声優・上坂すみれインタビュー#3「上坂すみれが"すこやか"を大切にする理由」
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2025.12.19
「うる星やつら」のラム役をはじめ、「スター☆トゥインクルプリキュア」のキュアコスモ役、「時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん」のアリサ・ミハイロヴナ・九条(アーリャ)役など、数々の人気作品に出演。清楚なお嬢様から色気のあるお姉さん、おてんば娘まで幅広く演じ分けるその表現力で、キャラクターの魅力をググッと引き上げています。このインタビューでは全3回にわたって、上坂さんのこれまでの歩みや声優として大切にしていることを、出演作品のエピソードとともにお届けします。
■ラジオ番組を通じて芽生えた先輩との絆

――これまで多くのラジオ番組に出演されたり、またご自身でもやられてきたと思うんですが、上坂さんの中で印象的だった出来事などはありますか?
「どんなテーマで切り取るかによって、さまざまな出来事が思いつくんですけど、『勉強になった』という意味では、前々回のインタビューでお話した『うぇぶらじ@電撃文庫』と、その後長くやらせていただいた『A&G NEXT GENERATION Lady Go!!』も大きかったなぁと思います」
――「A&G NEXT GENERATION Lady Go!!」ではどんなことが学びになったのでしょうか?
「1時間の生放送で初めての単独冠番組、しかもA&Gなので映像付き。とはいえ番組が始まった段階では、レギュラー出演のアニメ作品すらなかったので、まだまだ声優と呼べるほどではありませんでした。そんな駆け出しのひよっこにもかかわらず、鶴の一声で抜擢していただいたので、まだ本当にできることが少なくて......たとえ言葉が出なくとも映像があるのでジェスチャーを駆使したり、自分が書いたイラストをお見せしたり、とにかくあの手この手で必死に盛り上げなきゃとあくせくしていました(笑)」
――あの手この手で......(笑)。
「そのときに『声優のバラエティって、いろいろなことをやっていいんだ』と思えた経験は大きかったですね。
同時に、平日の帯番組で、ほかの曜日は先輩声優が担当されていたんです。それが、小松未可子さん、大久保瑠美さん、高森奈津美さん、そして三上枝織さんの4人の先輩。
番組を通じて、横のつながりが生まれて、それこそ番組でイベントをやったり、みんなで歌を出したり、それぞれのお誕生日の日に集まって一緒にごはんを食べに行ったり、仲良くさせていただいて、本当にかわいがっていただきました。高森さんの30歳のバースデーのときは、5人でリムジンを借り切って、リムジンツアーにも行ったなぁ」
――リムジンツアーって、めっちゃ仲良しですね...!
「同時に出演することこそ、ほとんどなかったですけど、みなさんすごく素敵な先輩なんですよ。
それに、先輩方がいるからこそ、自分のメンタルが鍛えられた部分もあるんじゃないかなぁと思います。というのも、やっぱり単独で1時間の生放送ってハードルが高くて、当時、素人同然の状態でただでさえ大変なのに、コーナーで即興のお悩み相談とか大喜利とかまで入ってくるんです。でもそういう無茶振りも、『先輩たちもやっているし!』と思うと、なんとかしなきゃという気持ちに自然となれる。あの番組を乗り切れたのは、先輩方の存在はかなり大きかったと思います。
アフレコとはまた違う交流が一気に広がった気がしますし、今思えば、番組を通じてこれだけ頼れる先輩方と繋がって強い絆が生まれたことに、本当に感謝しかありません」
■そのキャラの一日を想像してみることから始める

