声優・阿部敦インタビュー#1「最後の分岐点だと思ったから、自分に素直にやりたい道を選んだ」

声優・阿部敦インタビュー#1「最後の分岐点だと思ったから、自分に素直にやりたい道を選んだ」

「とある魔術の禁書目録」上条当麻役の熱演をはじめ、「バクマン。」真城最高役、「異世界のんびり農家」街尾火楽役などのアニメから、「アイドリッシュセブン」の逢坂壮五役、「プリンセスコネクト!Re:Dive」といったゲームまで、数々の話題作で主要キャラを熱演してきた声優・阿部敦さん。幼い頃から自分の気持ちに素直で裏表なく、それゆえに「小学生時代は周りにあまり馴染めなかった」と話す阿部さん。そんな彼の人生の分岐点は、大学4年生のときに訪れます。このインタビューでは、阿部さんが声優の道を選んだきっかけから、出演する作品に対する思い、役作りまで、その人となりをひもといていきます。

■周囲とのズレを感じていた少年時代

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――今日はよろしくお願いいたします。先ほど撮影の際に、カメラマンの機材に興味津々でしたね......!写真、お撮りになるんですか?

「全然写真がうまいわけではないんですけど、なるべく外に出るときにカメラは持ち歩くようにしていて。
昔はちょっと大きめのゴツいカメラを持ち歩いていたんですけど、重いとだんだんと持ち歩かなくなってきちゃうんですよね(笑)。だから今は、それよりも一回り小さいモデルに変えて、持ち歩いています」

――どんなものを撮影しているんですか?

「基本的には風景とか花とか、意外なものでいうと工事現場とか。今日ここに来るときにも大きなクレーンがある工事現場を見かけましたけど、あの無機質な感じが結構好きですね。
写真を撮ること自体ももちろん楽しいんですが、カメラを持つとふつうに歩いているときには気にも留めないものが目に入ってきたりするようになって。そこが面白いなと思います」

――ありがとうございます!すみません、さっそく余談からでしたがここから本題で。幼少期はどんな性格のお子さんでしたか?

「小学校に入る前の本当に小さな頃は、親から言わせると『ずっと走っていて、目を離すとすぐにいなくなる』タイプ(笑)。それはいま自分で聞いても、なんとなく想像がつきます。
小学校に入ると『周りと少し合わないな』ということが多くなってきて、実際、周りから見れば少しズレている感じの子どもだったんだろうと思います。というのも、昔からわりと、人が気になるいろいろなことが気にならないタイプで」

――例えば、どんなことでしょうか?

「小学生って男子と女子が分かれて、あまり話さなくなるじゃないですか。男子は『女子と話すなんて!』って言うし、女子は女子で『男子サイテー』とか言いながら。でも僕はそういうのが全然気にならなくて『なんで仲良く話さないんだろう』って思っていました。
『絶対好きな子もいるはずなのに。なぜ意地を張るんだろう』って不思議で。でも後々になって『みんな、いろいろなことを気にしていたんだな』って思うようになって、自分がズレていたんだなとわかりました」

――でも阿部さんは周りの子の過ごし方によらず、自分の気持ちに素直だったということですよね。

「そうだとは思います。ただ、子どもの頃ってやっぱりズレていると、なんとなくみんなの輪から外れてしまう感じになるじゃないですか。それで、周りになじめない時期が子どもの頃はわりと多かったなと思います」

――別の記事で拝見したのですが、ご家庭はわりと厳しめだったとか。

「そうなんです。うちは家系がわりとスポーツ系なんですが、親がアニメ・ゲーム・マンガに対して否定的で。夜19時以降はテレビも見ちゃいけないし、『マンガなんて読まずに新聞読め!』とか言う父親で。ただ、親が共働きということもあっていつも家にいるわけではないので、スキを見計らってアニメを見たり、ゲームをしたりしていましたね。あんまり目の前でやるといい顔はしないので。
でもそういう家庭だったからこそ、抑圧でこの世界が好きになった部分はあるかもしれないですけど(笑)」

――当時、好きだった作品やキャラクターなどはありますか?

「小学生の頃に観て、今でもずっと記憶に残っているのは『天空の城ラピュタ』ですね。最初に観たとき、僕は『なんて切ない作品なんだ』という印象だったんですよ。
オープニングの音楽とともに壁画、ラピュタを建造する人たちの作業風景の映像が流れて、もうそこからして切ない。エンタメ作品としても名作だと思いますが、それだけではない魅力を昔からすごく感じていて、ただ、それをうまく言語化できないんですよね。ノスタルジックなのか、懐かしさなのか......」

――私も同世代なので、すごくわかります。個人的には、パズーがラピュタに上陸して、水の中を覗くシーンが大好きで......。

「ああ、あのシーン!めっちゃいいですよね。かつては人が住んでいた街が、今は沈んでいて、魚が泳いでる。『この街はどのくらい前に、なぜ浸水してしまったんだろう』とか、想像がふくらんでしまいます」

■最後の分岐点で「やりたいこと」の道へ

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――声優という職業を知ったきっかけは?

