高倉健生誕95周年!代表作『幸福の黄色いハンカチ』など名作映画を振り返る

高倉健生誕95周年!代表作『幸福の黄色いハンカチ』など名作映画を振り返る

2月16日は俳優・高倉健、生誕の日。各チャンネルで多くの出演作の放送・配信が予定されている。

高倉健は、「名優」という言葉そのものを体現した存在であり、日本芸能史において唯一無二の存在と言える。卓越した演技力はもちろん、生きざまや時代との関わり方すべてが評価された稀有な人物だ。

表情の変化も最小限で、佇まいだけでも感情を伝える独自の演技を確立し、見る者は彼が語らずとも、孤独や怒り、悲しみと言った心情を感じ取れる。「間」を極限まで突き詰めた表現は、「何もしていないように見えて、実はすべてを表現している」ようだ。義理と筋を通し、自分の感情を押し殺して、弱い者は全力で守る...。まさに昭和的な男の美学を体現し、当時の日本男児に多大な影響を与えた。筆者だけでなく、昭和男の誰もが"健さん"の「不器用な生き方」に憧れたものだ。

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■『網走番外地』シリーズに見る「健さん」スタイルの原点


初期の高倉健は、任侠映画のスターとして名を馳せた。1965年に始まる『網走番外地』シリーズは彼の原点とも呼べるもので、寡黙な囚人・橘真一を演じた。目線と立ち姿だけで"筋を通す男"を表現し、既に後年のスタイルを完成させていることは驚異的だ。

中でも、シリーズ第4作『網走番外地 北海篇』(1965年)は、屈指の人気作。刑務所仲間の保釈金調達を買って出た橘(高倉健)が、密輸アヘンの運搬を手伝うことになる物語。ジョン・ウェイン主演の名作西部劇『駅馬車』を思わせるトラックの暴走チェイスが見どころだ。本作での橘は、「闘う男」より「耐える男」として描かれており、人の善意を疑わないものの、甘えもしない感情を、姿勢と視線だけで巧みに表現している。どの出演作にも見られる「過去を背負って生きる男」の姿は本作でも健在だ。重要な場面であるほどせりふが少なく、感情のピークでも言葉ではなく、相手のせりふを「受ける」演技に徹する。生涯を通じて貫かれる高倉流の演技スタイルの礎を見ることができる。任侠映画に関わらず、派手な立ち回りよりも存在感そのもので画面を支配する点も素晴らしい。背筋の伸ばし方や止まるときの一拍の「間」といった、高度な演技が見ものだ。また、ヒロイン役で登場する大原麗子のフレッシュな演技も作品に花を添えている。

■任侠スターとしての到達点を見せた『昭和残侠伝 破れ傘』


同じく1965年に始まった『昭和残侠伝』も人気シリーズだが、ここでは第9作『昭和残侠伝 破れ傘』をご紹介したい。このシリーズは、高倉と並ぶ2大スターと呼ばれた、池部良との共演が見どころ。昭和初期の郡山を舞台に、ヤクザ同士の激闘を描き出す。高倉演じる花田秀次郎が刑務所から出所し、義兄弟の杯を交わした寺津力松(安藤昇)を助けて天神濱組との抗争に参加。秀次郎はかつて愛した女・お栄(星由里子)を探して郡山を離れるが、4年後に戻ってくると、お栄は元天神濱組で、今は杜氏をしている風間重吉(池部良)の妻になっていた。一方、力松の寺津組は、姻戚関係となった鬼首鉄五郎(山本麟一)の後ろ盾を得て勢力を拡大。天神濱組との抗争に拍車がかかっていく。

本作での高倉健は、最も美しく、最も痛々しく結晶化した究極の演技を披露。任侠スター・高倉健が様式を悲劇に高めた到達点だと評価されている。高倉健の任侠映画時代の傑作として、必見の一本だ。

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■日本映画史に残る名演技『幸福の黄色いハンカチ』


1975年公開の『新幹線大爆破』以降、高倉は東映を退社し、俳優としての転機を迎える。『君よ憤怒の河を渉れ』(1976年)では、任侠スターから国際的に通用する俳優・高倉健へと脱皮した決定的な作品だと評価された。

本作は、『新幹線大爆破』の佐藤純彌監督と再びコンビを組み、人気作家・西村寿行の原作小説を映像化。幾多の危難を乗り越えて真実に迫る主人公の検事・杜丘冬人を高倉が演じている。ヒロイン役の中野良子、敵役の刑事に扮した原田芳雄も好演。特に、文化大革命直後の中国で大ヒットを記録し、高倉の人気が中国全土で沸騰したことでも話題を呼んだ。特筆すべきは、杜丘がヒーロー然としていなくて、国家権力に理不尽に追い詰められた現代の一般人である点。正義の味方でも完全無欠でもない人物を演じ、怒りと恐怖の間で揺れるスクリーン上の高倉健は、新鮮な驚きを与えた。法律家でありながら罠に落とされ、正義を信じていた社会から切り捨てられる悲劇の主人公だが、それでも彼は叫ばずに泣き崩れもしない。いわば、英雄になろうとしない人物を演じた高倉の演技の新境地を見ることができる。理不尽な世界に放り込まれ、それでも沈黙せずに進む男の姿を、過不足なく生き切った名演は、もっと評価されていいはずだ。

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演技の幅を広げた高倉が、続いて主演したのが『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)だ。本作では、それまでの"高倉健像"を根底から更新し、日本映画史に残る名演と評価されている。失恋して自暴自棄になった欽也(武田鉄矢)が、新車を買って北海道へ傷心の旅に出る。そこで欽也は一人旅をしていた朱美(桃井かおり)のナンパに成功し、さらに2人は海岸で島勇作(高倉健)という男と知り合い、共に旅をする。やがて刑務所から出所したばかりだと打ち明けた勇作は、愛妻に出した葉書のことを語り始める...。

本作での高倉は、強くも格好よくもなく、傷ついたまま生きている男、元受刑者の島勇作を見事に演じ切った。結果、彼のキャリアの中でもっとも人間的で愛される演技を披露。寡黙さが強さになっていた過去の演技から脱皮し、寡黙さを「不安」の表現とする、大胆な転換をしていることに注目したい。映画史に残るほど有名なラストシーンは必見の名場面だが、ここでの高倉の演技は、感情の爆発ではなく、感情の"解放"である。じつは、ここで万人が涙を流した明確な理由がある。高倉の芝居が普通ではないからだ。あえてここには書かないが、それが高倉の演技の真骨頂だと言える。ぜひ、自身の目で確かめてほしい。

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■アンチヒーロー像を先駆した『野性の証明』


ほかにも、"ヒーロー像そのものを崩す役"に本気で挑んだ初めての映画『野性の証明』(1978年)では、自衛隊の特殊部隊出身の主人公・味沢岳史を演じた。凄腕の戦闘能力を持つ強靭な男だが、過去の事件を機に社会に適応できずにいる。孤独な男から一歩進んで、「社会から排除される存在」として描かれる。感情を抑制する人物を一貫して演じてきたが、本作では感情を整理できない男のリアリズムを表現。怒りをコントロールできず、冷静さを失うこともある味沢を、高倉は視線の泳ぎや呼吸の荒さ、体の硬直で表す。従来の抑えた演技とは正反対の「抑えきれないものが漏れ出る」という高度な芝居に挑んで見せた。

『野性の証明』での高倉は、日本映画における"反ヒーロー"像のパイオニアであり、最も危険で、最も人間的な演技を見せた。後年の『夜叉』や『駅 STATION』にもつながる陰影の原点と言えるだろう。1980年代以降は、本作のように内省的で普遍的な人物像を演じることが多くなっていった。

こうして振り返ってみると、1960年代の任侠映画時代から、演技の幅もスタイルも進化させた高倉健の歴史は、注目に値する。思えば、『昭和残侠伝 破れ傘』の時点で、「強いヒーロー」を否定し、正しくあろうとして、孤独になる男を誇張なく演じきっていた。自身で作りあげたヒーロー像を自ら壊して、新たなアンチヒーロー像にまで昇華させたようで、凄みを感じさせる。筆者ごときが名優・高倉健を語り尽くすには、とても紙幅が足りそうもない。高倉健とは、やはり唯一無二の演技者なのだ。

文/渡辺敏樹

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