キム・ソナ主演!まるで韓ドラ・サスペンスのデラックス幕の内弁当的な作品「The Empire:法の帝国」【古家正亨連載】

古家正亨

古家正亨 (ラジオDJ/イベントMC)

ラジオDJ、イベントMC。 K-POPなどの「韓流」カルチャーを20年以上にわたり日本に紹介してきた古家正亨が、毎月オススメの韓流コンテンツを紹介。

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一言で「かなり面白かったです」。ただ、あくまで個人の主観が入ります。正直、ほぼ何の知識もなく見始めたドラマでした。その理由が「私の名前はキム・サムスン」でお馴染みのキム・ソナさんが主演だったから。「品位のある彼女」も面白かったなぁ。やっぱりどんな役を演じても、しっかり自分のものに出来るその演技力は、見る者に安心感を与えてくれます。

そんな彼女が今回、ソウル中央地検の超エリート部長検事、ハン・ヘリュルを演じます。周りがどんなに汚れようが自分の信念を貫き、正義を重んじる彼女ですが、実は法曹界を支配する富豪一族の三代目で、家族には、判事、弁護士、検事という家族だけで韓国の法曹界を支配できる、そんな力を持っていて、しかも、残念ながら......汚されています。

そしてヘリュルには、ルックスも肩書きも完璧な、ロースクールの教授を務めるナ・グヌという名の夫がいるんですが、演じるのは、キム・ソナさんとは20年以上親交があるという名優アン・ジェウクさん。周りから見ても、いつもラブラブで誰もがうらやむカップルでしたが、実は、そんな夫が......ロースクールの学生であるホン・ナンヒと不倫関係だったことが明らかになるんです。

で、実はここからこのドラマが始まるといっていいでしょう。というのも、ここから韓ドラに欠かせないさまざまな要素がこれでもかと出てきます。例えば、ヘリュルは実は再婚で、前の旦那が検事仲間。別れた後も職場で会う関係であるが故に、ある問題に巻き込まれます。そして、へリュルの妹であるムリュルは判事で、彼女の旦那がヘリュルが担当する事件の財閥企業の御曹司であったり、ヘリュルの父であるゴンドは韓国ナンバー1の弁護士事務所代表で、彼女の祖父はその事務所の創設者。さらにその祖父には、若き後妻がいて、何やら秘密を抱えていそう......。唯一気の許せる母グァンジョンは、夫のグヌが教授を務めるロースクールの学長で、そこに通うのが、実の息子のガンベク......もう、こうして紹介しているだけで笑ってしまいますが、さらにそのガンベクのロースクール仲間が、父グヌの不倫相手のホン・ナンヒという、幾重にも相関関係が構築されているのは韓ドラならではという感じです。これに加えて、ガンベクと結婚予定のロースクール生で幼なじみのチャン・ジイの父はヘリュルの上司であったり、へリュルの部下のソンヒョンの彼女はテレビ局の記者で、その記者は警察と情報共有をしていたりと、かなりドロドロな人間関係でそれぞれがつながっています。

ドラマの前半は、ナ・グヌとホン・ナンヒの不倫関係を中心として物語は動いていきますが、中盤から一気に物語が動き始めます。というのも、登場人物それぞれに、生きる目的があり、その目標の達成のために、手段を選ばず突っ走り始めるからで、それがドラマに一気に緊張感をもたらし始めるんです。「え~、ここで、これとあれがつながっていたの?」とか「この事件の犯人って、この人だったの?」などなど、さまざまな謎解きとドンデン返しが待っています。個人的には、息子であるガンベクと祖父の後妻エホンの秘密には「え?え?え?」というかなり大きな驚きがありましたね。

演出を手掛けたのは「いとしのソヨン」をはじめ、これまで数々の家族ドラマの名作を手がけてきたユ・ヒョンギ監督。この群像劇を見事にまとめてくれました。でも、それ以上に興味を持ったのは、このドラマは、いわゆるドラマ専業の脚本家ではなく、実際の弁護士たちがドラマの企画を立ち上げ、脚本を執筆したということ。実際に法に携わる者だからこそ紡ぎ出せる、リアルな法曹ドラマとしても楽しめるところも重要なポイントだと思います。

そして今回、このドラマを通じて、ついつい調べてしまったのが、ナ・グヌの生徒であり不倫相手であるホン・ナンヒを演じたチュ・セビンさん。SNSでの反応を見る限り、女性視聴者からはあまり共感を得られていないようなんですが、僕はかなり魅了されました。でも、どこかで見覚えが......そう、ガールズグループのメンバーとしてデビューし、その後、fromis_9を輩出したMnetのオーディション番組「アイドル学校」にも出演していたんですよね。のちに女優として活躍するわけですが「女神降臨」にも出演していたので、ご存じの方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。くっきりとした目鼻立ちとミステリアスな雰囲気を醸し出す姿は、なぜ不倫せざるを得ない状況に陥ったのか......その秘密を抱えながら、本当の愛に落ちてしまうホン・ナンヒを演じるのに、ピッタリだったと思います。個人的には、彼女がこのドラマの準主役ではないかと思うほどです。恥ずかしながら、ドラマを見終えて、色々と彼女のことを調べてみましたが、情報量がかなり少なかったのが気になりました。きっとこの当たり役を経て、これからより俳優として飛躍してくれるのではないかと期待しています。

エンディングに関しては、その描き方に賛否両論分かれているようですが、個人的には、画期的なエンディングだったように感じます。ただ、中盤から後半にかけて、いろんなことが一気に明らかになり、そして、さまざまなドラマが展開するので、一瞬も気が抜けません。そのお腹いっぱい感は、まさに幕の内弁当的ですが、このドラマはそれにとどまらず、昨今の社会問題も巧みに取り入れているので、その上をいく、デラックス幕の内弁当のような作品になっていると思います。