音月桂が退団公演で意識していたこと「伝えられるものは全て伝えていきたい」
エンタメ インタビュー
2026.08.25
音月桂が出演した宝塚歌劇「JIN-仁-」('12年雪組・東京宝塚劇場)が9月10日(木)よりJ:COM STREAMにて期間限定で見放題配信される。
同作品は、村上もとかによる同名漫画が原作で、大沢たかお主演でドラマ化され高視聴率をたたき出して社会現象にもなった話題作の宝塚歌劇版。脳外科医の主人公・南方仁(音月)が江戸時代にタイムスリップし、歴史を変えることになると自覚し、苦悩しつつも、医者としての使命感から江戸の人々を近代医療で救っていくファンタジーヒューマンドラマ。音月の退団公演でもあり、ファンにとっては特別な作品となっている。
今回、音月にインタビューを行い、同公演に対する思いや当時の印象的なエピソード、演じるに当たって意識したこと、タイムスリップするならどの時代に行って何をしたいかなどを語ってもらった。

――退団公演ということで同作に対して特別な思いなどはありましたか?
「作品に対する姿勢というか向き合い方に、そこまで大きな違いはなかったのですが、やはり"男役としての最後の舞台"というのは、冷静になりたいけれどもこみ上げてくるものがありました。本当は意識したくなかったんですけど、自然とそういう思いになっていったところはありましたね。
特に、雪組は日本物がすごく多かったので、この作品は仁がタイムスリップするっていうファンタジーの部分はありますけれど、日本の時代を行き来するという意味では雪組らしい作品だったので、いろいろと雪組のみんなと試行錯誤しながら作ったなという思い出があります」
――漫画原作で、現代劇でもあり時代劇でもあるという珍しい作品でもありました。
「大沢たかおさんが仁を演じられていたドラマを見ていたので、まず宝塚歌劇で初めて舞台化するとなった時に『あの壮大な物語を舞台化できるのかな』という不安がありましたが、演出の方がすごく上手く構成してくださいました。あと、私の退団公演ということで、そういった部分を物語の随所に散りばめてくださって、物語の中のせりふだけれど、どこか私が雪組の仲間に向けて言っているようなせりふにしてくださったりもしていました。作品の内容はブレず、私の退団が少しリンクしている感じだったので、そのせりふが来るとグっと込み上げるものがあったりとか、それを聞いてくれる後輩の子たちがウルっとしてくれる場面もありました」

――当時の印象深い思い出は?
「 "殺陣"が上級生から受け継がれていくという宝塚歌劇の伝統があって、私も下級生の頃に斬られ方を教えていただきました。この作品はそこまで大きい立ち回りではなかったですが、代々つながれてきたものを受け継いで、自分たちも下の子に伝えるということで、『宝塚を卒業する前に、伝えられるものは全て伝えたい!』という思いで一生懸命お稽古したのを覚えていますね。下級生も一生懸命食らい付いてきてくれて、妥協せずに最後まで駆け抜けてくれました。初日に幕が開いてからも、みんなグングン成長していって、千秋楽に向かうまでにすごく成長したんです。その様子に、『みんな大きくなったな』みたいな、親心じゃないですけど、そういう気持ちも生まれました。退団してしまうとどうしても距離感が変わってしまいますし、在団中にしか伝えられないこともあるので、自分も退団公演でバタバタしながらでしたけど、出来る限りコミュニケーションを取って、伝えられるものは伝えられたかなと思っています。届いていたらうれしいですね」
――南方仁を演じるに当たって意識したことは?
「宝塚歌劇には"背中で語る"とか"仕草や所作に至るまで美しく素敵にカッコよく"など男役の美学とされるものがあるのですが、仁は現代人ですごく人間らしいキャラクターでもあるので、そのちょうどいい塩梅を取って表現するのがすごく難しかったですね。"宝塚"に寄せ過ぎてしまうとキラキラした世界観が強くなってしまうし、でもヒューマンドラマとしてちゃんとリアリティーを持たせるお芝居をしなきゃいけない。しかも、タイムスリップするというファンタジーでもあるので、現実味のないところから、どれだけ説得力を持たせてお客様に深いお芝居が届くようにするかなど、演出の方とも相談しながら作っていきました」

