というつねに生死を分ける場所だからこそ、命の尊さみたいなものを肌で感じられるようになった。かつては復讐心が生きる原動力のすべてでしたから。だからこそ、飛信隊という居場所を得て、初めて『自分以外の誰かを守る』という愛を知っていった。その心の成長こそが、いまの羌瘣の最大の魅力なんじゃないかな、と思っています」

――そうした羌瘣の成長や変化を、日笠さんはお芝居のなかでどう表現していったんでしょうか?

「じつは、自分の中で『こう変えてやろう』というような、計算したプランはなかったんです。それよりも『自分の中で"許せる範囲"が増えていった』という感覚に近い気がします」

――許せる範囲?

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「最初の頃は、とにかくこの張り詰めた系をキープして、彼女の意志を貫くんだ、という意識が強かった。でも、物語が進むにつれて、私もしぜんと少し高めのトーンが出るようになったりして、『それがこのときの感情だったんだな』と思えたり、許容できるようになっていったんです」

――あえて変えることはせず、自然と心が開いていく感覚だったんですね。羌瘣といえば「トーンタンタン」という独特な呼吸法を操る巫舞が印象的です。あの息遣いの演技のときは、ご自身の中で何かスイッチを切り替えているのでしょうか?

「あの呼吸法については、原泰久先生から『自分とはまた別の"何か"を自分におろす、儀式のようなものだと思ってください』と言われたことがあって。『羌瘣ではない、別の何かになってやってほしい』と。感覚としてはシャーマンに近い。だから、あの呼吸法のときは頭では何も考えないようにしています。自分を空っぽにして、入れ物になるような...そんな不思議な感覚の中で演じています」

■自分の命をどう燃やして生きるのか|「キングダム」羌瘣

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――これまで「キングダム」で長く演じてこられた中で、日笠さんにとって特に印象に残っているエピソードや、忘れられないシーンはありますか?

「やっぱり、過去に決着をつける『象姉(しょうねえ)』と『幽連(ゆうれん)』との復讐のシーンですね。あのシーンの収録って、じつはちょうどコロナ禍の時期だったので、スタジオでは誰とも掛け合いをせずに、たった一人での収録だったんですよ」

――そうだったんですね......!あの壮絶なシーンを一人で録るのは大変ではなかったですか?

「それが、結果としてすごく良かったんですよ。あの戦いって、羌瘣にとっては本当に『孤独な戦い』で。助けてくれる仲間もいない、ひとりぼっちの道なんです。収録のときも、ヘッドホンから聞こえてくる幽連の声や象姉の声だけを耳で頼りにしながら演じていて、自分の内側へと深く入っていく感覚がありました。その現実の孤独感が、羌瘣の心情と完全にリンクして。印象的なエピソードになったなと思います」

――掛け合いができないからこその孤独感が、お芝居に繋がっていたんですね。

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「まさに『自分との戦い』でしたね。その苦しい時期を超えて、みんなと一緒に収録できるようになったときには『ああ、帰ってきたな』という感覚がありましたし、ちょうど羌瘣が飛信隊に再合流したときで。あのタイミングで分散収録になったことには、運命的なものも感じます」

――すごいお話...!やはり、みんなで録ると違いますか?

「全然違いますね......まあ、みんながいると気が散るっていうのもあるんですけど。飛信隊ってうるさいから(笑)」

――森田さんにも、以前インタビューで「キングダム」の壮絶な収録のお話をお伺いしました...(笑)。

「ですよね(笑)。あの熱量の中にいると『うわーっ!』ってなりますけど、でもやっぱり『キングダム』の現場が大好きだし、メンバーみんなのことが本当に大好きなんですよね。あのやかましさも含めて、愛すべき場所です」

――最後に、「キングダム」の作品の魅力や、日笠さんが作品から受け取ったメッセージについて教えていただけますか。

「『キングダム』のテーマ......これを一言で言うのはすごく難しいですね。ただ、私個人が強く感じているのは、『命の使い道』なのかな。この作品って、元は史実......ということは、登場するキャラクターたちは、歴史上ではもう全員亡くなっている人たちなんです。極端な話をすれば、『人はいつか必ず死ぬ』という結末が決まっている」

――たしかに。どんなに強い武将でも最終的な死からは逃れられない。

「そうなんです。戦場であればなおさら、明日死ぬかもしれない。ふと『この戦の勝敗も、彼らの寿命も、歴史として決まっているんじゃないか』と思う瞬間があるんです。でも、じゃあ寿命が決まっているからといって、彼らは諦めるのかといったら、絶対にそうじゃない。むしろ、死と隣り合わせの日常のなかで、誰よりも強く『生きたい』『勝ちたい』と願った、意志の強い人間が勝っていくのが『キングダム』の世界だと思うんです」

――武力や兵数の差ではなく、「最後は意志が強いほうが勝つ」って、すごくわかります...!

