声優・小林裕介インタビュー#1「あの逆転劇には中毒性がある。『Re:ゼロから始める異世界生活』8年間を振り返って」

声優・小林裕介インタビュー#1「あの逆転劇には中毒性がある。『Re:ゼロから始める異世界生活』8年間を振り返って」

「Re:ゼロから始める異世界生活」のナツキ・スバル役や、「Dr.STONE」の石神千空役、「アルスラーン戦記」のアルスラーン役、「炎炎ノ消防隊」のアーサー・ボイル役など、数々の人気作品で主人公や人気キャラクターを演じてきた声優・小林裕介さん。今でこそキャラの個性を的確にとらえた演技力、豊かな感情表現で幅広く活躍する小林さんですが、下積み時代にはなかなかオーディションに受からず苦労も多かったと語ります。そんな小林さんの転換点になったのは、自身がどん底だったときにテレビで見かけた同世代の活躍でした。このインタビューでは全3回にわたり、小林裕介さんの出演作品に対する思いや、キャラクターへの向き合い方をひもときながら、その人となりに迫ります。

■グルメな日帰り旅行でリフレッシュ

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――小林さんのテクニック、すごいですね!僕もハイパーヨーヨーがドンピシャだった世代なので、当時の記憶が少し蘇ってきました......!

「同世代なんですね!僕も当時流行っていたときにも仲の良い友達の影響で始めたんですが、当時のヨーヨーはさすがに手元にはなくて。あの頃は『ファイヤーボール』を愛用していましたね」

――「ファイヤーボール」懐かしい! ちなみに何がきっかけで再燃したんですか?

「3~4年前かな、声優の土岐隼一くんが僕のWikipediaか何かを見て、ヨーヨーが好きだったことを知ってくれたみたいで『裕介さん、これプレゼントです!』って言って最近のヨーヨーをくれたんですよ。それがきっかけでまたハマるようになって。渋谷に『ヨーヨーストア リワインド渋谷店』というお店があるんですけど、たまに土岐くんや梅田修一朗くんと一緒にそこでお酒を飲みながらヨーヨーをやる会なんかをやっています」

――楽しそうですね!結構プライベートでもほかの声優さんと遊ばれたりするんですか?

「そうですね。断られると傷ついちゃうのであまり自分から誘うというのはしないんですが(笑)。土岐くんはたまに飲みに行ったり、あとは松岡禎丞くん、斉藤壮馬くん、笠間淳くんとかかなぁ。最近はみんな忙しくて、なかなか声がかけられなくなっちゃいましたけどね。自分から誘いやすい方で言うと、上村祐翔くんですね!一緒にラジオもやっていましたし、彼はスイーツが好きでお互い抹茶系が好きなので、抹茶スイーツのビュッフェに一緒に行ったりしています。あとはパンも好きなので行きたいパン屋さんがあるときは『じゃあ車出して行こうか』っていう感じで」

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――上村祐翔さんとの車でのスイーツデート、素敵です。休日はどんな過ごし方をされているんですか?

「疲れ具合にもよるけど、本当に何もしないときはずっとベッドの上にいますね(笑)。次の日の声を気にしないでいいときはお酒も飲めるのでふらっと日帰りで旅行に行きます」

――めちゃくちゃフットワーク軽いですね!いつ頃からですか?

「おととしくらいからかな......食べるのが好きなので、美味しいものがある場所を選ぶんですよ。ふらっと北海道に行って海鮮を食べたり、広島に行って牡蠣を食べたり、最近だと栃木に行って餃子を食べたり。普段は車で移動するんですけど、そういうときはお酒も飲みたいので電車に乗って。朝出発してお昼くらいに着いて、ご飯を食べてお酒を飲んで帰ってくる、みたいな過ごし方をしています。お酒も飲めないときには車でふらっと海を眺めに行ったり。何もせず、ただ1時間くらいずっと海を眺めて癒されています(笑)」

■「Re:ゼロから始める異世界生活」との出会い

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――今回のインタビューでは、秋から第3期が始まる「Re:ゼロから始める異世界生活」(以下、「Re:ゼロ」)について、深く掘り下げていきたいなと思っています!まずは小林さんと同作品との出会いからお聞きできますか?