「小学校低学年の頃って、おそらく第何次かの声優ブームがきてた頃で、夕方の時間帯にも声優さんがメインの番組もあったんですよ。たしか、林原めぐみさんや佐々木望さんが出ていらしたと思うんですが、そういう番組を観て、その頃にはもう『声優って職業があるんだ』というのは意識していたと思います。

その頃から、将来の夢......といってもみんながパイロット、宇宙飛行士を挙げるのと同じくらいのテンションで『声優になれたらいいな』と思うようになりました。中学に上がるとだんだん『どのキャラを、どの声優さんがやってる』というのも気にし始めるようになって、高校時代は『声優に近いことをしよう』という気持ちで、演劇部に入ってお芝居を始めました」

――高校の部活といえども、結構本格的にやっていらしたんですよね?

「そうですね。部活動で舞台を踏むのはもちろんですが、ありがたいことにOB・OGさんと知り合う機会があって。その方たちの社会人劇団に参加させてもらったりもしていました。本格的に役者を目指そうという人たちもいて、そこで技術的にもモチベーション的にも、たくさん刺激を受けた。いまでも、その経験がお芝居の礎になっていると思います。

大学でも演劇サークルに入り、地元の劇団の舞台には客演で出たりと、高校入学以来、お芝居に関わっていない時期はないというくらいずっとお芝居をしてきました」

――それが、どのタイミングで『声優になろう』と舵を切ったんですか?

「それはもう、大学4年生の卒業ギリギリ。本当に芝居づけの生活だったので、就職活動なんて一切していなくて。聞いたところによると、みなさん大学2年生の後半からはもう就職活動をしているとか(笑)。
そんな中、僕は4年生になっても進路が決まっていなかった。これはやばいと思って、『そろそろ将来のこと考えないとな』と一日真剣に考えてみたんです」

――どんなことを考えたんでしょうか?

「まず、企業に勤めたとして、5年後の自分を想像してみる。その時点で車は買っているだろうから、ローンがある。もしかしたら家庭を持っているかもしれないし、家を買うためにさらにローンを増やそうとしているかもしれない。

そんなことを考えていると、大学4年生のこのタイミングが、おそらく自分で考えて行く先の道を選択できる、最後の分岐点だなと思ったんですよね。ならば自分としては、やりたいことを優先すべきだろう、と。そう言うとかっこよく聞こえますが、正直、お勤めをする選択肢は、『自分の中でないな』という気持ちになってしまったんですよね。

だから、すごく強い意志をもって『声優になろう!』と考えたのではなくて、理路整然と考えていったときに『こっちはなし。こっちがやりたい』ということで結果的にこの道を選択した感じです」

――それこそ小学生の頃の阿部さんと同じく、周りは気にせず自分の気持ちに素直に従った結果の選択だったんですね。

「そうかもしれません。ただ、親とはめちゃくちゃ揉めましたよ(笑)。ここまで育ててもらって筋を通すために話をしに行ったのに、すごい勢いでまくしたてられて。親からすれば『なれるって保証なんてないんだろう』『どうやって食っていくんだ』って。それはもう本当に、ごもっともで(笑)。

ただ、自分としては相談しに行ったのではなくて、自分で決めたこととして決意表明に行ったつもりだったので言い返すこともない。『なんで黙ってるんだ!』と言われたときに『伝えたいことはもう伝えた』という状態だったんですよね。最終的には親のほうが折れてくれて、声優になる道を応援もしてくれたので本当にありがたかったですね」

■忘れられない、芝居づけの夏合宿

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――大学を卒業してから、東京アナウンスアカデミー(その後、東京アナウンス・声優アカデミーと改名し、2018年をもって休校)に通われていたんですよね。

「そうですね。そうやって親に決意表明をしたあと、まず『声優ってどうやってなるんだ?』という、しごく当然の疑問が浮かんできました。そこで、声優のお芝居について学んだことはないから、とりあえず養成所に行こうと思ったのがきっかけです。

当時は1年間通うと最後に賢プロダクション、マウスプロモーションさん、81プロデュースさんの三社で、クラス8〜10人ごとに合同オーディションをしてくれていたんですね。その面接で、賢プロの現社長と話が結構盛り上がって、いまの事務所に引っ張っていただきました」

――それから、賢プロさんのスクールデュオにも通われました。養成所時代の経験で、何かその後に「活きている」と感じるものってありますか?

