声優・小林裕介インタビュー#2「『あの時みた演技に、僕の心は射抜かれた』声優を志すきっかけになった原体験とは」
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2024.10.25
「Re:ゼロから始める異世界生活」のナツキ・スバル役や、「Dr.STONE」の石神千空役、「アルスラーン戦記」のアルスラーン役、「炎炎ノ消防隊」のアーサー・ボイル役など、数々の人気作品で主人公や人気キャラクターを演じてきた声優・小林裕介さん。今でこそキャラの個性を的確にとらえた演技力、豊かな感情表現で幅広く活躍する小林さんですが、下積み時代にはなかなかオーディションに受からず苦労も多かったと語ります。そんな小林さんの転換点になったのは、自身がどん底だったときにテレビで見かけた同世代の活躍でした。このインタビューでは全3回にわたり、小林裕介さんの出演作品に対する思いや、キャラクターへの向き合い方をひもときながら、その人となりに迫ります。
■祖母が送ってくれるアニメを夢中で観ていた

――前回は、休日の過ごし方や「Re:ゼロ」を中心にお話をお伺いしましたが、今回は声優を志したきっかけなどをお聞きしたいと思います。小さな頃はどんなお子さんだったんですか?
「子供の頃は、比較的やんちゃな子だったと思いますね。3歳から10歳までは海外で暮らしていて、なかでもイギリスでの生活が一番長かったのですが、イギリスってあんまり子供同士の男女、年齢関係なくみんなフラットに遊ぶ感じなんですよ。住んでる場所も学校も森の近くだったので、みんなと森を冒険したり、自然の中を駆け回ったり。冒険好きでわんぱく、気ままに育ったと思います」
――アウトドアというか、外に出て体を動かすタイプだったんですね。
「そうですね。ただ、日本に帰ってきてからそれまで通りに振る舞うと、『あいつ、女子とよく遊んでる』とか『先輩に敬語を使え』とか、周りと比べて少し浮いた存在になっていて。文化の違いだとは思いつつ、何かするたびに言われるのも嫌だし、かなり周りに気を遣うようになって。その辺りからは、だんだんと内向的に変わっていったような気がしますね」
――海外での暮らしが長かったとお聞きしましたが、アニメは元々好きだったのでしょうか?
「海外にいるときから好きでしたよ。といってもテレビで日本のアニメがやっているわけではないので、祖母が録画したビデオテープを送ってくれるんです。『ドラえもん』『アンパンマン』『魔神英雄伝ワタル』......単発の話ばかりだったけど、それでも夢中で観てアニメにはすごく興味を持っていました。日本に帰ってきたらきたで、アニメもマンガも想像の何万倍も種類があるので、『え、アニメもマンガもこんなにあるの?!』という気持ちでした。とはいえ、家庭が厳しかったのもあって、その中から観たいものを選んで観る、という感じでしたが」
――当時好きだった作品でいうと?
「『らんま 1/2』ですね。ラブコメっていうことで、当時はドキドキしながら観ていた記憶もありますし、バトルもあって必殺技なんかも出てくるので、少年心がくすぐられるというか、すごくアツくなりながら観ていたと思います」
――めっちゃわかる......!ちなみに、好きなキャラクターで言うと?
「えー、迷うけどなぁ。やっぱ乱馬ですかね」
■緒方恵美さんの叫び声に心を射抜かれた

――声優に興味を持ったのはいつ頃だったんでしょうか?
「それこそ、『らんま 1/2』がきっかけだったかもしれないです。最初はマンガから入って、アニメも観ていたんですが、あるときたまたま図書館に行ったら『らんま 1/2』のCDがいくつか並んでいたんです。『主題歌のCDかな』と思ったら、じつはそれがキャラソンのCD。当時はまだ声優の存在なんて意識したことないですし、どうやってキャラクターがしゃべっているのかなんて考えたこともなかったので、CDジャケットに書かれている名前を見て、初めて『あ、キャラクターって人間がやってるんだ』というのを知り、そこから興味を持つようになりましたね。その後、初めて行った声優さんのイベントでとても痺れる体験をしたんです」
――それは詳しくお聞きできますか?
「当時、たまたま緒方恵美さんが出演されるトークイベントの情報を、母が新聞で見つけてくれて。僕が声優に興味を持ち始めたのも知っていたので、『これ、行ってくれば』といって応募してくれていたんですよね。そのイベントで観たのが、緒方さんの歌と演技。緒方さんは、『魔法騎士レイアース』でエメロード姫という女性、イーグルという男性の二人のキャラを演じていて、イベントでその二人のキャラソンを歌われたんです。まず、生で聴いて『こんなに歌い分けできんの?!声優ってやべぇ!』と感動して。それだけでも鳥肌が止まなかったのに、その後にエヴァのワンシーンにあるシンジ君の叫び声を実演してくださって。それが『こんな声が人間から出るのか』って思うくらい鬼気迫るものだったんですよ。それを聴いてもう心が射抜かれてしまって」
――声優の底力を感じた原体験ですね。それは、「声優になりたい」という気持ちとは少し違うんでしょうか?
「うーん......まだその時点ではぼんやりしていたとは思います。そもそも声優になる方法がわからないし、なんとなく『小さい頃から英才教育を受けてきた人だけがなれる職業』というイメージが僕の中にあって(笑)。でも声優への憧れは強かったので、必殺技やセリフを叫びたい、という願望はあったんです。高校の頃は自転車通学で、通学路がわりと大声を出しても大丈夫な環境だったので、大体好きなセリフや必殺技を叫びながら自転車を漕いでいたんですよ。その話を、声優やアニメが好きな同級生にしたら『声優になったらいいじゃん』って言われて、そこで初めて『声優ってなれる職業なんだ!なりたい!』と思ったのを覚えています。それが高校2年生の時でした」
■一度は就職するも、覚悟を決めて声優の道へ

