ハン・ソヒ×チョン・ジョンソ共演『PROJECT Y』タイトルに込められた問いかけとは【古家正亨】

ハン・ソヒ×チョン・ジョンソ共演『PROJECT Y』タイトルに込められた問いかけとは【古家正亨】

今回、この映画を取り上げようと思ったのは、先日、主演の1人であるハン・ソヒさんが来日し、ジャパンプレミアに出席。その司会を僕が担当したから...というわけではありません。単純にこの映画が「おもしろかった」からです。

まず前提としてタイトルの『PROJECT Y』の「Y」について、どんな意味が込められているのかは、本編ではっきりとは明かされていません。しかし、2025年12月に行われた本作を手掛けたイ・ファン監督の来日イベントで、監督は「観客の皆さんがそれぞれの視点で、映画を完成させてくれると思っています。『あなたは?(You)』どう感じたのかという問いかけをしながら、この映画を完成させてほしいという想いがあります。『Y』には、そういったさまざまな意味が込められています」と語っていました。

260416_projecty02.jpg

■ハン・ソヒ×チョン・ジョンソが放つ圧倒的な存在感。タイトル「Y」に込められた問いかけ

「もし、自分が彼女たちの立場に置かれたら、どんな選択をしていただろうか......」。

ストーリーは簡潔明瞭で、華やかさの裏に暗い影が落ちる歓楽街を舞台に、ハン・ソヒさん演じるミソンとチョン・ジョンソさん演じるドギョンという2人の女性が、底辺の現実から抜け出すために、隠された金塊を盗み出すという物語です。

ハン・ソヒさんといえば、日本では2021年にソン・ガンさんと共演したドラマ「わかっていても」でよく知られるようになりました。韓国では2020年に大ヒットしたドラマ「夫婦の世界」での不倫相手役という憎まれ役を巧みに演じ、その存在感とミステリアスな美貌が話題となり、トップ女優への階段を上り始めることになったわけですが、個人的には、2023年に映画初出演を果たしたインディペンデント映画『12月の君へ』のソル役が印象に残っています。美しさの中にある孤独や闇、何を考えているのか分からない不安定な言動や行動を演じさせれば、今、韓国の俳優の中でもトップクラスではないでしょうか。本作におけるミソンも、まさにそんなキャラクターです。

一方、チョン・ジョンソさんは、2018年に公開されたイ・チャンドン監督の名作『バーニング 劇場版』でのヘミ役が印象的で、デビュー作とは思えない自然体な演技で、観る者すべての心にその存在感を深く刻みました。ドギョンにも、そんな彼女独特の浮遊感ある魅力が随所に感じられるのです。

260416_projecty03.jpg

■手段を選ばないドライな疾走感

そんな2人が、これまで歩んできたがけっぷちの人生に終止符を打とうとします。お金を手に入れることによって、すべてが解決できると信じて......。ところが人生、そう甘くはありません。彼女たちは手段を選ばず、ただひたすら、自分たちの明るい未来のために疾走し続けるわけです。

そんな逃避行と彼女たちの生き方は、まさにリドリー・スコット監督が手掛けた名作『テルマ&ルイーズ』(1991年)の主人公、スーザン・サランドンとジーナ・デイヴィスそのものといった感じ。ユタ州で撮影された乾いた映像の質感は、韓国という舞台に合わせて東アジアならではの湿気のある質感に置き換えられていますが、自分たちが生きるために手段を選ばないドライな考え方は両者同じです。韓国で公開された際にも「韓国版テルマ&ルイーズ」と評する声が多かったことにも納得させられます。

260416_projecty04.jpg

■「SHOW ME THE MONEY」優勝プロデューサー・GRAYが手掛けるクールな音楽と、狂騒の中に宿る「母」との絆

ただ『PROJECT Y』には、監督が敬愛してやまないという90年代の香港映画にあった色彩感覚と、韓国を代表するHIP HOPプロデューサー・GRAYが音楽監督を手掛けた、HIP HOPをベースにジャズやR&Bを織り交ぜたスタイリッシュでクールな音楽が、映画全体に危険な空気感を生み出しています。

特に、MAMAMOOのメンバーで現在は韓国のトップ女性ソロシンガーとして知られるHWASA(ファサ)が歌うオープニング曲「FOOL FOR YOU」と、知る人ぞ知る実力派歌手のアン・シネが歌うエンディング曲「MAN IN THE SKY」は、この映画の持つヒリヒリする痛みをより引き立たせる名曲です。これ以外にも、GRAYとAOMG時代の同僚だった女性R&BシンガーのDeVitaやHoody、そして90年代に"韓国のマドンナ"とも呼ばれた元祖ダンス歌手のキム・ワンソンといった豪華アーティストが参加し、37曲も収録されたOST(オリジナルサウンドトラック)は、アルバムそのものとしても十分楽しめる1枚になっています。

260416_projecty05.jpg

ハン・ソヒさんは、ジャパンプレミアで「私たち以外にも魅力的なキャラクターがたくさん出てくる映画です。それぞれのキャラクターに注目して観ていただければ、鑑賞時の楽しみはより広がるはずです」とおっしゃっていましたが、まさに主人公の2人以外に登場する人物たちも実に個性的で、全員が金塊に狂い走ります。そういった中で、不幸な過去を持つ2人と、その「母」といえる存在との関係に韓国らしさを感じていただけると思いますし、そこはこの映画の「泣き」のポイントになっています。監督が『PROJECT Y』を通じて観客の皆様に投げかけたかった問いかけは何なのか。それは直接映画を観て、あなた自身が見つけ、感じてほしいと思います。

古家正亨

古家正亨 (ラジオDJ/イベントMC)

ラジオDJ、イベントMC。 K-POPなどの「韓流」カルチャーを20年以上にわたり日本に紹介してきた古家正亨が、毎月オススメの韓流コンテンツを紹介。

連載一覧はこちら

古家正亨

古家正亨 (ラジオDJ/イベントMC)

ラジオDJ、イベントMC。 K-POPなどの「韓流」カルチャーを20年以上にわたり日本に紹介してきた古家正亨が、毎月オススメの韓流コンテンツを紹介。

連載一覧はこちら

韓国・アジアドラマ 連載コラム

もっとみる

韓国・アジアドラマ インタビュー

もっとみる