声優・阿部敦インタビュー#2「『とある魔術の禁書目録』で迎えた転機。そして『声優百貨店』『アイドリッシュセブン』の魅力を語る」
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2024.06.21
「とある魔術の禁書目録」上条当麻役の熱演をはじめ、「バクマン。」真城最高役、「異世界のんびり農家」街尾火楽役などのアニメから、「アイドリッシュセブン」の逢坂壮五役、「プリンセスコネクト!Re:Dive」といったゲームまで、数々の話題作で主要キャラを熱演してきた声優・阿部敦さん。幼い頃から自分の気持ちに素直で裏表なく、それゆえに「小学生時代は周りにあまり馴染めなかった」と話す阿部さん。そんな彼の人生の分岐点は、大学4年生のときに訪れます。このインタビューでは、阿部さんが声優の道を選んだきっかけから、出演する作品に対する思い、役作りまで、その人となりをひもといていきます。
■「とある魔術の禁書目録」から始まった声優人生

――声優として、ご自身の転機となった作品をお伺いできますか?
「『とある魔術の禁書目録』という作品ですね。
多くの方に自分の名前を初めて知ってもらえた作品ですし、なんとなく僕はこの作品でみなさんに受け入れてもらったという気がするんです。しかもアニメだけでなく、いろいろなメディアで展開したり、スピンオフなども広く展開している作品なので、今でもお仕事をやらせていただいているんですよね。
もう、僕の声優人生はここから始まったといっても過言ではない、まさしく転機になった作品だなと思います」

(C)鎌池和馬/アスキー・メディアワークス/PROJECT-INDEX
――オーディション当時の思い出などはありますか?
「当時はまだ駆け出しの頃で、いろいろなオーディションを受けつつも、なかなか箸にも棒にもかからない状態でした。そんな中で、マネージャーから『おそらくこの作品は、まだイメージが定着してない新人系の声優を起用する感じがする。阿部くんは、役にも合ってるから受けてみなよ』と言って、受けさせていただいたんです。そしたら、ありがたいことにオーディションに受かって。それが1年目のころかな。
ただ、『とある魔術の禁書目録』はドラマCDが先行だったのとアニメ化のタイミング的に、けっきょく対外的に言えるようになったのは3年目ぐらいだったと思います」
――でも、それだけの新人でしかも主役ということで、座長としてのプレッシャーや不安などは感じませんでしたか?
「不安はとくになかったですね。元々、舞台をやっていたおかげもあって大勢でものを作ることには慣れていたのもありましたし、不安に思っていてもしょうがないし。それよりも作品に関わる方々と一緒に、みんながいいなと思えるような作品を一緒に作れたらいいな、という気持ちのほうが強かったような気がします。
でも、そのためには自分が頑張らなきゃいけないから『悔いがないようにちゃんとやろう』とは思っていました」
――すごい、新人にしてはどっしり構えている感じありますね......!周りの人も「初めて?!」とかびっくりしそう(笑)。
「たしかに(笑)。新人で主役なんて調子に乗ったりしそうなものですが、全然そんな気持ちになることはなく、一緒になった結構上の先輩からも『阿部くんはどっしりしてるね』とか言われるタイプでした。当時のデスクの方にも『天狗になったら、すぐ鼻をへし折ってやるからな!』と言われていたんですけど、何回か収録を重ねるうちに『阿部くんは、天狗になるとか、そういう感じじゃあないね』と(笑)。
もちろん、初めての主役で嬉しいのは間違いないけど、だからといって『この一役だけやっていれば一生食べていける』というものでもないので、そこはかなり現実的に考えてました。
『とある魔術の禁書目録』が終わったとしても、事務所には戦力として認めてもらわなきゃいけない、別のオファーももらわなきゃいけないし、次のオーディションにも受からなきゃいけない。考えれば考えるほど、調子に乗ってる場合じゃないなと」
――感情とかテンションに流されない感じ、人生2週目感があります(笑)。
「いや、そうはいっても最初のアフレコはやっぱり失敗もしましたよ(笑)。第1話の演技のすり合わせも、僕があまりうまくいってなくて、収録時間を1時間弱くらい、オーバーしてしまった。でも、そこで収録が終わったときに周りのみなさんに拍手していただいたのは今でも覚えています。その時に感覚を掴んで軌道修正をしていって、第2話、第3話と少しずつ収録時間のオーバーも減り、第4話くらいには時間内に終わるようになりました。
それと、すごくありがたかったのが敵役のキャストに、経験豊富な方々がとても多くて。超が付くようなベテランの方々ばかりだったので、もう新人なんて全力でガムシャラにやるしか、できないじゃないですか。そのおかげで、迷いなく、不安なくアフレコに望めたのはよかったと思います」
■「声優百貨店」理想は居酒屋でダベる感じ

