中国ドラマでよく聞く「江湖」とは――チェンシャオ(陳暁)主演「ユン・シャン伝」で知る武侠ドラマの奥深い世界

中国ドラマでよく聞く「江湖」とは――チェンシャオ(陳暁)主演「ユン・シャン伝」で知る武侠ドラマの奥深い世界

中国ドラマを見ているとたびたび耳にする「江湖(こうこ)」という言葉。武術の達人たちが集う世界なのか、それとも朝廷とは別の国のようなものなのか――日本ではあまりなじみがないため、何となく雰囲気で理解しているという人も多いだろう。実は「江湖」を知ることで、武侠ドラマは何倍も面白くなる。今回は、チェン・シャオ(陳暁)主演の「ユン・シャン伝 ~江湖 復讐の嵐~」を例に、その独特な世界観をひも解いていく。

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「江湖」が生み出す、自由で奥深い世界

もともと「江湖」は、中国最大の川・揚子江(ようすこう)と洞庭湖(どうていこ)を指す言葉だったとされる。そこから時代を経て意味が広がり、「世間」「社会」を表すようになった。そして小説やドラマの世界では、武術に秀でた侠客(きょうかく)たちが生きる独自の社会を指す言葉として定着していく。

江湖は、皇帝や朝廷が支配する世界とは少し異なる、侠客たちが独自の掟(おきて)や"義"を重んじて生きるもう一つの社会だ。ただし、完全に切り離された世界ではなく、時には朝廷と対立し、時には関わりながら物語が展開する。その曖昧さや自由さこそが、武侠ドラマならではの魅力といえる。

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江湖には、武術の達人だけでなく商人や情報屋などさまざまな人々が暮らし、作品によっては空を舞う軽功(身軽な身のこなし)や、気を操る武術、さらには幻想的な術が登場することもある。現実と伝説が自然に溶け合う懐の深さが、武侠ドラマの世界をより豊かなものにしている。

そんな江湖を舞台にしながらも、「ユン・シャン伝」は一味違う作品だ。武侠ドラマの主人公といえば、圧倒的な武術で敵を倒す剣士を思い浮かべる人が多いだろう。しかし主人公・雲襄(ユン・シャン)は、武術の心得がまったくない。その代わり、卓越した知略と観察眼を武器に数々の強敵を相手取る異色の主人公なのである。原作者・方白羽は、そんな新しいタイプの武侠ヒーローを江湖の世界に誕生させた。

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江湖を支える「門派」と"義"の精神

江湖には、侠客たちが守るべき掟や規律が存在する。その中心となるのが「門派(もんぱ)」だ。門派とは、武術や思想を同じくする流派や組織のこと。弟子たちは師匠の下で修行を積み、兄弟子や弟弟子との強い絆を築きながら一人前へと成長していく。その結び付きは非常に強く、忠義や恩義を重んじる精神が武侠ドラマの大きな魅力となっている。だからこそ、門派内で生まれる裏切りや思想の対立、あるいは門派同士の争いは、物語を大きく揺り動かす重要な要素となる。

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「ユン・シャン伝」では、かつて国を支えた伝説の門派・千門(せんもん)が二つに分裂している。一つは朝廷と敵対する武闘派・凌淵(りょうえん)、もう一つは商売を表向きの生業(なりわい)としながら朝廷とは一定の距離を保つ雲台(うんたい)だ。100年以上にわたり対立を続ける両派の因縁が、物語の土台となっている。

雲襄は雲台に属する門人。長年の修行を終えて江湖へ旅立つが、門派の使命だけでなく、一族を滅ぼされた15年前の事件の真相を追うという私的な復讐(ふくしゅう)も胸に秘めている。本来なら私欲を捨てるべき教えに背きながら、自らの知略を復讐のために使う姿は、正義と私情のはざまで揺れる人間らしさを感じさせる。

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「江湖」に息づく"義"が仲間との絆を育む

武侠ドラマの醍醐味(だいごみ)は、剣戟(けんげき)だけではない。主人公は旅の途中で志を同じくする仲間と出会い、時に反発し、時に命を預け合う。その関係を結び付けるのが、江湖に根付く"義"の精神だ。友情や恩義、信頼が積み重なり、時には命を懸けて仲間を守ろうとする姿に、多くの視聴者が心を動かされる。

「ユン・シャン伝」でも、雲襄は武術の達人・舒亜男(シュー・ヤーナン)、一流の剣客・金彪(ジン・ビャオ)、江湖に憧れる商家の御曹司・蘇鳴玉(スー・ミンユー)らと出会い、さまざまな困難を乗り越えていく。武術で戦う仲間たちと、知略で局面を切り開く雲襄。それぞれ異なる強みが一つになることで、「ユン・シャン伝」ならではの爽快感が生まれている。

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しかし、その絆は決して盤石ではない。雲襄は復讐のためなら仲間すら利用する冷徹さを持つ人物でもあるからだ。信頼と裏切り、義と復讐、友情と愛情――さまざまな感情が交錯しながら、江湖という世界はより深みを増していく。武術が苦手な主人公という斬新な設定を取り入れながらも、「ユン・シャン伝」は武侠ドラマの醍醐味である"義"や"情"をしっかりと描き切っている。

江湖とは、単なる戦いの舞台ではない。そこには独自の掟があり、人との絆があり、信念を貫こうとする人々の生きざまがある。そんな江湖の世界を知れば、「ユン・シャン伝」はもちろん、数多くの武侠ドラマがこれまで以上に面白く感じられるはずだ。

文/神野栄子