――役作りをするうえで、ルーティンとしてやっていることはありますか?
「そうですね......ごく小さなことですけど、まずはアニメのキャラの絵をじっくり眺める、というのは毎回やります。最初の段階では、とりあえず発声せずに絵だけを見ることが、多いかな」
――いきなり声を出して試してみたりはしないんですか...!
「しないです。私は、ですけど。まずは『どんな声の人かな』っていうのを考えるのがけっこう楽しくて。そこから『このキャラは普段はどんなふうに生きてるんだろう』っていうのを、表情をじっくり見ながらイメージして、頭の中で実際にいろいろな行動をしてもらいます。そこから『この人とはこんなふうに喋るんだろうな』『こういうことに喜んだり、逆に悲しんだりするんだろうな』というのを、どんどん想像していくんです」
――そうやって場面をいくつも思い浮かべながら、声をイメージしていく......?
「そんな感じです。でも、声が見つかるまでにけっこう時間がかかることもあって、けっきょくアフレコ当日を迎えてもイメージが湧いていないことも、たまにあります。でも、最終的には現場でのディレクションだったり、アフレコをしながら決まっていくので、あくまで最初にあれこれ想像しておくのは、そのキャラの人物像を掴んだり、声のイメージを膨らますためという部分が大きいのかもしれません」
――例えば、どんなことをして声を
「そもそも、そのキャラの性格的な部分はある程度押えておくのが前提として。
そこから、そのキャラの一日の流れを想像してみるんです。朝、寝ているところから始まって、どんなふうに起きるのかな。起きたらまず水を飲むんだろうか、それとも二度寝するんだろうか。それとも、運動でもするのか......というように、そのキャラクターの架空の一日を自分の中で組み立ててみるんです。そうすると、だんだんキャラクターが一人でに動いてきて、思いもよらない行動をしたり、誰かに会いに行ったり。
そうするとだんだんと、そのキャラの声が少しずつ聞こえてくるような気がして、それが自分の中で定まることもあれば、さっき言ったように当日までわからないこともある」
――すごいおもしろいですね...!物語で描かれない、そのキャラの日常を想像してみる。素人目にはめちゃくちゃ難しそうに見えますが......。
「でも、そうしていくと、自然とキャラに親しみを持ててるし、キャラとの距離感がぐっと縮まると思うんです。あと、やってみると案外楽しいんですよ。自分の頭の中だけで完結する、ある種の二次創作みたいなものでもあるので。想像をすべて正解にしなくてもいいし、それで誰かに怒られてしまうこともないので(笑)」
■喋っているうちにだんだんと気持ちがシンクロしてくる

――キャラの気持ちについては、お芝居をするときにどんなことを意識されているのでしょうか?
「気持ちの部分はあまり事前に準備していくことはできなくて、スタジオに入ってそのキャラクターとして喋っていると、少しずつ気持ちが引っ張られていく、というのが正直なところです。『この場面はこういう気持ちだろう』と、事前にいくら考えていったってそこに"絶対"はないんです。練習も、テストも、本番も、それぞれ全部少しずつお芝居は変わりますし、変わってしかるべきなのかなって。生きてる人だって、毎日少しずつ気持ちが違うじゃないですか。
だから、『このキャラはこう!こんな声は出さない!』って決めすぎないほうが、ある意味多少のブレも含めて、リアリティがあって共感してもらえるんじゃないかと思うんですよね」
――なるほど...!
「それに私自身、もちろん事前にたくさんの知識や情報をインプットして、そのキャラの状況を整理して準備はするんですが、いざお芝居をする瞬間はその一つ一つを考える余裕なんてないんです。だから、"インプットした状態"を信じて、自分に任せてお芝居することが多いです。そういう意味では、どちらかといえば、キャラと気持ちをシンクロさせるタイプの声優なのかもしれません。
――頭で考えて意識して「こう喋る」と決めるのではなくて、いざというとき、無意識でそれが出てくるようにイメージをしておくんですね。
「そう。ただ、原作がない場合には台本しか情報がないので、極端に情報が少なかったりもします。そういうときは、私自身がこれまでいろいろな時代のアニメが好きで観てきた人間なので、その好きな作品の引き出しを片っ端から開けて、『もしかして、あのキャラの面影があるかも』というのが見つかれば、そのニュアンスを加えてみたりはしています。
――そんなやり方もあるんですね...!上坂さん自身に、本当にいろいろな引き出しがあるからできるんだろうなと思います。
「もちろん、それが完全なトレースになってしまったらダメなんですけど、少しでも共通点があれば考え始めることはできるな、と思って。アニメだけでなく、実写映画も含めた中から見つけてきて、それが大きなヒントになることもあるんです」
■"すこやか"になってもらえる声優でありたい

――今後、挑戦してみたいキャラやジャンルなどはありますか?
「外画の吹き替えをさせていただくたびに、すごく新鮮な経験だって思っています。実在する人に声をあてるって、とても不思議な感覚ではあるんですけど、アニメともまた違う独特の楽しさがあって。
とくに外画に出てくる女性って、みんないわゆる"いい女感"がムンムン出てるんですけど、『"いい女感"ってなんだ? 私はどこにその"いい女感"を感じているんだろう?』とか考えながらお芝居をしたり(笑)。これからもどんどん挑戦していけたらいいなと思っているジャンルです」
――声優としては、どんなふうに活動を続けていきたいと考えていますか?
「声の仕事が中心にありつつ、ときにはキャラとして、自分名義として歌を歌ったり、ライブステージに立ったり、コスプレをしたり、テレビやラジオ番組に出たり、リアルイベントに出没したり、果てはコンカフェの経営まで......これまでいろいろな経験をさせていただいて、私自身、声優の仕事の幅の広さ、楽しさ、やりがいというものを、たくさん感じてきたと思っているんです。
私はよく、SNSで『すこやかに過ごしてくださいね』と声をかけるんですけど、"すこやか"っていうのは『自分を、常にご機嫌な気持ちにできる状態』だと思っていて。声優って、みんなを元気にする仕事だからこそ、自分自身も楽しんで仕事をしなきゃいけないと思うんです。アニメやゲーム、それ以外の活動も全部含めて、私自身が"すこやか"に仕事をし続けることで、みなさんも"すこやか"になってもらうことができたら、それが一番。
だから『こんな役をやりたい、こんな夢を叶えたい!』よりも、観てくれる方たちが楽しいと思ってくれることをいっぱいやっていけたら嬉しいですね』
――すごく素敵な考え方ですね。
「私、イベントやライブで『手術が成功しました!』とか『転職できました!』とか、ファンの方が人生を教えてくれるのが大好きなんです。純粋に嬉しくなるし、逆に『落ち込んだときにはこうやって直接会いに来て元気になってくれているんだ』っていうのもわかるじゃないですか。
人生って幸せな瞬間やいいことばかりがあるわけじゃないけど、ふとした瞬間に私たちの活動を見て"すこやか"な気持ちになってもらえたら、それはすごく価値のあることだなって思います」
■「本当に私?」という気持ちとの戦いだった|「うる星やつら」ラム

(C)高橋留美子・小学館/アニメ「うる星やつら」製作委員会
――2022年から、新たにテレビアニメシリーズが放送されている「うる星やつら」では、ヒロインのラムちゃんを務められています。ラムちゃんという大人気キャラを演じることになった経緯と、そのときの率直な気持ちを教えてください。
「元々、ラムちゃん役が決まるずっと前から大好きな作品で、私にとっては高橋留美子先生の作品で初めてハマったのが『うる星やつら』でした。
高校生のときに、CSのアニマックスで再放送されていたのを、繰り返し繰り返し観ていて、その後も原作を文庫版で買い集めていって、大学生の頃には全巻揃えていました。
そうしたら2020年のあるとき、作品名がしっかりと書かれていないアニメ作品の、秘匿されたオーディションの話が来て......たしか『UY』というコードで......」
――UYって、「うる星(U)やつら(Y)」...!?
「そうです...!とくにゲーム作品だと、そういうシークレットなオーディションがたまにあるんですけど、アニメで作品名が伏せてあるのは珍しいなと思って。いまでこそ結構リバイバルの作品が多いですけど、そのオーディションを受けた2020年当時だと、まだリメイク作品ってそこまでなかったんです。
そんな中で私は、大好きな作品がリブートされることに『"うる星やつら"の新作アニメって、本当にそんなことがあっていいんだろうか!』という半分信じられない、半分夢のような気持ちで、オーディションテープを録って送ったんです」
――リアルな感情がうかがえますね(笑)。

(C)高橋留美子・小学館/アニメ「うる星やつら」製作委員会
「それで、スタジオオーディションに行ったときに、キャラデザの浅野先生が描いた資料とか、表情集とかがスタジオに置いてあって、それが原作とアニメを絶妙にミックスしていて、めちゃくちゃかわいいんです...!
それを見て純粋に『かわいい!!』と思ったし、興奮していたんですけど、いざ自分がラムちゃん役に受かってみると『え、ほんとに...?そうなの...?』みたいな感覚が強くて。
多分、『ラムちゃん』っていう存在が大きすぎて、自分がその役を務めることが信じられなかったんだと思います。『ラムちゃんは、ラムちゃんでしょ』っていう感じ」
――実感が湧かなかった?
「そうだと思います。その『本当かな?私でいいのかな?』という気持ちを、一旦、脇に置いておくっていうのが、最初の頃はいちばん大事な作業でした。自分がラムちゃんをやるっていうことは信じられないけど、その気持ちでお芝居をしてその感情が見えてしまったら、それはもったいないし、役をいただいておきながら失礼な話になってしまう。
だからこそ、『役をいただいたからには、全力で楽しんでやろう』と。例え"ごっこ"になってしまったとしても、私自身がラムちゃんを楽しんでお芝居しよう、という方向に気持ちを切り替えなきゃと思いました」
■「楽しくやればいいのよ」平野さんの言葉が励みになった|「うる星やつら」ラム

――実際に現場に入ってからはいかがでしたか?
「録り始めてからは、だんだん『私がラムちゃんを演じるんだ』っていう実感も湧いてくるようになってきました。
そういう気持ちになれたのは、諸星あたる役の神谷浩史さんの存在も大きくて。『僕は、"うる星やつら"で育った世代で本当にこの作品が大好きで、毎回アフレコをするのが楽しくてしょうがない』って、現場で誰よりも楽しんでお芝居をされていたんです。その姿を見ていたら、自然と私も楽しくなって、あまり意識しないでお芝居に入り込めている感覚がありました。
あとは、その気持ちを維持するために、極力ネットの感想は見ないようにしていたりもしました」

(C)高橋留美子・小学館/アニメ「うる星やつら」製作委員会
――そうだったんですね。
「きっと、私がどんなラムちゃんを演じたにしても、『そんなのラムちゃんじゃない』という人はかならずいると思うんですよね。私の中ですら、平野さんのラムちゃんがすごく大きかったから、きっとそのイメージを期待する人だって多いはずだと思ったんです。
でも、どんなにやろうとしたって同じラムちゃんはできない。だから、"平野さんのラムちゃん"はそのままあるものとして、別の世界線とでもいうような"上坂すみれのラムちゃん"を構築することが大事だと思ったんです。
それをやり抜こうとしているときに、"イメージと違う!"という意見を見て落ち込んでいたら、きっと立ち止まってしまう。"エゴサしない"というのは、結構大事なポイントだったと思います」
――たしかに、大事なことですね。平野さんのお話も出てきましたが、新版ではラムちゃんのお母さんとして平野さんも出演されています。シリーズが始まるにあたって、平野さんから何か言葉はありましたか?
「まず、この役が決まったときに、公式サイトで平野さんと古川さんからの応援コメントが掲載されているのを見て、私はそれにとても勇気付けられました。役を引き継ぐにあたって、こんなに温かいエールをいただけることなんて、なかなかないなって思って。
その後も、取材などでご一緒させていただくことが多くて、そういうときには以前のシリーズのときのアフレコの思い出話とかを聞かせてくれるんですけど、平野さんがお話している姿って、本当に天真爛漫でラムちゃんそのものなんですよ。
そんな平野さんから一言、『楽しくやればいいのよ』って言っていただいたことがあって、それはラムちゃんを演じているときにかなり大きな励みになりましたね」
――素敵なお話ですね。上坂さんが感じる「うる星やつら」の魅力を教えていただけますか?

(C)高橋留美子・小学館/アニメ「うる星やつら」製作委員会
「ラブコメとギャグが心地よく両立していて、あの昭和テイストのギャグに笑顔になりつつ、どこか心も温かくなってくるんですよね。ラブコメの素敵さが全部詰まっていると思います。
あとはもう、一度見たら忘れられないラムちゃんと、いつの時代の誰が見ても心奪われるヒロインたちのかわいさ。
そのほかの男性キャラクターも含めて『魅力的じゃないキャラがいない』と言い切れるほどの、個性的で多様なキャラクターたちじゃないでしょうか」
――たしかに、魅力的なキャラクターばかりですよね。
「どんな方が見ても、絶対に好きなキャラクターが見つかる作品だと思いますし、きっといつまでも受け継がれていく作品なんだろうな、と思います。
「うる星やつら」とたくさんの商品や通販サイトなどがコラボしていますが、きっとそのユーザーさんの中には、『アニメは観たことないけど、「ラムちゃん」というキャラは知ってる』っていう子もたくさんいると思うんです。でも冷静に考えると、それって、すごいことじゃないですか...!」
――たしかに、ありがとうございます!最後に、これから作品を観る方に向けてメッセージをいただけますか?
「今回のリブート版では、テレビアニメシリーズで恋愛ものの定型でもある『ボーイミーツガール』をしっかりやりきるという、逆に今だからこそ輝くような偉業をやっていると思うので、アニメでラムちゃんとあたるの出会いから観ていただいて、ぜひ原作まで手に取ってもらっていただけたら、私としてはいちばん嬉しいなと思っています。
生きていく上での『キラキラした気持ち』みたいなものを、たくさんくれる作品だと思うので、とっても個人的な見解ですけど『うる星やつら』を知らずに生きていくのは、とてももったいないと思いますよ!」

取材・文/郡司 しう 撮影/梶 礼哉