「『Re:ゼロ』を知ったのはオーディションの時だったんですが、その時は僕自身がデビュー3年目くらいで、ちょうど仕事への向き合い方が少し変わり始めた頃でした。それまでは『ウィッチクラフトワークス』や『アルスラーン戦記』などでも主役をやってはいたんですが、守られる側にいるんだけど少しずつ成長していくような、どちらかといえば線が細くて顔立ちが綺麗なタイプのキャラが多かったんです。でも『Re:ゼロ』のスバルって目つきも言葉遣いも悪いしお調子者だし、いっつも全力だし。なんとなく自分が演じられるキャラクターのレパートリーには入っていなくて。なんなら本命は、もう一役受けていたラインハルトのほうだったんですよ(笑)」

――そうだったんですか?!スバルのイメージがありすぎるのですごく意外です。

「それでスバルのオーディションを受けたときに、オーディション用にもらったセリフを読んでもいまいち意味がわからなくて(笑)。『異世界に召喚されたお調子者で~』みたいなキャラ紹介とは裏腹に、大爆笑するし、大号泣するし、大激怒するし、めちゃくちゃ重たいセリフまであって(笑)」

――確かにスバルって、そう聞くと面食らってしまいそうなキャラですね(笑)。

「そうそう(笑)。で、訳がわからなすぎて原作を読んでみたら『なんだ、このヤバイ作品は!』と衝撃が走って。そこでスバルのことが少しだけわかって、とにかく感情を120%爆発させるような演技をしようと。それで、スタジオオーディションに臨んだんです。そしたら、スタジオを出た瞬間に持っていた水を落とすくらいの酸欠になってました」

――そこまでの全力で......!

「あそこまで全力でやったことは当時なくて、結果的に、スバルのほうでオーディションは合格することができました。でも、あとあと監督に理由を聞いたら『そこはかとなく漂う、ゲスな感じが決め手でした』と(笑)。自分にそんなものがあると思ってもみなかったので、周りから見てそう感じる部分があるなら、それは自分の中に眠っているものなんだろうなと思い、とにかく全力でスバルに挑もうと思いました」

■「Re:ゼロ」の逆転劇には中毒性がある

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――改めて、小林さんが思う「Re:ゼロ」という作品の魅力を教えていただけますか?

「シーズンごとに少しずつテーマが変わっているとも思いますが、そのなかでスバルの成長というテーマが一貫してあるので、その点は観る人に響く魅力じゃないかなと感じています。それこそ高校生の時代に、第1期をリアルタイムで観ていた方たちからは『自分のことを観てるみたいだ』というお声をいただくことが多かったくらい。異世界召喚ファンタジーで可愛い女性キャラも多く登場して...というキャッチーな部分もありますけど、じつは一人一人に濃いドラマがあって、スバルの人間性にも、ほかのキャラクターにもすごく生々しい部分があるからこそ共感してもらえているんじゃないかなって思います。あとは『Re:ゼロ』ならではの逆転劇ですよね。何度も死んで、繰り返してやり直してもやっぱりダメ。冷静に考えると、『死に戻り』って一回一回がめちゃくちゃ辛いはずなんですよ。それだけの辛さを乗り越えてもまだダメで精神がもう壊れるほどに絶望してしまった、その先にある希望。わらにもすがる思いで見つける、一縷の光のような逆転劇。あのどんでん返しはほかの作品にはない『Re:ゼロ』ならではのものだし、抑圧し続けたものを解放するような中毒性があると思います」

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――確かに、鬱に鬱を重ねていく展開も結構多いですよね。個人的にはエミリアをはじめ、レム、ベアトリスやスバルとの関係が、徐々に深くなっていくのも楽しみです。

「じつは演じ手としては、スバルってあまり恋愛的な感情というのは持っていない感じがしているんですよ。エミリアに対しては匂わせるような雰囲気もあるけど、じゃあ『恋人になりたいのか』といえば、それよりも『その人の特別な存在でありたい』という気持ちのほうが強い気がしています。第2期の最後で、それが『エミリアの騎士になる』という形で実現できたのはすごくよかったような気がします。一方でレムに対しては、エミリアに対するものとは少し違う感情があると思っています。ここはすごく言い方が細かいんですが、僕の中では、エミリアはスバルにとっての頑張"る"理由になっていて、レムはスバルにとっての頑張"れる"理由になっていると思っています」

――頑張"る"理由と、頑張"れる"理由......!