「スクールデュオでいうと、いまの受講生もみんな経験するんですが、岐阜県、飛騨高山での恒例の夏合宿があるんですね。

で、今はもう少し緩くなっていると思いますが、当時は結構ガチめな合宿で(笑)。合宿中にはとにかくセリフも覚えなきゃいけないし、教えられることは多いしで、もう缶詰でみんな寝る間も惜しんでひたすらお芝居に向き合うという......」

――それは厳しそうですね......!内容的にはどんなことをするんですか?

「それはもう人形劇から、ナレーション、即興劇までいろいろ......。例えば人形劇でやっていたのは、ちゃんとした日本語のセリフはあるけど、まず最初にそのセリフをすべて果物に置き換えてやってみるんです。もちろん演技は込みで」

――え?......それって「バナナ......バナ~ナ?」「メ、メロン......」という感じでやるっていうことですよね?

「そうですそうです(笑)。というのも、セリフが日本語ではなくても、言う側が意味さえわかって言えていれば、なんとなく情景は見えてくるものなんです。ただ観ている人に情景を見せるためには、言う側が言葉の意味を深く理解していないといけない。

その授業では観ている側が、大体どんなことを言っているのかを書き留めておいて、あとで日本語でお芝居をし直して、答え合わせすると言う感じでやっていました」

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――めちゃくちゃ面白そうですね。

「あとは、『新聞の対談記事まる暗記』とか(笑)。これはペアになってやるんですけど、授業後に覚えなきゃいけないから、どうしてもみんな深夜までかかってしまうんですよ。だから、みんな一睡もできないみたいな状態の人もいて......。

そんな中で僕は『寝ないと記憶定着もしないから!』と言って、積極的に寝ようとするタイプだったんですけどね(笑)」

――また持ち前の素直さが!(笑)でも過酷な分、いい経験ですよね。

「そうですね。教えてくれる講師の方たちもプロばっかりなので、ああやって短期間でというのはすごく濃密な時間だったなと思います。それと自分だけだと、いくら頑張って取り組もうと思っても、あそこまでは追い込めないんですよね。

周りの人たちと一緒になって、ある意味、逃げもできない環境でやるものだから(笑)。絶対必要だ、とは思いませんが、人生のうち、一度はああやって自分のことを追い込んでみる経験というのも貴重な経験だと思います」

■アニメ「Free! - Dive to the Future-」当時の思い出と演じたキャラへの思い

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――2018年に3期が放映されて、『劇場版 Free!-the Final Stroke-』が2021〜2022年にかけて公開。いまだに根強い人気がある作品で、阿部さんは岩鳶高校の早船ロミオ役でご出演されていました。アフレコの時の思い出話はありますか?

「競泳をテーマにした作品って、じつはめずらしいじゃないですか。だから実はアフレコに臨むまで『息継ぎの演技ってどうやるの?』っていうのを知らなくて(笑)。

現場に行ってみたら、葉月渚役で同期の代永翼くんはじめ、前々からやっているキャストがたくさんいたので、それを観ながら『なるほど、こうやるのか!』とその場で学んで、本番ぶっつけでやっていた記憶があります(笑)」

――確かに、水泳の息継ぎの演技なんてなかなかないですもんね!演じられた早船ロミオについては、どんな印象でしたか?

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「最初の頃は、『彼はどんな人なんだろう』と思っていたんです。登場したすぐの頃は、ちょっといけすかない感じにも見えるので。でも、話が進んでいくうちにどんどん素直ないい子だなということがわかって、すごく安心したのを覚えています。

そういう子で根が真面目だからこそ、作品の中ではイップスに陥ってしまう一面もあると思うんですよね。それを仲間の協力を得て、克服していく。『あ、これって現実世界でもあることだな』と思いながらアフレコしていました。

――本当、そうですね。あのロミオが飛び込みを克服する姿を観て『この子たちなら、岩鳶高校を任せても大丈夫だな』と思ったファンは多いと思います。

「そうそう。彼は新一年生なので、先輩の背中を見たり、影響も受けたりしながら、だんだんと『自分が岩鳶高校水泳部を継いでいく』というような気持ちが出てくるシーンがちょっとずつあって、そこはやっぱりいいなと思いましたね。

おそらく、いま彼は水泳を頑張っている最中だと思うので彼のアフターストーリーも、どこかで見てみたいなと思います」

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取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃

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