――高校2年生のときに「声優になりたい!」と思った。あれ?でも、その後は大学へ進学することになるんですよね?
「僕自身は行く気満々で専門学校の資料も集めて、親を説得するための準備もたくさんしていたのですが父親にまったく話を聞いてもらえず......当時は、いまほど声優がメジャーな職業でもなかったですし、親からすれば心配したがゆえのことだったんだと思います。『とりあえず大学には行きなさい』ということで、僕もそれで家を飛び出すほどの度胸もなく......大学に通いながら専門学校に通うことも考えたりはしたのですが、いろいろな理由があってそれもできずじまい。で、あれよあれよという間に就活の波に飲まれて、『いまさら声優なんてめざしても遅いだろうなぁ』と諦めの気持ちから、就職して......という感じでした」
――そんな諦めの気持ちから一転、就職後に会社を辞めて、専門学校へと入学します。そのいきさつを詳しくお聞きできますか?
「職種として、日々同じことを繰り返す業務が多くて、そんな日常に物足りなさを感じていたのが一番の理由でした。じゃあプライベートで『何かしよう』と思ったときに、アミューズメントメディア総合学院の日曜日だけのクラスに通うことにしたんです。もちろん声優の夢が頭の片隅にありましたが心の中ではもう年齢的に遅いと思っていて、どちらかというと『アニメ好きの友達をつくろう』くらいのノリで、趣味感覚で通い始めました」
――何がきっかけで、声優一本に絞ることになったんでしょうか。
「通っていたアミューズメントメディア総合学院の特徴で、日曜日の週一クラス(専科)というのは、半年に一度、クラス替えのオーディションをするんです。そのオーディションで一番上のクラスに合格しないと、そもそも事務所の所属オーディションを受けることができず、専科の学生はそこを目指してレッスンをしてるんです。それで、入学してから半年経って受けたオーディションで運良く一番上のクラスに受かったんです。聞いてみると、入学半年でそのクラスに受かるって結構珍しいらしくて。その時に、『あれもしかしたら、これいけるんじゃない?』っていう気持ちになり......」
――入学半年で一番上のクラスに入ったことで、自信が出てきた?
「それはあると思います。先生から褒めてもらう機会も多かったし、なによりクラスメイトから『裕介って主人公声だよね』とよく言われていたことも大きかったですね。自分で自分の声を聞いてもピンとは来ないけど、でも周りの人が言うんだったら、きっと自分には何かがあるはず。一番上のクラスへの合格結果がきたその日は、すごく悩んだんですが、一日悩んで、『このまま仕事を続けるか夢を目指すか。それなら夢を目指したほうが面白いだろう』と考えて、仕事を辞めよう、という気持ちになりました。ただ一つ懸念だったのが、親になんて言うか」
――確かに、一度反対されてますもんね。そこでご両親にはなんて?
「それが、その時は意外すぎるくらいあっさりとOKを出してくれて。最初に『声優になりたい』って言ってから6~7年、社会人も経験した上で、それでもまだやりたいというのならとりあえずやってみれば、となかば諦めた感じで言われて。親の承諾が得られたことで、自分の中では完全に『声優になるんだ!』という心構えになりましたね」
■「ダンまち」第5期の見どころ

(C)大森藤ノ・SBクリエイティブ/ダンまち5製作委員会
――「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」(以下、「ダンまち」)の第5期も始まりました。アフレコ現場はどんな雰囲気でしたか?
「とくに今回はこれまで登場したキャラが勢揃いするようなシーズンだと感じました。久しぶりにお会いする方もたくさんいました。僕は1期の時にモブで参加していたので、時を経てレギュラーとして参加できて嬉しく思っています。メインキャストの方々は、松岡くんや島﨑くんをはじめ同世代が多いこともあって、すごく現場が楽しいですね。みんなそれぞれキャリアを積んで、できることや演技の幅が変わっている中で、10年前からのキャラを演じる姿を見ていると、過去にタイムスリップしたような感覚になります」
――「ダンまち」では主人公・ベル役の松岡禎丞さんと、「Re:ゼロ」とは逆の立場での共演ですよね。
「そうですね。このシーズン、松岡くん演じるベルにとって精神的に辛いストーリーが続いたので演じる身にも負担がかかりそうだなと感じました。休憩に入ると自然と彼のところに話しかけに行っていたのですが、心のどこかで彼の大変さに共感してしまうものがあったのかもしれません」

(C)大森藤ノ・SBクリエイティブ/ダンまち5製作委員会
――小林さんから見た、「ダンまち」第5期の注目ポイントを教えてください。
「とにかくバトルの見どころが満載です。僕が演じるヘグニも、普段は残念な面が目立ちますが戦闘となるとフレイヤ・ファミリアの主戦力の一人としてその力を存分に発揮しますのでご注目ください!」
取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃













