声優・村瀬歩インタビュー#2「『落第生の気持ちで喰らい付いていった』声優としての自分を形作る礎になった作品」

声優・村瀬歩インタビュー#2「『落第生の気持ちで喰らい付いていった』声優としての自分を形作る礎になった作品」

「ハイキュー!!」の日向翔陽役や、「ひろがるスカイ!プリキュア」のキュアウィング/夕凪ツバサ役、「あんさんぶるスターズ!」の姫宮桃李役、「時光代理人 -LINK CLICK-II」李天辰・李天希の双子兄妹など高音から低音まで幅広い声域を使いこなし、熱いスポーツ男子から可憐な少女役まで演じ分ける村瀬さん。そんな村瀬さんは、自身のお芝居に対して「そのキャラクターに自分の声帯を貸して、代わりにセリフを言う感覚」と表現します。このインタビューでは全3回にわたって、村瀬さんの養成所時代の頃の話から、転機となった「ハイキュー!!」の現場、そして役作りで大切にしていることまで、出演作品やキャラクターにかける思いとともにお届けします。

■僕にとっては教科書のような作品

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――村瀬さんの声優としての転機について、お伺いできますか?

「2014年から放映が始まった『ハイキュー!!』で主人公・日向翔陽役を務めたのは、僕にとっては大きな転機でした。当時は自分も駆け出しで、できないことばかり。『辛い』と思ったことは一度や二度じゃありませんでしたが、収録を重ねて少しずつできることが増えてくると、新しい視点で物事が見えるようになってくる。いわゆる"解像度が上がる"みたいな感覚を初めて覚えた記憶があります。とにかく、いっぱい練習して、いっぱい自分の頭で考えなければ先には進めないことを学んだし、『何事も習熟度が高くなければ楽しめるものも楽しめない』ということも.そのときに学んだ気がします」

――村瀬さんの声優としての姿勢にまで影響を与えているんですね。

「そうですね。お芝居の観点でも、もう全部の教科書のような作品で、いま自分がやっているお芝居の基礎は『ハイキュー!!』で身につけたと思っています。というのも、第1期1話のときに音響監督の菊田さんに『台本の意図が読めていないから、ちゃんと読めるようにならないとね』という言葉をいただいたことがあって」

――かなり厳しい言葉ですが、どうしてそんなことを?

「元々、僕はかなり感覚的な人間で、たとえばセリフがあると『このセリフをどうかっこよく言おう』『こういうふうに言いたい!』という思いだけで読んでしまっていたんです。それ自体も大事な感覚ではあるんですけど、ただアニメって、たとえ全24話のうちの1話であっても、その中にしっかりと展開と流れがあるじゃないですか。本当は、本打ち(脚本を練り上げるための打ち合わせ)をして作り上げてきた制作側の意図も含めて、台本を読まなきゃいけないのに、僕は自分の『こういう表現がしたい』という気持ちだけで台本を読んで、アフレコにのぞんでしまった」

――そこで気づいて軌道修正をしたんですか?

「自分でも『これじゃだめだ』と思って、『どうやって台本を読めばいいですか』という質問を、菊田さんにしました。そしたら『主観が強すぎるから、まず日向の気持ちになって台本を読むのをやめなさい』と教えていただいた」

――役の気持ちにならずに読む......?

「まずは、です。日向の目線ではなく、まず俯瞰して『物語として、どんな出来事が起こったのか』を客観的にとらえて読むところから始める。それを寝かせて、次の日に日向の視点に立って『どういうことが起きていたのか』を読み解いてみる。最初は慣れなかったですけど、下手なりに自分の中で『こうやるんだ』と勉強させていただいて、少しずつそれを実践していきました」

――台本の読み方にも、順序があったんですね。

「声優さんによっては、僕みたいに教えてもらわずとも最初からできる方もいるし、あるいはそういう読み方をしなくてもお芝居ができる方もいる。僕の場合、主観が強かったので、そういうアドバイスになったんだと思います。菊田さんは、当時から一人ひとりがどう台本を読んでいるのかにフォーカスして、そこからアドバイスをしてくださっていたので、逆に客観的に読みすぎていたら、『もっとキャラの気持ちに寄り添って』と教えていただいたかもしれません」

――そのときの菊田さんの言葉が、いまの村瀬さんの礎になってる?

「礎というか、物事の捉え方に近いので、ほぼすべてなんですよね。構造的な理解、こういうふうに仕事をやっていくんだというプロセスが、初めて自分の中でフィットした経験だったので」

――実際、「ハイキュー!!」の現場で何か掴めたものはあったんでしょうか?

「といっても、そんなにすぐ声優としてレベルアップするわけもないので、当時は毎週、決まった時間に現場に行くのが苦しいっていう気持ちのほうが大きかったんです。それは自分が上手じゃないゲームをやって楽しくないのと同じで、原作もすごい、周りの熱量もすさまじい、だけど自分だけがそこに追いつけていないような気がして『今日も僕だけ居残りか』って。それでもなんとか、必死にやりながら頑張ってみんなに喰らいつかなきゃ、という気持ちだけは持っていました。現場で言われることには自分なりに応えて、とにかく必死に。落第生のような気持ちでしたけど、いま思うとその苦しかった経験すべてが、その後に活かされているし、必要なことだったんだなぁと思っています」

■倍以上の"熱"を込めないと表現できない|「ハイキュー!!」日向翔陽

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――改めて、10年以上続く人気シリーズとなったTVアニメ「ハイキュー!!」。いまや日本を超えて海外でも大人気の「ハイキュー!!」ですが、キャストとしてその人気ぶりを実感することはありますか?

「オリンピックで、バレーボールのブラジル代表選手が腕に『思い出なんかいらん』というタトゥーを入れていて、それが稲荷崎高校の横断幕に書いてある言葉なんですよね。それを見たときに『「ハイキュー!!」ってすごいな、世界で人気なんだ』と実感した記憶があります。あと、海外ではないですが『「ハイキュー!!」をきっかけにバレーボールを始めました』『「ハイキュー!!」を見て元気をもらいました』とか。この作品に限らずですけど、やっぱり声優としてそういう声をいただくと嬉しいです」

――村瀬さんから見た、日向の魅力をお聞きできますか?

「これは『ハイキュー!!』の中だとけっして日向だけではないんですが、一生懸命やり続けること、絶対にあきらめないことのかっこよさ、そういう哲学をずっと持ち続けていること。中学の弱小チーム時代に影山と試合をしたときから、『まだ負けてないよ?』という言葉が純粋な気持ちから出てくる。それを素で言えてしまう、彼の胆力というのはすごくかっこいいところだなと思っています。じつは、あまり自分がやらないタイプのキャラクターで、前回お話しした『水属性の魔法使い』の涼もそうですけど、僕の声って少し温度が低いというか冷静に聞こえる声なんですよね。でも、日向の場合はそうじゃない。日向をやるときは、自分が思っているよりも倍以上の熱を込めないと日向の感情を表現できないので、いつも汗をかきながらやっています」

――村瀬さんが思う、「ハイキュー!!」という作品の魅力については?

「どんな世代の人が見ても、純粋におもしろいと思える。そしてスポーツに打ち込んでいた人には、より深く刺さる。一言で言い表すのは絶対に無理なんですけど、あえていうならばそれだけの"熱"が、観ている人に伝わる作品だと思います。先日、別の作品の現場で石川界人くんと一緒になって、ほかにもう1人新人の子がいたんですが、その子から『中学生の時から「ハイキュー!!」見てました』って言われたんですよ。それだけ長く愛される作品になったんだ、と妙に実感が湧いてくる出来事でした」

――その新人声優の方からしたら、きっと「日向・影山コンビと一緒に仕事できるなんて!」という気持ちですよね。

「たしかに、『憧れ』とは言っていただきましたね。でも、僕自身の後輩気分が全然抜けないので、そうやって言われるのが不思議な感覚ではあるんです。『僕より先輩の声優の方々も、きっと同じように、こんな気持ちで後輩気分が抜けないまま、少しずつ年齢を重ねていっていたのかも』なんて、妙にしんみりと思ったりもしました」

■腹を割って話ができる相棒の存在|「ハイキュー!!」日向翔陽

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――影山飛雄役の石川界人さんとの仲良しぶりも、たびたび話題になっていますよね!

「そうですね。じつは、この取材の前々日も、午前中の収録が彼と現場が一緒でした(笑)。お互い次の仕事が16時からだったので、彼の車に乗せてもらってお昼ご飯を食べてコーヒーを飲みながらだべって。結局、次の仕事が始まる直前の15時半ぐらいまで、一緒にいることに。仕事が一緒になれば帰り道は車に乗せて送ってくれるんです。僕は『石川タクシー』って呼んでるんですけど(笑)。休日に予定合わせて会う、みたいな感じではないんですが、腹を割って話ができる、互いに認め合う相棒っていう感じがしています」

――素敵な関係性ですね...!

「でも、いまでこそ仲良しですけど、じつは出会った頃はそういうわけでもなかったんですよ。初めての出会いは『ハイキュー!!』だったんですが、当時、界人くんのほうが場数も踏んでいたし、すでに『翠星のガルガンティア』で主役も張っていた。『ハイキュー!!』の現場でも、彼のセンスやポテンシャルってずば抜けていたんです。それに対して僕はというと、さっきお話ししたように、なかなか現場でうまくいかなくてもどかしい気持ちを持っていた。僕と彼のダブル主人公だけど、彼の歩幅に対して、僕の歩幅がだいぶ狭かったんですよね。そのことで僕も、おそらく彼も焦りを感じていたと思います」

――焦り、というと?

「『ハイキュー!!』という素晴らしい作品がおもしろく世に出せるのかどうかに対して、です。界人くんからすれば、僕のお芝居を見ていると『もっとこうすればいいのに』というふうに見える。でも、当時は彼もまだ若くて『自分ができることは、当然、みんなもできる』っていう考えが、おそらくまだ強かったんですよね。そういう意味でいうと、最初の頃の界人くんって、どこか影山っぽさがあって...」

――たしかに...!

「でもあるとき、お互いにこのままじゃ良くないと思って、2人で腹を割ってちゃんと話したんです。その中で、僕も彼も『いい作品を作りたい』という同じ思いを持って収録にのぞんでいるだっていうことがわかった。それ以来、お互いに同じ方向を向いていることがわかったので、一緒に作っていくという感覚が芽生えていったんです。その中で、感じたこと、思ったことを臆せずに言い合えるような関係性が生まれたのかなと思います」

■全員が前を向けた一成さんの最後のセリフ|「ハイキュー!!」日向翔陽

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――村瀬さんにとって、思い出深いシーンを挙げるとすれば、どこでしょうか?

「第3期の8話の白鳥沢高校戦。当時、烏養繋心コーチの声をやられていた田中一成さんが亡くなられて、途中で1ヵ月ほどアフレコが止まったことがありした。本当に現場でも烏養コーチのように明るくて、僕らにとって精神的な支柱になっている存在。僕にとっては駆け出しのできない自分を励ましてくれる大先輩でした。だからそのとき、かなり気持ちが落ち込んだ。でも、アフレコが再開するときに、収録スタジオのスタッフさんが気を利かせてそれまでの一成さんのセリフをまとめて、流してくれたんです。その一成さんが最後に収録したのが『下を向くんじゃねえええええ!!!バレーは!!!常に上を向くスポーツだ』というセリフだった。そのセリフを本物にするためには、ここで立ち止まってちゃいけない。聞きながら、その場にいる誰もがそんな気持ちになって『みんなで作り続けよう』と、気持ちを一つにしてそこから先のアフレコを続けることができたんです」

――劇中のセリフに救われる思いがします。

「そこから、江川央生さんが後任として務めることになり、いまとなっては江川さんの烏養コーチのほうが長いんだから、時が経つのは早いですよね。あのセリフのあとから役を引き継ぐって、想像するだけでも大変だし、相当な覚悟が必要だったと思うんです。魂を引き継いでやってくださっているので、本当に背中の大きい先輩だなと感じています。そういう意味でも、一成さん、江川さんの両名に対する思いが、すごく詰まっているシーンなんです。そして、第1期の最終話。青葉城西高校との練習試合に負けて、体育館に戻ってきて、影山と声を出しながらサーブをめちゃくちゃに打つところです。『ハイキュー!!』って制作スタッフさんに『お芝居に合わせて絵をつけたり、間尺も調整するので』と言っていただくことも結構あるんですが、このシーンもそうでした。アニメって基本的には限られたリソースの中で、各分野のプロが成果を出していくものだと思うんです。当時、まだ未熟だった自分を、そういういろいろなセクションのプロたちが引っ張り上げてくれて、『こうしてすごい作品ができあがっていくんだ』というのを、そこで初めて感じたんですよね」

――なるほど...!

「それと、そのシーンを録り終えたあとに行った飲み会で、先輩たちが初めて『あのシーンは日向が圧倒していた』という声をかけてくれて。先ほどお話ししたように、当時は界人くんよりも自分の方が大きく遅れをとっていると感じてたので、その言葉を聞いたときにすごく嬉しかったんですよ。もちろんお芝居に勝ち負けというのは本来ないですが、当時は僕も界人くんも青い部分があったし、ポジションは違えどお互いのことを意識してる時代でもあったから、それはすごく印象深く残っています」

――めちゃくちゃ青春、いい話すぎます...!

■劇場版収録の裏話|「ハイキュー!!」日向翔陽

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――収録時の、思い出深いエピソードはありますか?

「『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』ですね。85分なので、大体ふつうの30分アニメが22分ぐらいだとすると、4本分。ふつうだったら、たとえば『ここまでのシーンを取ったら、次のシーンからは別日にしましょう』っていうことが多いんですけど、そのときは1日での収録。しかも、ずっと試合で戦ってるから、正直な話、最後のほうは声優陣もぐったりとしてしまって。でも、逆にそれがフィルムにはすごくいい影響を与えているんですよね」

――ぐったりしてるのに、いい影響?

「体力がリセットされてるわけじゃないから。たぶん、一度休んだら気持ちも体力もリセットされちゃうじゃないですか。そのしんどそうな感じが、劇中の選手たちのコンディションとシンクロするんです。劇中の選手たちは試合が進むほど集中力が高まって、でも一方で体力は消耗していく。しんどいんだけど、結果的にはあの収録の形がよかったんだなと、映画を観て思いました。もう2度とできない気はするけど(笑)」

――(笑)。それだけ長い収録だと声が出なくなったりはしないんですか?

「さすがに当日出なくなることはなかったですが、やりながら『明日はやばいだろうな』とは感じていました(笑)。ただ、劇中の選手たちの『勝ちたい』という気持ち、試合中の苦しさに比べたら全然なんてことないんですよ。彼らに少しでも自分たちの気持ちが重ねられるだろうかと思いながら、収録した体験は、すごく貴重だったと思います。僕らより、彼らの方が絶対にしんどいので」

――その思いから、劇場版ならではの収録の空気感が伝わってくる気がしました。

「ふだんの収録とはかなり違うので、現場の士気というか一致団結して『やり切ろう』っていう空気感は劇場版ならではだったと思います。ふだん、静かめな内山昂輝くんが『よしやるか!』って気合いを入れていたのも印象的でした。なかなか見れない光景です(笑)」

『劇場版ハイキュー!! VS小さな巨人』、スペシャルアニメ「ハイキュー!!バケモノたちの行くところ」制作決定!

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取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃

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