――漫画やドラマが原作の作品は、特別な思いがあったりしますか?
「原作のファンの方がいらっしゃるので、プレッシャーはあります。『"宝塚"を知らずに「JIN-仁-」という作品を見たくていらっしゃるお客様はどういうふうに思うんだろう』という思いは常にありました。宝塚歌劇のファンの方は本当に温かいので、どんな作品でもいつも温かく応援してくださるんですけど、あまり見慣れてない方たちが、『これ違うな』なのか、『なるほど。こうしたのか!』って思っていただけるのかというのは、プレッシャーではありますよね。私もドラマを拝見していて、大沢さんがすごく温かい人間味のあるお芝居をされていたので、『ああいうふうにできているのか』と、イメージ通りにいかない時の葛藤は演じていてありましたね」
――物語では仁が江戸時代にタイムスリップしますが、今ご自身がタイムスリップできるとしたら、どの時代のどこに行って何をしたいですか?
「過去の、宝塚歌劇団にいた時の自分に、ちょっとアドバイスしてあげたいなと思います。過去に戻って、その人生をやり直すというよりは、あの時の私に一言アドバイスはしたいです。
私、自分が出演した作品のDVDとかあまり見ないんですけど、先日、振り返ってみようと思って『エリザベート』(2007年)という作品を見たんです。そうしたら、『ここ惜しいな』とか、『もうちょっとここ溜めたらいいのにな』とか、お芝居だったり歌だったりに思うところがありまして(笑)。もちろん、当時は120%全力でやっていたので、そんな余裕なんかないと思うんですけど、例えば『もうちょっと肩の力を抜いてやった方がいいんじゃないか』とか、もし言えるなら言ってあげたいと思いました」

――舞台、映画とお忙しくされている中で、最近の癒やしは?
「実はBTSのファンで、"推し活"に癒やされております。コロナ禍になって家から出られなくなった時に友達が教えてくれて、YouTubeとかでBTSのダンス動画だったり、お薦めしてもらったバラエティーやミュージックビデオなどを見始めたらどんどんハマってしまいまして...。今では、事務所のスケジュールにも『BTS』と書いていただいているくらい推しまくっております(笑)。
自分が"推す"側になるなんて在団中には考えられなかったんですけど、今となってはファンの方の気持ちがすごく分かります。『こんな気持ちだったんだ』と。"癒やし"というか、元気をもらっている感じですね。
あと、彼らを見ていて、在団中よりも自分の素を出せるようになった気がします。彼らは意外と普段はふわふわしているのですが、ライブになるとバチッとスイッチが入って、オンとオフのギャップがすごいんです。在団中は『宝塚の男役のイメージを壊さないように』と、ファンの方の夢を壊さないようにすることを一番に考えていたのですが、退団してから普段の私も見て応援したいなと思ってくれる方がいるということがすごくうれしかったので、『それなら別に飾らず固くならず、私らしい自分を見てもらえるのもいいな』と思うことができたので、そういう心境の変化のきっかけにもなっていますね」

――最後に同作品をご覧になる皆さんにメッセージをお願いします。
「今回は見放題で見ていただけるということで、まだ宝塚歌劇に触れたことのない皆さんに気軽に触れていただけるんじゃないかなと思います。一度見たら "沼る"のではないでしょうか(笑)。
実は、仁は難しい医療用語を言ってから登場するんですけど、それがすごく難しくて!毎回生で言っていたので、開演前はいつも緊張しながら挑んでいました。そういったところも頭の片隅に置いて見ていただけると、より楽しめるかなと思います。ぜひお楽しみください!」

PROFILE
埼玉県出身。1998年宝塚歌劇団に84期生として入団。2010年に雪組トップスターに就任。2012年「JIN-仁-/GOLD SPARK!-この一瞬を永遠に-」東京宝塚劇場公演千秋楽をもって退団。2026年10月より上演される舞台「蛙昇天」に出演するほか、9月11日(金)より映画『Man』が公開される。
文/原田健 撮影/中川容邦



