『ガンダムW』30周年!シリーズ構成・隅沢克之が語る制作秘話と名セリフの裏側
アニメ インタビュー
2026.02.05
ヒイロ・ユイら5人の美少年ガンダムパイロットや印象的なセリフ、予測不能な展開で人気を博し、放送30周年を迎えた今もなおファンを魅了し続けている『新機動戦記ガンダムW』。本作のシリーズ構成を担当した隅沢克之氏は、小説『新機動戦記ガンダムW Frozen Teardrop』や現在連載中の漫画『新機動戦記ガンダムW 0.5POINT HALF PREVENTER-7』の脚本も手がけている。今回は隅沢氏に、放送当時の思い出などを聞いた。

――『新機動戦記ガンダムW』に参加された経緯をお聞かせください。
「もともとOVA『覇王大系リューナイト アデュー・レジェンド』で池田成監督、サンライズの富岡秀行プロデューサーとご一緒しており、そのご縁から本作にもお声がけいただきました」
――シリーズ構成を組み立てる上で、最も苦心した点を教えてください。
「池田監督から『今回のガンダムは真っ正面から戦争考えるんだ!』と言われ、地球史上の戦争の発端を全部徹底的に調べるよう命じられました。国会図書館にも通って勉強しましたね。さらに戦争を始める上でなんか変わった動機が欲しい』と言われて簡単な論文にまとめたのですが、『土地争いや食糧問題や地位向上以外にないのか』と突き返されてしまって......正直、それ以外歴史的にはなかったんです。第29話『戦場のヒロイン』でドロシーが放つ『早く戦争にな~れ!』というセリフは、池田監督の心の言葉なんですよ(笑)。"今戦争を起こせば、新しい切り口の物語が作れるのに"という想いでしたが、現実的に新しい戦争の始まり方なんて見つからず、本当に苦労しました。
『機動戦士ガンダム』はコロニー独立という明確なテーマがあり、宇宙と地球の対立構造も描きやすかった。一方で『ガンダムW』は、対立しているようで実はそうではない曖昧な関係性です。そのため敵側を大きな勢力として描けず、結果的に、テロリストとして描かれる側面が強い物語になっていきました。『「機動戦士ガンダム」とは違う話にする』『戦争とは何かを本気で描く』という池田監督のオーダーを形にするため、最後まで試行錯誤の連続でした」

――5人の美少年が主人公という設定が、大きな人気を集めましたね。
「企画書に"5人の美少年"と書き、キャラクターデザインを村瀬修功さんが担当される以上、魅力的なキャラクターが生まれて人気が出ること自体は、最初から分かっていました。ただ、池田監督の中では、そこが売りになるという意識は全くなかったですね。あくまで最優先は戦争をきちんと描くことで、5人の美少年をどう生かすかは考えられていませんでした。当時はツンデレ系の男子が女性に人気で、僕自身も『幽☆遊☆白書』の脚本を手がけていたので、五飛(ウーフェイ)とトロワが少し絡むだけでも反響が出ることは分かっていたんですけど(笑)、池田監督はそういう分かりやすいことをやらない。そこが本当にすごいと思いましたね。
今でも『女子に媚びたイケメンたちの話』と言われることがありますが、実際の『ガンダムW』は、油臭くて泥臭い、5人の少年が血みどろになっているような物語です。第1話から自爆しますし、第2話では明らかに死んでいるような状態で海に浮かんでいる。イケメン売りをするなら、あんな演出はしませんよ(笑)。
振り返ると、いわゆる美形売りはカトルだったのかもしれません。ただ、清楚でおとなしい性格だったので、アクの強い他の4人に比べると、最初の頃は一番人気がなかったですね。初期の頃から言っていた『宇宙の心がボクに教えてくれる』という電波系なセリフをきっかけに、子どもたちから『宇宙の心野郎』と呼ばれてサンドロックが全然売れなかった(笑)。それでも、ウイングガンダムゼロを生み出し、闇落ちを経験し、博士たちをはじめとする"おじさんキャラ"に愛されるなど、意外性のかたまりのような存在になった。カトルというキャラクターを生み出した池田監督には、やはり敵わないなと思いますね」