「信もそうですし、隊長や武将と呼ばれる人たちは、みんなその『覚悟』を持っているんですよね。たとえ結末が決まっていたとしても、最後の最後まで足掻いて、諦めずに戦い抜く。その姿に、私は『命のきらめき』のような美しさを感じるんです」

――「命のきらめき」、いい言葉だ。

「人は絶対に死ぬし、歴史の年表で見れば一行で終わる人生かもしれない。でも、『いつか死ぬと決まっているとき、自分は何を残すのか』『その命をどう燃やして生きるのか』。それは自分次第なんだと、彼らの生き様が教えてくれているような気がします」

■五条悟を嫌うのに理由なんてない|「呪術廻戦」庵歌姫

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――2026年1月から放送が始まった『呪術廻戦』「死滅回游 前編」。日笠さんはシリーズの中で庵歌姫を演じられていますが、役作りはどのように進められたのでしょうか?

「最初は、原作を読んだときの印象のまま現場に行ったんです。五条(悟)に対していつもキレているし、わりと感情を抑えられない、中身は大人になりきれていない人なのかな、と。だから、少し粗暴な雰囲気で作っていったんですよ。そうしたら、音響監督さんから『"大人の淑女"にしたい』『"京都感"が欲しい』と言われまして。そのときに、『五条のことは、本当に嫌いです』ともはっきり言われました(笑)」

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――本当に嫌い(笑)。一見、あの二人のやり取りは「ケンカするほど仲が良い」ようにも見えますよね。

「あんなに喧嘩してるって、お互いわかっててやってるんじゃないの、とも思ったりしたんですけど、『いや、本当に嫌いです』と念を押されて。そこからお芝居のアプローチが真逆になりましたね」

――「じゃれあいのツッコミ」ではなく、ガチの嫌悪感だったと。

「でも、そのわりには協力もしているし、難しい立ち位置だなって。でも、そう言われてから原作を読み返してみると、見え方はだいぶ変わりました。『呪霊を倒して人を守る』という目的は五条と同じなんですけど、歌姫は歌姫なりに、生徒や人を守りたいという思いが強い。それでも相入れないというのは、おそらく純粋な"嫌い"なんだな、と。多分、『嫌いなことに理由はない』タイプのものなんだと思います」

――生理的に無理、みたいな?

「生理的に...というのもちょっと違う気がするなぁ。本当に、ただただムカつくんだと思いますよ。人を好きになることに理由がないように、人を嫌うことにもまた理由なんてない。そう考えると、『呪術廻戦』って元々が目に見えない世界を描いている作品だから、そういう『理由のない直感的な感覚』が成立してもいいのかな、とも思うんです」

――実際に、現場では五条役の中村悠一さんとはどんなやり取りをされていたんですか?

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「印象に残っているのは、京都姉妹校交流会で帳(とばり)が降りて、五条だけが入れなくなるシーンですね。歌姫が『ちょっと、なんでアンタがハジかれて、私が入れんのよ』っていうセリフ。あのセリフ、じつは何度もリテイクを重ねていて、現場ではちょっと迷宮に迷い込んでしまっていて。その場にいらっしゃった冥冥役の三石琴乃さんが、『歌姫ちゃんって、五条くんのこと本当に嫌いなのね』ってポツリと仰って。そのときは『え、何のことだろう?』と思っていたんですけど、あとから中村さんと話したときにすごく腑に落ちる話をしてくれたんです」

――どんなお話だったんですか?

「役者って、たとえば最初にやった演技が時計の『6時』の位置にあったとして、リテイクで『違う』と言われると、前の指示に積み重ねて『7時』『8時』『9時』......と進んでいこうとしちゃうよね、って。前のプランを捨てきれずに、言われたことを足していってしまう。でも制作側としては、『前のプランは捨てていいから、こっちをやってみて』という意図だったりする。だから、役者が『7時』の方に進んでいるつもりでも、正解は『5時』の方向に進んでいくことだったりするんだよね、と。だから混乱するんだよ、と中村さんが言語化してくれて『なるほど!』と。そう思えば、三石さんの言葉は私が7時、8時の方向に進んでいっているところ、5時の方向性を示してくれていたんですよね」

――やばい、原稿でも同じことがある気がする...!

「中村さんはすごく、そういう抽象的なことも言葉で表現するのがうまい方で。お芝居のことや仕事のことを、本当によく相談させてもらっているので、すごく頼りになる"お兄ちゃん"ですね。その経験で、また一つ自分に知識とか武器が増えたような気がします。当時のディレクターさんはOKラインがすごく明確で、そこに持っていくのに苦戦していたんですが、『いまの私だったら、もっとうまく持っていってみせるぞ』とか思ってます。そう思えるってことは、私も成長しているんでしょうね(笑)」

――間違いないです...!最後に、五条に対するツッコミの中で、日笠さんが一番好きなセリフをお聞きしてもいいですか?

「やっぱり、『うっさい』ですかね。『うっさい。私の方が、先輩なんだよ』っていう、あの冷ための一言が好きです(笑)」

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取材・文/郡司 しう 撮影/梶 礼哉 衣装協力/sahara

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