「それって本当に微妙な差で、スバルが異世界に来てた出会った順番。エミリアはスバルにとって、この世界で最初に自分を助けてくれた存在なんです。それから困っている人を放って置けない彼女を観て、スバルは自分も彼女の力になりたいと思う。『エミリアたんのために頑張りたい』という感じ。でも、レムはそんなふうにエミリアのために頑張る自分を一番近くで肯定してくれる。そして好きでいてくれる。スバルからすれば、『レムがいなきゃ、俺は頑張れない』という気持ちはすごく強いと思います」

――なるほど。すごくわかりやすいですし、演じている方が言うとすごく重みがある気がします。一方で、ベアトリスに対しての思いは、どんなふうにとらえていますか?

「ベアトリスに対しては第2期の終わりで、スバルが一番影響を与える存在になったので、禁書庫から連れ出した時点でもう一蓮托生という感覚でしょうね。もしかすると、スバルがいちばん責任を果たさなければいけないと感じているのは、ベアトリスに対してかもしれません。こちらも恋愛感情ではないけど、すごく深い絆が生まれている二人ではあることに違いありません。エミリア、レム、ベアトリス。3人ともスバルとの間に、それぞれまったく違う深い絆が生まれているし、3人がスバルに抱く感情、スバルが3人に抱く感情がそれぞれ違うので、物語の中でそれがどうなっていくのか、『Re:ゼロ』は本当に面白い関係性を描く作品だなぁと思います。でもだからこそ、取材のたびに『小林さんは誰派ですか?』と聞かれるのはめちゃくちゃ困るんですけどね(笑)」

――確かに! 物議を醸しますもんね。では今回は聞かないでおくことにします(笑)。

「ありがとうございます(笑)」


■スバルに恥じない存在でありたい

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――主役ということで、"座長"という立ち位置でアフレコに臨んだわけですが、どんな気持ちだったんでしょうか?

「むしろ、『座長だからってそこまで気負わなくていいんだな』ということを教えてくれたのは『Re:ゼロ』だった気がします。第1期が始まった当初は、まだ経験も浅くてそんなに余裕がありませんでした。でも主役となると、どこか自分が引っ張らなきゃいけない、中心にいなきゃいけないという思いもある。最初の頃は、収録が終わるとソファに倒れ込むくらいの疲労感がありました。でも、そんな姿を見て『一人で頑張らせないぞ!』という思いで他のキャストの方たちが支えてくれるんです。『座長だから』何か特別なことをするのではなく、一人の声優としてお芝居に真剣に向き合っていれば、自然とみんながついてきてくれて、足並みが揃うんだなということが、そのとき初めてわかった気がします」

――めちゃくちゃいい話。そういう空気感の現場だと、チームの一体感も生まれやすくなりそうですね。

「そうですね。みんなが全力で臨んでいた現場だからこそ、ほかのどんな座組よりも仲が良いと思っています。キャストみんなで出演するようなイベントがあっても、安心して任せられるから、僕が一人で『座長だから』と気負わずにいられるのはすごくありがたいですね。第1期のときにそういう空気ができあがったので、続く第2期で新キャストの方々が入ってきたときも、ちゃんと迎え入れられたと思います。ただ、第3期の収録は『高校生の頃にアニメ観てました!』というさらに若いキャストさんたちがいて、自分たちが結構な先輩になっていること実感しつつ『その子たちが緊張しないような場を作らなきゃ』と座長としての立ち振る舞いを意識しているかもしれないです(笑)」

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――ここへ来て(笑)。小林さんにとっては、今スバルはどんな存在だと感じていますか?

「ありきたりかもしれませんが、8年間演じてきて、やっぱり自分の一部になっていますし、頭のどこかには常にスバルがいる気がします。『「Re:ゼロ」が好きです』『スバルが好きです』と声を届けてくれるファンの方が、今でもすごくたくさんいるんですよ。だからこそ、僕自身が彼に恥じない存在になっていないといけないな、とはいつも思っています。初心を思い出させてくれるような、姿勢を正してくれるような、そんな存在ですね。スバルを演じてから、声優としての演技の幅も広がったと思いますし、何より喉も強くなりましたしね(笑)」

――もう、アフレコで酸欠になることはありませんか?(笑)

「もう全然です(笑)。スバルを演じた次の日も影響が出ないくらいの強い喉になったし、声優として貴重な経験もたくさんさせてもらいました。そういう意味では、感謝も大きいですね」  

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取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃

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