話題の新作歌舞伎、史上初の見放題配信！『風の谷のナウシカ』『刀剣乱舞』

J:COMの動画配信サービス「J:COM STREAM」にて、歌舞伎コンテンツの見放題配信が開始された。歌舞伎は、伝統芸能。しかし江戸時代も今も、その時代の流行を取り入れて新作を生み出しながら継承されてきたエンターテインメントだ。見放題配信には、古典の名作やドキュメンタリーのほか、新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」や「刀剣乱舞 月刀剣縁桐」もラインアップ。この2作はせりふがわかりやすく、現代劇に近い感覚で楽しめる。それでいて古典の演出やエッセンスが詰め込まれた正真正銘の歌舞伎だ。

©松竹株式会社

宮崎駿の原作漫画全７巻を完全再現
新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』

火の7日間と呼ばれる最終戦争から1000年。巨大産業文明は消え、大地は有毒な腐海に覆われ、巨大な蟲（むし）の住処（すみか）となった。辺境の小国「風の谷」の姫、ナウシカは自然と共に生きる道を探るが、対立する大国、トルメキア王国と土鬼（ドルク）諸侯国連合の争いに翻弄され......。

宮崎駿が雑誌「アニメージュ」にて足かけ13年にわたり連載した漫画を原作に、その全7巻をたどる通し狂言。2019年の新橋演舞場での初演では、「昼の部」と「夜の部」を通した、丸一日かけての上演も話題となった。

注目したいのは豪華出演陣。ナウシカには、2025年5月に大名跡、八代目尾上菊五郎襲名を控える尾上菊之助（おのえきくのすけ）。トルメキアの皇女クシャナに中村七之助（なかむらしちのすけ）、ユパに尾上松也（おのえまつや）、ミラルパに坂東巳之助（ばんどうみのすけ）、アスベルに尾上右近（おのえうこん）、ケチャに中村米吉（なかむらよねきち）と、勢いのある若手俳優が揃う。

中でも、ナウシカとクシャナのダブルヒロインをつとめる菊之助と七之助は、古典歌舞伎でも女方の大役を数々勤める超実力派。ナウシカの情愛、そして物語とともに成長していくさまは胸を打ち、甲冑（かっちゅう）姿のクシャナはしびれるほどの格好良さ。女方の芸でみせる可憐さ、強さで、シスターフッドの物語を紡いでいた。

舞台は、歌舞伎らしい「口上」をイントロダクションに幕を開け、和楽器でアレンジされた久石譲の楽曲が、観る者を幻想的な腐海のシーンに一気に引き込む。メーヴェ、ガンシップなど原作の世界に欠かせないエッセンスも外さず、ここぞという場面では、古典歌舞伎の名シーンになぞらえたせりふまわしでニヤリとさせ、舞踊の評価も高い菊之助の所作事（踊り）も織り込まれる。

本物の水を使う本水（ほんみず）の立廻り、早替り、メーヴェでの宙乗りなど、ケレンと呼ばれる仕掛けを使った演出もたっぷりで見どころは尽きないが、前後編を通して見終えた時に心に残ったのは、ナウシカが問い続けた、平和への祈り、そして自然との共生への思いだった。

前・後編あわせて6時間。一日がかりの芝居見物は、もともと歌舞伎にあった観劇スタイル。幕間にたっぷり休憩をとりながら、どっぷりと作品の世界に浸ってみてほしい。

©NITRO PLUS・EXNOA LLC/新作歌舞伎『刀剣乱舞』製作委員会

「とうらぶ」の愛称で大ヒット！
『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』

大ヒット刀剣育成ゲーム「刀剣乱舞ONLINE」が、2023年7月、尾上松也主演・演出、尾上菊之丞・演出により、新作歌舞伎「刀剣乱舞 月刀剣縁桐（つきのつるぎえにしのきりのは）」となった。

刀剣に宿る付喪神（つくもがみ）「刀剣男士（とうけんだんし）」たちが、歴史を守るべく時を越えて戦う『刀剣乱舞』の世界観をもとにした、オリジナルストーリーだ。登場するのは、三日月宗近（尾上松也）、小狐丸（尾上右近）、同田貫正国（中村鷹之資／なかむらたかのすけ）、髭切（中村莟玉／なかむらかんぎょく）、膝丸（上村吉太朗／かみむらきちたろう）、そして小烏丸（河合雪之丞／かわいゆきのじょう）の六振り。出陣した先は、室町時代。永禄の変で暗殺された十三代将軍足利義輝のもとへ向かう。義輝は「剣豪将軍」の異名を残すほどの剣の腕前であり剣の収集家でもあった。また、三日月宗近の最初の所有者だったとも伝わるが...。

劇中には古典歌舞伎を想起させるシーンも多々あり、クライマックスの立廻りは涙なくしてはみられない宿命の物語。人間国宝、中村梅玉（なかむらばいぎょく）の出演も話題となった。シネマ歌舞伎だからこその高解像度で、衣裳や小道具に宿る、職人の仕事にも注目したい。

『新作歌舞伎　風の谷のナウシカ（前・後編）』、シネマ歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』他、『わが心の歌舞伎座』、シネマ歌舞伎『廓文章 吉田屋』、シネマ歌舞伎『二人藤娘／日本振袖始』などが配信されている。

文／塚田史香