――5人の中でも、デュオは非常に人気がありましたが、予想通りでしたか?
「いえ、不思議でしたね。実は、他の4人をもう少し薄味にすれば、デュオを主人公にすることもできたと思うんです。でも、そうすると、逆にデュオの人気は出なかったでしょうね。彼はよくいる普通の主人公タイプで、真っ当で世話好き。近年の作品で言えば、『〈物語〉シリーズ』の阿良々木暦(あららぎこよみ)くんが近いのかな?
でも、『ガンダムW』ではそれをやらない。ヒイロは、心のどこかでデュオを認めているかもしれませんが、絶対に口にはしない。トロワは『こいつなら殺しても大丈夫かもしれない』くらいに思っている(笑)。カトルだけは『デュオはいいやつだよね』と思っていそうですし、五飛に至っては、本当にデュオの存在はいらないでしょうね(笑)。つまり、5人の中でデュオを本当に認めている人が誰もいない。だからこそ、ファンの方たちに『私が側にいれば支えてあげられる』『私だけがデュオの良さを分かっている』という気持ちが生まれるのでしょう。この構造こそが、デュオの女子人気につながったのではないかと僕は思っています」

――複数の主人公でありながら、慣れ合わず、協力すべき場面でも距離を保つ関係性は、当時としては珍しかった印象があります。
「僕の中では、ガンダムは大人の鑑賞に耐えうる作品であるべきだと思っていました。だから、5人が常に一緒に行動して、ベタベタしながら騒ぐような関係性にはしたくなかったんです。そこで参考にしたのが、『ルパン三世』の第一シーズンの大隅正秋監督が創出した雰囲気でした。ルパンも次元も五ェ門も、それぞれが自立した大人で、距離感を保ったまま軽妙な会話を交わしている。その関係性が、とても魅力的だったんですよね。ガンダムWは見た目こそ少年ですが、彼らは多くの命を奪ってきた戦士です。戦場の悲惨な光景を数多く目にしてきた存在で、精神年齢はそこらの子どもとはまったく違う。だからこそ、あの距離感が自然だったんだと思います」

――5人のパイロットに負けず劣らず、女性キャラクターの魅力も本作の人気を支えています。
「女性キャラクターを書くのは、本当に苦労しましたね。『ガンダムW』で目指していたのは、ただかわいい存在ではなく、自分の両足でしっかり大地に立っている女性たちを描くことでした。ノイン、サリィ、リリーナはいずれも、現実の地面に足をつけた感覚で会話をしているからこそ、やりとりそのものがとてもカッコよく映るんです。
中でも印象的だったのが、ノイン役の横山智佐さんですね。クールで凛(りん)とした女性役は初挑戦だったそうで、それまでかわいらしい役柄が多かった横山さんに、音響監督の浦上靖夫さんがご依頼しました。ただ、最初は池田監督からNGが出ることも多くて、『もっとクールな女性を』とディレクションが入っていました。ゼクスへの恋心がつい声に出てしまう部分もありましたが、やりとりを重ねる中で、軍人らしい節度のある愛情表現へと昇華されていった。その変化が印象に残っています」

――第1話ラストの名セリフ「お前を殺す...」「なんなのこの人...」は、どのように生まれたのでしょうか?
「池田監督が書いたプロットに、最初からありました(笑)。当時は普通だと思ってましたけどね、まさか、あのセリフがここまで語り継がれ、ミーム化するとはぜんぜん思ってっていなかったですね」
――隅沢さんご自身のお気に入りのセリフがあれば教えてください。
「『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』第02話『過ぎ去りし流星(オペレーション・メテオ)』で、プリベンター・ウインドとしてデキム・バートンの暴走を止めに来たゼクスが、デキムから『ゼクス・マーキス、生きていたのか?』と言われた際に返す『死んでいたさ』という一言ですね。普通のアニメなら『無論、生きていたさ』とか『私を呼ぶならウインドと言ってくれだ』と答えるところでしょう。でも、あそこで『死んでいたさ』と言い切る。そのひねくれたカッコよさこそが『ガンダムW』らしさであり、『やっぱりミリアルドはこうでなくちゃ』と思わせる名セリフだと思います」

――35周年、40周年といった次のアニバーサリーイヤーに向けて、やってみたいことがあれば教えてください。
「小説『新機動戦記ガンダムW Frozen Teardrop』や、現在連載中の漫画『新機動戦記ガンダムW 0.5POINT HALF PREVENTER-7』を、いつか映像化できたらうれしいですね。その際は、当時の空気をなぞるだけでなく、その時代の世相をきちんと反映した物語にしたいと思っています」
取材・文/中村実香 撮影/永田正雄




