「VIVANT」とは真逆!堺雅人のコメディーセンスが光る隠れ名作ドラマ「やさぐれぱんだ」

「VIVANT」とは真逆!堺雅人のコメディーセンスが光る隠れ名作ドラマ「やさぐれぱんだ」

漫画家・山賊によるウェブコミック「やさぐれぱんだ」は、2007年に実写化されて映像ソフトとして話題を呼んだ作品だ。主演は堺雅人が務めたが、後年の「リーガル・ハイ」や「半沢直樹」のような熱い演技とは完全に異なり、独特の緩さを醸した堺の持ち味が魅力である。原則的に堺が演じる「青年」と、パンダ(声:生瀬勝久)の一風変わった会話が展開されるだけ。監督・脚本は俳優の堀部圭亮が担当しているが、堅実な演技力を誇る実力派俳優である堀部の意外な才能を感じることができる。

■青年とひねくれパンダが織りなす、シュールな脱力系コメディー

かわいい人気者のイメージがあるパンダだが、本作においては極めてひねくれた性格。おかしなことばかり言うが、悪びれるどころか少々偉そうだ。「やさぐれ」というタイトルの通りに、投げやりな態度で、すねてばかりいる。堺がモーツァルトやゴッホの経歴を詳しく語ると、自分から話を振ったにもかかわらず「あーあ...急に興味なくなった」と後ろを向いてふてくされてしまう。一方で、堺が「ゲーテは読んだことない」と言うや「はぁ〜。いるんだねぇ。ゲーテを読んでないやつがさ。信じられないねぇ〜」と異常にうれしがる。はっきり言えば「性格が悪い」キャラなのだが、そこが面白い。

理不尽な言いがかりや言葉遊び、あるいはどうでもいい哲学談義が二人の間で淡々と繰り広げられる本作は、いわば、脱力系のボケとツッコミが展開し、これが妙にツボにはまる。単なる会話劇ではないが、コントとも違う。いつの間にか独特の空気感を醸し出す両者の会話から目が離せなくなってしまう。大笑いすることはないが、「ずっとクスクスしていられる」珍しいタイプの作品だ。

260717_yasagurepanda02.jpg

■「半沢直樹」とは真逆の「受けの芝居」に隠された堺雅人のすごみ

ただ、本作をじっくり見て改めて感じるのは、堺雅人という俳優のすごみだ。普通のコメディーであれば強めに突っ込むところを、真顔で応じる。軽く突っ込んではいるのだが、相手に聞こえない程度。パンダがどれほど意味不明なことを言っても、「そうなんですか」といったん受け止めてしまうことも多々ある。着ぐるみのパンダは巨体で、キャラクターのくせも強い。かなり不条理で無意味なやり取りをしているのだが、堺がスムーズに会話を成立させていることがわかる。

堺といえば、出世作となった大河ドラマ「新選組!」をはじめ、「リーガル・ハイ」や「半沢直樹」でのエネルギッシュな演技が印象深い。しかし、本作ではまさに脱力の極みのような芝居を披露。アドリブで会話しているように思わせるほど、セリフや表情もごく自然だ。さらに、表情のちょっとした変化や絶妙な間の取り方で笑いを生み出す技術の高さにうならされる。

■生瀬勝久との絶妙な掛け合いと、引き込まれる「間」のテクニック

生瀬勝久との化学反応も本作の肝である。生瀬が演じるパンダは、偉そうで面倒くさいだけでなく、かなり理屈っぽい。相手にするには非常に厄介なキャラクターだが、堺が真面目に応答することで笑いが生まれる。青年とパンダの関係は、友人同士に見えることもあれば、師匠と弟子のように映る場面もある。何とも言えない不思議な関係性だが、まったく不快感はない。

堺は「リーガル・ハイ」でのハイテンポな掛け合いや、「半沢直樹」での敵を追い込む畳みかけのすごみが印象深い。だが、正反対の作風である本作に、堺の会話能力の巧みさとセンスの原型を感じることができる。相手の話に耳を傾け、微妙な表情で反応し、間で笑わせる。舞台出身である堺雅人の技術の高さを感じさせてくれる貴重な作品だ。

260717_yasagurepanda03.jpg

■コアなファンが愛する「やさぐれぱんだ」は、堺雅人の真骨頂

「半沢直樹」や「VIVANT」の堺は、「物語を動かす」立場だが、本作では「相手に転がされる芝居」を徹底。当時のインタビューでも、生瀬勝久と堀部圭亮の世界観に「転がされている感がある」と堺は語っている。「当意即妙に反応するタイプではないので、会話がかみ合わなかったりすることで、作品の面白さになったかもしれない」とも述べている。それは事実だろうが、「かみ合わない会話の妙」を自然に生み出してしまうことも堺の能力だと筆者は思う。

さらに言うなら、堺の演技の特徴は、"聞く芝居"のうまさにあると感じる。それが、本作では特に顕著に示されている。生瀬のセリフを聞いている際の目線や瞬き、さらに首を傾げるといった細かい動きを入れているが、意味不明とも思えるパンダの言葉を、どうにか理解しようとしているように見えるのだ。少々へきえきしながらも、拒絶はしていない。だからこそ、視聴者も一緒に話を聞いてしまうのだ。映画『南極料理人』など、他の作品においても堺のセリフの聞き方のうまさが見て取れる。

また、本作において終始効いているのが、"間の取り方"だ。パンダがおかしなことを言っても「なんだ、それ」と即座には突っ込まず、あえて一拍置く。その一拍が意味を持ってくる。彼にはパンダの言葉が理解不能なのか、それとも納得しかけているのか。あるいは、うんざりしているのか。真意が曖昧になるために、視聴者には一瞬の沈黙が面白く感じるのである。さらに、「小さな芝居」であることもポイントだ。表情もわずかな動きだけ。感情の機微を、堺は眉を少し動かすとか、首をわずかに傾げるというわずかな変化だけで表現してしまう。

どんな感情であっても、基本的に堺が演じる青年は、パンダを拒絶せずに受け入れている。つまり、そこに「善意」がある。だからこそ、パンダの理不尽さが際立つだけでなく、視聴者もパンダを受け入れ、「面白い」と思えるのだ。

260717_yasagurepanda04.jpg

本作での堺は、ほとんど芝居をしていないように見えるのに、実は相手の言葉を巧みに受け、絶妙な「間」を作り、わずかな動きで空気をコントロールしている。繊細かつ高度な技術をさりげなく駆使しているからこそ、価値がある。堺雅人の真骨頂が見られる作品として、ぜひとも見てほしい一作だ。

文/渡辺敏樹

放送日時:2026年7月19日 17:35~

チャンネル:日テレプラス

エンタメ

放送日時:2026年7月19日 18:35~

チャンネル:日テレプラス

エンタメ

放送日時:2026年7月19日 19:45~

チャンネル:日テレプラス

エンタメ

※放送スケジュールは変更になる場合がございます