――ニコニコチャンネル「阿部敦の声優百貨店」は10年以上にわたって続けられている配信番組ですよね。
「そうそう、収録は今日と同じスタジオでやってるんですよ」
――え!?
「しかも、最新のやつは昨日収録したから、昨日もこのスタジオに来ていて(笑)」
――まったく知らなかった......じゃあ2日連続でこのスタジオに(笑)。あの番組はどんなきっかけで始まったんでしょうか?
「元々はスポンサーの関係もあって、フィギュア紹介という一面をもった番組としてスタートしたものだったんです。で、僕がフィギュアもすごく好きだったのもあって、番組にも声だけで出てくる"作家あべ"さんにオファーしていただいたのが始まりで。
最初の頃は、ゲストを毎回招くというスタイルでもなかったんですが、だんだんとゲストを呼ぶというのも定着してきて。でもそれで続けているうちに、一度スポンサーさんとの契約が終わって番組自体は終了になったんです。
そこから少し時間が空いて、『でも、この番組は続けたいよね』という話が先ほどの"作家あべ"さんとの間で浮上して、復活することになったという感じです」
――MCをやる上ではどんなことを心がけているんですか。
「そんなに考えているようなことはないんですが、ゲストで来てくれた声優とは『好き語りしようぜ!』っていう気持ちで、ただ一緒に楽しく盛り上がりたいと思いながらやっているんですよね。だから『MCとして意識していること』と改まって聞かれるとあんまりなくて、理想は飲み屋で好き勝手にダベっているイメージ(笑)。

それでも10年も続けていると無意識にいろいろなことが身についているみたいで。最近、各所でMCをやらせていただく機会が増えてきて、トークの回し方に関しては、結構この番組での経験は活きてるんだな、って実感しました」
――これまでゲストできた声優は、130人以上にもなっています。
「そうですね。ありがたいことに、この番組には初対面の女性の声優さんも結構いらっしゃっていただけるんですよ。なんとなく今って、男性声優は男性声優とわちゃわちゃして、女性声優は女性声優とイチャイチャしているのを取り沙汰されることが多いような気がして。もちろん、『同性同士のやりとりを観たいんだ!』という気持ちもめっちゃわかるんですけど。
そんな中でこの番組は、男性声優と女性声優が性別関係なくコミュニケーションが取れる貴重な場だと思っていて。おそらく、そこから生まれる面白いこともあると思うんですよね。元々狙いがあってやっていたわけではないんですが、結果的に今それが実現できているのは、すごくいいことだなと思っています」
――今後、何かやってみたい企画とかはありますか?
「なんだろう......毎年、夏場になるとホラー企画をやるんですけど、個人的には毎年、その企画を楽しみにはしていますね。ただ、"作家あべ"さんが怖いの嫌いなんだよな(笑)」
■何事もプラスの側面ばかりじゃない「アイドリッシュセブン」の魅力

(C)BNOI/アイナナ製作委員会
――「アイドリッシュセブン」では逢坂壮五役を演じられています。阿部さんが感じる、この作品の魅力を教えてください。

(C)BNOI/アイナナ製作委員会
「初めて壮五役のオファーをいただいたとき、台本を読んで率直に思ったのが『面白い!けど、重い......』でした。アイドルの話なのに、いわゆる"キラキラした"面ばかりじゃない。それが自分にとってはすごく新鮮で面白く感じたのを覚えています。
脚本家・都志見文太さんの作品には、じつは別の作品でも主役で出演させていただいたりしているんですが、都志見さんの書く物語は、人間の深い部分をえぐるようなお話が多いんですよね。『アイドリッシュセブン』に関しては、それがたまたまアイドルというジャンルだった」
――例えば、どんなふうにアイドルという存在を描いているんでしょうか。
「当時はアイドルっていうと、キラキラと輝いていて、ファンから黄色い歓声を浴びて、甘い言葉を投げかける。そういう存在としてプラスの側面ばかりに脚光が当たっていたと思うんです。
でも本当は彼らだって人間で、いろいろなものを背負いながら生きている。嬉しいこともあれば傷つくこともある。ひとたびステージに立つとそれを感じさせないパフォーマンスをするし、『ファンを応援したい』という純粋な気持ちで歌ったり、踊ったりする。
面的ではなく、アイドルが持つほかの側面に対して描こうとしているなという感じがしました。あと同時に、ファンという存在の描き方もすごいなと思いましたね」
――それも詳しくお伺いできますか?
「アイドルとファンの関係って、『お互いの応援が力になる』という基本があるんですよね。一生懸命パフォーマンスをするとファンは日常を生きる元気がもらえるし、ファンの応援はアイドルの力になる。本来は、その素敵な循環が軸だと思うんです。
でも、ときにはそれを逸脱してしまうファンの姿というのもあって。好きがゆえに暴走してしまい、アイドルに対して嘘をついたり、アンチのような存在になってしまったり。ある意味、ファンにとっての負の側面も描いているわけです」
――確かに、めちゃくちゃリアルですね。
「ふだん何かしらのファンである方も、おそらく読んでいて『はっ』と気付かされるような気持ちになる瞬間があったと思うんです。例えば、ファン同士が会話で、自分の推し以外のメンバーに対して『あいつ喋りすぎ。邪魔じゃない?』と軽い気持ちで話しているのを、たまたま聞いてしまったアイドルがいて、すごくショックを受ける。
もしかしたら現実に、それに近いようなことを言ってしまったことがある人もいると思うんです。言ったファンからすれば軽い気持ちだし、冗談のつもりなのかもしれない。けど仮に、その場に本人がいてその言葉を聞いていたら、アイドルはどんな気持ちになるのか。どんなことにも負の側面はあると思いますが、ことアイドルというジャンルで、ここまでアイドルとファンの関係性をリアルに描いている作品は見たことがない。
『アイドリッシュセブン』は、キャラやパフォーマンス的な魅力もたくさん詰まっていると思いますが、同時に『アイドルもファンも同じ人間だ』という気づきを与えてくれる、読みものとしての魅力もある作品だと思います」

取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃




